続神主神気浴記

ご神域での除災招福の霊法、占などについてお話します。
いまは、鎮守の森で起こった不思議な物語の伝えを掲載しています。

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葛の樹木網    65

2016年11月26日 | 幻想譚
 一行は飛脚道を進んだ。この道は岩底の道より楽だ。おのずと一行の速度は上がった。周辺は樹木が増えたといってもその背丈は低いし、何故か岩の色と同じ灰色だ。この辺は石切り場だったといっていたが、幾何学的な切り口が確かにそんな様子を呈していた。この近くのどこかにカガミソ族の居留地があるのだろうか。今は避ける方が賢明だ。何処まで行っても岩だらけで、山中を進んでいる感覚はない。ただ黙々と進んだ。
 ようやく岩も自然な形のものが増えてきた所でナカトミは飛脚道を離れ別の道へと一行を誘導した。岩に挟まれた道を行くとすぐに道が大きくカーブした。曲がると少し開けたところに出た。きっとオオミに教えられた間道を選んでいるのだろう。
 驚いた、前方には巨大な壁が立ちはだかったではないか。なんだろう、まったくここは驚かされる。景色がいっぺんに変わるのだ、まるで芝居小屋の中にいるようだ。
 うんざりして上を見上げた。上の方はガスがかかっていてよくは見えないが、首が痛くなる。徐々に目を下に降ろしてくると、途中から裂け目らしきものが見える。一番下には隙間らしきものが見えた。
 前方、左右ともに切り立った崖だ。壁が巨大すぎて一瞬錯覚し壁までの距離が図れなかった。眼が慣れてくると下の隙間は通れるようにも見える。一行はいったんそこで止まった。耶須良衣と美美長の小隊が前に出てきた。
 「久地殿、吾れらが偵察してきましょう。ここからならあそこまで騎乗できます」
 「耶須良衣、美美長、よろしく頼む」

 耶須良衣と美美長は部下を3名選んで五騎で裂け目へと馬を走らせた。
 その後を久地は眼で追いながら、「サクナダリは吾れらが思っているのとはかなり違ってるらしい。しかもそこを占拠して造られた仙都アラタエは想像がつかない。ここまへ来るまでにもあるべきものがなく、ないと思っていたものが存在した。よほど用心しなくてはなるまい。スクナビ殿、もう少し様子がわかるまで慎重に進もう」
 久地は各隊の長たちと飛たちを呼んで、先ほどナカトミから聞いた話と共に、いよいよ敵地に入ることを告げた。
 「あの岩と岩の裂け目を抜けてアダシ国へ入る。あそこから先はナカトミ殿も行ったことがない。かつてのハヤカワ族の都サクナダリは、ワルサに見つけられてないらしいが、今では伝えの中の話だ。オノゴロの地にはワルサが妖都アラタエを建設している。耶須良衣と美美長殿が戻り次第、吾れらはアラタエ城を攻撃して落とす。スクナビ殿とイトフ殿に各隊の再編成をお願いした」

 耶須良衣と美美長が偵察から帰ってきた。
 「久地の尊、裂け目の洞窟は通れます。少し暗いですが灯が見える所まで騎乗のまま行けます。出たところは森のようでしたが、靄でよく見えませんでしたのですぐに戻りました」

 「わかりました。スクナビ殿、イトフ殿お願いします」 
 「それでは各隊に役割を告げる。騏驎隊、騎馬隊は機動隊として先発し、イトフ隊は中断の攻撃隊とする。海人・和邇隊は於爾加美毘売、アカタリ殿と共に支援救出活動を行ってもらう」
 「久地隊と神たちは個別隊として機動隊と連携して個々に活動する。コヒト六人衆は騎馬に分乗して先発する。各員装備を点検せよ」
 スクナビとイトフが隊列の終わりまで駆けて号令した。
 先頭に立った久地が大きく号令を発し、隊は裂け目の入り口に向けて出発した。相変わらず周りは靄が立ち込め、濃淡を繰り返していた。

 裂け目の洞窟の天井は高かったが用心のため下馬して進んだ。先導の耶須良衣と美美長がが所々の足元に松明のような灯を置いて行ったので、進むに支障はなかった。枝道、横穴の類は無く用心しながらも粛々と進んだ。
 やや上り坂になっている所を上ると前方がほんのりと明るくなってきた。出口が近いらしい。やがてぽっかりと出口が見え一行は次々と洞窟前の広い場所に出てきた。しかし、またしてもその前方は高い壁に塞がれていた。靄が少し薄まってきて、それが背の高い壁。左右に広がった密林のように立ち塞がったのだ。
 樹木や葛の類が絡み合ってるかなり高い緞帳のようで、それには入り込む隙間が見えない。それは編まれていると言った方がいいのかもしれない。高く広く地より立ち上がっていた。どこかに隙間はないのか。 
 「飛、龍二。左右に分かれて入り込むところがないか探してくれ」
 すぐさま飛と龍二は左右に分かれて騏驎を馳せた。

 それから、久地はナカトミに木と話ができるモリというコヒトを呼んでもらった。
 「モリ殿、汝にこの壁、この中に話が通じる木や葛があるか調べてもらいたい。中に入れるところが見つかったらお願いする」
 「わかりました、尊」モリはニッコリして首肯した。
 そこへ飛と龍二が同時に戻ってきた。さすが騏驎は速い。
 右へ飛んで行った龍二はダメだったようだが、左に行った飛が見つけたらしい。話によると左右は巨岩の行き止まりで壁はそこまで続いてるとのことだった。
 「この壁は金網ならぬ木網です。入り込めそうなところが一か所ありました。コヒトならギリギリ入れそうです」
 「尊、すぐさま行きましょう。飛猛殿案内してくだされ」
 「よし、スクナビの神イトフ殿全員待機。吾れらはそこへ行って来ます。久エビの神とタニグの神、一緒に来てくだされ」

 飛が先ほど見つけた隙間の場所へ久地たちを案内した。確かに少し隙間ができている。下が少し凸凹していて、そこだけ地面が柔らかそうだ。そこの木は堅いが少し掘れればコヒトなら潜り込めそうだった。
 「ナカトミ殿、どうか?」
 「尊、吾れらもここは初めてです。このような壁になっていようとは・・」
 「久エビの神、どう見て取る? このままここから入り込みたい」
 「久地の尊、宮殿の水に映ってた伝え画にはこんなところはなかった。ただ似たところがあったが、それは中央に二本の巨木がある樹木の森だった。それに樹木網は誰かが作った気がする。ワルサの手下の中に妖術師がいるんだ」
 「それは考えられることだ。それならなおさら注意しないといけない。音や振動で相手に感づかれる危険がある」
 「久地の尊、映ってた中央の巨木は森の主か門主です。二本並んでる方は門主に違いありません。入り口だけでなくこの森の様子も吾れがモクたちを引き連れ探ってまいります。早速吾れらを案内してくだされ」
 「ナカトミさま、この辺の地形を見ますと先ほどの洞窟から出たところの正面辺りが、森への入り口があった所と思われます」
 「そうか、では久地の尊さまあそこへ戻ってお待ちください」
 「わかった、そうしよう。飛と龍二は暫くここにいて異常がなければ先ほどの所に戻れ。神たちは何かお気づきの事はありませんでしたか?」
 「久地殿、岩ばかりかと思ったこの地が今は樹木の森らしき所へとまたしても一変した。この中からかすかに水の匂いがする。宮殿の水壁にも驚かされたが、あれよりも強い水の匂いだ。ナカトミ殿、調べてきてくだされ」
 「わかりました。タニグの神、森の主か門主に聞きましょう。それでは行ってまいります」
 ナカトミ以下六人のコヒトは、そこから次々と潜って中へ消えていった。

 つづく

 

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マンクセン神の社 64

2016年09月16日 | 幻想譚

 神調子の調べに乗って巫女が舞う中を久地たち一行は出発した。
 ナカトミとイトフを先頭に、久地、クエビの神たちがその後に続いた。岩石の道、水無川の底跡を進み、いったん台を離れて広い岩畳に出た。でこぼこで歩き難い

。歩を進める度に膝が衝撃で悲鳴を上げた。馬たちは大丈夫だろうか。久地は振り返って耶須良衣と美美長を見た。二人とも部下共々抜かりはなさそうだった。
 どのくらい歩いただろうか、まったく距離がつかめない。久地たち四人はこちらへ来てからというもの時間と共に距離感が希薄になっている。
 少し休みたいと思ったとき、周辺にガスが立ち込めてきた。ガスの濃さが増すにしたがって脚足への衝撃が薄らいできた。
 突然目の前に何かが現れた。
 巨人か? いや違う、巨大な鳥居のようだ。

 「チリーン!」 先頭で鈴が鳴った。ナカトミが手を上げて一行を止めた。
 「モリ、前へ」ナカトミが列の後ろから、コヒトの若い従者を呼び出した。
 「ナカトミさま、お呼びで・・」
 「マンクセンの神に旅立ちを告げる」
 「承知しました」
 目の前の巨大な影に近づくと、それは紛れまなく黒鳥居だった。
 「黒鳥居!」本宮が叫んだ。
 「どこかで見ましたね、先生。ここにこんな巨木があるのか?」龍二が叫んだ。
 「祭祀を邪魔しない方がいい。失礼した、ナカトミ殿」二人は後ろに下がった。

 モリと呼ばれた若い従者は黒鳥居の前で立止した。それから軽く会釈し、一歩前へ進み鳥居をくぐり、今度は深く拝礼した。
 「上申す」
 すると上の四方から笛の音が聴こえてきた。その音はやがて一段大きくなって、地面に突き刺ささるように消えた。まさしく天と地を結び、会話するあの笛の音だ。
 「入り申せ!」厳かな声が上から返ってきた。
 モリがこちらを向き直って脇に寄った。
 再びナカトミが後ろに向き直ってイトフに告げた。
 「イトフさま、これより参進いたします。直進です」
 「心得た」
 イトフは後ろを向き無言で右手を上げ、後ろに前進の合図を送った。
 一行は、ゆっくりと大鳥居をくぐって前へと進んだ。立ち込めている霧は濃淡を繰り返しながらゆっくりと前方に流れている。
 於爾や都賀理は剣の柄に手をかけたままであった。他の者たちはと見ると、耶須良衣や美美長も腰の剣に手を置いたままだった。
 「久地の尊さま、これからマンクセンの上社へまいります」ナカトミが久地に告げに来た。
 「承知した。お任せします」

 黒鳥居をくぐってからしばらく直進すると道の奥に巨大な岩壁らしきものが、霧の流れの合間に透けて見え隠れする所へ来た。さらに一行はそのまま岩の壁を目

指して進んだ。足元の道以外、左右は霧で見難い。時折、霧の流れの合間に岩が透けて見えるだけだった。足元への衝撃はさらに薄らいできたが、左右は多分

まだ岩の景色なのだろう。一層ゆっくりと進むことになった。
 やがて霧が渦を巻いている所へ出た。少しはスペースがある所へ出たようだ。巨大な岩壁の前だった。久地や本宮は磐座の前へ出たと察した。
 「チリーン!」 再び先頭で鈴が鳴った。止まれの合図だ。
 「カチャ!」 イトフは、刀身を少し滑らせて音を出す合図を先ほど決めて置いた。カチャという音が、幾人かを飛び越えながら後ろへと渡っていった。
 そして行列は止まった。やはり磐座の前だ。
 ナカトミが列を離れて前に進んだ。ナカトミに続いて後方の従者の若者が数人がナカトミの後に並んで跪いた。
 ナカトミが一歩前へ進み「ハク」と言った。
 一人の若者がさっと前に出て磐座の前に跪き、そこで一礼すると立ち上がり数歩進んだ。再び会釈してゆっくりと進んだ。
 「キュッ、キュッ」地面が鳴った。
 -鳴り砂だ!-
 四人だけは斎庭を思い出した。
 しかし、それが遠い思い出か、それほど遠くないのか、とっさに判断がつかなかった。
 ハクと呼ばれた若者は岩戸の前に坐し、平伏して何やら称えごとを奏上した。洞窟の宮殿の中で水のカーテンにした時と同じように、岩に語り掛けているのだ。
 「ゴトッ!」音がした。
 音はそれだけだったが、大きな岩戸が音もなく動いた。
 「カエン」とナカトミが言った。同時にハクは下がり、岩陰から羽衣をまとった若者が滑るように現れた。二人の動作は水のように流れた。
 呼ばれた若者は被り物を被った顔立ちからして女性だった。
 ぽっかりと大きく口を開いた洞窟、その入り口の前に立ち、片膝をついて礼をするや否や舞い始めた。洞窟の中からは妙なる調べが伝わってくる。先ほど宮殿で

聞いた調べと調子は同じだ。
 洞窟の中がゆっくりと明るさを増し始めた。舞姫は吸い寄せられるように洞窟の前まで進んだ。
 踊りはだんだんと速さを増した。そして、その動きが頂点に達したときピッタッと止まった。
 洞窟の中から霧が煙のように吹き出てきて舞姫を包み込んだ。
 すると、霧の渦は洞窟前のスペースいっぱいに滑りだしてきた。
 霧の渦はゆっくりと盛り上がり何かがうごめいている。
 洞窟の中から霧の渦と共に何かが現れたのだ。
 
 霧の渦の中から恐ろしい顔が頭をもたげた。
 「龍だ!まさしく龍だ」 本宮が叫んだ。
 その背には舞姫のカエンが立っている。
 「マンクセンの神の使いです」 ナカトミが久地にそっと言った。
 イトフとナルトは後ずさって身構えた。自分たちの世界にはいないモノだった。
 龍二は背に立っている舞姫の姿を見てかっこいいと思いながらも、誰かに似ている気がした。
 飛も舞姫はどこかで見た顔のような気がしていた。
 「背に乗っているのは、カエンと申します。マンクセン神社の火の女の巫女の一人で、火と話すことができます」
 「そうですか、だいぶ驚きました。この中で於呂知の顔を想像できるのは民族学者の本宮ただ一人です。クエビとスクナビは龍に変えられていましたから想像はで

きるでしょう。タニグの神はカエルでしたから声ぐらいは聴いてるのかもしれませんが・・」 久地は神楽を見た時を思い出していた。

 「これでキリマ山へ入る許しを得ました。イトフ殿、出発できます」
 「心得た!おのおの方出発の準備だ」 イトフが各隊に出発の準備を促した。
 サクナダリの作法に従って、マンクセンの上社でキリマ山に分け入る許しを得た。
 ハヤカワ族の守り神の神社を起点としていよいよワルサの居るアラタエに向かえる。この遠征でハヤカワ族はオノゴロの地を奪回し、マンクセンの神を復活させ、ワ

ルサたちからマンクセンの神威を取り戻すことができる。きっと我々にマンクセン神のご加護があるだろう。
 それにしても龍神とはどういうことだ。岩だらけで水の無い地と見ていたが・・。
 そもそも龍神は水にかかわった神だろう。タギツ姫の洞窟宮殿で見たお伝えも水のカーテンでだった。
 「3人の神のうち2人は於呂知の姿になっていた。どこかで繋がるのかもしれない」 本宮が装備を整えながらひとり呟いた。

