【涼宮ハルヒの憂鬱】佐々木ss保管庫

2chの佐々木スレに投稿されたssの保管庫です

佐々木スレ6-730 「黒い安息日」

2007-05-09 | その他中学時代ss

730 :黒い安息日・1:2007/05/08(火) 20:36:29 ID:KO+kEckv
「お邪魔します」
「ん、じゃあその辺に座っててくれ。下から飲み物もって来る」
今入ってきたばかりのドアから出て行く彼を微笑で見送ると、私はいつものようにベッドの端、足を向けるほうに浅く腰掛けた。
三度跨げば我が家も同然、と誰かが言っていたが、このキョンという風変わりな渾名を持つ友人の部屋は
ある側面では私の自室などより余程リラクゼーションに適した場所であった。
異性の友人をほとんど持たない、というよりそもそも交友関係がひどく狭い私にとって、同級生とはいえ
ここまで気の置けない信頼関係を築けたというのは客観的に見てもなかなか信じられないことではある。
しかもまだ世の中の事も良く知らない子供だとは言え、一応男と女だ。
それがこんな狭い部屋の中に膝つき合わせてなにをするかというと、これが何の変哲もない受験勉強だというのだから笑ってしまう。
私は苦笑を、彼が膨れ顔に答えて見せるときの表情をこっそりと浮かべた。まったく、いまさらだが風変わりなのが渾名だけではないとはね。
下でキョンと彼のご母堂が話しているのがきこえる。買い物に行くから留守番を頼む、小学生じゃないんだから少しは息子を信じろ、
などと話の内容が事細かに鼓膜を震わせるのを受けて、私は体の両側から石壁が迫ってくるような居心地の悪さを感じた。
確かに一般的中流家庭の家屋に高度な遮音機構など望むべくもないが、あの音量でこれだけクリアに聞こえるのでは、
普段の彼とのやり取りは御家族にも丸聞こえだったという事ではないか。
…別に聞かれて困るような話などした覚えはないが、それでも顔が段々と熱くなってくる。いや、なにを不安に思う事がある。
キョンが気づいてないんだ、他の人間に気取られるわけがない。
いや、でもこう言っては悪いけどキョンはこの手の感情の機微には極めて疎い、だから彼が気づかなくてもご家族は気づいているかも、
いやそもそもキョンにしたって実は感づいているのだがそれを巧妙に韜晦して……
このままでは思考の迷宮に入ってしまいそうだったのでそこで一旦意識をクリンナップする事にした。
なんとなく脱力して、ベッドに倒れこむ。なに、かまうものか。これだけ音の抜けがいい家だ、階段を上がってくる音なんかすぐにわかる。
そう思うとますます体に力がはいらなくなってしまった。冷えたシーツが火照った顔にここちよい。
火が出るとまでは行かないがパンケーキぐらいは焼けそうなくらいにはなっていた顔の熱をシーツがゆっくりと奪っていく感覚に満足して、ゆっくりと体に力を込める。
男の子のベッドをリハビリテーション代わりにするなんて、私もずいぶんダメな人間になったものだ。
ようやく先ほどと同じ高さまで戻った視界の片隅に、妙なものが写った。
私の座っているベッドと、その向かいにある学習机。その間に、何か黒いものが落ちているのだ。
なんだろう。
目を凝らし、ゆっくりと顔を近づけた私に向かって、
その物体は、
…翔んだ。


732 :黒い安息日・2:2007/05/08(火) 20:38:33 ID:KO+kEckv
しかし、うちのお袋も他に何か言う事ないのかね。
一緒の学校に行けないって、そもそも俺と佐々木の志望校は違うし、それにおそらくお袋が勘ぐっているであろうことも俺たちの間にはないしな。
まったくなんというか、男と女がいればすぐに惚れた晴れたの話になると思ってるなんて、ワイドショーの見すぎと違うかね。
二人分の飲み物と菓子を乗せたお盆を手に憤然と階段を登る俺の耳を、絶叫が貫いた。



