更新が空いて申し訳ない。働いては寝ているうちに、郵政法案も衆議院をギリギリで通ったが参議院では微妙だったり、イギリスでは同時爆発テロが起こったりと、また慌ただしい展開である。新しいネタが見つかったので、多くのマスコミは若貴問題など忘れたかのように放置するのであろう。次のネタが見つかるまで煽り立て、次のネタが見つかれば、そんなことなどなかったかのようにそのネタを捨てる。それがマスゴミである。
今日書きたいのは、爆笑問題の太田光氏が深夜ラジオで熱く語っていることについてだ。TBSラジオで毎週火曜深夜1時~3時の「爆笑問題カーボーイ」で、先週と今週の2週にわたって合計4時間も、主に平和について彼が熱く語った。相方の田中裕二氏もただうなずくぐらいしかできなく、CM入れなどの仕切りばかりやっていた(笑)。
彼の主張は、大まかに言えばこういうことである。
日本国憲法はアメリカからの押しつけだから変えるべきだと主張する人がいるが、この60年間、日本国憲法を変えなかったのは他ならぬ日本国民だから、その主張はおかしい。…① 日本国憲法では男女平等が謳われているが、この男女平等を謳った憲法は日本が初めてである。だから、そんな日本国憲法が現在まで存続していることは、日本だけでなく世界の奇跡だ。…② だからこそ、日本国憲法はこれからも守り続けるべきだ。…③
日本国憲法で戦争放棄が明記されているが、これは、国際紛争の解決を、軍隊ではなく全て政治で行うということだ。つまり、日本国憲法をかかげる国の日本の政治家は、他の国よりより重い責任を負って政治を行うということだ。今、改憲して、武力行使の権利を明記しようとする運動もあるが、こういう運動は、他国より重い責任を背負っている日本の政治家の責任の放棄である。…④
日本国憲法を押しつけたアメリカは、朝鮮戦争ですでに平和主義を捨て、今やイスラム世界と戦っている。日本国憲法の平和主義は、そんなアメリカが元々作ったものなのだから、日本はアメリカの友人として、アメリカにアドバイスをすべきだ。…⑤
アメリカのように、「やられたらやり返す」という姿勢のままでは、いつまで経っても憎しみの連鎖は断ち切れない。オレのオヤジは「戦争はむちゃくちゃ怖い」と言っていたが、そのように、とにかく戦いを恐れるという姿勢は大切だ。そういう姿勢があって初めて、憎しみの連鎖が断ち切れるからだ。「殴られても、決して殴り返さない」という姿勢が大切だ。…⑥
朝日新聞でさえ改憲の主張をしている。今はどのマスコミも改憲に傾きつつあるが、戦前も国民を一番煽ったのがマスコミである。全てのマスコミが同じことを言おうとも、それに対して疑い続けるという姿勢が最も貴重なものだ。オレはそういう人間を心から尊敬する。それが正しい姿勢なんだ!…⑦
まさに、「護憲の政党、社会民主党」の申し子のような主張である。冗談ではなく本気で言うが、彼はぜひ社民党に入り、党首になるべきだ。かなりの確率で、社民党は息を吹き返すだろう。都市部の若い有権者を中心につかめれば、たとえ1期だけでも、国会議員を20人くらいは生み出せそうだ。ぜひ彼にはこのことを本気で検討してほしい。政治的には保守である私も、今のように革新派が風前の灯火である状態は心底から気の毒に思っている。政治家たちこそ、右も左も活発に議論をぶつけてほしいと思っている。その意味で、民主党以外の革新勢力にはもっと力があってほしい。
さて、そのこととは別に、彼の発言内容について考えてみる。まず①についてであるが、現在の改憲運動は、日本国憲法がアメリカらから与えられたからというものは要因としてはほとんどなく、「現状に合っていない」からである。「アメリカが決めたんだから、現状に合っていないのも当然だ」という論法で石原都知事などが語っていることを忘れてはいけない。国防関係で言えば、集団的自衛権を始めとして、実際に数十年も存続している自衛隊を合憲とするかどうかでさえ、現憲法下では微妙である。改憲の主張に反論するのであれば、彼が4時間の熱弁の中で一度も触れなかった、「自衛隊の存在を合憲と考えるかどうか」に対して明確に答えを出すべきである。ただ、④や⑥のような主張をしている彼のことだから、「自衛隊も含めた、一切の武力は日本は持つべきではない」という結論になるのだろう。彼は、日本が諸外国にどれだけ国土や国民の生命や財産を蹂躙されても、ただされるがままにせよ、と言いたいのだろうか。それだけ思い切った主張を持っているのなら、「自衛隊などいらない!」とはっきりと宣言するぐらいのことはすべきだろう。
さらに、日本国憲法を変えなかったのは日本国民だ、とも言っているが、日本の憲法はとにかく変えづらい。国会議員の総定員の2/3が必要な上に国民投票が必要だ。戦後のどの国政選挙でも、改憲だけが論点になったことはないであろうから、国民が意識的に国会議員たちに改憲させないように行動してきたとは全然言えない。それは、昨今の国政選挙の投票率の低さを見ても明らかだろう。
