あいおらいと

主に、お友達への連絡用でたまに、日々を綴ったり…していたはずが、いつのまにやら作品置き場になりつつあります。

もうそうはきだし中

2011-07-25 23:49:30 | もうそうはきだし中
付き合いはじめてしばらく経った頃のお話。
拍手におけるくらい短くて軽い文章にするつもりだったのに、短くも軽くもならなかったという不思議。



*Side:Y*
電話をかけるために電話帳を立ち上げ、お目当ての人の名を見つけたところで思わず指がとまる。
『原川さん』
出会った頃はニックネームで登録していたけれど、いつの頃だったか、たいして親しくもないクラスの子に見られて興味本位に私たちの仲を勘ぐられて。
その頃はまだ片思いだったから、そうやってからかわれることがとても辛くて、散々悩んで電話帳の名前を書き換えた。
(もう、いいよね…?)
私は貴方の『彼女』だもの。
こんな他人行儀な名前を登録しなくても。
修正画面を呼び出して連絡先の交換をした時のように『ハラケン』と打ち込み、しばし考えて打ち込んだ文字を全部消して改めて文字を打ち込む。
『研一さん』
たった四文字だけど、私にとって特別な文字の並びに自然と頬が緩む。
えい、と思い切って登録ボタンを押し、無事に登録が完了したことを告げるメッセージが表示された瞬間、電話がかかって来たことを告げる音が鳴り響く。
「はいっ、小此木です。」
「優子さん?」
反射的に通話ボタンを押すと、聞こえてきたのは今まさに思いを馳せていた人の声。ディスプレイに目をやれば、表示されているのは登録しなおしたばかりのあなたの名前。
「どうかしたの?」
焦って声が上擦ってしまったのを聞き逃さなかった研一さんが心配そうに問いかけてきたから、私はあわててなんでもないの、と取り繕う。
「あのね、私も研一さんに電話しようとしていたところだったの。研一さんの方からかかってきたから、びっくりしちゃった。」
「そっか。そういう偶然って本当にあるんだね。ところでさ、明日の件なんだけど…。」
驚いた理由はほかにもあるけれどそれは私だけの秘密。
改めて彼女になった実感を噛みしめてました、なんて恥ずかしくて言えないもの。


*Side:K*
電話をかけようと電話帳を立ち上げ、表示された名前にふと違和感を覚えた。
『小此木さん』
転校してきたばかりの彼女を紹介されてしばらくは彼女のニックネームしか知らなくて当然登録もその名で登録していたけれど、確か中学生になってしばらく経った頃のことだったと思う。ある男子の電話帳に女子の名前を目敏く見つけた奴が騒ぎ立てたことがあった。
昔なじみを昔から呼んでいたとおりに登録していただけで妙な勘ぐりを受けるなんて、中学生ってなんて面倒なんだろう。
そういう面倒に巻き込まれたくなかったから、男女問わず、ニックネームで登録していた友人の名前を姓に修正して現在に至る。
(なんか、味気ない。)
彼女は僕の『彼女』だ。
こんなよそよそしい名前で登録したままなんて。
修正画面を呼び出して紹介されたばかりのように『ヤサコ』と打ち込み、拭えない違和感に打ち込んだ文字を一度消去し、改めて文字を打ち込む。
『優子さん』
その文字の並びに満足して登録ボタンを押す。無事に登録が完了したことを告げるメッセージの後に改めて表示された名前を見ると、無性に彼女の声が聞きたくなった。
そういえば、彼女に電話をかけようとしていたところだった。
「はいっ、小此木です。」
「優子さん?」
そのまま通話ボタンを押せば、呼び出し音が鳴る間もなく彼女の声が響く。驚いたけれど、常とは少し異なる彼女の声音が気になった。
「どうかしたの?」
いぶかしみながら問いかければ、なんでもないの、と彼女は慌てる。
「あのね、私も研一さんに電話しようとしていたところだったの。研一さんの方からかかってきたから、びっくりしちゃった。」
「そっか。そういう偶然って本当にあるんだね。ところでさ、明日の件なんだけど…。」
素晴らしい偶然に感謝しつつ僕は会話を堪能する。
改めて彼女が『彼女』になってくれた実感をかみしめながら。
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拍手ありがとうございました!

2011-07-11 21:36:07 | お返事
7/8 23時台の方

拍手ありがとうございました!
最近なかなか更新できていないにもかかわらず、お越しいただいただけでもありがたいのに、ひっそりと差し替えておいたお礼画面にも気づいていただけて嬉しかったです^^
ありがとうございました!

そのほかにも。
更新が止まっていたにも関わらず、ぱちぱちしていただけてありがたいやら申し訳ないやら…。
ご厚意に報いるためにも、もうちょっと更新ペースを上げる努力は怠らないようにしたいと思います。



