松浦晋也の「宇宙開発を読む」
空中発射システムの本格検討始まる(2)
“小さく産んで大きく育てる”工夫を
2009年2月26日
前回、ロケットを航空機で1万m以上の高度まで運んで発射する空中発射システムの利点は、一般が想像するほどではないと書いた。では、空中発射システムの本質的な利点は何かというと、打ち上げの経路を柔軟に設定できることだ。様々な軌道傾斜角の軌道に、ロケットの打ち上げ能力を損なうことなく、衛星を投入することができる。
この事実と、アメリカにおける「ペガサス」有翼ロケットの開発経緯を考え合わせると、日本が空中発射システム開発でとるべき戦略が見えてくる。
前提条件は、航空自衛隊の機体を空中発射母機に使うということだ。これが無理ならば、空中発射システムの開発そのものを諦めたほうが良い。
最初に開発する空中発射システムは、1kg~数十kg程度の超小型衛星を特定の軌道に投入することを目標とするのが現実的である。先だってH-IIAロケット15号機で小型衛星7機が打ち上げられた(「JAXA公募小型衛星打ち上げ、18年目の出発」を参照)ことからも分かるように、数kg程度の衛星の開発が日本を含む全世界で進んでいる。その次の段階として、特定の軌道に投入する必要のある衛星を目指すことになるので、その打ち上げ需要をすくい上げることができる。
日本は、「SS-520」という2段式の観測用ロケットを保有している。SS-520に第3段を装備すれば18kgのペイロードを打ち上げるロケットになる。
私は、空中発射システム開発の第一段階として、SS-520級の小型ロケットを3年で開発し、次の5年間で年間4機以上打ち上げ続けるのが良策と考える。大切なのは、このフェーズを「研究開発」と位置付けて、実運用やビジネスと関連させずに予算を国が出し続けることである。
この経験の上に、より大きな空中発射システムを開発すれば、技術開発を円滑に進められるだろう。
空中発射ではドッグレッグ・ターンが不要になる
まず「打ち上げの経路を柔軟に設定できる」ということを、もう少し詳しく説明しよう。
地上打ち上げの場合、地形によってロケットを打ち上げる方向が制限される。例えばアメリカ東海岸のケネディ宇宙センターからは、軌道傾斜角が57度よりも大きな軌道には打ち上げを行うことができない。打ち上げ時の軌道の直下に陸地が来てしまい、事故時の安全確保が難しいためである。
ドッグレッグ・ターンの例、H-IIAロケット8号機が地球観測衛星「だいち(ALOS)」を打ち上げたときのもの(「平成17年度ロケット打上げ及び追跡管制計画書 陸域観測技術衛星(ALOS) H-IIAロケット8号機(H-IIA・F8)」より)。種子島から打ち上げられたH-IIAロケットはいったん東に飛行して沖合に出てから南へと進路を変えている。これは打ち上げ時の安全を確保するための処置で、軌跡がイヌの足のように曲がっているのでドッグレッグ・ターンと呼ばれる。進路を曲げることによるエネルギー損失はかなり大きい。
[画像のクリックで拡大表示] 日本の種子島宇宙センターは、地球を南北に回る極軌道に打ち上げを行う場合、まずロケットを東に向けて発射し、陸地から離れたところで方向を南に向ける「ドッグレッグ・ターン」と呼ばれる打ち上げを行っている。直接南側に向けて打ち上げると、ケネディ宇宙センター同様、打ち上げ時の軌道が陸地の上を通過してしまうためだ。ドッグレッグ・ターンを行うと、打ち上げ能力で大きく損をする。H-IIAロケットは地球低軌道に10tのペイロードを打ち上げる能力があるが、ドッグレッグ・ターンの影響もあって、極軌道打ち上げ能力は4tに留まっている。
一方、空中発射システムならば、ロケット発射を行う場所を柔軟に設定することができる。陸地の影響がない場所まで航空機で飛行していけばいいのだ。様々な軌道傾斜角の軌道に、ロケットの能力めいっぱいのペイロードに打ち上げることができる。
ロケットの能力が十分ならば、ドッグレッグなどで対応できるものも、小型のロケットでは打ち上げ能力の損失が大きく影響することになる。このことと、航空機の積載量には限界があるということを考え合わせると、空中発射システムは、本質的に小型ロケットに向いていると言えるだろう。
http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20090226/135004/
空中発射システムの本格検討始まる(2)
