綺麗な人

「よろしくお願い致します」
気付けば私は前傾姿勢を取り、明るくはっきりと挨拶していた。
秘書検定の面接のポイント、前傾姿勢。
秘書は上司に話す際、手を前に組みながら上半身を腰から15度曲げるという前傾姿勢を取る。
去年、準一級、今年一級を取得し、そのときのクセで今でも上司と話す際は前傾姿勢を取ってしまう。
条件反射だろうか。

今日私が仕事以外で前傾姿勢を取った相手は、壇蜜さんだ。
初のフォトエッセイ「はじしらず」のイベントにて、前傾姿勢。
スーツを着用していたので、面接試験さながらの光景である。




19時すぎ、池袋駅到着。
集合時間まで時間があったので、東武のクリニークで買い物。
明るい赤の口紅を一本購入。以前海外旅行の土産でもらった色で、ずっとちびちび使っていたのだがいよいよ天寿を全うした。
クリニークの店員さんに「今日壇蜜さんのサイン本手渡しと握手のイベントに行くんですよ」と言ったら「ええ～！うらやましいです！！壇蜜さん、きれいに化粧なさっていますよね。私も行きたいです」と言われた。

そう、壇蜜さんは女子にも人気がある。
今日、販売応援に行った後輩女子Cちゃんも行きたがっていた。

クリニークの店員さんに、「もしよろしければ」と、グロスとパウダーとチーク、香水を施していただいた。
会社帰りの疲れた顔が一気に華やかになった。特にグロスは、壇蜜さんの御化粧法のポイントであるからに、真似をしてぽってりと付けてもらった。

いざ、リブロに出陣。



整理券を係員に渡して、列に並ぶ。
客は、男女半分ぐらいの割合。外人さんもいた。

仕切り板の向こうに壇蜜さんの顔が見え隠れ…綺麗。
私の少し前の方にいた女性が壇蜜さんを前にした瞬間、感激して号泣していた。
「どうして泣いてるの？」と覗きこむ壇蜜さんは本気で心配している風だった。
またプレゼントをもらう度に「ありがとう」「わあ、これ良い香り」と感想を述べていた。

そして私の番。
冒頭のように、秘書検定一級の面接を再現してしまった。
壇蜜さんはその特殊な光景に
「わあ」
といった表情をしていた。

すかさず手紙を渡す。
クマの絵柄に見入っている壇蜜さんの様子を凝視しながら
「今年の夏、秘書検定一級を受験しました。面接試験の時に壇蜜さんの立ち居振る舞いや表情、喋り方を意識して受けて無事に受かりました」
と報告した。
「本当！？ありがとう」
と壇蜜さん。
そして
「秘書検定持っている人、尊敬するー」
と仰っていただけた。

そして私の顔と髪の辺りをまじまじと御覧になる壇蜜さん（たぶん）。
「あ、これ」
とサイン本を渡された。

私がコートを着用するまで見ていてくれて、興奮して鼻水を垂らしてしまった。

素敵だった…壇蜜さん。
殿方じゃなくても、ハアハアである。

肝心のフォトエッセイは、文章がシンプルでしかも奥行きがある。
特に仕事についての箇所は頷けるところが多い。
散りばめられた俳句も哀愁があって惹かれる。

写真は官能的な仕草の中に、少女のような可憐さが秘められていて、つい見入ってしまう。
特に黒々とした髪の曲線は芸術の域に達している。

お土産は彼女の出身地の秋田の銘菓「さなづら」
このような細やかさを備えた女性って本当に素敵だと思う。


今日のイベントにて、彼女が多くの人に支持されている所以を垣間見た気がした。

同じ三十代女性として、勇気づけられた一日だった。
…6日出勤の5日目の私は、ハアハアというより、ゼイゼイといった感じだろうか。