みちくさ便り

日常の出来事や特別な事、思いついたり感じた事などをジャンルを問わずに書き込んでいきます。

くすぶり消すな

2019年05月24日 | 乱読本

くすぶり消すな

 

昭和二十年八月十一日

焼け野原の長崎

 

あちらでも

こちらでも

今日も

くすぶり続ける

数多(あまた)の煙

 

ときには黒く また黄色にと

色を変える煙

 

道はずれの

くぼみの中に くずれた塀のそばに

折り重なる 死体

ああ その亡骸(なきがら)が

燃えているのだ

 

煙に揺れ

横になびき

ときに 高く立ち上(のぼ)る

煙 煙

それは

死してなお昂(たか)ぶる

無念の思いか

はた また

父や母や わが子を呼ぶ

声なき声か


いま 死体処理のため

あらためて火葬される

名もなき人々


名もなき人々よ

あなた達は

すでに、ピカドンの

熱い光に焼き殺され

いま また 再びこの穴で

火と燃えるのか


声なき人々よ

この地獄の世界から

すべてをなくした

深い悲しみを

たぎりたつ 怒りの

そのすべてを集め

炎と燃やし

くすぶり 消すな


長崎の空高く


(被爆して3日目、死体処理作業、私の心が怒りに燃えた日)・・東京・小平市 田中美光(92歳)