“小さく産んで大きく育てる”工夫を
2009年2月26日
前回、ロケットを航空機で1万m以上の高度まで運んで発射する空中発射システムの利点は、一般が想像するほどではないと書いた。では、空中発射システムの本質的な利点は何かというと、打ち上げの経路を柔軟に設定できることだ。様々な軌道傾斜角の軌道に、ロケットの打ち上げ能力を損なうことなく、衛星を投入することができる。
この事実と、アメリカにおける「ペガサス」有翼ロケットの開発経緯を考え合わせると、日本が空中発射システム開発でとるべき戦略が見えてくる。
前提条件は、航空自衛隊の機体を空中発射母機に使うということだ。これが無理ならば、空中発射システムの開発そのものを諦めたほうが良い。
最初に開発する空中発射システムは、1kg~数十kg程度の超小型衛星を特定の軌道に投入することを目標とするのが現実的である。先だってH-IIAロケット15号機で小型衛星7機が打ち上げられた(「JAXA公募小型衛星打ち上げ、18年目の出発」を参照)ことからも分かるように、数kg程度の衛星の開発が日本を含む全世界で進んでいる。その次の段階として、特定の軌道に投入する必要のある衛星を目指すことになるので、その打ち上げ需要をすくい上げることができる。
日本は、「SS-520」という2段式の観測用ロケットを保有している。SS-520に第3段を装備すれば18kgのペイロードを打ち上げるロケットになる。
私は、空中発射システム開発の第一段階として、SS-520級の小型ロケットを3年で開発し、次の5年間で年間4機以上打ち上げ続けるのが良策と考える。大切なのは、このフェーズを「研究開発」と位置付けて、実運用やビジネスと関連させずに予算を国が出し続けることである。
この経験の上に、より大きな空中発射システムを開発すれば、技術開発を円滑に進められるだろう。
空中発射ではドッグレッグ・ターンが不要になる
まず「打ち上げの経路を柔軟に設定できる」ということを、もう少し詳しく説明しよう。
地上打ち上げの場合、地形によってロケットを打ち上げる方向が制限される。例えばアメリカ東海岸のケネディ宇宙センターからは、軌道傾斜角が57度よりも大きな軌道には打ち上げを行うことができない。打ち上げ時の軌道の直下に陸地が来てしまい、事故時の安全確保が難しいためである。
ドッグレッグ・ターンの例、H-IIAロケット8号機が地球観測衛星「だいち(ALOS)」を打ち上げたときのもの(「平成17年度ロケット打上げ及び追跡管制計画書 陸域観測技術衛星(ALOS) H-IIAロケット8号機(H-IIA・F8)」より)。種子島から打ち上げられたH-IIAロケットはいったん東に飛行して沖合に出てから南へと進路を変えている。これは打ち上げ時の安全を確保するための処置で、軌跡がイヌの足のように曲がっているのでドッグレッグ・ターンと呼ばれる。進路を曲げることによるエネルギー損失はかなり大きい。
[画像のクリックで拡大表示] 日本の種子島宇宙センターは、地球を南北に回る極軌道に打ち上げを行う場合、まずロケットを東に向けて発射し、陸地から離れたところで方向を南に向ける「ドッグレッグ・ターン」と呼ばれる打ち上げを行っている。直接南側に向けて打ち上げると、ケネディ宇宙センター同様、打ち上げ時の軌道が陸地の上を通過してしまうためだ。ドッグレッグ・ターンを行うと、打ち上げ能力で大きく損をする。H-IIAロケットは地球低軌道に10tのペイロードを打ち上げる能力があるが、ドッグレッグ・ターンの影響もあって、極軌道打ち上げ能力は4tに留まっている。
一方、空中発射システムならば、ロケット発射を行う場所を柔軟に設定することができる。陸地の影響がない場所まで航空機で飛行していけばいいのだ。様々な軌道傾斜角の軌道に、ロケットの能力めいっぱいのペイロードに打ち上げることができる。
ロケットの能力が十分ならば、ドッグレッグなどで対応できるものも、小型のロケットでは打ち上げ能力の損失が大きく影響することになる。このことと、航空機の積載量には限界があるということを考え合わせると、空中発射システムは、本質的に小型ロケットに向いていると言えるだろう。
http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20090226/135004/
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます