集中治療専門医への道

集中治療専門医になるべく日々修行の身である若手の医師のつぶやきや情報

透析患者の終末期医療

2015年01月26日 | 日記

透析による時代の変化

  ・透析導入により腎不全患者の清明予後は著明に改善

  ・何時まで透析をすべきかといった倫理的、社会的、経済的な問題が出現

  ・透析中止が本邦で合法であるという明確な確約は無く、医療従事者が透析中止を消極的

本来の透析の役割

  ・患者の生命予後を改善

  ・生活の質を向上させ、維持する

慢性血液透析療法の導入と終末期患者に対する見合わせに関する提言(案) 日本透析医学会雑誌 2012年12月 P.1090

海外での方針

  ・透析中止も緩和医療の一環として法的にも認められており、 適切なプロセスをふまえている限り問題はない。

  ・透析中止による死亡は全死亡原因においてカナダでは第2 位、米国においても第3位である。

本邦でのジレンマ

  ・本来治療であるべき透析自体が長期にわたると患者にとって肉体的、精神的苦痛になりうる。

  ・ 本来患者の意思で医療行為を拒否することはできるが透析になると患者、家族、医療従事者が躊躇

透析を行わない

  ・Withhold:透析を導入する医学的根拠を有するが行っていない状態

  ・Withdrawal:透析を定期的にされている患者に対して透析を行わなくなる状態 

透析中止を検討する病態

  • 不可逆的な重度痴呆 
  • 長期にわたる意識障害(植物状態など) 
  • 重度の肺、肝、心疾患のため日々の生活が著しく制限されている状態 
  • 精神障害のために透析に協力できない病態もしくは薬剤や抑制帯を使用しないと透析できない病態 
  • 制御困難な疼痛が透析によりおこっている病態 
  • 多発臓器障害が入院3日後も遷延している予後の厳しい病態 

UPTODATE: Withdrawal from and withholding of dialysis

透析中止に至るアルゴリズム

  • 患者の意思決定能力の評価 
  • 患者の事前指示書(Advance directive)の有無を確認 
  • 可逆的因子の有無の評価(尿毒症など) 
  • 透析のトライアルの適応を検討 
  • 患者との対話により患者の透析中止の動機を理解する 
  • 透析チームとの話し合い 
  • 家族を含めての話し合い 
  • 必要時には代理人との話し合い 
  • 透析中止、およびそれに伴い起こりうる自体へのサポート

Shared decision-making in dialysis: RPA/ASN guideline Am J Kidney Dis 2001; 37: 108

透析中止でおこりうる事態

  • 疼痛
  • 便秘
  • 不安
  • 肺水腫にともなう呼吸苦
  • 死(通常1-2週間内)

症状に対する治療
①呼吸困難

  • 水分制限
  • 塩分制限
  • 限外濾過法(Ultrafiltration)のみ継続することもある。
  • 麻薬による症状緩和 ----モルヒネ:効果強いが腎排泄のため体内に蓄積する。 

            ----フェンタニル 

            ----水和モルヒネ(Hydromorphine):欧米で第一選択
②疼痛

  • メペルジンは腎不全患者に使用すると代謝 物蓄積にて興奮作用、痙攣おこすため使用禁忌。 
  • モルヒネは蓄積しうるが数日内の治療としては適切
  • フェンタニル、メサドンは適切

③けいれん尿毒症、薬剤性により起こりうる。

  • ベンゾジアゼピン、クロナゼパムを使用 
  • 痙攣合併する例は10%以下のため予防的抗痙攣薬は推奨されていない。

④不安

  • 患者および家族との話し合い 
  • ベンゾジアゼピン、ハロペリドール 
  • ホスピスは本邦においては保険適応がない。

まとめ

  • 透析を中止する事は患者、家族、医療従事者にとっては非常に繊細かつインパクトの強い行為である。 
  • 逆に漫然と透析を続ける事は必ずしも患者の幸福に関連し ていない。 
  • 透析中止を考慮する際は患者を筆頭として関与している 人々皆との議論の末、決定すべきである。 
  • 透析中止が決定された際は、残された患者の日々を苦痛なく過ごすように全力をつくす。

 

 

 


患者や患者家族への説明

2014年10月22日 | 日記

患者や患者家族の説明の際に「GOOD」という頭文字で考えると説明の際の助けになります。 

Goals: 治療のゴール決定がをまず考えること。DNR/DNIや具体的な治療プランが先行する説明はしてはいけない。

Options: 全ての選択肢を平等に切り出してはいけない。患者のゴールに見合った選択肢を正しく提示することを心がける。

Opinions: 患者の話を傾聴する。医療者の意見を押し付けずに中性的な言葉(治療の選択肢でどちらを取っても最大限のサポートをするなど)を選ぶ。

Decisions and Documentations: 患者と決めたことの要約をカルテに記載する。決定の際にはnon-mdedicalな要素が絡んでくることが多い。

