Learning Tomato (旧「eラーニングかもしれないBlog」)

大学教育を中心に不定期に書いています。

vol175:熊本大学の挑戦

2005年12月22日 | 大学のeラーニング
年末にもかかわらず300人近くの来場者!
12月19日、熊本大学とメディア教育開発センター(NIME)の共同主催セミナー
「eラーニングの新展開-学習の質を保証する人材養成を目指して-」に行ってま
いりました。
折りしもこの日はラーナーセントリックな私にとって、大学院の通信教育第二レ
ポートの締切日。少々迷いましたが、まあなんとかなるだろうということで
Let's Go。

「年末だし、セミナーの宣伝時間も少なかったから空いているだろうなあ」と思い
きや、なんと申込み277名中260名参加という大勢の方の集まったイベントで、あら
ためて質保証の問題、いやインストラクショナルデザインへの関心、いやいや熊本
大学のeラーニング専門家養成のための新しい大学院「教授システム学専攻」につ
いての関心の高さを認識した次第です。

講演いただいたのは、NIMEの理事長清水康敬先生、JAPET会長の坂本昂先生、日本
イーラーニングコンソーシアムの小松秀圀会長、さらには熊大の「教授システム学
専攻」を背負うヒゲのIDer鈴木克明先生、熊本大学副学長の足立啓二先生と、eラ
ーニング版「紅白歌合戦」のような豪華メンバーでした。

全てを紹介していると年が越してしまうので、ここでは鈴木先生と、足立副学長の
お話を紹介したいと思います。

「どこかで見たようなスライドだとぉ~」
実はセミナーの後の懇親会に出席し、鈴木先生にいきなり言われたのがこの言葉で
した。何号か前にNIMEのセミナーでの鈴木先生の講演をまとめた本メルマガの文章
を鈴木先生は読んでいたのでした。(詳細は下記参照)
http://blog.goo.ne.jp/sanno_el/e/d5c72ad3c36a95e1354fb5d93dbdf31b
さらに「他の人の講演は沢山取り上げているのに、俺は4行でサラッだもんなあ~」
と連続パンチ。そうしたこともあり?今回は鈴木先生の講演を大々的に取り上げます。

質保証の4モデル
冗談はさておき、今回の発表で鈴木先生はeラーニングの質保証のレベルについて
大変興味深いモデルを提示していらっしゃいました。先生は「まだ完璧じゃないから
色々突っ込まれそうなんだけど」と少し遠慮がちにコメントしておりましたが、非常
に分かり易いモデルで今後相当活用されそうな予感がしました。

具体的には
 レベルマイナス1---いらつきのなさ
 レベル0---うそのなさ
 レベル1---わかりやすさ
 レベル2---学びやすさ
 レベル3---学びたさ
という5つのレベルでeラーニングの質を見ていくモデルです。

レベルマイナス1---いらつきのなさ
これはアクセス環境や回線速度、サービスの安定度からくるeラーニングの学習環境の
ことを指します。すぐフリーズしちゃったりしたら勉強する気もなくなりますからね。
ハーツバーク風に言えば「衛生要因」、だからあえてマイナス1としたのではないかと
推察しています。

レベル0---うそのなさ
これは教材内容の正確さや解釈の妥当性など、サブジェクトマターに関する要件の質
保証を指します。単にうそを書いていないというレベルでなく、妥当性がキーワード
なのではと推察しています。

レベル1---わかりやすさ
これは情報デザインの要素としての「わかりやすさ」で、操作性やユーザビリティ等に
該当する質保証を指します。多分このあたりまでは本学のeラーニングもなんとか頑張っ
ているかなと思っています。

レベル2---学びやすさ
達成指標として学習課題の特性に応じた学習環境、学習者のニーズにマッチした学習支
援要素等を挙げています。個別の学習者への対応(支援)によって実現できる質の保証を
指しているのではないかと推察しました。(間違っていたらごめんなさい)

レベル3---学びたさ
継続的な学習意欲を喚起したり、ついプラスアルファの事まで学んでしまうような魅力を
備えたeラーニングになっているかどうかという視点で質保証するレベルです。

