「遠 恋」愛よりも優しく ―Ⅷ―

2024-05-15 11:49:34 | 日記
もうこれ以上、ごちゃごちゃ
書くのは、やめにします。
詩音ちゃん。決してオーバー
ではなく、僕は今、こう思って
います。

もしも、もう二度と会えないと
しても、たとえば僕が死ぬ前に、
誰か会いたい人がいるとしたら、
それは詩音ちゃんをおいて、ほ
かにはいません。

僕が死ぬ直前に、ひとつだけ思
い出したい記憶があるとすれば、
それは詩音がちゃんとの記憶だ
ということです。

いろいろ書いたけど、何よりも
このことを伝えたくて、この手
紙を書いたような気がします。
この手紙を目にしたら、連絡
をください。

オレゴンには行けない、そんな
答えでも、僕は失望したりしま
せん。詩音ちゃんには詩音ちゃ
んの大切な夢がある。それは僕
が一番よく知っているつもりで
す。

オレゴン州の新し連絡先も別紙
に書いておきます。ここを引き
払ったあと、一時的に荷物を預
かってくるれことになっている、
NY(ニューヨーク)州ウッドストック
の友人のアドレスも記しておきます。

1994年4月8日  
          井上快晴


その夜、わたしは久しぶりに「泣き
虫詩音」になって、朝まで泣いた。
自分と涙の区別がつかなくなるく
らい、声を出して泣いた。

翌朝は、腫れ上がった瞼のせいで、
コンタクトレンズがはまらず、眼鏡
をかけて、作家との打ち合わせ場所
に出かけた。

手紙を読み終えたあとすぐに、ホテ
ルの部屋からアメリカに電話をか
けた。オレゴンの番号と、ニューヨ
ークの

番号に。あのひとはすでにオレゴン
州の農場にはいなかったし、ウッド
ストックの電話は通じなくなってい
た。
 以来きょうまで、わたしはこの手紙
の存在を、片時も忘れたことがない
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