the Saber Panther (サーベル・パンサー)

トラディショナル&オリジナルの絵画芸術、化石哺乳類復元画、英語等について気ままに書いている、手書き絵師&リサーチブログ

サルカストドン最大種 と アンフィキオン(ベアドッグ)最大種 : 比較

2020年01月23日 | プレヒストリック・メガファウナ

サルカストドン最大種 と アンフィキオン(ベアドッグ)最大種 : Bodymass


アンフィキオン最大種
(Amphicyon ingens) The largest Amphicyonid 'Beardog'


サルカストドン最大種 (Sarkastodon mongoliensis) The largest Oxyaenid 'Creodont'

 

肉歯目オキシエナ科の最大種とアンフィキオン科(ベアドッグ)最大種の復元画、および推定体重に関するつぶやき。記事中のイラストはいずれも旧作の低画質カットペーストですが、この二種、形態精度の向上に努めた上、草食獣群が主役となる次回作に再登場しますので、そちらのアップの方も楽しみにしていただけると、嬉しく思います。



話が少々飛ぶようですが、米国ジョンズホプキンス大学のB. Sorkin博士は論文('Biomechanical constraint on body mass in terrestrial mammal predators', 2008)で陸棲肉食哺乳類の体重上限について興味深い考察をされており、少しこの場で紹介したいと思います。
論文では、所与寸法の上腕骨がよりロバストであるか、上腕骨の三角筋粗面(deltoid crest/ridge)がより長い種類ほど、(狩猟時の)最大走行速度時に上腕骨にかかる曲げ応力を低減できるため、大きなサイズ(体重)の獲得を可能とし、結果的にその系統からより大きな種類(最大種)が派生することにつながるという説が述べられています。

三角筋粗面の長さや三角筋胸筋粗面(deltopectoral crest)の有無といった上腕骨形質は系統由来のものと考えられ、生態的制限要因(ecological constraints)のほかに、こうした生来的形質由来の上腕骨の生体力学作用が、陸棲肉食獣の体重上限を左右するというのです。上腕骨の形質が最大獲得体重に関わっていたり、その形質があくまでも系統由来であるとする仮説には反論も出てきそうですが、個人的には面白いと思った次第です。

個人的に興味深い箇所をさらに抜粋/要訳してみます。所与寸法の上腕骨のロバストさにおいてアンフィキオン科(いわゆるベアドッグ群)の最大種(アンフィキオン ingens)はネコ科最大級のスミロドン populator及びアメリカライオンに比べると劣り、現生のヒョウ属種の上腕骨と同程度ですが、三角筋粗面はどのネコ科種の場合よりも長いということです。それかあらぬか、ネコ科最大種とアンフィキオン科最大種とでは後者の方が大きなサイズに達していました。


ネコ科最大級の種類の一角、スミロドン最大種 (Smilodon populator) One of the most robustly built felids of all time.

Sorkinの試算ではアンフィキオン ingensの推定体重は約600kg。これはFiguerido et al.(2010)が同種の頭骨、四肢長骨など複数の骨寸法を基に算出したかなり高精度とされる推定値、547kgと近似していますから、ある程度数字の信憑性は高いといえそうです。


他方、肉歯目・オキシエナ科の種類は相対的な上腕骨のロバストさ、三角筋粗面の長さの双方において、スミロドン属最大種を含むあらゆるネコ科種を上回っているとのことです。オキシエナ科の最大種サルカストドン mongoliensisは頭骨しか見つかっていないわけで推定体重算出に纏わる不確実性は免れないとはいえ、Sorkinはサルカストドン mongoliensis が体重でネコ科最大種を少なくとも30パーセントは上回っていたことは、ほぼ確実であろうと書いています。

ここで私見を述べさせてもらうと、サルカストドン属種は頭骨しか知られていない以上、そのポストクラニアル形態や各骨寸法は、近縁とされ、かつ全身骨格が出ているパトリオフェリス ferox のポストクラニアルに基いて推測するのが、最適の手段だと思われます。
実はパレオアート仲間である米国のBlaze氏がまさしくこの検証をされていて、パトリオフェリス ferox のポストクラニアル復元モデルをサルカストドンの頭骨サイズに合うようスケーリングすると、肩高1m未満という結果が出ました。

Sorkinの試算ではサルカストドン mongoliensisの推定体重は約800kgにもなり、恐らく史上最大級の陸棲肉食獣だと付記していますが、Blazeさんの検証結果を鑑みて(また、既に縷々述べてきたように肉歯目の傾向として体長比で頭骨が食肉類の場合よりも大きくなるので)、そこまでのサイズではなかった可能性が高いと私は思っています。これは私の推測でしかないけども、恐らくは、オキシエナ科最大種とアンフィキオン科最大種は概ね500kg前後と、ほぼ似通った体重になったのではないか:ちょうど、同じ肉歯目の特大種、ヒアエノドン科のシンバクーブワ属種がそうであったと考えられるように(詳しくは拙『バトル・ビヨンド・エポック』  其の七 古代アフリカの3エポック:時代ごとの獣王(メギストテリウム、アグリオテリウム、ナトドメリライオン)』を参照してください)。


とまれ、共に特大級のサイズ、強大無比の顎力と裂肉、骨砕き双方に優れた歯、前脚の優れたグラップリング力など似通った形態を具えていた畏怖すべき骨砕き型肉食獣、サルカストドン mongoliensisとアンフィキオン ingensを、復元画を描きつつSorkin(2008)の論文を下敷きに比較してみました。ぜひ「本作」の方のチェックもお願いします。


イラストとテキスト by ©the Saber Panther (All rights reserved)



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