 注:医療者に余裕がある時に上記確認する。今日は早く帰らないといけないとか連続して入院が入ってくる時はあえて話を切り出さないのも大事!また、家庭でもめているとか両親が同じ病気で闘病中などであれば主治医を変更する勇気も大事とされている。

例文集

「あなたと同じような状況ではさらなる治療の選択が難しいことがあります。更なる治療を行い生きている時間を延ばすよりもQOLが重要だと感じる人もいるでしょう。あなたはどうお考えですか?」

「これ以上生き続けるのが難しい局面に出会したとき、そうした場合に人は人生のゴールの変更に迫られます。残された時間を出来るだけ有意義なものにするためにあなたにとっての特別なゴールとは何ですか?」

「いくらでも生き続けたいと思う人が多いとは思いますが、どんなリスクを抱えてもそうなのかということを考えてみてください。例えば今の治療は継続することは可能だが、挿管、手術、CPRまではしない。そのような究極的な状況では1%未満しか生存できず、それでいて精神・身体障害を被るかもしれません。これを聞いてあなたはどう考えますか?」

説明を進める中で最初は腕組みし緊張していた家族が徐々にその緊張が取れていく感じがあると嬉しく感じますよね。また第三者の立場でだれか同僚の医師に緊張する説明の現場に立ち会ってもらうことも最近は大事だなと思います。

 

家族や患者への説明のシミュレーションをしようかと真剣に考えるこのごろ。。


乾燥人血液凝固第Ⅸ因子複合体製剤(PPSB-HT ニチヤク)の当院における使用基準

2014年08月17日 | 日記

当院で作成された第Ⅸ因子製剤の使用基準です。いまのところ自分では使用経験がありませんが、思わず使用したくなるような夢の?!薬のように思えたので共有します!


◆ 適応 
■ 経口抗凝固療法中(原則的にワーファリン内服中)の患者における頭蓋内出血に対する使用を基本とするが、外傷性頭蓋内出血および全身の重篤な出血性疾患に関しては家族に十分説明したうえで使用を考慮してもよい。6時間以内の緊急手術を予定されている患者が対象となる。
■ 尚、新規経口抗凝固薬(Dabigatran、Rivaroxabanなど)に対する有用性は理論上に留まり文献上のデータが少ないため、主治医の判断に委ねられる。

◆ 説明・同意
  ■ 輸血同意書に準ずる。

◆ 用量・用法
  ■ 200単位製剤、500単位製剤が販売されているが、当院には500単位製剤のみ常備
    しておりこれを使用する。
■ 使用量に関しては文献上一定の見解はなく、当院では採血における初期測定
PT-INR の数値を参照して2010カナダのPCCガイドラインに準じて投与量を決定する。体重換算による使用基準もあるが詳細な投与量の調節は費用の面からも無駄が生じる可能性があり、下記投与量を基準とした上で増減は主治医の判断の基に行うものとする。
■ 使用量 INR 2以上を使用基準とする。尚、院内常備は4本である。
  PT-INR < 3.0 PPSB 1000U (2本)
   3.0 < PT-INR < 5.0 PPSB 2000U (4本)
   5.0 < PT-INR PPSB 3000U (6本)
  ■ 規定の溶解液に希釈し、投与速度100U / min 以上かけてシリンジポンプで投与。 
  ■ 投与速度が速くなるとアレルギー反応・血栓形成のリスクが上昇する可能性がある
    ため注意を要する。

◆ 禁忌
  ■ HIT(Heparin Induced Thrombocytepenia) 患者

◆ 非推奨
  ■ 予定された侵襲的処置のリバースに用いる場合
  ■ 出血がない、もしくは外科的処置の必要性を有さないINR 上昇の場合
  ■ 大量輸血を行っている場合
  ■ 肝機能障害に伴う凝固異常を有する場合
  ■ 心筋梗塞やDIC など最近の血栓症既往を有する場合

◆ 併用薬剤
  ■ 使用に際しては、ビタミン K(ケイツー)を5-10mg 投与することで継続的な凝固
   機能の回復を得られるため、原則的に併用を推奨する。
  ■ FFP の投与は利便性、容量負荷、アレルギー反応など考慮したうえで主治医の判 
  断のもと使用を考慮してもよい。その際の投与量は15ml/kg が推奨される。なお多
  発外傷などによる凝固因子の消耗が予測される時には併用による効果が期待される。