「きゃあああぁぁぁぁぁああああっ!?」
とっさに首をひねって避けると、その黒い物体は羽音とともに頭上を通り過ぎていった。
あわてて机側に飛びのいて見ると、さっきまで私が顔をうずめていたあたりを何かが這い回っている。
「ひっ…」
とてもじゃないけどキョンには聞かせられないような情けない悲鳴が漏れる。って、今はそんな事を気にしている場合じゃないって!
それは、その黒い悪魔(カヤキス)は、伝染病のベクターである事で、そして何よりその造形で忌み嫌われている
俗にゴキブリという家庭内害虫の一種であった。
またしてもこちらに向かってくるブツを避けながら、私はいつもの自分を取り戻そうと必死だった。
だってそうでしょ?虫をみてキャーキャー甲高い声を上げて逃げ回るなんて、彼が見たらどう思う?
彼にとって少しでも退屈な現実から外れているというだけで傍にいるこの私が、こんな取り乱したところを見たらどう思う?
そう思うと、少し心が静まった。そう、その調子。いつもの冷静な自分を、愛を取り戻せ。YOUはSHOCK。天才のこのおれがなぜ。うわらば。
ああああああああ全然冷静になってないじゃんなにやってんの!左舷!弾幕薄いぞ!
「佐々木!? どうした、なにがあった!?」
うわ、最悪。キョン、キミはどうしてそう間が悪いの。
すかさずドアを背で押して、進入を阻む。冗談じゃない、虫なんかで半泣きになった顔なんかみっともなくて見せられない。
「ちょ、ちょっと待って! 今ドアの前にまきビシばら撒いちゃったから!」
「はあ? ま、まきびしだぁ?」
うん、普通おかしいと思うよね。ごもっとも。ってか何でこんな言い訳しか出で来ないわけ?私はいつからくの一になったんだろう。
「そ、そうじゃなくて画鋲!画鋲撒いちゃったから危ないの!」
「俺の部屋に画鋲なんてあったかなぁ……って、おい佐々木、
画鋲がドアの前にあるって言うけどその割にお前の声がえらいドアの近くから聞こえるんだが?」
キョン、ああキョン、数学もそれぐらい頭がまわってくれると、お姉さんとってもうれしいな。同い年だけど。
「と、とにかくはいっちゃだめーーーーーーーーーーっ!!!」


733 :黒い安息日・ラスト:2007/05/08(火) 20:39:34 ID:KO+kEckv
その後といえば、もう散々なものだった。
一応は私が参考書を取ろうとして本棚をひっくり返して気が動転していた、という事で決着を見たが、
彼はいまいち合点のいかない様子だった。とはいっても、『本当に取ろうとしたのは参考書だったのか?』なんて、
間違った方向に勘ぐっている模様だ。私が彼に対するほどに、彼からの信頼はなかったってことなのだろうか。泣きたくなった。
しかし、なんというひどい日だったのだろう。あんな醜態を見せた上に、家捜しの汚名まで被ってしまった。
将来のリングネームはエクスプローラー佐々木かな、などと自虐に浸っていると、傍らのフラグクラッシャーは苦笑を浮かべて、
「ま、やっぱり人の部屋ってのはものめずらしいもんだからな。
それに、まさか本気でお前が家捜しするようなやつだなんておもっちゃいねえよ」
なんて言ってのけた。どうしてこうキミは人の気持ちを揺さぶるのが好きかね。
「ねえ、キョン」
「ん?」
「これでいて結構、僕はうかつでそそっかしいところもあるみたいだ」
「らしいな」彼が笑う。
「だから、これからも色々と失敗はしてしまうとおもう。
そのとき、キミは僕の手助けをしてくれるかい?」

そう、私の、傍に、いっしょにいてくれる?

「当たり前だろ」
窓から差し込む夕日がまぶしいのか、目を細めながら。
「部屋の片付けは、俺の得意とするところだぜ」
やっぱり見当違いの笑顔を、私に向けた。


END


737 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/05/08(火) 20:44:14 ID:7X2w7pwC
>>733
 結 局 折 る の か !


735 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/05/08(火) 20:41:08 ID:KO+kEckv
以上です~一周遅れの話題ですいませんでした。
ってか、生まれて初めて書いたssがゴキブリネタって…