 斥候に出ていたナカトミ達数人が上社の右手の道より戻ってきた。 ここで物資装備を整備して出発することになる。
 「この右手奥に洞窟があります。戦車、車両の類はひとまずそこに置いておき、必要な物資は手分けして運びます。馬と騏驎は連れて行けます。予定通りです。

ではアカタリ殿と於爾加美毘売お願いします」
 「ナカトミ殿、あれだけの数のコヒトやオオトカゲが通ったんです。数台の車両を通すことは容易いことでしょう。なのに置いていくのですか?」 イトフが戦車をなでな

がら聞いた。
 「はい、吾らは裏手の秘密の間道を行きます。この左手の道です。道幅は狭いですが、気づかれることはありません。アラタ攻略の時は、表路から車両を通しま

す。まず戦車をそれから救出車両です」
 ナカトミがイトフに丁寧に説明した。
 そこでイトフは久地たち尊と神たちに集まってもらい事はかりした。

 洞窟で車両や積み荷の一部を残し、身支度を整えて、アカタリと於爾加美毘売が戻って来た。
 それを確認したイトフは首肯して剣を鳴らし右手を上げ、全員に向けて出発の合図を送った。
 社を離れるとすぐに道にでたが、道幅は細くなった。
 「ナカトミ殿、道幅は狭いですがかつてはよく整備された道だったんですね」
 「お分かりになりますか久地尊。ここは飛脚道です。一般の民の通行は許されません」
 また、マンクセンの社を出て気が付いたのだが、この辺りからわずかだが草木が見え隠れするのに一行は驚かされた。どこを見ても岩の台地しかなかったはずだ。
 道が上り坂になり始めると、段々と草木が増え岩の姿が少なくなった。道も足元への当たりが柔らかくなった。 
 「飛脚道か。今は整備されてないが、岩石を砕いて小粒にして敷き詰めてある。これなら脚への衝撃は少ないだろうな」 本宮が独り言のようにつぶやいた。
 徒歩の者が先に進み、アカタリと於爾加美毘売、和邇と海人たちを後詰とし、馬の連隊はしんがりとした。
 ゆっくりと一行は登って行った。
 通報を恐れてカガミソ族の居留地石切り場を避けてキリマ山を目指した。

 つづく 



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サクナダリ国    63

2016年07月03日 | 幻想譚
 台正面の大きな窪み、水無し川の岩盤の跡の中央をこちらに向かって進んでくる十数人の小人たちの一団。その中央にいるのはまたしても女性だった。
 台の下までやってくると彼女は手を挙げた。一行が止まった。じっとこちらを見上げている。
 小人といっても、前に観察したままを述べたが、一寸法師ではない。小ぶりな人、小型の人間といった方がよいだろう。小学生ぐらいの背丈は十分にある。その女性は、その中でも少し大柄だった。
 「吾はこのオノゴロの地、サクナダリの女王タギツである。汝らは下都国よりまいったと申されたか」
 「いかにも、吾らは下都国より人を探しにまいった。吾は先導を務める下都国の神スクナビ、こちらは一行の長、久地尊である。途中、この地のウマシ国を訪れ、そこの国人の案内を得てようやくここまでたどり着いた」
 スクナビは、この一行の神たちの名とウマシ国の国人の主だった者たちの名を告げ、キリマ山への道とこの地の通行の許可を求めた。
 「なるほど、そうであったか。話せば長くなるが吾れらの思いと一致するところもある。下野部の長たちと事はかりする必要はあるが、吾れは協力することにためらいはない。久地尊ひとまず宮殿へまいられよ」

「タギツ毘売、このとらえた者たちは如何しましょうか」
「その者たちはカガミソ族と申してキリマ山を占領したアダシ国の手先となった者たち。吾れらサクナダリの民の監視役でもあるのじゃ。そのまま連れてきていただきたい」
 スクナビはアカタリにそのまま帯同するように命じた。

 タギツ毘売が先に立って宮殿への道を進みながら話したところによると、コヒトはもうひと部族がおり、その部族はワルサの手先となってるそうだった。
 そういえば、小人であるが風貌は確かに違う。ここにいるものたちとは違い、やけに頭がでかい。バランスが悪いので若干背が低く見える。ここサクナダリの小人は頭の大きさは普通で、全体のバランスがよい。顔も比較的穏やかで険悪な顔つきの者はいない。
 久地たち一行は、タキツ毘売たちの先導で岩の宮殿の入り口前まで来た。数段高い所まで登ったところで、タギツ毘売はもう一段高い所に上がり、片手を上げて振り返り、群衆に向かって話しかけた。集まっていた群衆は静まりかえった。
 「吾はこの人たちを歓迎する。少し話を聞いて皆に報告します。また、捕らえたカガミソ族の者たちは岩牢につなぐ。逃げ遅れた者たちはここかしこに潜んでいるやも知れない。見た者は直ちに戸長に知らせよ。吾れらも立ち上がる時が来た。それぞれの戸長は非常時の体制を取られよ。もうこれ以上彼らの好き勝手にはさせない」
 タギツ毘売は石段をさらに登って行って、岩窟の宮へと入っていった。久地たち一行もその後に続いた。

 岩窟の宮殿は思ったより天井が高い。アーチ状で所々に燈明が灯されている。炎の色から燃料は油ではないのだろう。炎が青白いのだ。
 広いホールに出た。円形のホールで、やはり壁にはぐるりと青白い灯がともされている。中央には大きな楕円形のテーブルが置かれている。テーブルも配置されている椅子も石だ。椅子の上には小ぶりの座布団状の物が置かれている。
 タギツ毘売一行がいったんその場を離れた。と同時にコヒトが飲み物だろうか何人かで運んできて、ホールの隅で接待の準備を始めた。我々に何か飲み物を配るようである。そうであればありがたい、我々は喉の渇きを覚えていた。しかし、毒見でもしてもらわなければうかつに手は出せない。龍二と飛はそんな思いで顔を見合わせた。
 そのときタギツ毘売一行が再びホールに現れ、左側の席に着いた。右側の席には久地たち一行の主だった者が着いている。他の者たちはその後ろにある同じ造りのといっても一種類だが椅子に着座した。左側の席の後ろにもコヒトが増えている。
 白っぽい盃が各人の前に配られた。後ろの席の者たちは直接盃を手渡された。石だ。薄くくりぬかれてガラスのようにも見えるが確かに石造りの盃だった。以前どこかで見たことがある。思い出せないがメノウだったか?
 中央のタギツ毘売が立ち上がって歓迎の辞を述べた。それに対して久地が答礼の言葉を述べている。こちらの要件はすでに話してある。この答礼までのわずかな間に於爾猛からの伝言というか合図が伝わってきた。「飲んで良し」だった。久地の答礼が終わりタギツ毘売の乾杯で全員が盃を飲み干した。タギツ毘売の歓迎の辞の始まりとともに盃に酒らしきものが注がれたのだったが、端にいた於爾猛は掌で隠しながら素早く口にしていた。
 シャンパンではない、これは果実酒のハイボールといったところか。色は薄いブルー、ここには炭酸があるのだ。飛は於爾を見てうなずいた。

 タギツ毘売の左側のコヒトが立った。この国の役人なのだろうか。
 「吾れはオオミと申す。キリマ聖山へは吾れらが案内いたしましょう。アラタエへの道は山裾をとおっている。少々危険ではあるが、そこを抜けて行くことができる。ただし人は徒歩でいかねばならない。騏驎は引いていけるが、車両は途中までで、そこに置いておき、徒歩で進む。アラタエを落とせばそこから先へ進める。如何か?」
 「わかり申した。もとより異存はありません」久地は立ち上がって礼を返しながら返答した。
 「ではここにおるナカトミが衛士を編成して、と言っても数人程度ですが同行させましょう」
 「よろしくたのみます」
 今度はタギツ毘売の右側のコヒトが立ち上がった。
 「吾れはナカトミと申す。道中を先導し、案内申す」
 再びオオミが代わって、「さて、このハバの地に住む方もおられるからご存じあるかと思うが、このハバはもともとオノゴロと申す。天地がいまだ定まらずの頃、天体に異変が起こり、幾つかの星が砕け散った。そのとき砕け散ったひとつが天空をさまよった。それがオノゴロの星である。後にこの天空で生き残った者、すなわち吾れらハヤカワ族があのキリマ山に降り立ってサクナダリ国を建てた。後にこの星にたどり着いたのがカガミソ族で、キリマ山の裏側の下の部分を分け与えて住むことを許した」
 「先ほどの話にあったカガミソ族ですね」本宮が尋ねた。
 「吾れらと風体は少し変わるが、同じコヒトで、トカゲを操っていた者たちだ」オオミが答えた。
 
 オオミの話によると、キリマ山にあったサクナダリの地の近くに、突如として河の向こうからワルサが攻め込んで来た。カガミソ族の手引きがあったという。
 そのカガミソ族は、ワルサたちが渡来してから、いつの間にかオオトカゲを操るようになっていて、吾れらを脅かし始めた。住むところも逆転してしまったが、元のサクナダリの地はオノゴロの地の所在はまだ知られてはいない。
 天空異変の後も小さな星同士の衝突があり、この星も荒れ果てた。やがてキリマ山の変動も収まったが、ここはあの平原を観てのとおり荒廃した大地になってしまった。そのようなわけで、あの河の向こうを知ることなく、行くこともなかった。後に、そこにウマシ国が建てられたとは知る由もなかった。

 「そうでしたか。この星の事は白髪部のミマロさまの話の中にも出てきませんでした」そう言って、イトフが大きく息をついた。
 イトフたちウマシ国も、このハバへは渡来した部族だったのだ。
 物知りの神のクエビもハッキリした事ではない、あくまでも吾れの憶測だが、とことわって次のように話した。
 「神代を更にさかのぼること、この世のあけぼのの頃だ、遠く北方に住む部族が下都国の列島にやってきた」久エビはゆっくりと立ち上がりながら自分の知っている話だと断って、下都国にかかわることを話し始めた。
 
 久エビの話はこうであった。
 下都国は南を大海で隔たれており、北へ回っては飛び石のように島々が連なっている。あるところでは陸続きになるところもあり、人々は小舟を使いながら列島への道を発見した。星の異変により地上の寒冷化が進み、何代にもわたった。北方は陽の薄い暗き所。ますます暗くなり、人々はさらに南を目指した。そのころ、西寄りの方から海洋を渡る舟を操る民、南方系の部族が襲来した。
 この南方系の部族は同じ流浪の民でも戦を切り抜けてきた部族だ。敗走して来たとはいえ、戦闘を切り抜けてきた百戦錬磨の武族だった。一方、北方から来た部族も流浪してはいたが、平和的に共生し同化していける部族だった。しかし、戦う術を持っていなかったのでここでも追われた。そこで彼らは別の道を選んだ。この北の部族は北の厳しい気候を乗り切ってきたので気象を熟知していて、それを使いこなせていた。やがてこの道を選んだのだった。それで地上から天上界へ移ることを考えたのだろう。それが神の道、天の浮橋だ。
 「えっ、あのモーニンググローリーですか?」龍二が素っ頓狂な声を上げた。
 「俺たちもあれに乗ってここまで来られたんだ。信じないわけにはいかない」飛は納得できるという顔をしている。
 後の下都国で北方系の部族にとって代わってのが彼らだ。クエビが指差したのは都賀里,於爾、於爾加美毘売たちだった。オオヤ、オニ、ニタ、ヤマネたちの部族、今の民だ。その当時の文明を築いていた。これが下都国の有史のはるか前の天地創造の頃、定まる前の話だ。
 身の重き者が滅び、身の軽き者が残った。そしてまた、身の重き者が現れたという事なのだろう。気候変動がその根底にあるようだ。そういえば、ウマシ国の人たちもやや小ぶりだ。

 ちょうどそこへ先ほどの若者がホールへ入ってきた。
 「道案内をする者たちをつれてきたか?」オオミがその若者に問うた。
 「はい、仰せのとおり選りすぐりの6人を連れて参上しました。外に控えております」
 「そうか、ではここへ通しなさい」タギツ毘売が立ち上がって、久地の側へ来た」
 「久地殿、7名の者をお供させます。ナカトミを長に道案内の先導を務めます。オオミの補佐官代行ですから、何なりとお申し付けください」
 「こちらは下都国より参られた先都国の久地の尊だ。久地の尊、ナカトミは元のサクナダリ近くの村の生まれです。その近辺の近道はもとより、抜け道、抜け穴の類に精通しています」オオミが久地の傍らにナカトミを連れてきてそう言った。
 「ナカトミ殿、よしなにお願い申す。心強い」久地が礼を言って、於爾加美毘売を傍らに呼び寄せた。
 「於爾加美、短びの剣を七振り用意できるか?」
 「はい、美美長殿より預かった物の中にあります」
 「そうか、直ちに用意せよ」
 美美長とアカタリが立ち上がって一礼して、於爾加美毘売と共にその場を離れた。

 「久地の尊、吾れと共に同行する者たちです。この6人は、それぞれ木の声、火の声、土砂の声、岩石の声、水の声、それに風の声を聴く事が出来る者たちです」
 「うむがし、ナカトミ殿、物の怪もなんのそのですね」
 そこへオニガミたちがこも掛けしたものを運んで戻ってきた。
 運び込まれたこもが解かれると、中から剣が出てきた。
 「ナカトミ殿、この短き剣をお預けしよう。コヒトの衛士には良きものと思う、まずは持って下され。使い方は於爾加美が伝授いたす」
 久地が美美長と於爾加美毘売に向かって合図を送ると、二人が前に飛び出してきて、勢いよく剣を交えた。美美長は長刀、於爾加美毘売は短剣だ。しかし、於爾加美毘売の剣さばきは鋭く美美長を押し込んでいった。7人のコヒトの顔に緊張が走った。
 「ナカトミ殿、於爾加美はなかなかの使い手、吾れもいくつか剣筋を教わった。道すがら習うといいですよ」 於爾加美毘売を押し戻したところで美美長が言った。


 「オオミ殿、キリマ山のアダシ国はどんな所でしょうか?」 クエビの神がオオミに尋ねた。
 「クエビの神、アダシ国が占拠したアラタエは先のサクナダリではありません」
 「なんと、サクナダリではないと?」
 「はい、外輪の一部です。元のサクナダリの地を彼らは発見出来ず、到達していません。吾れらは外輪の幾つかに分国を作ってあったので、その一つにすぎません」
 「そうですか、それではくろがね、あかがね、しろがねの類はどうですか?有りますか?」
 「吾れらがいた頃は鉱物の類は見つかってはいませんでした。しかし、もとはと言えば、ここはそう言う星、彼らは見つけてるかもしれません。アラタエのある場所は岩石の多い所でしたから、考えられます。吾れらは全てを木、土、石で作っておりました・・」
 「剣の類は、鉄と木が必要です。しかもたたら吹きでしか作れません・・。下都国から拉致していった匠にいったい何を作らせたのか?」

