Learning Tomato (旧「eラーニングかもしれないBlog」)

大学教育を中心に不定期に書いています。

002:評価をポジティブな言葉に変える魔法

2014年08月24日 | eラーニングに関係ないかもしれない1冊


『大学教員のためのルーブリック評価入門』
ダネル スティーブンス (著), アントニア レビ (著), Dannelle D. Stevens (原著), Antonia J. Levi (原著),
玉川大学出版部 高等教育シリーズ (2014/3/24)


「評価」

大抵の大学人はこの言葉からネガティブなイメージを連想するのではないでしょうか?
大学教員のお仕事の中では、至る所で「評価」という活動が出現します。一番大きい括りでいうと7年に一度の「大学認証評価」という大作業、日々の仕事ということでは、レポート、テスト、卒論、成績といった「学生の評価」、さらには学生による「授業評価」等、日々評価の連続なのです。

そしてどの評価おいても、一般的な大学教員は「楽しい」「充実した」「ためになる」「わくわく」といったポジティブな修飾語でなく、「つらい」「めんどう」「形式的」「恐る恐る」といったネガティブな修飾語を連想するのではないでしょうか。

前置きが長くなりましたが、今回ご紹介する『大学教員のためのルーブリック評価入門』はそんな大学教員の「評価観」を180度とまではいかないものの、相当ポジティブなものに変えてくれる本です。

なぜポジティブにしてくれるか?それはルーブリックを活用することにより、

・評価のプロセスが効率的になる
・評価の品質が一定する
・学生のパフォーマンスが向上する
・学生の満足度が高まる

等のメリットがうまれるからなのです。

ではルーブリックとは一体何なのか?
熊本大学教授システム学専攻の「基盤的教育論」Webサイトでは

「ルーブリック(Rublic)とは、レベルの目安を数段階に分けて記述して、達成度を判断する基準を示すものである。学習結果のパフォーマンスレベルの目安を数段階に分けて記述して、学習の達成度を判断する基準を示す教育評価法」
と定義されています。
http://www.gsis.kumamoto-u.ac.jp/opencourses/pf/2Block/05/05-2_text.html(2014年8月24日確認)

本書はルーブリックの概論、メリット、具体的な作成方法はもとより、様々な状況でのルーブリックの活用方法が紹介されています。例えば
・学生と作成するルーブリック
・教職員と作成するルーブリック
・ルーブリックとオンライン教育
・ルーブリックとプログラム評価
などです。

個人的には「学生と作成するルーブリック」の章を最も興味深く読ませていただきました。この章の冒頭は
「学生の評価方法を学生たちに作らせるんだって?ニワトリ小屋の番を狐にさせてしまおうってわけかい?」私の友人はかつて冷やかに笑った。
という魅力的な一文で始まります。

「学生と作成する」と言っても様々なレベルがあり、本書では学生の関わり方の度合で5つのモデルを紹介しています。それらの背景には「学生たちがルーブリックの作成に参加すれば、『学ぶ』というのは能動態の動詞であることを理解し始める」という思想があります(p.161 終章「ルーブリック・マニフェスト」より)。

さて、本書を読んでいて気になった点があります。本書ではルーブリック長所の一つとして「レポートのコメントを書く手間が省ける」という点をあげています。ルーブリックの中に具体的なパフォーマンスが記述されているので、個々のレポートに一々何回も同じコメントを書かなくても該当するパフォーマンスの記述をチェックし、その表をレポートに添付して返却すれば良いというものです。

例えば、レポートの評価で用いるルーブリックの評価基準であれば、

□導入・展開・結論が明確であった
□文法、綴りが正確であった
といったものがパフォーマンスの記述になります。

しかし日本の大学では、これまで大学生が提出したレポートにコメントをつけてフィードバックするという事をあまりやってきませんでした。だからそもそもコメントなんて書く必要もありませんでした。
正直なところ、コガも全てのレポートにコメントをつけて返却しているかというとできていません。忙しくてすべてのレポートにコメントをつける時間がない。あるいは期末に課すレポートの場合、学生が休暇に入ってしまい返却する機会がない。等の理由からです。

しかしルーブリックを使えば効率化できますし、評価の一貫性や妥当性を学生に示すことができます。また返却方法については今後eポートフォリオのシステム等が導入されれば解決できるはずです。日本の大学におけるルーブリック活用の前提として、この「レポートは返却する」文化をまず定着させることが重要ではないかと考えた次第です。

なお、本書の翻訳を監修された佐藤浩章先生よりfacebookを通じて下記のコメントをいただいております。

シラバス・教育内容・教育技法までは教員の皆さん結構力入れるんですけれど、評価は意外とあっさりという方が多いので、評価を変えると学習は変わるということをこの本で伝えられればと思います。個人的には、最後のルーブリック・マニフェストが感動的で好きなんですけれどね。

ぜひご一読のほどを!

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