参考文献
① Recommendation For Use of Prothrombin Complex Concentrates in Canada. National Advisory Committee on Blood and Blood Products 2011
② Dar Dowlatshahi ら. Poor Prognosis in Warfarin-Associated Intracranial Hemorrhage Despite Anticoagulation Reversal.Stroke 2012;43:1812-1817
③ Elise S. Eerenberg ら.Reversal of Rivaroxaban and Dabigatran by Prothrombin Complex Concentrate :A Randomized, Placebo-Controlled, Crossover Study in Healthy Subjects
. Circulation 2011;124:1508-1510
④ Cindy A. Leissingerら. Role of prothrombin complex concentrates in reversing warfarin anticoagulation: A review of the literature. American Journal of Hematology 2008;83:137-143
⑤ W. Frank Peacock ら.Emergency Management of Bleeding Associated With Old and New Oral Anticoagulants. Clinical Cardiology 2012;35:730-737
⑥ Hagen B. Huttner ら.Hematoma Growth and Outcome in Treated Neurocritical Care Patients With Intracerebral Hemorrhage Related to Oral Anticoagulant Therapy : Comparison of Acute Treatment Strategies Using Vitamin K, Fresh Frozen Plasma, and Prothrombin Complex Concentrates. Stroke 2006;37:1465-1470
⑦ Meena Zarehら.Reversal of Warfarin-Induced Hemorrhage in the Emergency Department. Wes J Emerg Med 2011;12:386-392
⑧ Giovanni Barillari1ら.Emergency reversal of anticoagulation: from theory to real use of prothrombin complex concentrates. A retrospective Italian experience. Blood Transfus 2012;10:87-94
⑨ Eric M. Bershad ら.Prothrombin Complex Concentrates for Oral Anticoagulant Therapy-Related Intracranial Hemorrhage: A Review
of the Literature. Neurocritical Care 2010;12:403-413


語呂Bundleについて

2014年08月02日 | 日記

ICU領域では様々なBundleが知られている。語呂合わせで覚えるbundleも多く、皆さんの施設ではどういったBundleがあるかぜひ教えて欲しいものです!
私が知っているいくつか紹介します。

「MEL GIBSON」
M : Medication list reviewed
E : Extremities covered, DVT prophylaxis
Exercise : change of positions, out of bed
L : Labs and radiological studies reviewed
G : Glucose control
I : Infection control measured taken, including elevation of bed up 30 degrees, lines reviewed etch.
B : Breathing, SBT. This includes sedation break everyday.
S : Swan / Hemodynamic / volume status reviewed
O : Oxygen supply statuses, including review of Oxygen Extraction ratio, if applicable.
N : Nutrition / GI prophylaxis

「ABCDE」
A : Awakening Daily interruption of sedation
B : SBT
C : Choice of sedation
D : Delilium
THINK
T : Toxic situation
CHF, shock, dehydration
Deliriogenic meds (tight titration of sedatives)
New organ failure (eg, liver, kidney)
H : Hypoxemia
I : Infection/sepsis (nosocomial)
I : Immobilization
N : Nonpharmacologic interventions (Are these being neglected?)
Hearing aids, glasses, sleep protocols, music, noise control, ambulation
K : K+ or electrolyte problems
E : Early rehabilitation

「FAST HUG」
F : Feeding
A : Analgesia
S : Sedation
T : Thromboembolic prophylaxis
H : Head of bed elevation
U : stress Ulcer prophylaxis
G : Glyemic control

Crit Care Med. 2005 Jun;33(6):1225-9.でFAST HUGがチームワークを上げることや患者への医療の質をあげることなど、バンドルの有効性が示されている。

その他にも、
1. Ventilator Bundle
2. Central Line Bundle
3. Sepsis Resuscitation Bundle
4. Sepsis Management Bundle
などがある。


M&Mのやり方。。

2014年07月29日 | 日記

当院でのM&Mの導入

 当院では看護師主導でM&Mを定期的に行っています。そのやり方について今回は紹介しようと思います。

 

時間:17時15分~18時15分の1時間

対象:ICU看護師とICUローテート医師

Time Table

①M&Mのゴールと手順を医師より説明

ゴール:個人への懲罰ではなく、患者のアウトカムを良くするためのシステムをどう作り上げるか

②手順:何が起きたのか?なぜ起きたのか?どうすべきだったのか?今後どのようにすべきか?を検討しプロトコールの作成、改変を行います。

手順の中でなぜ起きたのかを検討する際に用いる方法として”Root Cause Analysis”を使用しています。この手法は明らかになっている問題を提示し、その問題がなぜ起こったのかを掘り下げていく方法です。最終的に掘り下げたところでその要因を、①個人の問題、②環境の問題、③システムの問題、④器具の問題、⑤コミュニケーションの問題、に分類しどうすればいいのか皆で考えていきます。

 

事前にどういったことを話し合うのかは担当看護師と話あい、「ものを主語」にその理由を掘り下げていきます。最終的にはプロトコールの作成や改訂につながるよう皆が納得するまで話し合います。

 

今月は自己抜管をテーマに計3回に分けて医師・看護師と話し合いました。M&Mでの話合いは口外できない事も含めてみなでディスカッションを行うため、ブログではご紹介出来ませんが、看護師一人一人が意見を良いやすい雰囲気作りを心がけています。医師である私も毎回気づかされることも多く、今後も続けていければと思います。