神主神気浴記

月待講、御神水による服気、除災招福の霊法、占などについて不定期でお話します。
神山の不思議な物語の伝えは継続します。

アダシ国上陸    59 

2015年08月07日 | 幻想譚
  
 入り江に4隻の船が入ってきた。
 入江はアダシ国へ通じる水路にある。水路と言っても大船が通れる運河だ。アダシ国へ着く手前に湖のように膨らんだ所がある。そこの奥の入江に船は集結した。久地は七重雲から4隻の入船を確認すると、このことを樹海の上で待機している九重雲の龍二に伝えた。
 伊止布の一団に樹海を縦断させ、入江に誘導する手はずになっている。雲同士の通話は遮断されてはいなかった。
 九重雲には神たち3人と龍二、都賀里が、七重雲には久地と本宮と飛が乗り込んでいる。赤足、於爾猛と於爾加美毘売は衛士と共に耶須良衣と美美長の船に分乗して入江を渡った。

 伊止布たちは樹海を縦断して来る。
 知恵者のクエビの神が、分かりやすく安全に縦断する方法を考えた。
 前もって身麻呂と伊止布に道筋を想定して伝え、成登に手はずを整えてもらった。
 それは、こういうことだった。
 一定の距離を置いて龍二が目印を落として行く。伊止布は成登ともう一人の衛士頭の伊支の2組を引き連れその目印を追う。
 その目印を追ってくると入江の対岸に着くという仕掛けだ。それなら樹海の中で迷うことはあるまい。
 その目印は光る白妙だ。重石になる物を白妙で包み、上から落として行くという寸法だ。また、樹海を抜ける者全員が白妙のタスキを掛けた。
 樹海の中を一筋の光の筋が進んでいくのが九重雲の中からも確認できる。クエビの神が下の進行速度を図りながら龍二に目印の落下を伝えればよい。
 それはフットライトとなって確実に入江の方角へ向かって進むはずだ。

 騏車の車両は赤足の手配によって無事に耶須良衣の船で入り江に着いている。後は伊止布たち一行の到着を待つばかりだ。
 既に入江では荷揚げが始まっていた。
 上手い具合に入江には波止場のような一段高い所がある。そこへ船を着けていた。
 物資は美美長と於爾加美毘売の指図で、先に上陸した者たちで積み上げが始まっている。
 美美長の馬も数頭が繋がれていた。美美長たちは騎馬族だから騎乗は得意中の得意だ。ウマシ国の者たちも騏の乗り手だ。下手なのはこちら来た者たちだろう。平原を移動する間に慣れてもらわなければなるまい。
 伊止布の一行が到着したら耶須良衣と美美長、海人と和邇の船で人と残りの物資を対岸に上陸させれば全員が揃う。
 この辺の運河の川幅は広く流れがある。が、幸いこの入江は穏やかで人や物資を上げるのにはうってつけだった。運河へ出る前にここで荷揚げしてしまおう。
 この広い運河の向こうは見渡す限り平原になっていた。そこからがアダシ国だ。
 運河一本隔てただけなのに、遠目にも草原は凍てつき寒々としてみえる。やはり冬の国だ。こちらへもどんどん冷気が伝わってくる。すでに上陸して作業する衛士の吐く息が白い。

 「スクナビの神、スクナビの神」 久地が九重雲に呼びかけている。
 「こちら九重、龍二です。スクナビの神に換わります」 九重雲の龍二から返事が返って来た。
 「伊止布殿たち一行のこちらへの進捗状況を伺いたい」
 「久地の尊の先はかり通りに進んでいる。直進して、入り江に向かって折れた処だ」
 「スクナビの神、古図の上で確認できました。こちらでは伊止布殿が到着する頃に上陸地点の整備を終え、直ちに渡河できるよう船を回す準備をしています」
 「うむがし、久地殿」