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たなばたなもうそうをはきだしてみる

2011-07-07 23:58:58 | もうそうはきだし中
とある本を読んでいた際に降ってわいた妄想を文章にしたらこうなりました。
高校生な2人のお話です。


今日は一緒に帰ろう。
そう約束したのを知っているから、気を遣ってくれた文惠ちゃんと愛子ちゃんは先に帰ってしまった。静まり返った教室にいるのは私一人。たまたま研一さんは日直の日で、書き終えた日誌を提出しに行っている最中だ。何かをするには中途半端な時間だから、研一さんを待っている間、何となく窓の外を眺める。外は雨。ここ数日ずっとこんな天気だ。もうそろそろ梅雨が明けても良さそうなのに、今年は雨の神様がまだまだ仕事をしたいらしく、なかなか梅雨は明けそうにない。
「どうしたの?」
ふっと溜息をこぼしたところで声をかけられた。何があるのかかと窓の外を眺め、何もないことを確認すると研一さんは空いている席に腰を掛ける。
「今年も雨なの。」
それだけしか言わなかったのに、私が何を言わんとしているのかわかってくれるあたり、さすが研一さんだ。
「新暦だとどうしてもそうなるよね。」
「年に一度しか会えないのに、雨が降るとその年は会えないのよ。寂しすぎるわ。」
好きな人がそばにいる幸せを知っている身としては、好きな人がなかなか会うことが出来ないほど遠い所へ行ってしまうのがとても辛いことだと容易にわかる。会いたくても会えないのはきっととっても切ない。それが織姫と彦星、自ら招いた災厄だったとしても。七夕の物語が単なる伝説だとわかっているけれど、やっぱり七月七日の夜は星空を眺めながら織姫と彦星の年に一度の逢瀬に思いを馳せたいものだ。
「あのさ。」
少し重くなった空気を掃うように研一さんが遠慮がちに口を開く。
「旧暦って月の満ち欠けで日にち数えるよね。」
唐突な発言に私が首を傾げれば、もう少し話を聞いていてとその目が言っている。研一さんは研一さんなりに何か思うことがあって話を切り出したのだし、それに研一さんが無意味な話をするはずはないもの。私は黙って研一さんの話を聞くことにする。
「旧暦七日の月は月齢七の月。ちょうど半月だね。半月ってちょっと傾ければ船の形に見える。そして地球の自転と公転の関係で星も月も毎日移動している。だから、旧暦七月の初めの星空って月の船が牽牛星を乗せて織女星に向かっているように見えるんだ。雨でかささぎの橋が流されたら、月の船に乗って彦星は織姫に会いに行くんだよ。…と、この前読んだ本に書いてあった。」
お月様の船なんて、とってもロマンティックな響きだ。私には思いつかない発想にさすが研一さん、と感動していたのに、他人の受け売りだったとは…。でも、雨が降ったらもう会えないのではなく、雨が降っても会えるのだとわかったおかげで随分と気持ちが楽になった。
改めて窓の外を見れば、まだまだ雨は止みそうにない。きっと天空のかささぎの橋は増水した天の川に流されてしまっている。だけど彦星は、織姫の元へ向かうためにお月様の船を一生懸命漕いでいるのだろう。
「会いに行くよ。」
お月様の船を漕ぐ彦星とそれを待っている織姫に思いを馳せていると、不意に研一さんが呟いた。
「かささぎの橋がなくなっても、お月様の船がなくても、どんなことをしてでも会いに行くから。」
もしも私たちが織姫と彦星の立場になったとしたらどうなるんだろう。そんな私の心配は研一さんにはお見通しだったらしい。
「私も。どうやったら貴方に会えるかをいっぱい考えて、必ず貴方に会いに行くわ。」
研一さんの力強い言葉が嬉しくてそう応えれば、研一さんはそっと目を細める。
「これ以上雨が強くなる前に帰ろうか。」
本当はもう少しこうしていたいけれど、さっきより若干強くなった雨足を見ればそうも言っていられない。名残惜しい気持ちをそっとしまうと、先に立ち上がった研一さんに差し伸べられた手に捕まって立ち上がり、校舎の中にほとんど人が残っていないのをいいことに、そのまま手をつないで教室を後にした。

明日の準備も終わり、そろそろ眠ろうかと思った矢先に電話が鳴った。ディスプレイに表示されたのは『研一さん』。こんな時間にどうしたのかしら、と訝しみながらも通話ボタンを押す。
「もしもし?」
「こんな時間にごめん。ちょっとだけ、いいかな?」
「いいけど…何かあったの?」
「窓の外、見てみて。」
言われるままに窓辺へ行き外を眺めれば、雲の切れ間にはぽっかりと浮かんだお月様の船。いつの間にか雨はあがっていたけれど、一時的なものらしく、まだまだ大量に湿気を含んでいると思しき雲が時折お月様の船の船底をかすめていく。さながら大海原に浮かぶ船が波をかき分けて進んでいるかのように。
「織姫と彦星は無事に会えるかしら?」
「大丈夫。きっともうすぐ会えるよ。」
しばらくそのまま空を眺めていると、程なくして雲の切れ間に一つだけぽつりとまたたく星が見えて、また見えなくなる。すぐにお月様の船も雲に隠されて見えなくなったから月と星の正確な位置はわからなくなったから断言はできないけれど、月と星はそんなに離れてはいなかった。だからきっと、もうすぐ二人は逢える。
「教えてくれてありがとう。」
「どうしまして。それじゃ、また明日。…おやすみ。」
「おやすみなさい。」
挨拶を交わして電話を切った後にもう一度空を眺める。真っ黒な雲に覆われてもう何も見えない。二人の出逢うところが見られなくて残念だけど、きっとこれで良かったのだ。
一年ぶりに逢えたんだもの。ゆっくり二人だけの時間を楽しみたいはずだから。
誰にも邪魔をさせることのないよう、空に引かれた雲のカーテン。そう考えると、七夕の日の雨雲もまんざら悪いものではないのかもしれない。


参考文献:
女/性/を/宇/宙/は/最/初/に/作/っ/た
佐/治/晴/夫/著・春/秋/社
参考文献というより、感銘を受けたという方が正しいような気がします…。
この先生のお話はとってもお勧めです。機会がありましたら是非!!
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