 「では、皆さん。簡単に道中をお話しておきましょう。こちらの前へ進んでください」 女王のタギツ毘売がそう言って、再び立ち上がってホールの岩壁の前に進み出た。
 一行が大きな岩壁の前近くに集まると、さっと右手に持った扇を振り上げた。するとどうだろう、岩壁の上から水が染み出して壁を覆っていくではないか。だんだんと水の量が増して岩を覆うカーテンのようになった。
 「ナカトミ、語り部のハクに語らせよ」
 「かしこまりました」 
 先ほどの6人の若者の中の一人が前に進み出てきた。ハクと呼ばれた若者は、まずタギツ毘売に一礼すると、今度は久地の尊たち一行に向かって深々と頭を下げた。それから岩壁に近づくとサッと壁と水のカーテンの間に滑り込んだ。
 「オーッ!」 飛と龍二が同時に声を上げた。壁と水のカーテンの間に人一人が滑り込める隙間があるとは考えもしなかった。しかも両手を広げながら高く差し上げる様が水に透けて見える。 
 「オーッ!」 今度は、於爾や都賀里、冷静沈着な耶須良衣までもが声を上げた。水のカーテンが少しずつ曇りガラスのように濁り始めたのだ。水のカーテンの前に出てきたハクはき居の姿勢から起拝をした。おふなおふな、精一杯、真剣に誰かに語り掛けている。
 するとどうだろう、水のカーテンに何かが映り始めたではないか。

 「では、お話いたしましょう・・」おごそかに女王が語り始めた。
 その場にいる一行は、皆それぞれ前へ出てきていた。
 「オノゴロの地の聖山、キリマ山の中腹より高い所に秘密の花園、以前のサクナダリはありました。そこは外輪山へ行く道の反対側でしたので、そのまま上に向かって進むと外輪山に出てしまいます。少し下り迂回すると麓に降りてしまうような錯覚を起こす秘密の抜け道、隧道を通り、そこを抜けて行かなければなりません。それゆえワルサたちに見つからずに、難を逃れて密かに脱出して下に移り住んだのです。さて、此度は皆さんが目指す目的の地、アダシの場所です」
 水のカーテンに絵が映り始めたではないか。徐々に映像が鮮明になってきた。久地や本宮には少し前の時代のプロジェクターから映し出される画像という感じであった。それでも、今現在この場では十分であろう。十数枚の岩場や低い樹木の森などの映像が映し出された。
 「今、ここでお見せできるのはこの程度です。オノゴロの地の聖山キリマ山の特別の場所や、そこの様子を特定されない程度にとどめてあります。行く道すがらご案内させます。では、皆さんが目指す目的の地、アダシの地ですが、吾れらは国と認めてはいません。勝手にやって来て横暴にも吾れらの地を占拠したのです。その地をアラタエと呼称してますが、ワルサ一行の傍若無人な振る舞いです。それが上手くいったのも、カガミソ族を手なずけ取り込んだからです。それについては、吾らにも反省の余地はありますが、吾れらもこの機会が来ることを信じて待ち望んでいました」
 「それで、アラタエはどこにあるのですか?およそで結構です。ざっと頭に入れておきたいのです」クエビの神が尋ねた。
 「キリマ山の中腹の裏側から少し上に行ったところに広い岩の台地があります。元は吾れら石切り場、作業地でしたが、アラタエはその台地にあります。大地の中央にアラタエの城があり、そこにワルサたちが住み、その台地の周囲の岩壁が妖怪の棲み家になってるようです。キリマ台地への道は、山裾から登り、中腹から険しいくなる断崖の道しかありません。その途中の中腹から少し入り込んだところにカガミソ族とトカゲが住んでおります」
 「ところで、あのオオトカゲなのですが、あのような怪物がもとからいたのですか?」
 「いえ、あのようなオオトカゲはおりませんでした。キリマ山自体岩の多い所ですからトカゲの類はいました。ワルサが率いてきた妖怪が呪術を使ってトカゲをあのようにしたんです。カガミソ族はワルサたちに取り込まれ、オオトカゲを与えられてトカゲ使いの忍びになったんです。以来、ワルサの手先になったカガミソ族に吾れらは常に見張られています。だから用心しなければなりません。吾れらは秘密の花園のサクナダリには帰らず、ここでじっと時を待っていたのです。もちろんワルサたちにはサクナダリは今も見つかってはいません」
 
 以前のサクナダリはキリマ山中の秘密の花園の地。ワルサたちの住むアラタエとは違い、温暖で草木豊かであるらしい。周囲を高い山塊で阻まれていて、容易に見つけることはできないのだろう。その地を奪われないために、発見される前にその地を捨ててここへ移ってきたのだった。
 「きっと桃源郷なんだろうな~、見てみたいな」飛が龍二に小声で声をかけた。
 「そうだな、でもそんなこと言ってる場合じゃないだろう。先を急がねば・・」龍二が小声で返した。
 龍二は運河を渡ってからというもの、完全に達吉とは連絡が取れなくなっていると本宮から聞いていた。それも、シャーという通信音までも遮断されているとのことだった。
 「オオミ殿、伺いたいことはまだ山とありますが先を急ぎます。出発させてもらえませんか?如何でしょう」
 久地は、ここまでたどり着いたので、一刻も早く目指すアラタエに向かいたいとタギツ姫にも申し入れた。
 「おっしゃる通りです。吾れらにとっても旧を取り戻す最善の機会がやって来たのです。オオミどうじゃ」
 「ハイ、かしこまりました。急ぎましょう。出発じゃ~!」
 「皆のもの、直ちに出発じゃ~!」
 岩窟の広間に笛の音が鳴り響いた。コヒトの若者たちは、笛の音でコミュニケーションをとれるらしい。そういえば此度の若者は岩や木の話が分かると言っていた。静かな落ち着いた音色が岩に浸み込むように鳴り渡った。
 「今だ天地定まらぬ頃、神が振り下ろした杖から滴り落ちる滴あり。幾度となく繰り返し落ちた滴がこのオノゴロの地。神を迎へと上申す、神はこの地に降りて入り申す。天と地を結ぶ笛が神調子を奏で、オノゴロの地にサクナダリが開けた。今し、下都国の神々とともに旅立ちの時来たり」
 洞窟の前で、タギツ姫が上に向かって両手を高く差し出して、おごそかに述べた。

 つづく

 
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コヒトの国      62

2016年02月28日 | 幻想譚
 崖下左面のイトフ隊は、イトフとナルトの戦闘車を先頭にして、美美長がしんがりに付けた遊軍の美美長族の小隊と共に戦っているものの、防戦一方を強いられていた。駆け付けた耶須良衣と都賀里の戦闘車が、外側からコヒトを挟み撃ちにして攻撃したが、イトフ隊は戦闘になれていないので攻撃に無駄が多く彼らに押され気味であった。アカタリと於爾加美毘売も駈けつけ徐々に押し返しているところへ天駈けの5頭が舞い降りてきた。久地たちが雷の剣で稲妻を発射すればよいのだが、イトフ隊にも当たる危険がある。そこで打ちと両方を使い分けた。
 ようやく五分に戻したところでコヒトの撤退が始まった。すかさず美美長族の小隊と、その後をアカタリと於爾加美毘売が追跡し、しんがりの一団の中の者を何人か捕縛した。
 「逃げる者を深追いするな!先がまだ分からんぞ」
 押し返して勢いづいたイトフ隊が更に追いかけようとするのを久地が制した。
 やがて右面方向からタニグを先頭に本宮たちもやって来た。
 久地がトカゲを落とした威力が効いているのか、それともコヒトの策略か。久地は何となく策略に富んだ面構えから後者を選んでいた。
 それにしても、あのオオトカゲを操るコヒト達はいったい何者か?この異郷ハバの一部族なのか?

 ウマシ国の仙都アカルタエを出て緑の樹海を縦断、水路を横断して上陸してアダシ国へ一歩を踏み出した。更に不毛の平原を進み目指す霧魔山が眼前に迫るところまでたどり着いた。 そこから山岳地帯へ入るところでコヒトに遭遇したのだ。ここを越えなければ霧魔山にある仙都アラタエにはたどり着けまい。
 「妖精の住むウマシ国から妖怪の住むアダシ国への遠征でまず異形の小人族に遭遇したわけだ。はたして彼らは?」
 本宮がイトフの方に向き直って尋ねた。
 「カムサビの伝えの中にもありませんか?」 
 さすがに物知りのクエビも想定外だったのだろう、何か情報がないか思案顔になっている。
 「とにかく前に進むしかない。誰もが知らない地だ、出会ったことを一つ一つ解釈しながら進もう」  
 久地はそう言って先導のクエビの神を促した。
 進むに際して左右に別れてゆくことをスクナビが提案した。リスク回避と左右の側道の偵察を兼ねた。
 正面左の側道から都賀里と於爾が進んだ。その後をスクナビとイトフ隊、於爾加美毘売と補足したコヒトたちを乗せた車両をアカタリが誘導し、しんがりを美美長と耶須良衣に頼んで先発させた。
 クエビの神は右の側道へと向かった。久地と本宮が飛と龍二を伴って伴走した。その後ろを海人と和邇の小隊が続いた。

 久地たちが進む右の側道の両側は切り立った岩壁で、その高さは数十メートルはあるだろうか、片方の壁が覆いかぶさり上が見えない。
 すぐ上り坂になった。入り口付近は三列で進めるが、やがて平坦になる中心部は二列になってしまう。しかし、隊は支障なく進める幅で、赤足りの車両はギリギリ大丈夫だった。
 後で聞いた話であるが、スクナビが先導した左の側道もおおむね同じようだったそうだ。ただ岩壁は垂直に切り立っており道もほぼ直線だったので、上部から狙い定めて岩石を落とされる危険もあったが、こちらの側には補足したコヒトたちを乗せた車両を見せるように伴っていたので、上からの石落としは免れたのかもしれない。
 久地たちは、山一つぐらいの距離を進むと前方が明るくなった。明るいと言っても陽射しがあるわけではない。灰色が薄まっただけで、前方が開けたということだ。そこは広い高台で眼下を見下ろせる踊り場のような場所だった。左右の側に斜め下に降りていく道が付いていた。ただそこから見る眼下の景色はやはり異景だ、草木がない。岩また岩。岩盤の国だ。岩盤の所々が窪んでいる。左右にそそり立つ岩盤の中央の窪みは幅広く広場のようだが、この台の真下で曲がってから真っ直ぐ前方に続いている。道か? いや、それは水が亡くなった川の跡のようにみえる。にたしき地とは到底言えない景観の所だ。
 久地たちが眼下を見渡していると、驚いたことに岩盤から水がしみ出してくるようにコヒトの群衆が出てきたのだ。溢れ出て来たと言った方がいいだろう。更に、目を凝らして広場の左右にそそり立つ岩盤は、よく見ると建造物のようだ。岩盤をくり貫いて作られている巨大な建物になっているではないか。そこからいわゆる小人の群衆が広場に溢れ出てきたのだった。
 その時、左手の切通からスクナビとイトフの一行が姿を見せた。
 それを待って久地がスクナビの神とイトフに歩み寄って「スクナビの神イトフ殿、ここをご存知か?
 「いやー、コヒトはもちろんの事このような所があるとは考えてもみなかった」 イトフはそのまま絶句していた。
 スクナビの神もただ首を振るばかりだった。
 「この高台からなら下方の小人達には吾れらが見える。ここで、補足した者たちを前に立たせて反応を見よう」
 
 於爾加美毘売がアカタリの車両から補足した者を降ろし前へ連れてきた。
 一瞬、小人たちのざわめきが起こった。
 久地は、補足した数人の中に衛士頭らしき者がいると於爾加美から聞いていたので、その者を前に連れてきてもらい、礼を尽くしてから話しかけた。
 「汝は名を何と申されるか?」
 「・・・」
 「吾れらはアダシ国へ、吾れらの国人を救出に向かう者。アラタエの都に行く道なら通して頂きたい。この地を通らずに行けるのならその道をお教え願いたい。もとより吾れらは汝たちと争う意図は持ってはおらん。しかし、汝たちが闘いを望まれるなら受けて立つ。如何か」
 小人草の衛士頭らしき者は上目遣いにチロリと久地を見た。相変わらずふてくされたようなずる賢い顔つきだ。
 傍らのイトフが黙ってゆっくりと剣を抜いた。
 台近くに集まって来ていた群衆が一瞬静まり返った。
 スクナビの神が「イトフ殿、久地殿が問うた事を下に集まった小人草たちにも語り掛けてくださらんか」

 「吾れらは、ワルサ国の仙都へ国人を救出に向かう者である。ウマシ国の仙都アカルタヘから来た・・」
 イトフの声は大きくよく通り、威厳がある。イトフは久地が衛士頭に問うた内容を群衆に向かって語り掛けた。ひととおり話し終えると群衆のざわめきがあちこちから起こった。しかもそのざわめきは一行を非難するようなものとは思えなかった。そこでイトフは剣を腰の鞘に戻しながら話をさらに進めた。
 「ここにおわす神たちは遠き下都国の尊たちである。吾れはウマシ国は仙都アカルタヘより参った建部の頭イトフと申す。神たちに従ってここまで来た」
 イトフが話し終わった時、広場左手の塔のある建物の前の群衆が左右に大きく割れた。大きな岩の陰から一団のコヒトが現れこちらに向かってくる。近くの大きな岩のデッキにも群衆の一部がおり、現れた十数人の一団に手を振ったり、両手をあげたりしている。
 現れたその一団は中央の大きな窪みの道の中央に出てきた。

 つづく 
 


 
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アオヒトグサとの戦い 61

2015年12月06日 | 幻想譚
 久地は眼の前に広がる平原をじっと見つめた。遠望できるのは白い霧魔山だけだった。下の方は雲か霧だろうか灰色で覆われている。ただ、行く手を崖の壁が遮っているのは分かった。ここへ来る前に、崖が麓かと思っていたのは間違いだった。崖の岩山の向こうには、まだ深い山が連なってるらしい。きっとクエビには見えている事だろう。
 仙都アラタエへの道は遠い。これが実感だった。これから向かう魔境の都アラタエはどんな所か・・。先ほどの偵察に飛来してきた空飛ぶ翼トカゲとコヒトグサ。本当ならドキッと驚いているはずなのに、そんな反応の無い自分がいた事の方が驚きだ。果たしてこれからを乗りきっていけるのだろうか。