 伊止布一行が到着次第、船で一行を対岸に送る。
 耶須良衣の武器。美美長の防寒用具等。赤足の車両は既に荷揚げを終えている。伊止布が引き連れてくる衛士と騏の輸送で上陸が済む。
 「美美長。さすが美美長の馬、元気がよいな」
 「久地殿、吾れらの国は寒冷の地、馬もかたらかでたもちの力がある」
 「力強し!美美長。耶須良衣の剣も業物らしいな」
 「久地殿、さすが於呂知の真砂土、爾麻の都伊布伎の技をまねびて、かたらかで保ち良きまさ物をかた造ることができました」
 「久地の尊、耶須良衣殿の剣は短めでさばき易し、優れ物なり」於爾が手に取って振って見せた。
 そこへ赤足が自分の騏に小ぶりの車を付けて現れた。
 「赤足殿その車は何か?」飛がそう言って駆け寄った。
 車は二輪で立ち乗りだった。
 「耶須良衣殿から伝授された戦の車だ。急ごしらえではあるがどうだろう。耶須良衣殿、ご試乗くだされ」 
 その場に居合わせた者たちが見守る中で、耶須良衣がひょいと乗り込み、まずたずなを緩めてゆっくりと前へ出した。
 赤足りが御する方法は、単騎と同じだと告げている。しばらくして要領をつかんだのか、走り出した。疾走する場面は、走るというより飛んでる如くという表現がぴったりだった。
 「飛殿も試されては如何か?」戻って来た耶須良衣が飛に声をっかけた。
 「これは神たちが絵になりそうです。きっと喜びますよ!」飛が歩み寄った。
 とその時だ、「入江の向こう岸に人が現れたぞ!」 衛士たちの叫ぶ声に、皆が一斉に対岸を見やった。
 
 伊止布の一行が森から抜け出して岸辺を回り込んでいる。白妙のタスキが映えて列を作っていた。
 早速、飛が待機している船に向かって、赤足から白い旗を受け取り大きく振った。
 既に海人と和邇の船が対岸の一段高くなってるところに接岸して一行を待ち受けている。耶須良衣と美美長の船も騏を運ぶべくゆっくりと対岸に向かった。運河に流されると引き返せない。この入江の中にいて迂回するのが賢明、というのが海衆たちのまとまった意見だった。
 誘導してきた九重雲もゆっくりと降りてきた。
 雲から神たち3人と龍二、都賀里が降りてきて、足早にこちらに向かっている。
 

 伊止布一行と騏の下船も終わって、入り江の一番奥の岸に全員が終結した。
 これで全員がアダシ国へ上陸した。
 スクナビの神が一段高い所に立ち全員に話した。
 「予てからの事はかり通り、久地の尊が指揮を執る。吾スクナビと伊止布殿で参謀を務める。また、それぞれの長は補佐を願いたい」
 そこで久地が前に出た。
 「神たち3人は、スサの大神、それにスサの宮の八人の天女とたたら場の匠、かじ場の匠を救出しなければならない。伊止布殿は姫の末弟のツキユミ王の救出が責務。また、闇の者や氷室の者、奇怪な魔物、妖怪の化身も退治しておかねばなるまい。それから、先都世から来た吾れらだ。左加禰於呂知の長の話、民が忽然と消えた神代の消えた民が大元の祝から聞いた民なのか確かめて、これを救出しなければならない。それがそもそも吾らの目的である」
 久地はアダシ国の深部へはそれぞれの長の判断に任せた編成で行くことにした。海衆たちの何人かは船の守りを固めて吾らを待ち、この場の守りを固めるため衛士を於爾に選ばせた。
アダシ国自体がわからない所であるし想像もつかない。耶須良衣と美美長にも船を守り吾らを待つ体制を作ってもらった。

 久地はクエビの神の助言で、伊止布隊 スクナビ隊、久地隊の編成とすることにした。
 伊止布隊は伊止布を隊長に赤足、成登の小隊、ともう一人の衛士頭伊支の小隊。
 スクナビ隊はスクナビの神を隊長にクエビの神、タニグの神と海衆の海人と和邇の小隊、耶須良衣と美美長の小隊。
 久地隊は本宮、飛、龍二、都賀里,於爾、於爾加美毘売。
 於爾加美毘売には物資の補給を一手に担当してもらっていた。
 早速、剣他の武具、防寒具などが並べられ支給された。

 伊止布が霧魔氷山を中心とした一帯を眺め、平原を見渡している。
 「久地の尊、スクナビの神、吾らもここには初めて足を踏み入れた。物の怪の住むところぞ」
 「クエビの神、平原の奥に何か見えますか?山の麓一帯ですがどうなってるのでしょうね」と久地が訪ねた。クエビは千里眼と言われている。
 「さすがの吾もはっきりとは見えないが、長い人工物、防御壁のようになってるのかもしれない」
 「早速、雲を飛ばして偵察しましょう」
 「待たれよ、久地の尊。この先は雲にとって危険極まる。水を充分に含んだ気流があるようには思えない。凍ってしまえば雲は痩せる。この雲は特殊ぞ!」
 「そうか。帰れなくなるという事か」
 「この場に留め置くのが賢明と思う」
 「よしクエビの神の意見に従おう」

 つづく

   
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