みちくさ便り

日常の出来事や特別な事、思いついたり感じた事などをジャンルを問わずに書き込んでいきます。

「北壁からのメッセージ」

2000年01月31日 | 乱読本

「北壁からのメッセージ」長谷川恒男 1998.7.18 中公文庫(お勧め度:★★★★☆)

 

 この本は、単なる山岳書ではなく、山との闘いそのものよりもどちらかというとそこから得た人生哲学を語る内容である。子どもの頃の体験を交えつつ山の素晴らしさ生命の素晴らしさについて語っている。子どもの頃の話は、「岩壁よおはよう」では語られなかった山以外の生活についても多く描かれている。

長谷川恒男と子どもたちの関係というのは、三大北壁などの記録だけを見ていては、全く気づかないものであるが、「ジュニア・アルピニスト・スクール」や「ウータンと子どもたち」でもわかるように、不器用ながらも一生懸命子どもたちと触れ合っている彼の姿が浮かんで、微笑ましくもある。「基本的には子どもが嫌い」という著者と、危険や厳しさの中で、喜びを得、行動力を獲得していく子どもたちとのやりとりは感動的でもあり、大人と子どもの関係を今一度考えさせてくれる気がする。


「北壁に舞う」

2000年01月31日 | 乱読本

「北壁に舞う」長谷川恒男 1985.7.25 集英社文庫(お勧め度:★★★★☆)

 

グランドジョラス北壁冬期単独初登攀の記録である。二年前にマッターホルン北壁単独第2登、一年前にアイガー北壁単独初登と、ヨーロッパ・アルプス三大北壁の冬期単独登攀2つを完成させ、残る最難関のグランドジョラスである。一躍有名になったクライマーに、商業主義がまとわりつくことは自然である。賛否はあるが、長谷川さんはスポンサーを募り映画化(映画「北壁に舞う」)したのである。当時の遠征登山において半ば常識であったスポンサーであるが、私個人としては最後の最後まで「単独」を通して欲しかったと思うのである。この登攀は荷揚げから設営全て個人の力により成り立っているが、精神的には過去に比べ異質であると感じる。


「岩壁よおはよう」

2000年01月31日 | 乱読本

「岩壁よおはよう」長谷川恒男 昭和59年7月10日 中公文庫(お勧め度:★★★★☆)

 

冬のヨーロッパ・アルプス三大北壁単独初登を果たしたクライマーの自伝である。

登山によって、少年から青年へ人間的に大きく成長し、単独登攀の基礎を作っていった過程が、数々のエピソードや山行記録をもとに書かれている。

 

 長谷川恒男さんと最初にお会いしたのは昭和46年頃、私は「横浜勤労者山岳会」に在籍していて困難な登山を目指していた。吉尾弘さんにお願いして、私達の技術指導者を紹介していただいた。そして、その人が長谷川恒男さんだったのである。「星と嵐」同人絶頂期であったが、素人同然の私達をお荷物扱いすることなく、鷹取山やモミソ岩などで基本的なことを何度も何度も教えてくださった。初めての「本チャン」には、同人の金坂さんと奈良さんを付けてくださり、私たちは烏帽子南稜を余裕で登ることができた。また、時には野毛の居酒屋で閉店間際まで、岩登りや山への考え方など熱く語ってくれた。この本の中盤以降を読んでいると、長谷川さんが口癖のように言っていた「山は意志と愛情とテクニック」の言葉を思い出す。「一匹狼の長谷川」と、敵も多かったが、私にとって長谷川さんは希望の星、誰がなんと言っても最高のクライマーなのである。


「山に向かいて」

2000年01月31日 | 乱読本

「山に向かいて」長谷川恒男1987.10.14福武書店(お勧め度:★★★★★) 

この本は彼の数多い著作の総集編といえるだろう。著者が登山を始めてから25年余の歳月が流れた、彼をそこまで夢中にさせた山登りは何だったのだろうか、彼自身が過去を振り返って、穏やかな自然や過酷な自然との出会いをはじめ、山の仲間や彼に繋がる人達との多くの出会いを再考する。内容的には、これまでの著作のエピソードばかりであるが、短い文章の中にも山に対する愛情と人に対する友情が感じられる。40歳での著書だけあって、表現も文章も文学的であり、時間の経つのも忘れてしまう魅力を私は感じており、私が好きな本の一つである。