つまり、現在の状況は、「特に最近はいい加減な政治参加しかしていないのだが、結果的に改憲されていない状態」と見るべきであろう。現在の改憲運動も、決して「与党で2/3の議決だけ集めよう」としているのではなく、「与野党で幅広い賛成を集めて」改憲をしようとしているのである。
②と③も論理的には全くつながっていない。「今まで守ってきたものはそれなりに大切だ」とする考え方はまさに「保守」であり、「今まででよくね?」と、聴取者の感情に訴えているだけである。日本国憲法がどのように、どのくらい、戦後日本の利益を守ってきたかを主張しなければ、日本国憲法を守るべきだという主張の根拠にはならないだろう。
しかし彼はなかなかにずるがしこく、その主張は自らの結論を導くには不利だということを知っていて言わないのだろう。なぜなら、日本国憲法が導いた戦後日本の幸福というのは、
日本国憲法に日米安保条約を合体させることで、
A「日本を武力で守るのはアメリカにやってもらうことで、国防コストを抑えることができた=スムーズな経済発展の背景」
+
B「日本は、世界の秩序活動に対して『平和憲法のせいで自衛隊を派遣できないから』と言い訳することで、日本人の命を犠牲にすることを極端に抑えてきた」(近年、PKO活動で日本人の尊い犠牲者も出ているが、それはいわゆる「解釈改憲」をした上でのことであり、現憲法を素直に解釈すれば、海外に自衛隊を派遣することは全くできない。したがって、護憲派が「現憲法下でも、日本は世界の秩序維持に貢献してきた」と自慢するのはちゃんちゃらおかしい)
このAとBを両立できたからだ。しかし、日米安保条約自体が、武力で日本を守ることを前提にしたものなのだから、本当に護憲の立場に立つのならば、日米安保条約自体が違憲なのであるから、上記のAを「良くないことだった」と否定する必要がある(=日米安保条約の廃棄も主張する必要がある)。しかし、さすがに彼にはそこまで言えなかったと見える。
さらに、日米安保条約により、日本はアメリカに守ってもらっている立場なのだから、⑤のように、アメリカに対し、友人としてアドバイスすることは不可能である。他国に対して、特に軍事問題に対し、対等な立場で意見を言いたいのであれば、少なくとも他国に守ってもらっている体制を精算してからでなければ、何の説得力もないということを彼は理解できないのであろうか。いや。彼は、このことを理解しているけれど、自分が不利になるからわざと言わないのであろうと私は思っている。4時間もあれだけ徹底的に持説を筋道立てて語れるのだから、彼の考える力や話す力は、かなり高いであろうから(私がそう思うこと自体僭越ではあるが)。
ただ、こういうふうに、自分に不利なことをこれだけ黙っていると、⑦のように疑うことの大切さを訴えても墓穴を掘るだけだ。私は彼の主張を疑った結果、これだけの穴が出てきた。もう少し反論対策をしておかないと、彼の主張が、私のような保守派の心まで動かすことは全く出来ないだろう。
ちなみに彼は「太田はこう思う」というタイトルで、スペシャルウイークになるたびにこういう主張を繰り返し、もう8回目くらいである。これだけやっているのだから、もう少し、聴取者の反論は予想しながらしゃべってほしい。田中裕二氏も、突っ込みたいけど突っ込めないという状態なのかも知れない。あの雰囲気で田中氏が反論でもしようものなら、太田氏はぶっ壊れてしまいそうだから(笑)。
他のブログをざっと見る限り、彼の主張に対し「すごい!納得する!」と思っている方もある程度はいるようだ。ただ、「つまらん!いつものネタやれ!」も同程度いるので、今後はこういう企画は少なくなるのかも知れない。この記事のように、まじめに批判する文章が少ししかないのは残念だ。
私としては、数ヶ月に一度くらいは彼に主義主張を語ってほしいと思う。彼のラジオを聞いている小中高生に、こういうきっかけで少しは平和などについて考えてほしいからだ(私も毎週聞いているわけではないので、けっこう聞き逃すのだが)。ただ、彼の発言が、いたいけな子どもたちに対する「洗脳」になるのも私はいやなので、こういう場所できっちり反論もしていくつもりだが。
インターネットでも面と向かっていても、意見を主張する際に重要なことは、実名を出すかどうかが問題なのではなく、そこに甘えるかどうかの問題だと思います。太田氏はそこもずれていて、自分が「実名で語っていることに甘えている」と感じます。実名さえ出していたら、その意見はどんな匿名の意見よりも「聞く価値があるもの」と決め付けているように見えることがその理由です。実名の主張と匿名の主張を、事前に序列化しているわけですから。
今後、またご覧になる機会がありましたら、またご意見などお願いします。