佐伯画廊の『ひとこと、ふたこと』

漫画のこと、音楽のこと、映画のこと、その他思いついたことを気の向くまま書き綴っていきます。

『ルビー』執筆後記① 「偶然の産物」

2009-06-03 23:47:40 | 雑記
こんばんは。
めざましテレビの最新トレンドのグッズやスイーツを紹介するコーナーで女子アナと一緒にはしゃいでいる大塚さんを見ると、何かやるせなく切なく悲しい気持ちになってしまう佐伯画廊です。

あんまりブログを更新してなかったから、という理由だけで「別に今それ言わなくても…」的なことでも書いてしまおうというわけで。まあ、よいではないか、ウッシャッシャッシャッ…。
テーマは「偶然の産物」です。

有名なところでは「あしたのジョー」の力石が死に至るまでのエピソードですね。
ジョーと力石は少年院の中で初めて出会うわけですが、ジョーの大戦相手となる力石をはじめにジョーよりも一回り大きいガタイのいい筋骨隆々の大男に描いてしまったためにプロのリングで同じ階級で戦わせることが不自然な設定になってしまい、梶原一騎さんとちばてつや先生は悩みました。
で、その結果生まれたのが「力石の過酷な減量」というエピソードです。あのドラマもそんな偶然から生まれたものだったんですね。

手塚先生の「ブラックジャック」は髪の毛が半分白いんですが、連載が始まったころは(当初、あんな名作が実は連載するつもりではなかったというのも驚きですが)先生はただ光の当たり方で白く見えている、というつもりで描いてらしたんだそうです。のちに彼は幼少のころ不発弾で大事故にあい、恐怖で髪は半分白髪になり黒人とのハーフの子供に皮膚を提供してもらい顔に移植され…というエピソードにまで発展していったわけです。

つげ義春先生の「ねじ式」という不思議な短編漫画があります。
わけのわからない夢をそのまま作品にしたもので、とてもシュールです。先生の作品は雰囲気をとても大事にしている感じを受けます。とりわけ「ねじ式」はシュールの極みといったものでとても印象に残る絵と世界観で自分も気に入っている作品です。
冒頭で主人公の少年が「僕はメメクラゲに左腕を噛まれてしまったのだ」という印象に残る台詞があります。僕も「メメクラゲ」なるものを知らなかったのでどんなすごい毒持ってんだろ?とか思ってました。
ところがこれは完全なる写植の勘違いだったんです。つげ先生は適当に「××クラゲ」と書いたのに写植のほうでそれを「メメクラゲ」と読み違えてしまったんですね。
でも「メメクラゲ」という言葉がインパクトが強くて有名になってしまったわけですから面白いもんです。

こんな大作の紹介の後に手前みその話題です。自作のしょうもない漫画の「偶然の産物」を。

「ルビー」の物語が出来上がる前にあのキャラは出来上がってました。もともとレディースのリーダーみたいな強くてクールな不良のイメージで「こんな髪型の女ってかっこいいんじゃない?」っていう軽いノリでなんとなく考えたキャラでした。ルビーの物語が膨らんでいったときに「このコを主人公にした悲劇のヒロインの物語にしよう」と思いました。彼女がいかがわしい宗教にはまる過程でいじめにあっていたという設定が必要になりましたが、何か理不尽な差別的な理由が欲しい、と思い「顔にアザがある」という設定にしました。
だからもともとアザを隠すためにあんな髪型にしたわけじゃなかったんですが丁度都合が良かったわけですね。



武器をアーチェリーにしたのはなんとなくエレガントな雰囲気でカッコいいと思ったからでした。でも結果的に弓矢ならではのシナリオが書けた部分も多かったと思います。その中でも偶然性を感じたのは最終話で天に向けて彼女が最後に放った矢のシーン、かなあ。
放物線を描いて飛んでいく矢が彼女の命と共に流れ星になって消えてゆく…みたいな発想はシナリオ書き始めたときはなかったものなので。これは弓矢ならではのシーン、でしょ?

あとこれは偶然とかじゃなくて時代のタイミングが良かった…と思えたことなんですが、女性新聞記者が彼女の肉声を録音するという設定にしたかったんですが、そんな長時間の録音が不自然に思われないかしら?とか思ってたら、巷ではデジタルボイスレコーダーなるものが出回りはじめたじゃありませんか。これは好都合でした。

まあ、いうほどの産物でもなかったかも、ですが。
ほかにも結構そんなことあるんでしょうね。皆さんの作品にもそんなことあるのでは?