 「尊、どうかなさいましたか」美美長が声をかけてきた。
 「ちょっと考え事をしていた。美美長、こっちへ来てくれ」 
 久地は戦上手の美美長を手招きした。
 「トカゲを落とした後のことだ。戻る時に下の草原を見ると明らかに人工的な区域線らしきものが目に入った。その線は崖の方とこちら側を区分していた。何だと思う?」
 「尊、崖の出っ張りと両側からの出入りを考えると、横矢を考えたものではないかと思います」
 「横矢とは横からの攻撃のことか?」
 「はい、だとすれば、察するに一の手として崖上から何かを飛ばすことが考えられます。神たちの話では弓矢は無いとの事でしたから、石か槍でしょうか」
 「距離から考えるとまず石か? 近づいて来たところへ槍の雨を降らせるということだな」
 「崖の下で構えているコヒトは、呼び寄せるオトリにもなりましょう。だとしたら、初めこちらも横並びで進み、線の手前で一旦止まる。そこから線を踏み越すと見せかけて隊を左右に分けて横方向へ進ませてはどうでしょう」
 「分かった、その間の様をクエビの神の遠目で見てもらって、その合図で左右横方向へ転換し、後詰めの五騎を飛ばして崖の上を一掃する。それに合わせて左右同時に崖下を攻めてコヒトを攻撃する。そういうことになるな」
 「御意。思惑通りにいけば、三方から攻め込めます」
 「よし、それでいこう」
 周りに集まっていたクエビやイトフも首肯している。
 「早速隊へ伝達して、隊列を整えよう」

 美美長とイトフによって横並びの隊列が組まれた。スクナビ隊と久地隊は右。イトフ隊は左攻めとした。アカタリが耶須良衣のアドバイスを得て作った戦闘車4台は左右に2台ずつ配した。天駈けの5頭は隊列の後方に構えた。
 「各隊共に崖の上の戦況はには常に注視して次の行動に対応してもらいたい。上の戦況はイシを連絡係として各隊に伝える。直ちに騎乗して隊列を整えよ」
 久地の号令と共に各隊は横列の隊列を組み、出発した。中央には指令役の美美長を置き隣に崖の上下の様子見のクエビを配した。
 「美美長、境には白妙を落としてきた。まずはそれを眼で探して位置を確認してくれ。そこからが作戦の起点にになる。タイミングは汝に任せる」
 「御意」
 「於爾加美、予備の雷の剣をスクナビの神とイシ殿に。神とイシ殿は龍二・飛から使い方を聞いてください。本宮、都賀理と於爾と図り、進みながら引き上げの救出退路を確保する算段をしておいて欲しい。それから、アカタリ殿の車両隊と於爾加美は最後方の後詰めへ」
 久地が後方からそれぞれに指示を出した。
 各隊は美美長の号令でゆっくりと前進を始めた。
 
 やがて地を踏む蹄の音が並足から速足に変わり、徐々に速度が上った。天駈け5頭の後ろから少し間を空けてアカタリの輸送隊も後を追った。
 少し行ったところで、久地が踵を返してアカタリに駆け寄って声をかけた。
 「アカタリ殿、納めは汝の力を借りる。救出の人達と怪我人を運ばなければならないだろう。また、装備を積んでもらってる。重き役どころゆえよろしく頼みます」
 「承知しております、尊殿。後方支援は吾れの得意とするところです。先の対岸には、吾れの配下の者たちに舟を集めるよう手配しておきました」
 「かたじけない。手配感謝する」
 久地は列に戻りながら、皆の思いの強さを感じ、絶対に成功させなければならないと自らに言い聞かせた。

 クエビが前方を指さしながら美美長に耳打ちしている。クエビにはすでに何かが確認できたのだろう、美美長がうなずいている。
 すると、美美長の速度が少し上がったかと思うと後ろを振り向いて合図を送った。
 クエビが、崖の上と境界線の白妙を観察して美美長に判断材料を与えたようだ。美美長の被り物の両側についてる尾羽飾りの横振りが縦に変わった。前方一点に集中しているのが後ろからよく分かった。後列の者たちが速足を取り、歩を揃え、いつでも飛び出せるように構えが整えられていった。
 
 美美長の右手が上がった。隊列は一斉に飛び出した。競い馬のスタートを観てるようだった。横列の隊が一斉にばく進した。横列の砂塵がもうもうと舞い上がり長い直線を描いて移動して行く。さすが騎馬族の長、この砂塵を相手に見せ、こちらの位置と方向を知らせた。久地は後方から、少し早いかなと思ったが早めに認知させる意図なのだろう。傍らのクエビが美美長の方を見て何か合図を送った。美美長が首肯しているところまでは確認できたが後は砂塵で見えなくなった。
 再び美美長の右手が上がったようだ。それと共に鋭く短い指笛の音が発せられた。
 この砂塵で向こうからは手の細かな振りは見えないだろう。と思ったとき、美美長の挙げた手が左右に振られ、指笛にビブラートがかかった。
 隊は一斉に左右に別れた。その時久地は驚いた。このわずかな間に、砂塵に隠れて隊は数列になっていたのだ。それが旋回することなく、素早く左右に方向転換できた理由だった。内側に入るものが外側に来る騏のくつわを取って誘導したのだろう。内側に上手を配した美美長の作戦に違いない。久地は隊が白妙の線を越えていたことを知っていたが、クエビと美美長の連携がうまく相手を引き入れた。
 
 その時、隊が左右二つに割れた場所の上が一瞬暗くなったと思ったら、その場一帯に上から何かがバラバラとソフトボール大の物が降ってきて砂塵が上がった。間一髪だった。久地たちもあらかじめ想定して、天駈けを脇に寄せていたが、危ないところだった。それにしてもコヒトの石投げの正確さも凄い、侮れないと思った。イシが拾ってきたものを見ると氷の塊と石だった。
 これで相手の二番石は左右に割れた隊を狙うことになっる。当然威力は半減する。
 相手にとっては想定外の事だったのだろう、戸惑っている隙にクエビと美美長の手が円を描いた。

 5頭の騏が砂塵の中から左右の上空に飛び出した。
 久地を先頭に、一直線に崖に向かった。
 ちょっとした想定外が相手の手順を狂わせたのだろう。崖に近づくと案の定、石弓の一斉投てきはできず、投てきはバラバラになってしまっている。更に威力は半減するだろう。
 崖下の左右の各隊は、崖下のコヒト軍団に集中すればよい。下のコヒト軍団は槍状の物を構えているが、石弓の一斉投てきがなされないので出ばなをくじかれ出撃が乱れているようだ。トカゲを飛ばされると面倒だ、出てこない内に勝負を付けよう。
 「崖の上のコヒトに集中せよ!」久地が叫んだ。
 あっという間に抜刀した5騎は崖に近づいた。

 「撃てー」
 5振りの雷の剣から閃光が崖の上に走った。コヒトの衛士たちは稲妻に跳ね飛ばされ、角がついている兜頭巾が跳ねて飛び散った。
 崖上の出入りの道が岩と岩の間にあるが、そこに大トカゲが見えたのをスクナビは見逃さなかった。次の手として続々と上がってくるのを飛と共に襲撃した。これで倒れたトカゲたちで道はふさがっただろう。
 
 しかし、一匹が逃れて崖の上から飛んだ。すかさず、龍二が後を追った。
 トカゲは火炎を飛ばして左面のイトフ隊に襲いかかった。
 イトフ隊は石弓を防ぐ楯を頭上に掲げて事なきを得た。そこへ龍二が追いつき稲妻で撃ち落とした。
 勢いづいたイトフ隊はイトフとナルトの戦闘車を先頭に一斉にコヒト軍団の中へ分け入った。

 一方、耶須良衣と都賀里の乗った戦闘車を先頭に陣を張っていた右面は、石弓の一斉援護もなく崖の上を見上げるばかりだったコヒトが、ただジリジリと後退ていた。やがて崖下に追い詰められた。予測通り先陣のコヒトはオトリだったのかもしれないが、石弓隊、トカゲ隊と攻撃の手順はあったはずだ。しかし、その時は攻撃の指令を発する崖上を久地の天駈けで既に一気につぶされ壊滅状態になっていた。

 左面のイトフ隊はイトフとナルトの戦闘車を先頭に、右面は耶須良衣と都賀里の戦闘車を先頭に崖の中央の真下にコヒトを囲むように追い詰めた。輪を縮めながら、これで勝負がついたと思ったその時だ、崖の左右の岩陰からコヒトの一団が襲いかかってきた。
 両隊共に後ろを半円に囲まれ、挟み撃ちの格好になった。コヒトとはいえ圧倒的な数だ。
 右面はスクナビ隊のタニグの神と海衆の海人の小隊と和邇の小隊、久地隊の本宮、都賀里,於爾は剣が使えるが、戦慣れしていない左面のイトフ隊はコヒトの数に押されて防戦一方になった。
 右面から美美長族の小隊と耶須良衣と都賀里の戦闘車がイトフ隊救出に駆け付けた。後方にいたアカタリと於爾加美毘売も左面に駆けつけ、外側のコヒトを後ろから襲撃しはじめた。特に於爾加美毘売の活躍は目を見張るものがあった。女とはいえ、その身の軽さといい、躍動する剣さばきはコヒトを恐れさせた。

 そこへ崖の上から久地たち天駈け5騎が降りてきた。

 つづく
 


 
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アダシ国の平原  60  

2015年10月10日 | 幻想譚
 確かに入江の一番奥の岸までは雲が使えた。
 しかし、あの時の遠望からでは、この先雲が使えないのは痛い。
 クエビの神も雲が使えなくなるのは予想だにしなかったと言った。
 アダシ国が異境だとは幾度となく聞いてるが、この仙境の二つの国は特異な所なのだ。これからも自分の想像を越えた驚きに出くわすだろう。心せねばなるまい。
 
 しかし、すぐにそれは良い方の驚きでやって来た。ウマシ国の建部の頭イトフが久地にもたらしたのである。
 「久地殿、白髪部のミマロさまがテルタエ女王にご相談されて許可をお出しくださった物があります。イシ、これへ!」
 衛士頭の近衛隊長イシが麒麟を引いてきてイトフに渡した。
 「久地殿、天駈けです」
 見ると一回り大きな麒麟であった。落ち着いて微動だにしない。見るからに大物だと久地は思った。
 身体は筋骨たくましく、背丈は高く黒く青みがかり、タテガミと尻尾、背毛、前後の脚の付け根は金色に輝いている。
 この麒麟には角がありまさしく霊獣と呼ぶにふさわしい気品があった。
 「イトフ殿、これが飛ぶのですね!」
 「久地殿、お察しの通りです。天駈けは天高く駆け登ります。縦横無尽にお使いください。五頭連れて来ております」
 
 早速、久地たちはイシの手ほどきで天駈けに試乗した。
久地はスピード感に慣れている。自分の他に飛、龍二、スクナビの神に乗ってもらうことにした。
 天駈けは見た目より身体が柔軟で反動が少なかった。久地が飛越の要領で騎乗してみるとふわっと宙に浮いた。ーこれでいいのかー。
 それを見ていた馬術の経験のある飛と龍二は同じように乗りこなすことができた。もとより、スクナビの神はたいそうな乗り手と見受けられた。
 「この五頭で天駈けの別働隊が出来る。それでは移動を開始しましょう。よろしく頼みます」
 海衆たちはアカタリの麒麟車に分乗している。、耶須良衣と美美長達はそれぞれ自分たちの馬に騎乗し、一部の者は空いた麒麟に騎乗した。
 大船と留守隊を残して、一行は前進を開始した。
 
 
 入江の端にある大きな岩を廻り込むと、運河は平原に通じる。更に運河の縁に沿って進むと、いよいよ見渡す限り一本の木もない平原が眼前に広がった。身を隠すものは何もない荒野だ。
 久地もこの平原を観ると何から手を付けていいのか・・分からなかった。何もないのだ。
 「クエビの神、この平原の彼方にそびえる霧魔氷山の麓はどうなってますか。何か見えますか?」
 久地が千里眼のクエビの神に訊ねた。 
 手をかざしていたクエビの神はそのままの格好で、「久地の尊、霧魔山の麓はやはり切り立った崖のように見えますね。壁となって吾れらが行く手を遮ってます」
 「そうですか、その崖の左右の端はどうなってるのでしょうか。何かわかりますか?」 
 「もう少し近づけば分かるのですが・・」
 「それではイトフ殿、三隊は少し間を空けて並列で前進します。各隊夫々に前後左右に目を光らせて周辺に注意して進んでください」
 「各隊前進!」イトフの声が平原に響いた。

 各隊が三列になって間合いを取り前進を開始した。平原は草地のようではあるが、歩くとサクサクと音がした。霜が厚く降りた道を歩く音、あるいは細かい軽石の砂の上を歩く時の音のようでもある。枯れたような色の草も生えている何とも不思議なところだ。上空はというと灰色のふたをしたようにどんよりとしている。いつもこのような状態なのだろうか。
 寒さが身を包み始めてきた。それでもそれほど寒さを感じないのは美美長のおかげだ。龍二が襟を立てる仕草をしながら美美長を見ると、それに気づいた美美長が右手のこぶしを上げて応えている。
 クエビの神が一歩前に出て、前方を注視しながら進み始めた。イトフ、本宮もクエビに倣ってイクサ車の足掛けの処に立って、手をかざしながら彼方の麓の方を見やっている。
 「久地殿、麓の正面はやはり切り立った崖のようになっている。自然の地形を巧みに利用しているが、間違いなくあれは造られた壁だ。中央部分が前にせり出しているのは、防御の壁か何か意図があるに違いない」

 久地もクエビの神の方に一、二歩天駈けの歩を進め、その指さしている方に目を凝らしたその時だ。
 「何かが動いた! 久地の尊、壁の中央の上で何かが動いた。何だろう? 羽ばたいてるようだ」
 「天駈けは前へ!」久地が叫んだ。
 すぐさま飛と龍二、それにスクナビの神とイシが天駈けを前に進めてきた。
 「久地殿、何か大きな奴が、翼を羽ばたいて大岩の上に上がった。 待て、その上に何かが乗っている。いま飛び立つようだ!」
 そのとき、大きな翼を持つものがふわっと飛び立ったのがクエビには分かった。
 「飛んだぞ!」
 「よし、それならこちらからも近づいてみよう。天駈けを連れていく。本宮、都賀里と於爾に白妙を持たせて後から来させてくれ。スクナビの神、イトフ殿、ここに残って周囲を充分警戒してください」と言って久地は手綱を強く引いた。
 天駈けの前足が空を切ってから飛び出した。
 それを見て、他の天駈け二頭も遅れまいと飛び出し、後を追った。
 天駈けは聞きしに勝る速さだった。確かに他の騏も早い、しかし加速が違った。身体がおいてかれるような重力を感じた。
 「追いかけろ」本宮が都賀里と於爾に指示した。

 台地の上から飛び立ったものは二匹いた。こちらに向かって来る。スピードを上げたのか近づくのが速くなった。
 飛が真っ先に追いついてきた。
 「飛、左側のを狙え!」 いうや否や久地は右方向へ折れながら両足のかかとで天駈けの腹を押し上げた。
 天駈けが上に向かって、ふわっと浮くように駆け上がった。
 飛もそれに倣って左に折れて浮き上がった。
 あの台地は飛び立つための滑空台だったのだろう。とっさにそう思って、久地はあれを下に落下させてみようと考えた。
 
 飛が久地の方を見やると、久地は既に背の雷の剣を抜刀していた。
 飛はすぐさま久地の考えを理解した。-落とす気だー とっさに射程距離を測った。間違ったらこっちがやられる。相手は我々が初めてだから何をしでかすか気付かないだろう。飛んでるやつをやれば、乗ってるやつは一緒に落ちる。
 飛は慎重に距離を測って狙いを定めた。相手は相当でかそうだから狙いは楽だ。だがスピードが出てるから間合いを取るのが難しそうだ。
 その時久地の剣の先から稲妻が走った。
 「ドン」という鈍い音がした。
 飛も剣を握りしめ、発射ボタンを押した。
 ドンという鈍い音がして、巨大な翼が傾いて落下する。と同時に、乗っている塊が地上に投げ出されるのが見えた。

 「両脚と翼に白妙をきつく巻いて目印にしろ!」久地が低空に飛行して叫んだ。
 久地が落とした方は下の龍二の前方に落ちた。
 すでに龍二が駆け寄っている。落ちたものは気絶しているようだった。
 飛が落とした方は都賀里が縛っている。
 投げ飛ばされた塊の方は、於爾が両手両足を縛っている。
 「両方とも縛り終えたらそのままでいい。直ちに戻る」
 四人は本隊へ駆け戻った。 
 「脚を縛っただけだから、すぐに目が覚める、それまでここで待機しよう」
  四人は天駈けから降りた。

 イトフ、三神、耶須良衣と美美長が久地の周りに集まった。
 「雷の光で気を失わせて落下させた。ここで向こうの様子をうかがおう。吾れらの動きを見て取って偵察のため飛来してきたのだから、向こうでは結果を見ているはずだ。目覚めて動き出したら、それを見届けよう」
 「承知した」
 「クエビの神、台地の両側に何か動きがあったら教えてください。ここからでは千里眼のクエビの神が頼りです」そう言って久地は信頼のこぶしを高くかざした。
 「全員ここで待機、すぐさま移動できるように態勢を維持しておく」イトフがナルトに指示して戦車から降りた。
 次々と全員が麒麟から降りてその場で待機した。

 久地は続けた。
 「あれは、トカゲに翼が付いたような生き物だった。角が一本あったが於呂知ではない。乗っていたのはアオヒトグサだ。コヒト、吾れらの背丈の半分もなかった」
 「ヒトでしたか・・」美美長が呟いた。
 「そうだ。頭がやけに大きくて異形の顔をしていた。見るからにまがまがしい姿だった。武器を持っていなかったので、アオヒトグサだろうと思った」
 「尊、落とした奴らに動きが出ました。眼が覚めたらしい。バタバタやっている。それにしてもあの白妙はまさ物よ、良く見える。向こうの台地からもきっと見て取れてるだろう」
 翼トカゲは、翼の縛りが解けないでいるのだろう、飛べないで歩き出した。コヒトグサもピョンピョン跳ねている。両方とも駆け出して逃げ始めた。白妙の蛍光は淡い光の帯となってゆらゆらと進んでいた。
 「間違いない。あれはトカゲの動きだ。コヒトグサがトカゲのシッポにつかまった」
 クエビの神が戦車の上に立って手をかざし、皆に聞こえるように実況中継してくれている。

 「動いた。台地の壁の左だ。何かが動いてる。あそこに出入り口があるのか?」
 他の者にはかすんでいて動きも見て取れない。
 「やはり、大トカゲは台地の上から滑空しないと飛べないのではないか? きっと、高さの無い平地からでは羽ばたいて飛べないのかもしれない」
 美美長がそう言った時、
 「待て、壁の右側にも動きがある。こちらからは一団が出てきた。こちらは戦闘集団のように見える」
 壁の下に横並びに並んで陣の態勢を取りつつあった。
 「神たち、アダシ国からの使徒が来たとき、護衛の者はどんな武器を携えていましたか?」
 「衛士たちは短めの槍の類と棍棒を脇に差していただけだった。弓矢は持ってなかった。もちろん、くろがねの武器は持っていない。従者の中で剣を持ってる者は一人だに無かった」
 「イトフ殿は如何か」
 「アダシ国には、丈の長さのある木竹は無いと聞いております。神たちのお話しにあったようにくろがねも無いと聞いておりました」

 つづく
 
 
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アダシ国上陸    59 

2015年08月07日 | 幻想譚
  
 入り江に4隻の船が入ってきた。
 入江はアダシ国へ通じる水路にある。水路と言っても大船が通れる運河だ。アダシ国へ着く手前に湖のように膨らんだ所がある。そこの奥の入江に船は集結した。久地は七重雲から4隻の入船を確認すると、このことを樹海の上で待機している九重雲の龍二に伝えた。
 伊止布の一団に樹海を縦断させ、入江に誘導する手はずになっている。雲同士の通話は遮断されてはいなかった。
 九重雲には神たち3人と龍二、都賀里が、七重雲には久地と本宮と飛が乗り込んでいる。赤足、於爾猛と於爾加美毘売は衛士と共に耶須良衣と美美長の船に分乗して入江を渡った。

 伊止布たちは樹海を縦断して来る。
 知恵者のクエビの神が、分かりやすく安全に縦断する方法を考えた。
 前もって身麻呂と伊止布に道筋を想定して伝え、成登に手はずを整えてもらった。
 それは、こういうことだった。
 一定の距離を置いて龍二が目印を落として行く。伊止布は成登ともう一人の衛士頭の伊支の2組を引き連れその目印を追う。
 その目印を追ってくると入江の対岸に着くという仕掛けだ。それなら樹海の中で迷うことはあるまい。
 その目印は光る白妙だ。重石になる物を白妙で包み、上から落として行くという寸法だ。また、樹海を抜ける者全員が白妙のタスキを掛けた。
 樹海の中を一筋の光の筋が進んでいくのが九重雲の中からも確認できる。クエビの神が下の進行速度を図りながら龍二に目印の落下を伝えればよい。
 それはフットライトとなって確実に入江の方角へ向かって進むはずだ。

 騏車の車両は赤足の手配によって無事に耶須良衣の船で入り江に着いている。後は伊止布たち一行の到着を待つばかりだ。
 既に入江では荷揚げが始まっていた。
 上手い具合に入江には波止場のような一段高い所がある。そこへ船を着けていた。
 物資は美美長と於爾加美毘売の指図で、先に上陸した者たちで積み上げが始まっている。
 美美長の馬も数頭が繋がれていた。美美長たちは騎馬族だから騎乗は得意中の得意だ。ウマシ国の者たちも騏の乗り手だ。下手なのはこちら来た者たちだろう。平原を移動する間に慣れてもらわなければなるまい。
 伊止布の一行が到着したら耶須良衣と美美長、海人と和邇の船で人と残りの物資を対岸に上陸させれば全員が揃う。
 この辺の運河の川幅は広く流れがある。が、幸いこの入江は穏やかで人や物資を上げるのにはうってつけだった。運河へ出る前にここで荷揚げしてしまおう。
 この広い運河の向こうは見渡す限り平原になっていた。そこからがアダシ国だ。
 運河一本隔てただけなのに、遠目にも草原は凍てつき寒々としてみえる。やはり冬の国だ。こちらへもどんどん冷気が伝わってくる。すでに上陸して作業する衛士の吐く息が白い。

 「スクナビの神、スクナビの神」 久地が九重雲に呼びかけている。
 「こちら九重、龍二です。スクナビの神に換わります」 九重雲の龍二から返事が返って来た。
 「伊止布殿たち一行のこちらへの進捗状況を伺いたい」
 「久地の尊の先はかり通りに進んでいる。直進して、入り江に向かって折れた処だ」
 「スクナビの神、古図の上で確認できました。こちらでは伊止布殿が到着する頃に上陸地点の整備を終え、直ちに渡河できるよう船を回す準備をしています」
 「うむがし、久地殿」

 伊止布一行が到着次第、船で一行を対岸に送る。
 耶須良衣の武器。美美長の防寒用具等。赤足の車両は既に荷揚げを終えている。伊止布が引き連れてくる衛士と騏の輸送で上陸が済む。
 「美美長。さすが美美長の馬、元気がよいな」
 「久地殿、吾れらの国は寒冷の地、馬もかたらかでたもちの力がある」
 「力強し!美美長。耶須良衣の剣も業物らしいな」
 「久地殿、さすが於呂知の真砂土、爾麻の都伊布伎の技をまねびて、かたらかで保ち良きまさ物をかた造ることができました」
 「久地の尊、耶須良衣殿の剣は短めでさばき易し、優れ物なり」於爾が手に取って振って見せた。
 そこへ赤足が自分の騏に小ぶりの車を付けて現れた。
 「赤足殿その車は何か?」飛がそう言って駆け寄った。
 車は二輪で立ち乗りだった。
 「耶須良衣殿から伝授された戦の車だ。急ごしらえではあるがどうだろう。耶須良衣殿、ご試乗くだされ」 
 その場に居合わせた者たちが見守る中で、耶須良衣がひょいと乗り込み、まずたずなを緩めてゆっくりと前へ出した。
 赤足りが御する方法は、単騎と同じだと告げている。しばらくして要領をつかんだのか、走り出した。疾走する場面は、走るというより飛んでる如くという表現がぴったりだった。
 「飛殿も試されては如何か?」戻って来た耶須良衣が飛に声をっかけた。
 「これは神たちが絵になりそうです。きっと喜びますよ!」飛が歩み寄った。
 とその時だ、「入江の向こう岸に人が現れたぞ!」 衛士たちの叫ぶ声に、皆が一斉に対岸を見やった。
 
 伊止布の一行が森から抜け出して岸辺を回り込んでいる。白妙のタスキが映えて列を作っていた。
 早速、飛が待機している船に向かって、赤足から白い旗を受け取り大きく振った。
 既に海人と和邇の船が対岸の一段高くなってるところに接岸して一行を待ち受けている。耶須良衣と美美長の船も騏を運ぶべくゆっくりと対岸に向かった。運河に流されると引き返せない。この入江の中にいて迂回するのが賢明、というのが海衆たちのまとまった意見だった。
 誘導してきた九重雲もゆっくりと降りてきた。
 雲から神たち3人と龍二、都賀里が降りてきて、足早にこちらに向かっている。
 

 伊止布一行と騏の下船も終わって、入り江の一番奥の岸に全員が終結した。
 これで全員がアダシ国へ上陸した。
 スクナビの神が一段高い所に立ち全員に話した。
 「予てからの事はかり通り、久地の尊が指揮を執る。吾スクナビと伊止布殿で参謀を務める。また、それぞれの長は補佐を願いたい」
 そこで久地が前に出た。
 「神たち3人は、スサの大神、それにスサの宮の八人の天女とたたら場の匠、かじ場の匠を救出しなければならない。伊止布殿は姫の末弟のツキユミ王の救出が責務。また、闇の者や氷室の者、奇怪な魔物、妖怪の化身も退治しておかねばなるまい。それから、先都世から来た吾れらだ。左加禰於呂知の長の話、民が忽然と消えた神代の消えた民が大元の祝から聞いた民なのか確かめて、これを救出しなければならない。それがそもそも吾らの目的である」
 久地はアダシ国の深部へはそれぞれの長の判断に任せた編成で行くことにした。海衆たちの何人かは船の守りを固めて吾らを待ち、この場の守りを固めるため衛士を於爾に選ばせた。
アダシ国自体がわからない所であるし想像もつかない。耶須良衣と美美長にも船を守り吾らを待つ体制を作ってもらった。

 久地はクエビの神の助言で、伊止布隊 スクナビ隊、久地隊の編成とすることにした。
 伊止布隊は伊止布を隊長に赤足、成登の小隊、ともう一人の衛士頭伊支の小隊。
 スクナビ隊はスクナビの神を隊長にクエビの神、タニグの神と海衆の海人と和邇の小隊、耶須良衣と美美長の小隊。
 久地隊は本宮、飛、龍二、都賀里,於爾、於爾加美毘売。
 於爾加美毘売には物資の補給を一手に担当してもらっていた。
 早速、剣他の武具、防寒具などが並べられ支給された。

 伊止布が霧魔氷山を中心とした一帯を眺め、平原を見渡している。
 「久地の尊、スクナビの神、吾らもここには初めて足を踏み入れた。物の怪の住むところぞ」
 「クエビの神、平原の奥に何か見えますか?山の麓一帯ですがどうなってるのでしょうね」と久地が訪ねた。クエビは千里眼と言われている。
 「さすがの吾もはっきりとは見えないが、長い人工物、防御壁のようになってるのかもしれない」
 「早速、雲を飛ばして偵察しましょう」
 「待たれよ、久地の尊。この先は雲にとって危険極まる。水を充分に含んだ気流があるようには思えない。凍ってしまえば雲は痩せる。この雲は特殊ぞ!」
 「そうか。帰れなくなるという事か」
 「この場に留め置くのが賢明と思う」
 「よしクエビの神の意見に従おう」

 つづく

   
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蜘蛛手の白い糸  58

2015年06月21日 | 幻想譚
 宮殿の中心部は多角形のドームのような形をしていた。しかし、思ってたほど高くは見えなかった。何層にもなっているものを想像していたのだが低いのだ。どういうことだろう。
 分厚い扉が音をたてながら左右に開いていく。何処もそうであったが、自動扉の動きではない。音は人力のリズムだった。
 中へと進むとすぐに下へ降りる階段になっていた。そうか下へ行くのか、それで分かった。低い印象を受けた理由が・・。とはいえ、宮殿のある場所は高い所にあったはず。
 
 「アカルベの大床へ直接ご案内いたします。遮光器はそのままお着けください。明かりを落としてるとはいえ、まだまだ目を傷つける恐れがあります。次の扉までは少し暗いので足元
にお気をつけください」 ミマロが前方を指して言った。
 薄暗い中、遮光器を着けたままなので足元は少しおぼつかなかったが一向は進んだ。廊下が鳴る。鴬張りとでも言うのか、侵入者への備えなのか。
 本宮と龍二の二人は、同時に斎庭の鳴り砂を思い出した。きっと、これも、あれも聖なる所への出入りを表しているのかもしれない。
 次の扉の前に来た。
 「白髪部のミマロ、神たち御一行を案内してまいりました」ミマロが扉に向かって口上を述べると、今度は軽めな音を立てて扉は内側に開き入館を許された。
 イトフの前に居たナルトがさっと後ろに下がって先導の形を解いた。その肩越しに見えるゆくりなき光景に、久地たちはあっけに取られた。
 真っ白だ。その真っ白がヱラヱラと揺れている。揺れる度に真っ白に輝く。
 「糸だ! 全部糸だ」本宮が叫んだ。
 久地は一歩進んで中を見回した。そこは体育館のようなだだっ広い所だった。四方八方、上から横から、糸が底の一点にヱラヱラと揺れながら伸びてきている。所狭しと空間を埋め尽くして送られているのだ。蜘蛛手の館か!? 
 本宮が久地の脇に来て上の方を指差した。このドームは八角形。高い所に二階がある。さらにその上、半分ぐらいの高さに三階が見える。各階のそれぞれの角の処に人の姿が見える。