めざせ日本のカークパトリック
しかし家に帰って、現実のeラーニングのサービスを各達成指標に当てはめて考えてみると
「どっちのレベルかな~」と悩んだり、達成指標ごとに主なID技法を当てはめた部分に
やや無理があるかなと感じた次第です。

と、多少の突っ込みどころを含んでいるものの、セミナーを聞いた直後は「測定する分野は
違うもののカークパトリックのレベル4を越える凄いモデルになるんじゃないか」などと考
えたぐらい。近年一番感銘を受けたモデルであることは間違いありません。

カークパトリックは効果測定のレベル4だけで40年間教育効果測定界のTOPの座に君臨し、
おまけに息子のジムまでこの道のスペシャリストとして活躍させるという教育業界版
「石原一族」を実現しています
(ちなみにジムはニコラス・ケイジ似というのが業界のトリビアの一つ)
http://www.cuenterprise.com/cue_jim.php

鈴木先生も質保証の5レベルを確立すればきっと一族安泰です。
期待しています。

熊本大学の教育研究とeラーニング
熊本大学の足立啓二副学長による「熊本大学の教育研究とeラーニング」という発表では、
1997年から取り組んできた熊本大学でのeラーニングの取り組みについての大変興味深い
お話を拝聴しました。

話の中で一番驚いたのは、今回の新しい大学院「教授システム学専攻」の準備にゴーサインを
出したのが去年の12月。つまり、たった1年でこの日のイベントまでたどり着いたという点です。
完全なTOPダウンによる意思決定。短期間の内に人材を集め開学にこぎつけ機動力。
今までの国立大学ではありえない非常に前向きかつ戦略的な動きに感銘しました。

国立大学法人は昨年4月1日に産声をあげたばかりなのでどこも1歳半ちょっとです。
他校がヨチヨチ歩きしているうちに、熊本大学は補助輪なしで自転車に乗るところまで成長して
いる。今回のイベントからそうした印象を受けました。

微力ながら私も手伝います
ところで、筆者も微力ながら非常勤講師として本専攻のお手伝いをさせていただくことになり
ました。「教育ビジネス経営論」という科目をなんとJMAMのeラーニング事業を統轄する柴田氏や、
元大手ハンバーガーチェーンの人材開発責任者だった下山氏と一緒に担当します。
http://www.gsis.kumamoto-u.ac.jp/professors/index.html

科目の中身づくりはこれからです。関係する諸先生方と協力して、ぜひレベル3のeラーニングを
目指していきたいと思います。科目等履修制度もあるようなので、
興味がございましたらみなさんもぜひご受講ください。


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2 コメント

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初めまして (まさき)
2005-12-28 01:00:04
初めまして。私、関西の大学学部生のまさきと申します。偶然、このブログに行き着いたのですが、僕が非常に興味のあるtopicに関して扱っておられたのでコメントさせて頂きました。この熊本大学のセミナーに僕も参加しました。懇親会にも参加しましたので何処かでお顔を拝見しているかも知れませんね。僕は現在、大学4回生で進学する大学院も決定しているのですが、今回、紹介された大学院が遠隔での受講も可能と聞いて是非、単位等履修生として学ばせて頂きたいと思っており、特にIDとIMの分野での受講を考えております。何やら志望者がとても多いと聞き、不安を感じておりますが、何かしらの形で勉強させて頂きたいと考えている所存です。長いコメントになってしまい申し訳ありません。これからもコメントさせて頂きます。追伸・僕のブログはe-learningに関する物では無く日常の日記の様な物です。

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コメントありがとうございました (こが@さんのう)
2005-12-29 15:15:15
まさき様

コメントありがとうございました。



>何やら志望者がとても多いと聞き、

>不安を感じておりますが



このあたりは蓋を開けてみないとどうなるやらよく分からないですが、もともと10名ですからねえ~。科目等履修をお考えということですが、これも賢い選択ではありますね。と科目等履修の案内を見てみると・・・うーん結構高いなあ~(eラーニングにしては)。



何はともあれがんばってください
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