【涼宮ハルヒの憂鬱】佐々木ss保管庫

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佐々木スレ2-876 佐々木×キョン

2007-04-16 | 佐々木視点のss

876 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/04/16(月) 00:01:02 ID:VtVRaile
投下。中学時代の何てことない話。


「キョン。たわいもない世間話にもならないくらいのどうでもいいような話なんだが、キミはサンタ
クロースの存在をいつまで信じていた?」
中学三年の初夏の事だったろうか。僕がこんな季節外れな質問を”彼”にしたのは。
彼―キョンという変わったニックネームで呼ばれている―はしばし考えるような素振りを見せた
後、どこか寂しげな顔をしてこう答えた。
「…最初からだ」
「最初から、というと?」
「俺がサンタっつー赤服じーさんがどういう存在で何をする人なのかを理解した時、からだな」

僕がこんな質問をしたのには勿論理由がある―という訳でもない。僕ら二人は文字通り”たわ
いもない世間話にもならないくらいのどうでもいいような話”をしては休み時間を無為に過ごす
のが専らとなっていた。
キョンと僕が同じ学習塾に通っている誼で話すようになったのは四月中頃の事。彼が高校進学
を危ぶんだご母堂によって半ば強制的に塾へ叩き込まれたというのは後で聞いた話さ。
「幼稚園のクリスマス会に出てきたサンタさんは園長先生か誰かだと思ってたし、オフクロがサ
ンタにキスをする場面を目撃したわけでもねぇしな」
「"ママがサンタにキッスした”かい?僕が初めてその歌を聞いた時は、母親とサンタの不倫劇
を幼心ながらに想像したものさ」
僕がまだあどけない子供だった頃、”ふりん”だの”りこん”だの負のイメージを持つ言葉、それ
も決まって男女間の軋轢に関する言葉について異様に詳しかったのは何故だろうと思案して
いると、
「お前は?」
いつまで信じてたんだ?という論旨の問い掛けが返ってきた。
「僕は、そうだね…。幼稚園の年長組になる頃には信じてはいなかったと思う。くく、一体何が
どうして信じられなくなってしまったのか」


877 ::2007/04/16(月) 00:02:47 ID:VtVRaile
友達同士の実りの無い話。そんな会話の出来る相手とは実に貴重なものだ。僕とってはキョン
がその人物に当たる。
僕とキョンは話が合う、というか僕が一方的に喋り、キョンが時折相槌を入れながら静かに聞い
てくれるというパターンの方が多い。気付くと自分のみが意見を発しており、また一人で語って
しまったと悔いてしまう事も多々あるのだが、彼は別段嫌がる事もなく黙って耳を傾けてくれる
。彼と、もとい、彼に話していると心なし落ち着くような気がする。

「何ていうか、悲しいもんだよな。サンタ然り、アニメ的特撮的マンガ的ヒーロー然り。超能力だ
のUFOだの、そういうものを信じられなくなっちまうってのはさ」
その日キョンは珍しく饒舌になり、アニメ的特撮的マンガ的物語とやらに描かれる世界がとても
魅力的に思えた事、自分もそんな世界に生まれたかったという事、そして世界の命運を分ける
出来事に遭遇したいと本気で考えていた時期があったという事などを話した。

「しかし現実ってのは意外と厳しい。もっと世界がイロイロと面白けりゃ、勉強だってはかどりそ
うなもんなんだけどな」
「ないものは仕方がない。詰まる所、人間はそこにあるもののみで満足しなければならないの
さ。言うなれば、それを出来ない人間が己の欲望を満たさんが為に発明、発見等をして文明を
発達させてきたのだよ。大空を自由に飛びたいと考えたから飛行機を作ったし、快適に移動し
たいと考えたから自動車や列車を産み出したんだ。でもそれは一部の人間の才覚や発想によ
って始めて生じたものなんだ。天才と呼ばれる者たちが、それを可能にしたわけだね。凡人た
る我々は、人生を凡庸に過ごすのが一番なのさ。身分不相応な冒険心など出さない方が身の
ためだと思いたまえ」

「………」
この三点リーダは僕とキョンのぶんだ。僕たちは今互いに見つめ合っているのに気付き、少し
気まずくなったという心境にあった。キョンは興味深そうな瞳で僕を見ている。はて、こんな表情
のキョンは前にも見たことがあるような。そうそう、あれは確か理科の問題の解説を頼まれた時
だった。その時のキョンもこんな感心したような顔をしていたっけ。
キョンは鼻から息が漏れたような笑いをしてから言った。
「何ていうか、佐々木。お前はかなり達観した考えを持ってんだな」

達観?そうだろうか。僕だってキョンと同じように、世界がもっと面白ければいいのにと考えた
事がないわけじゃない。例えば、ある日突然、初対面の女の子から「実はあなたは神のごとき
力を持った存在なのです!」というトンデモ告白をされたり、人間に擬態したちょっとキュアーな
地球外知性体と友人になったり、過去を変えようとしている未来人に出会ったり、とかね。
しかし、そのような事は十数年程度の人生しかおくっていない僕にすら、ある筈がないと断言
できる代物である。せいぜい昔の恋人と街中で偶然の再会を果たす程の事しか起こらないで
あろう。いや、そんなのもいかにも小説的過ぎる。キョンの言う通り、現実とは厳しいものだ。

「そうだよな。普通が一番だよな…」
キョンはどこかしみじみとした雰囲気でそうつぶやくと、窓の外に目を向けた。僕も窓から景色
を眺める事にする。校庭の桜の樹は春の面影をすっかり失くし、枝に青々しい葉を携え、今日
もせっせと光合成に勤しんでいた。

平和だ…。

退屈、などと言うてくれるな。何一つ起こらないからこそ、僕たちは平穏無事に暮らしていける
のだからね。まぁ、たまには衝撃的な事があってもいいかなとは思うが。

終わり。続きは多分書かない。