機械の周囲にも糸の隙間から8人の人影が見て取れた。
 底の床の一点には何やら機械が置かれている。見たところ機織り機のようにも見えるが・・。いったいここは何する所か。ここは巨大な作業場なのか!?
 その糸の囲いの中から人影が出てきた。女性だ。
 ミマロとイトフ、ナルトがひざまずいた。
 「テルタエ女王、神たち御一行です」と言うと、3人は後ずさりしながら久地たちの後ろへと退いた。
 「ようこそおいでくださいました。歓迎いたします。ここは白妙寮、この国を明るく照らす天つ光を生み出すところです。吾れらの国を闇から護らねばなりません」涼しげな声がこちらに近づいて来る。

 久地たち一行もイトフたちに習って首肯していたが、ゆっくりと頭を上げた。
 テルタエ女王の姿が久地の前にあった。
 美しい顔だったが、その眼はオパールのようなエメラルドグリーンで瞳がなかった。思わず一歩退きそうになったが堪えた。
 そして、後方へ下がったイトフたちの眼を探した。先ほど来から気が付かない訳はないのに・・、なんと、3人の眼は碧眼になっているではないか。やはり瞳がない。
 さすがの久地も気を取り直して「吾れは久地と申します」と言うのが精一杯であった。
 「この奇ひき瞳はおぞましき眼にあらず。汝たちの遮光器と同じものである」
 「不思議な瞳と仰っても、吾れらは瞳のない眼に慣れておりません。何処を見てるのか分からず、恐怖感を覚えます」
 「場所を換え、汝たちの遮光器を外せる所へ行ったら分かるでしょう。もう少しお待ちを」といって女王は機械の側に立っている女を呼び寄せた。
 「天女、月女の暦の定める通りの時が来たら糸女たちに合図を送り、大床にうごなわれ」
 女たち8人が首肯している。
 その間も白い糸は蜘蛛手からヱラヱラと揺れ続けながらやって来て、サヤサヤという音は鳴り止むことはなかった。
 なーんだ、こんな所での謁見か。宮殿の大広間か何かを想像していたが何かの作業のちょいの間か? 久地のすぐ後ろにいた飛はそう思った。  
 
 やがて糸のスピードが少し落ち、辺りが少しライトダウンしたようだ。
 ドームの最上部の方でゆっくりと何か扉のようなものが動く音がした。
 8人の女の動きがが緩やかになるのと同時に、ドームの天井がゆっくりとせり出してきた。
 上の階から順次16人の女たちが降りて来た。眼は緑色をしてる。手には自分達の背丈の半分ほどの細い棒を持っていたが、それを下の8人の女に渡して代わりに白妙を受け取り、部屋の四隅から退出していった。最後に8人の女もそれぞれ白妙の反物を抱えて女王の後ろに控えた。この8人の眼も緑色である。

 明るさの素はここで織られている布に秘密があるあるらしい。その白妙はまばゆい白さだ。まるで生き物のように明るさが呼吸をしてるよう脈打っている。何とも不可思議な代物だ。
 女王は白妙寮のドームを出て、長い廊に向かって進んでいく。皆がその後に従った。
 女王一行が歩を進めるところは照明がついた所のように明るい。
 廊は別棟に行く回廊のようだ。少し上りになった。歩くとキュッキュッと音がする。やはり鴬張りだ。
 天井を見上げると、真上には白妙が一直線に張られていて、輝いている。蛍光布なのだ。この白妙が明るさの素になってることは明白だ。しかし、どうやって?
 廊の左右の壁面は天井まで一面に絵が描かれている。何かの物語のようだ。左手側が進行方向へ向かって、右手側は後方、来た方に向かって絵は描かれれている。上りきると廊の床が平らになった。その場所は、左側に窓が設えてあって外が見えるようになっていた。
 そこで女王は立ち止まった。
 そこから眺めると初め登って来た以上に、宮殿は思ったより高い所にあった。しかも、こちらは裏側に当たるのか、表側とはまるで景色が一変していた。あの美しい花園や木花の林、幾何学模様の美しい家並み建物は一切なかった。ここから見える景色は、我々が通ってきた花の都、人の住む所とは一変した深い緑の森、静けさで統一されている樹海だった。


 外の明るさは黄昏時ほどになっていた。
 「やっぱり白夜だ。陽は見えないが、きっと時間が経つとまた元の明るさに戻る。夜がないんだ」龍二がつぶやいた。
 はるか彼方に頂の白い険しい山々が姿を浮かび上がらせている。それは街へ来る時に、丘の上から霧魔氷山を中心とした一帯を眺めたときより、その姿を鮮明に確認できた。
 「眼下の樹海の先を抜けたところに暗い部分が見えますか? 今は黒く見えますが、あの向こうがワルサの居る所です」と女王が指差した。
 「あれは皆さんが降りてこられた時の水路に続いています」とミマロが、黒い部分が入江と水路だと説明した。
 「水路はあっても吾れらは大船を持っていません。大船を造る技がありません。吾れらは大船を必要としなかったのです。ましてや、誰もこの樹海を抜けて行こうとは思いもかけませんでした」イトフが言った。
 この狭い世界には戦もなく、大量の物資を一度に運ぶ必要もなかった。もちろん交易もない閉ざされた世界であった。津を作ったが、出入りは小舟が主たるものであった。しかし水路は広く大船が通れる運河そのものだった。この世界ができた変動期に自然にできたものらしい。

 この樹海の中に入ってしまったら、きっと方向感覚を失うだろうと龍二は思った。暗くて、第一に目標がない。太陽や星などがないのだから。
 樹木などが皆同じように見えてしまうことだろう。方向を見極める術があるのか?
 ナルトが言うには、かつてここへ誤って迷い込んだ者がいて、かろうじて脱出できた。その時の話では、地面は平らで丘もなく、苔で一面おおわれており所々に下草が生い茂っている怪しげな樹木の森であったそうだ。うっそうと茂った所で八方に目印がなかったと説明していたそうだ。脱出できたのは奇跡だろう。 
 「ひとまず部屋へ落ち着いてくだされ。皆さん遮光器はうっとうしかったでしょう。ナルト、ご案内だ。その上でアダシ国遠征の手筈をお聞かせ願いたい」
 ミマロが一行を廊から館の方へと誘った。
 館の部屋へ入り遮光器を外すと眩しく、そこは明るかった。天井の白妙は輝きを増し、キラキラとした明るさで、一層蛍光色が強まった。
 天井を眺めていた龍二が誰へでもなく唐突に言った。
 「どのような蛍光体が使われてるのか分かりませんが、この白い布はリュウゼツランの繊維で織られているのではありませんか?」
 「いずれの花園にも蘭の珍種、奇種が豊富で、リュウゼツランは一定の広さで栽培されているようでしたが・・」
 龍二の質問に飛が更に補足した。
 「さすが尊たちですね・・、今はお答えしかねます。お許しください」丁寧であったがテルタヘ女王の答えはきっぱりとしていた。
 いつの間にか女王たちの眼も元に戻っていた。
 あれも全く不思議だ。きっと光の素と何か関係があるのだろうと本宮は思った。部屋に控えている女たちの方をチラッと見ると元通りになっていた。


 「ここからも見える樹海の終わる所、今は黒く見える所が水路で、その右手の奥の少し広い所が入江だ」
 久地が窓の外と大机に広げられた地図を見比べて、指をさしながら言った。
 皆が大机を取り囲むと更に、
 「4隻の船は入り江に集結する。そこでイトフ殿たちと落ち合い、対岸に護送するう。落ち合う場所の上空に雲を待機させる。イトフ殿たちはここから樹海を入江に向かって直進する。目印は白妙を使っていただく。上空に雲を待機させるのでご安心頂きたい」
 「分かりました。久地の尊にお任せしよう」
 「ではイトフ殿、直ちに津辺のアカタリ殿に使いを送れる言伝の鳥をご用意ください。早速、出航準備を一足早く済ませたい。それから麒麟車を数台お願いします」
 「承知しました、久地の尊。直ちに」と言って、ナルトが立ち上がった。
 「耶須良衣と美美長、海人と和邇、それに於爾はそれぞれの船頭や衛士頭に出航の準備の言伝をナルト殿に託す用意をしてくれ。そしたら直ちに麒麟車で言伝の鳥を追って出発してく

れ。殊に美美長、装備品の手配をよろしく頼む」
 「承知」それぞれがナルトの後に続いて部屋を離れた。
 「飛と龍二君は直ちに麒麟車で雲の所へ行き、七重雲と九重雲に乗ってここへ戻ってもらいたい。神たちと後の者は、それまでにアダシ国とその仙都アラタヘへの道のりと地形などの情報収集をしておこう」
 イトフが二人を麒麟車に案内すべく部屋を離れた。

 
 そこへミマロが幾つかの古地図を抱えて戻ってきた。
 女王がそれらを一つずつ大机の上に並べた。
 やがてイトフとナルトも戻ってきて、全員で大机を囲んだ。
 久地、本宮、都賀里、於爾加美毘売。女王の右へスクナビの神、タニグの神、クエビの神が着座した。
 ミマロ、イトフ、ナルトが古地図を説明の順位に広げていった。

 つづく




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アカルベの宮へ   57

2015年05月03日 | 幻想譚
 目が覚めた者たちが周りに集まって来て、ウマシ国には夜が無くなったというイトフの話に耳を傾けた。
 「初めて聞く話だ」海人猛をはじめ和邇猛、都賀里、於爾猛、於爾加美毘売がそれぞれ顔を見合わせている。左母里にも美美長族にもそれに似た伝えはないらしい。
 「先代王は昼はテルタヘ姫が、夜を弟のツキユミ王が治めるように言い残したわけか。それがワルサには気に入らなかったんだ。それをきっかけにアダシ国を造り、更にウマシ国を征服して仙郷ハバの略奪を考えたわけか」
「そのための武器の調達・・、下都国のツヌギリの太刀を見て、くろがねの存在を知った」クエビ神がそう言ってスクナビ神とタニグの神を見た。
 「神たちの国だけでなく、大元神の祝さんたちが探している民の事も分かるかも知れない。俺はそう期待してる」飛がそれを忘れてはいないという思いを込めて言い放った。

 「なるほど、そういえば昼間しかなかったな。しかも遮光器がなければまぶしくていられなかった」
 「ここへ来てからは驚くことばかりだったので眠気に襲われるまで、夜の訪れに関心がなかった」
 「夜の訪れはないのか~・・? 白夜という事ですかね、先生?」龍二が本宮に問いかけた。
 「白夜そのものと同じかどうか私にもわからんが、この地に来てからというもの、今の所は同じ明るさのようだ」
 その時、入り口の扉が開いてアカタリがドカドカと入って来た。
 「使いの者が戻りました」とイトフに告げた。
 「それでは後は宮殿へ行って直にご覧頂きましょう。お許しが出たようです。皆さんお支度を! 目を保護する遮光器をお忘れなきよう」
 「都賀里、於爾、皆に服装を正すように言ってくれ。いよいよ宮殿へ行く。前の庭に集まれ」久地が声をかけた。
 「承知!」

 一行は部屋を出て、官舎の庭へ集合した。
 そこへ麒麟に騎乗したイトフが一団を従えて現れた。
  「久地の尊、これより宮殿へ出発いたしますが、アカタリは津に帰りますので、津に残られておるご一行に指示をお伝えください。アカタリ、指示を承り伝達し、また移動の手配、連絡法を伝えてください」
 「かしこまりました、イトフ殿」
 「アカタリ殿、よろしくお願いします。海人猛と和邇猛、都賀里と於爾猛、耶須良衣と美美長比古それぞれアカタリ殿に指示を託してください。特に集合する停泊地は距離、時間、場所を把握しておいてください」
 「承知!」


 「建部のナルト、前へ。皆さんこの者は吾れの配下のナルトと申します。建部の一隊の長で、神たちを御案内する隊の長を務めさせます」
 一頭の麒麟が前に進み出て来て一人の青年が下乗し、一行に向かって丁寧にお辞儀をした。
 ーここの人達は皆礼儀正しい。お辞儀ひとつとっても三種類を使い分けるー久地は心の中でそう思っていた。
 
 「では、ナルト先導せよ」
 「心得ました。これより宮殿へ出発いたします」と、ナルトが麒麟を前に進めた。
 「神たちを中にして隊列を作る。乗車!」
 各自が来た時の麒麟車に分乗した。
 ナルトが高々と緑色の旗を掲げた。ここへ来るときの白旗から今度は緑色の旗になった。
 ナルトの後ろの都賀里と於爾が乗った麒麟車の御者が細長い鞭のようなものをくるくると回し、その風切音で合図を送ると、隊列は滑るようにいっせいに走り出した。

 隊列は官舎を出て右に折れ、宮殿のある丘に向かって真っ直ぐに進んだ。大路の人通りは少なくなっていた。しかも、皆坂を下ってくる。人々は隊列が掲げる緑の旗に気づくと、皆立止して隊列に一礼して再び小走りに下っていく。服装や持ち物から、なんとなくこの人たちは官吏のような気がした。役所が引ける時間なのだろうか。そういえば官舎から外に出て思ったのだったか、辺りは少しライトダウンしてたような気がしたが・・。
 丘のふもとに来るとそこからは道がつづら折りになっていた。急な勾配の登りだ。
 その道を進み、ひとつターンすると反対側に建物の大屋根の端らしきもの見えてきた。またひとつターンすると高さが上がり、反対側に建物の大屋根の端らしきものが見えてくる。幾度となくターンを繰り返してかなり上まで来たとき、その大屋根は城壁の屋根であることがわかった。
 仙都アカルタエへ続く道の丘で眺めたときは霞がかかっていてよく見えなかったが、あの時の円形状の建物は城壁とその上に乗っている瑞垣のでかいやつだったんだ。真下まで来ると、その屋根は裾が若干上に反り上がっているのがわかった。
 「アカルタエへ続く道の丘で遠望したときは確かに霞んでいたようだったが、その中心にある建物は上に向かって開いているような感じだったが・・。私にはそう思えた」クエビの神が言った。
 「さすがクエビの神、遠目も利くな~。そのとおりだ、花が咲いたように上に向かって開く。そのとき、周辺は輝きでその有様は見えない。まるで光のもやがかかったようなんだ。だ
から遠目には霞がかかったように見える」スクナビの神がかって自分が見た様を説明してくれた。
 「それが明るさの元、光源らしいように私には思えるが、物知りのクエビもその仕組みを観察するのが楽しみだろう」タニグの神も手をかざして見上げている。
 つずら折の坂を登りきり、城門の前に出た。さしずめ大手門というところか。確かに今までにはなかった立派な造りの城門であった。これが後の世の和の原型になったのであろうが、歴史的にはずーっと後のことだと本宮は感じ取っていた。
  
 門を守る番守が杖を横にして高く掲げて止まれをしている。
 「イトフ殿と神たち御一行である」とナルトがよく通る声で呼びかけた。
 城門が少し開いて、そこから番匠だろうか、待ちかねていたかのように前に進み出てきた。
 「宮迫の長がお出迎えいたします。お待ちしておりました。直接にアカルベの塔へご案内せよと仰せです」と言って、宮迫の長は一向に向かって深々とお辞儀をした。
 宮迫の長がナルトから緑の旗を受け取り大きく振ると、城門はさらに大きく開いた。

 城門をくぐったとき、「オ~、なんという美しさなの~!」身を乗り出していた於爾加美毘売が感嘆の声を上げた。目の前に絶景が広がった。光り輝く草木の花が咲き誇って、美しい幾何学模様を描いていた。一向は息を呑む思いだった。
 「なぜ花なんだ。ここへ着てからというもの何処もかしこも花・花だ。なぜなんだろう?」海人猛が和邇猛にささやいている。
 「吾れらも驚かされるばかりだが今にきっと分かるさ」都賀里と於爾猛が振り向いて言った。
 右手の巨大な石垣を迂回して進むと、女王テルタヘの居城アカルベが忽然と姿を現した。
 宮殿の上部はドームになっている様だったが、眩しくて遮光器をつけていても直視できない。きっとまだドームは上に向かって開いているのだろう。いったい光源は何なんだ。
 城壁の中へと通じる次の中門の前へ来た。宮迫の長が緑の旗を城壁の上の番匠に向かって大きく振りかざした。
 内門が静かに開いていく。

 中から一人の男が出てきた。
 「下乗!」ナルトがこちらを見て叫んだ。
 一行はそこで麒麟から降りた。
 その男は更に前に進み、一向にお辞儀をした。
 「白髪部のミマロと申します。私が神々をお出迎えし、ご案内いたします」
 「ミマロ様がわざわざお出迎えとは・・」あわててイトフが歩み寄って腰を低くして恐縮している。

 城内の道は鍵の手に曲がりながら登っていく。
 「どこかの城を見学したときを思い出すな~」龍二がつぶやくと、「姫路城だったっけ?」飛が立ち止まりながら答える。
 「修学旅行か~、今からしばしそんな気分にさせてくれるといいんだがな~」本宮が笑いながら後ろから歩を詰める。
 「これからまた何が現れるかも知れん。宮殿では束の間のひと時と願いたいものだ・・」前を行く久地が歩を緩め後ろを振り返った。
 ここまで登ってくると、後ろの下方一帯は建物の模様と花々とが混じって全体が白っぽく見えた。
 そうこうしてる中にアカルベ宮殿の中心の部分が見えるところへ出た。
 そのとき、また少し明るさが落ちた。
  
 つづく
 
 
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ウマシ国の夜     56

2015年02月22日 | 幻想譚
 早速、建部の頭イトフは久地達一行が待機している部屋まで出向いてきて、耶須良衣と美美長比古に戦術やエダチの編成について教えを乞うている。

 
 見回すと、あくびをしてる者が多い。
 宮殿に使いに行った者が戻るまでしばし時間があるとのことだったので、久地は、他の者たちにしばし休息をとるように指示を出した。
 そういう本人も大きなあくびをした。
 隣の本宮も大きく伸びをしている。
「眠いな~・・」そう思ったところで意識が無くなった。
 
 
 どのくらい経ったのか、久地はアカタリに起こされた。
 周りを見渡すとまだ寝ころんだままの者もいる。
「久地の尊、起きてくだされ」
「ん、う~ん」久地はハッと我に返った。先ほど振舞われた温かい飲み物か?
 器を取る久地に本宮が声をかけた。
 「俺は飲んでないぞ!あいにくゆずの匂いは嫌いなんだ」
 本宮も目を覚ましていたらしいが、あのゆずの香りがする飲み物は飲んでないらしい。
 「久地の尊、こちらに来てから一睡もしてないだけです。下都国と違って、昼とか夜とかが規則正しく決まってません」
 「ん、どういう事だ? アカタリ殿」
 そこへ飛と龍二も目を覚まして近寄ってきた。
 「先生、陽の位置が動かないんです。あのまんまなんです」と言って龍二が上を指をさした。
 「確かにそうだな! 丘を越えてくるときも確かにこっちが明るかった」と飛が来た方を指さしている。
 「我々は朝に発ってきたんだ。あれからどのくらい経ってる。龍二君」
 「位置は不明ですが、時間はまる一日以上は経ってます」龍二がハンディな小型のGPSのようなものを取り出して確認して言った。
 「そうか寝てなかっただけか? しばし身体が寝るのを忘れていたという事か」
 「久地殿、皆さんたちも宮殿へ行けばこの訳はお分かりになると思います」アカタリが立ち上がりながらそう言った。


 「本宮、今の内にイトフ殿にアダシ国についても聞いおいてはどうだろう」
 「そうだな、今の事だけでも驚きだ。吾れらが聞いたのはスクナビの神から聞いた話だけだからな。私が聞いてみよう」
 「クエビの神は先観の物知りで知恵者だ。クエビの神たちにも一緒に聞いてもらおう」
 久地と本宮の二人はクエビの神たちを誘って建部の頭イトフの居る部屋へ行った。イトフは耶須良衣と美美長比古から戦術やエダチの編成について、およその事が既に聴けたようだ。腕組みをしてじっと机の上を見つめていたが、久地達を招き入れてくれた。

 「イトフ殿、アダシ国とはどういうところなのでしょうか。吾れらは妖怪の住む寒い国と聞いてきましたが、タニグの神たちが遭遇した者たちの一行はそのような恐ろしげな姿かたちはしてなかったようです」
 「さよう、もとはといえばアダシ国のワルサ王は我が国ウマシ国のテルタへ女王の弟君。しかし、先代王の御世が終わるとこのウマシ国を我が物にせんと工作を始めたのです。テルタヘ姫の御世になって、姫を中心に、重臣たちはこの国を妖精の住む平和な国に国造すべく努力を始めたところでした・・」

 イトフの話によると・・。
 先代王が崩御し姫が即位されたとき、恩赦によって復権した者たちがいた。その中に解き放ってはならない者がいたらしい。どういう訳か闇の者や氷室の者が紛れ込んでしまった。後から思うと、弟のワルサのさしがねだったようだ。それが奇怪な魔物、妖怪の化身がワルサの陰謀に加担した。
 ワルサは妖怪と手下たちを伴って霧魔氷山を越えた。我々が麒麟車で一気に駆け上がった丘で観たあの遠方の山だ。当時、かの地は氷河が走る地でだれも住んではいない場所だった。これを幸いとそこに籠った。そこで自分たちの国造りを一方的に進めた。その時点でイトフたちがすぐさま手を出せなかったのは、姫の末弟のツキユミ王が人質として連れさられてしまったからだった。それからこのウマシ国には夜が無くなった。

 つづく

 
 偶然、十一社のうちの一社から古き記が発見された。神主の交代により再建が始まり、古の祭文やお告げ文などを整理している中での発見であった。その中に逸書となっていたものが見つかったのである。どうやら、まだ続きが創れそうである。 
 
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建部の頭イトフに会う55 

2014年12月23日 | 幻想譚

 麒麟が引く車が内門の前で止まった。宮殿の方に通じる第一の門なのか、左右の門柱の前には脚にゲートルを巻いた衛士が一人ずつ立っていて、通行証を確認しながら徒歩の通行人を目で追っている。
津守の長のアカタリが車上から「お告げ鳥を送ったアカタリだ。建部の頭イトフ殿に会いに参る」
「伺っております。お通りください」
「お告げ鳥って何でしょうね」都賀里と於爾、於爾加美毘売が低い声で話している。
「伝書鳩のようなもんだろ」飛が龍二を見ながら小声で言った。
「後で説明するから、何の鳥か判ったらもらって帰ろう」龍二が都賀里達に告げた。

 門を入り、麒麟車はゆるやかな坂を登った。道の左右には低い建物が並び人々の出入りがある。これらが役所なのだろうか。路の左側の一番奥の立派な建物の前で車が止まった。ここにも門番がいた。
「ここが建部です。イトフ殿に面会し、女王にお取次ぎ願いましょう」アカタリが車を降りながら神たちに言った。
 スクナビの神が後を振り返り、久地たちに「それでは、ここで車を降りましょう」
 健部の建物の玄関へ進むと扉が左右にスライドした。
「この辺はどこかで見た気がする。建物といい配置といい・・」龍二が独り言をつぶやいた。
 玄関の中には屈強な衛士が一人いて我々に深くお辞儀をした。
「お待ちしておりました。頭の処にご案内いたします」
 土足の処がちょっと違うか・・。また龍二がつぶやいた。 
 建物の奥に進み分厚い扉の前に来た。
 案内してきた男が扉の前で「スクナビの神様ご一行が到着されました」と中に声をかけた。

 扉がゆっくりと左右に滑って、部屋の中が見えた。
 出迎えの男が「お待ちしておりました。お入りください」と言って一行に深々と頭を下げた。
 正面の一段高い所に大き目の椅子が置かれていて、向かって右下段に机があった。
 その机の後ろに恰幅の良い一人の男が起立して、こちらに一礼してから前に進み出てきた。

「スクナビの神、ようお越しになりました。歓迎いたします」
「イトフ殿、その節はお世話になりました。此度は・・」
「アカタリの告げ書でおよそのことは伺いました。お力になるつもりです」
 建部の頭イトフはそう言いながら、後ろの上段の椅子の上後方に飾られている物を指差した。
「ツヌギリの太刀です。女王より吾れが拝領しました。テルタヘ女王がご臨席の際の玉座にお飾りしてあります。此度は使わせていただく所存です」
「と言いますと・・」
「アダシ国遠征にお供することを女王に願い出る所存です」

「イトフ殿、こちらは久地の尊とご一行、久地の尊は後継国より参られ下都国を助けし。今し吾れら神達の国に助力を頂いております。皆、吾れより一段とすぐれた剣使いたちです」
「イトフと申します。建部の頭を仰せつかっております。これを機にウマシ国の建部の再編を考えるために遠征に加わりたいと思います」
「それは一段と心強い。久地の尊如何か?」スクナビの神が久地たちを見ながら言った。
「神たちの国の人達を救うには願ってもないことです。アダシ国の事件を聴きおよび、隣国の本性が現れたことを見て取られたと思います。建部の編成とエダチの者たちの訓練には適任の者が同行しております。下都国は左母里の耶須良衣と美美長族の美美長比古と申します。耶須良衣は戦術に優れ、美美長比古は一団を率いて戦うを得意としております」
「そうですか、耶須良衣殿、美美長比古殿お力をお貸しください。この仙境ハバの均衡が崩れるときが来たようです。仙都アカルタエを守るためにも今のアダシ国の仙都アラタヘをこの目で見ておきたいのです。ワルサ王は女王の弟なるが故に吾れらにはアダシ国は禁足地なのです」

 スクナビと久地がそれぞれの者をイトフに紹介し、宮殿への使いが戻るのを待った。

 つづく 


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仙都へ         54

2014年11月30日 | 幻想譚
 津守の長アカタリが白い装束に着替えて現れた。
「では、女王の宮殿に案内するが、まずは武部の長イトフのところへ参ろう。外へ出たら、先ほどの遮光器はしておいた方がよかろう。慣れるまではまだ時間がかかる。それから衛士達と4隻の船集は上陸の許可が出たら迎えをよこそう」
 「わかった。於爾猛、海人猛、衛士頭とそれぞれの船頭にその旨を伝えてくれ。それで出発する」
 久地が立ち上がって、皆を見回して言った。

 後で聞いたのだが、仙都アカルタヘでは宮殿に参内する時は白い装束がルールなのだそうだ。先ほどまではグレーの衣装であった。また、革のベルトのようなものから織物のベルトをたすき掛けにしていた。

 津を囲む森を抜けるまで一行は舟で運河を進んだ。かなり奥へと進んでから一気に視界が開けた。そこで舟を下りると一本の道が前方の丘に向かって伸びている。いたる所、花・花・花だ。草花や低い木花で埋め尽くされている。上から鳥瞰したときには一つ一つが見えなかったが、こうやってその中にいると、写真などと違って花はやけにリアルだ。道はまるで網代を敷き詰めたように見える舗装がしてあった。
 背が高い横長の建物が数棟見えてきたが、近づいて驚いた。建物が模様で装飾されているのだ。そういえば、津の建物は地味な縦じまであった。ここにある建物は人家ではないようだがめくら縞で見事に装飾されている。それ以外は、ただただ一帯は花・花・花だ。見渡す限り人の姿はない。
 「ピユゥ~」、アカタリが指を口に当て口笛を吹いた。建物の扉がゆっくりと左右に開いて、2~4人乗りの馬車が5台出てきた。
 馬が2頭ずつ・・、いやこれは驚いた。馬ではない。確かこれは麒麟といったな! 確かにそう呼ばれていた伝説上の生き物のはずだ。
 「早く乗ってくれ」アカタリが後ろから一行をうながした。
 馬車の扉を閉めると、御者が細長い鞭のようなものをくるくると回し、その風切音で合図を送ると滑るようにいっせいに走り出した。
  
 前方の丘を一気に駆け上がったところで麒麟車が止まった。
 眼下に広がる花の平原の遥か奥に、小高い丘を中心とした扇状に広がる都が見えた。その小高い丘の上には、ひときわ大きな多角形の建物があり、その建物を中心に半円を描きながら山裾に向かって都は広がってるようだ。ここから見ると、まるで円形劇場のようだ。
 アカタリが指さして言った。
 「真中の建物が宮殿だ。役所と官舎が宮殿を取り巻いており、その外側が仙衆の住まいだ。宮殿には神たる女王テルタヘと妖精がおられる」
 「あれが仙都アカルタヘか」久地がひょいと車を降りて手をかざし、前方を見据えて言った。
 「後方は樹海に覆われていて、さらに後方には壁のようにそそり立つ連山が見えますね。先生」飛が身を乗り出して指さしている。
 「中央には、山頂が霞のベールで被われているひときわ高い山がそびえています」龍二が応えた。
 「山の様相が吾れらがところとはまるで違う」都賀里の言葉に於爾がうなずいた。
 「何もかにもが違っている」本宮が今来た方を振り返りながらつぶやいた。
 「皆の衆、先を急ぐ乗ってくれ」アカタリが御者に合図を送った。
 麒麟が引く5台の車は隊列を造って丘を駆け下り、常盤木の並ぶ一本道を進んだ。

 城壁に近づくと、アカタリが腰に挟んでいた白い旗を大きく振った。
 城壁に人の姿が見えると、都に入る城門の扉がゆっくりと開くのが見えた。
 門をくぐり中に入ると景色は一変した。
 街路はモザイクとなり、建物という建物は色遣いの美しい模様で飾られていた。一層目が痛い。しかし、遮光器の隙間から見える景色は美しい。
 御者が細長い鞭をくるくると回すと、麒麟が駆け足から速足になりスピードを落とした。
 この大路の幅は広い、どの位だろうか。麒麟車でゆうに6車線はありそうだ。まっすぐに伸びて宮殿のある丘に向かっている。まさに都大路だ。
 城壁の外では縞模様が多かったが、都に入るといろいろな模様が見られる。特に四弁花模様が多いが住宅なのだろうか。模様によって何か区別がありそうだ。
 行き交う人の服装は男女の差はあまりなさそうに見える。男はズボンをはき、女はスカートといったところだ。女でもズボンというのも散見できた。上は皆、環頭衣だ。襟がついたものもあるが襟なしもある。皆、無地の生成りか灰色だ。脚には靴を履いている。髪型は長髪で、結い上げている者もいれば、鉢巻で止めている者もいる。男女とも似たり寄ったりだ。
 
 宮殿の外側が近くになった。

つづく

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神占(かみうら)星宮之垣

2014年10月11日 | 伝え
神気と占いの神秘


 神社を参拝した後にお神籤を引きます。占うわけです。「お・み・くじ」御(お)御(み)崇敬の念が込められた呼称です。それは神様の尊い神意であるからです。もともと「占う」とは天意を問うことです。自然現象や天体の運行の中に天の意志を求めたのです。いつ種を蒔けばいいのかを知るために暦を作り、収穫の豊穣を祈りつつ、その期待に対する神意をうかがったのでした。

 やがて、この自然現象や天体の運行を文字で表せるようになり、自然の循環が配当されると、この文字の組み合わせから神意を汲み取ろうとするようになりました。また、現象・事象そのものからも汲み取るようになりました。煮たり沸かしたりした、お釜の鳴る音。放たれた矢が何処に当たったかなどなどいろいろです。
 このように時の吉凶を、また天の意志を神意として汲み取り、子々孫々に語り継いでいく内に、やがてそれは個人の占いとしても定着するようになりました。ご神気の中で得たご神意によって安心立命を願ったのです。

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津守の長アカタリ    53

2014年10月11日 | 幻想譚
 流れに沿って進むうちに岸辺の木々が少し低くなり、森の広がりが見渡せるようになった。しかし、かえって眩しさが増してきた。もうまともに目を開けているのが辛いと思った時、
飛から横長の板切れを手渡された。えっと思って飛を見ると、彼はすでにそれを顔に着けていた。
 「みなさん、これを掛けてください」飛が皆に木片を渡している。
 「なるほど、これなら眩しさ半減、いやそれ以上だ。お前が前を向いてて気が付かなかったが、それですいすいと進めたのか!」
 「先生、先ほど海人衆が渡してくれたんです。美美長からのプレゼントだそうです」
 それはエスキモーが用いたゴーグルで、木の板に薄い覗き穴が空いている。彼らが雪中行動する際に着用する遮光器のような形をしている。さすが美美長は北方民族、怠りはなかった
。久地をはじめ皆心の中で感心しきりだった。

 木立の中にまばらではあるが、建物らしきものの屋根が見え始めた。茅葺きの屋根だろうか丸い屋根は傘をさしているように見えた。
 岸辺に少し開けたところが見えてきた。津辺か?
 「先生、あそこを見てください。スクナビの神あれですか、津は?」飛が前方左を指さして言った。
 「そうだ、あれがウマシ国の津辺だ。確か右の津辺と呼んでいた。表門というところだ」
 「へぇー、ということは裏門もあるんですか?」
 「あるらしかった。隠れ津辺と呼ばれているものもあった」
 ーそれにしてもこの木片は良く見えるな~。あの時これがあれば眼を痛めずに済んだものを・・ースクナビがつぶやいた。

 津は一定の間口のある入り江になっている。正面へ来てから雲の向きを変えて眺めると、ある程度の奥行きがあり中央には桟橋が2本並んでいる。両側も船溜まりだ。ちょっとした大きめのマリーナという感じだった。
 スクナビの神が右手の人差し指で津辺を指し、左の掌を下に向けてゆっくりと降ろした。飛はその合図にしたがって、いったん雲を前に進めて入り江の中に入れ、それからゆっくりと降下させた。
 小振りな円筒形の小さな縞模様の建物から人が出て来て、こっちを見上げている。

 「津守の衛士、吾れはスクナビと申す。以前訪れた大神の岳に住むスサの神スクナビじゃ。また参ったと津守の長にお伝え願いたい」雲から下に向かって声をかけた。
 衛士は、ひっくり返らんばかりにのけぞって、手をかざして雲を見上げていたが、慌てて津の奥に走って行った。
 「飛の猛、吾れと久地の尊を降ろしてくれ。そしたら他の船を迎えに出てくれ」
 「大丈夫ですかスクナビの神?我らが同道しなくても」
 「大丈夫だ。吾れが先に津守の長と話をしておく。タニグ、汝は飛の猛を手伝ってくれ」
 「承知した」
雲は二人を降ろすと再び飛び立ってその場を離れ、津の外へ向かった。

 少し流れをさかのぼると、海人たちの四隻が隊列をなしてこちらに航行してきていた。
 「龍二、こちらの雲が見えるか? ここの真下の津辺に入って降りてくれ。俺たちは四隻を波止場に配船してから降りる。久地先生とスクナビの神がすでに降りている」
 「飛、了解した」
 「飛の猛、津の中には五色の亀はいなさそうだ」
 「わかりました、ではそのことも伝えましょう。タニグの神は元々カエルの姿をしておられたと言ってましたから水の中は詳しいですね。」
 「あの時は、正しくは変身させられてしまってたが・・」
 雲はゆっくりと先頭の海人の船の真上に浮かんだ。


 先ほどの見張りの衛士が数人の者と戻ってきた。
 「津守の長、アカタリ。その節は世話になった。吾れだ、スクナビだ!」
 「オー、あのときの~、覚えておるぞスクナビの神」
 「吾れが下都世界で乱気流に巻き込まれ、間違って天橋立に迷い込んでしまった。挙げ句に仙郷ハバの海に乗り入れてしまい、気が付いたときは津守の長である汝の前であった。見廻り船に助け上げられたと後から聞かされた」
 「そうだ、女王テルタヘに謁見が許され、その後下の世界に戻っていったのであったな」
 「その時、帰りの近道である秘密の水路を使って、ワダツミ神の使いの五色の亀の処へと案内してくれたのも汝であった」
 「よう覚えとるとも。これを肌身離さず持っておる」と言って、津守は腰に下げている渓流鉈こしらえの短剣を取り出した。
「それは、ここを離れるときにお礼に汝に渡したものだったな」
 「このようなマホラの業物はここには無い。吾れの宝じゃ。ところでスクナビの神、こ度はまた何用じゃ。しかも船団を組んでまいるとは?」
 「こちらは下都国大耶の大元神の使わせし神、久地の尊だ。この神たちの助力を得てアダシ国のワルサと妖怪どもを追ってまいった」
 「えっ、なんじゃと。アダシ国のワルサを・・」
 「そうだ、スサの大神と八人の天女、それに匠たちがアダシ国のワルサと妖怪どもに拉致されてしまったのだ」
 「そうか、そうであったか。あの件を話しておかなければなるまいて・・」


 飛の七重雲と龍二の九重雲がゆっくりと津辺に降り立ち浮かんでいる。
 中央の桟橋には、それぞれ海人と和邇の船が並んでいる。両側の船溜まりには、それぞれ耶須良衣と美美長比古の船が入った。 
 ひとまず主だった者が津守の長の官舎に案内された。
 津守の長の左へ、久地、本宮、飛、龍二、都賀里、於爾、於爾加美毘売が、右へスクナビの神、タニグの神、クエビの神、海人猛、和邇猛、左母里の耶須良衣と美美長族の美美長比古、それぞれが紹介されて着座した。

 タニグの神が、改めて経緯を話した。
 「あれで裏国のワルサ王は知ったのか?」
 「どういう事か? アカタリ」
 「あの時謁見の時だ、スクナビの神は女王テルタヘに詫びと礼を兼て一振りのミハカシを献上した」
 「そうだ、吾れが帯同していた剣を献上した。それがどうかしたか」
 「汝の話で分かった。ワルサは下都国の八岳の真砂土から採れるスサを用いると、マホラの剣をかたづくることが出来る事を知ったのだ」
 「なんとなく分かったが・・」
 「女王が、武部の長イトフに汝のミハカシを試させたのだ。イトフは一振りでツヌを切り落とした。汝のミカハシのようなマホラの業物はここには無い。一同皆、その鋭さに度肝を抜かれた」
 「何を切り落としたというのですか? スクナビの神」飛がスクナビに確かめた。
 「石のように硬い角だそうだ」
 「吾れらが太刀では、滑るか刃こぼれして切ることはできない。それで、女王テルタヘはツヌギリの剣と名付けたのじゃ」
 「そうであったか」
 「思うにこの一件が、この表国ウマシに潜む裏国アダシの密偵の口から向こうへ伝わったのだ。予てより、この表国ウマシ国の仙都アカルタヘの奪取を虎視眈々ともくろんでいたアダシ国の王ワルサが、仙都アラタヘで行動を起こしたのだ。それがこの天都国にはない業物を武器として手に入れることだったのだろう。確かにアラタヘの一行が薬を探しにと言って、下都国を訪れている。大きな長持ちをいくつも携えて戻ってきた。あれがこの事であったのか・・」
 「津守の長、テルタヘ女王にアラタヘへ行く通行許可を願い出たいのだが・・」
 「よし、女王にこの事を伝えねばなるまい。早速、武部の長イトフに報告しようぞ。武部の長には汝も会っておる」

つづく
 


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仙境ハバの海      52

2014年08月24日 | 幻想譚
 天空に浮かぶ仙境ハバはますます大きさを増した。
 近づくにつれ、飛は玉ねぎを逆さにしたようにも見えると思った。
 一里手前になったのか、スクナビの神が手を挙げた。
 飛はゆっくりと七重雲を止めた。
 眼下の雲の橋を見ると、ここから勾配の緩やかな下りになっている。しかし、かなりのスピードで前方に流れている。
 ここからだとハバの正面を見ながら、およその全体像が把握できる。
 久地は単眼鏡を覗きながらつぶやいた。
 「これは話に聞くおとぎの国としか言いようがないな~」
 「神と人とが住む吾れらが国とは違う。神や人の形をしているが、それらは全て魂だ。善とか悪とか、美とか醜とが物や人の姿を借りてそこに宿ると、我々の目に映り、見えるのだ」
 クエビの神が久地の疑問に応えた。
 眼下の正面には白い砂浜とエメラルドグリーンの海らしきものが見える。だが波は無い。水は浜と平行に、右方向に流れている。左回りなのか? 
 浜の先に木々の林が見え、その奥に村か街があるのか? その中を道らしきものがぬっている。そこを抜けると平原でその先に山が迫っている。ここから見ても高い山だ。まるで裏側を隠す屏風のようだ。箱庭? そんな言葉を思い出させる。
 
 「何かが違う、何なんだろう?」久地の口から独り言が漏れた。
 「先生、やたら目がチカチカしますね」飛がしきりに目をこすっている。
 「ときどき二重にも見えるね」 

 その時、飛の端末から、勢いよく於爾の声が聞こえた。
 -たしか爾田の族長はヲチコチハナスウツハと言ってたな、於爾や都賀里たちも上手に使えるようになったものだ。龍二君が持ってきた機器はうまい具合に雲に馴染んでる。これも辰

のおかげか・・-
 「飛の猛、そちらの七重雲が近くなりました。真下より少し手前で停戦します」
 「了解した。そこで後続の船を待ってくれ。船が揃ったら、次の指示がスクナビの神からでる」
 「わかりました、お待ちしてます」

 前方を注視していたスクナビの神が飛びを招きよせた。
 「飛の猛、下を見よ。雲は下に向かって滑り降りてる。ここから船が滑り降りる。そこで、船を雲の橋の中央から左寄りに進めて降りる。それから海への着水寸前に面舵をとる。海流

が左回りに回ってるので、流れにうまく乗るためだ」
 「わかりました。スクナビの神、船長たちに伝えます」
 「それから注意してもらうことがもう一つある。海には、五色の亀がいる。ワダツミの神の使いだからぶつけないように」
 「了解です。それも伝えます」 
 
 やがて和邇の船が到着した。
 次々と船が七重雲の下に集まった。
 飛が、ゆっくりと七重雲を船の真上まで降ろし、どの船にも伝わるように拡声器を使った。
 「各船の長たち、ここから橋の雲が下に流れています。ここで海に下り降ります。船を橋の中央から左寄りで進めてください。海への着水寸前に面舵で斜めに着水します。海流が左回りに回ってるので、うまく流れに乗ってください。また、海には五色の亀がいるそうです。ぶつけないでください。では、よろしくお願いします」
 下を見ると各船の長が鉢巻を振って合図を送ってくれていた。
 「よし、吾れらは下の海で待とう」スクナビの神が飛を見てうなずいた。
 「龍二に連絡。俺たちは海の方で待つ。耶須良柄の船を見届けてから来てくれ」
 「こちら龍二、了解した。それにしても興味深い所だなぁ。本宮先生はすでにソワソワ・ワクワクしてる!」
 七重雲は、いったん上昇してから海に向かって下降していった。

 近づくと海はエメラルドグリーンの宝石のようだ。水は透明で、海中の視界はかなりききそうだ。砂浜は雪のように白く、光を反射してキラキラと輝いていた。
 海岸線は円周を描いているのだろう、左右の先が見えない。海岸の木立ちは新緑だ。まさに目に青葉だ。今は何月? クエビの神は、常春の国と言っていたが・・。
 それにしても明るい所だ、明るすぎて目が痛い。これがチカチカの原因なのか? 眼底検査の時に瞳孔を広げる目薬を点された時のような眩しさだ。

 海人衆の船が勢いよく海に着水した。海人の猛がこちらを見上げて、また鉢巻を振っている。上手く着水したという合図だ。
 ーあれ!猛の顔が変だぞ?ー 着水を見ていた飛はそう思った。 

 「飛、もう少し雲を上にあげてくれ、もっと周辺を見たい。スクナビの神、津の浜はどこですか?」久地は眩しさをこらえながスクナビの神に訊ねた。
 雲は、スーッとエレベーターのように垂直に上昇した。
 「久地の尊、この流れに沿って一里ほど行ったところに上陸地点がありる。そこへ集結する。それから、吾れらと尊たち一行でウマシ国に上陸し、仙都アカルタヘの居城に住む女王テルタヘに謁見する。アダシ国の仙都アラタヘへの通行の許可をもらう」
 「わかりました。それでは海衆たちの船を津の浜に先導しましょう」
 その時、飛が海人衆の船から小箱を引き上げていた。

つづく


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