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観たい映画だけしか観てません。今忙しいんでいろいろ放置

『ルルドの泉で』 (2009) / フランス・ドイツ・オーストリア

2012-05-09 | 洋画(ら行)


原題: LOURDES
監督: ジェシカ・ハウスナー
出演: シルヴィ・テステュー 、レア・セドゥー 、ブリュノ・トデスキーニ
観賞劇場: アップリンクX

公式サイトはこちら。


昨年暮れに公開されていたのは知っていたのですが、年末年始がどうにも多忙で時間が取れず、遂に見逃したかと思っていましたが、偶然この週にアップリンクで上映があったのを見つけることができ、チャンスを捉える事が出来ました。 よかった。 
シルヴィ・テステューとレア・セドゥなんで、これもどうしても観たかった作品でしたし。


聖母マリアが出現した奇蹟の泉があるというルルド。ピレネー山脈のふもとに位置するこの地には世界中から奇蹟を求めて人々が集う。 
そして数多く奇蹟を求めて訪れる人たちの中に、若くして病にかかったクリスティーヌ(シルヴィ・テステュー)もいた。 本作はルルドの泉を訪れるツアー客と、その世話人たちの中で起こるドラマである。


ツアー客の多くは不治の病であったり肢体不自由の境遇で、病人には1人につきほぼ必ず世話人がいる。 しかしながら病気ではない人もいる。 観光目的だったり、孤独を癒しにツアーに来たりする人もいる。
結局、ツアー客の全てが病人ではないというのが本作のポイント。 つまり「奇蹟」を求めて来る人ばかりではなく、その奇蹟自体に大してありがたみを感じない人もいるということ。 そしてこのツアー参加者に限らず、人の境遇というものは人の数だけ存在しており、物事に対しての見方も様々である。


この映画の中でも何気ない動作に人の心の動きが見え隠れしており、それが非常に面白くもありゾッとするところでもある。
クリスティーヌの世話人は彼女よりも若くて健康なマリア(レア・セドゥ)であり、当然ながらマリアとしてはクリスティーヌの世話は「仕事」としてのもので、それ以上クリスティーヌの胸中を察してあげようなどとはさらさら思ってはいない。 仕事が終わればイケメンたちと過ごす方が彼女にとっては重要なこと。 しかしながらそれを間近で見させられるクリスティーヌにとってはこれほど酷なことはない。 自分もみんなと同じように生きたい、恋も仕事もしたい。 それを見せびらかされることほど屈辱なことはないのに、これ以上の怒りはないのに、誰もそれに気がつかないことにもさらに怒りが募る。 


病人同士、お互い希望が持てないからこそこのツアーに参加している者同士としては、その不自由な境遇を分かち合うというか、あなたも私も同じ身の上なのよね・・・と慰め合うことによって同じ空間にいられる部分がある。
だから奇蹟は誰か1人の元に起こってはいけないのかもしれない。 何故なら奇蹟が起ころうものなら、今まで保ってきたツアー内の「奇蹟を求めて集う方たちに快適に過ごしていただきたいと願う」バランスが一気に崩れおちてしまうから。 
病人と言えども程度の差はあり、「あの人の方が自分よりも見込がない」と見下して自分の立ち位置を確保することを心の支えにしている人もいる。 なので、自分よりも症状の重い者に奇蹟が訪れることなど決してあってはならないのだ。


しかしながらその奇蹟がクリスティーヌに降臨したことが、当然としてこのバランスを全て狂わせていく。
論理として説明不可能な奇蹟も、実は医学では理由が解明できることもあるのだが、それでも一旦奇蹟が訪れたクリスティーヌにとってはこの上ない極上の幸福なのだ。 そしてその彼女の様子は、同じ病人仲間のみならず、健常者たちにまでバランスを覆させることとなる。 健常者にとってももちろん病人は「自分より下の地位にあることによって優越感を得る」存在なので、幸福になってしまってはならない存在なのだろう。 
とは言え全ての健常者がそのように思っている訳ではなく、皆の心が混乱している状態の中で、誰が一体クリスティーヌの味方なのかが分かってくる。 それは介護人たちでもなければツアーの主催者でもなければ牧師でもない。 肩書きがありさえすれば、それが心の程度を物語る訳ではないのだ。
自分よりも人が幸せだとわかった瞬間に、その人の心のレベルが図れるように思えてならない。 ある者は心から祝福して寄り添い、またある者はあからさまに敵意を見せ、また違う者は蔭でその幸せを嫉妬し、そしてまた違う者は自分が不幸な要因を持つことをひたすらに隠し、また別の者は全く無関心となり。 1つの出来事で、人の本質が明らかになってしまう縮図が、本作では見事に描かれている。


「永遠の奇蹟」というものはもしかしたらないのかもしれない。 あるといいと万人が願うが、そうでないのかもしれない。 そうでないのかもしれないと悟った時、一縷の望みがプツンと途絶えた時、それでもいいと現実を受け止められる力が出るのか否か。 そこでまた人間の本質が試される時なのだろう。 最後のクリスティーヌの微笑、そしてバックに流れる"Felicita"を無邪気に歌うアンナ。 幸せを手にしたばかりの人間を嘲るかのような皮肉が訪れるラストシーンが秀逸。 よくぞこれをワンシーンに閉じ込めたものと思う。





シルヴィ・テステューは一見無愛想に見える表情が本作では生かされる役だった。 無愛想に見せつつも自分の欲しいものには貪欲な姿もまた本能で、ぶつけようのない怒りを押しつぶし、そして底なしに奇蹟を満喫する姿もいじらしい。 対照的なレア・セドゥの偽善者っぷりもお見事。 そしてリーダーのセシル役のエリナ・レーヴェンソンの何気ない言動にも深い意味が隠されている。
介護人さんたちの制服が可愛かったですね。 赤いカーディガンや三角の頭巾は可愛らしくもあり、同時に男心の妄想も激しく掻き立てていて、たぶん女性たちを4割増しくらいに見せてる制服なのかも。 
でも日本でもこのくらい自由な雰囲気で介護人さんが振る舞っていてもいいのではという気もする。 彩りのある外見はそれだけで希望が持てるような気もする。


★★★★★ 5/5点





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6 Comments(10/1 コメント投稿終了予定)

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こんばんは (ノラネコ)
2012-05-19 22:57:11
ルルドの奇跡をフックにして、人間心理を描いた秀作でした。
奇跡が静かな湖に投げ込まれた石の様に、波紋を広げてゆくプロセスは興味深かったですね。
あのボランティアの制服は確かにチョット萌えました( ;´Д`)
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ノラネコさん (rose_chocolat)
2012-05-23 00:11:09
たった1つのツアーに込められた、執念にも怨念にも似た想いの複雑さが見事に描かれてましたね。

あの制服萌えましたよね? 赤のカーディガンって男性はいろいろそそられそうなんじゃないかと勝手に思いながら観てました。 笑
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こんばんわ (にゃむばなな)
2012-06-29 20:26:11
人間関係の描き方が秀逸でしたね。
奇蹟を通してこうも人間の醜い部分が見えてくるとは。
奇蹟なんて望んでも起こらないことだと頭では分かっていても心で理解するのは難しいってことなんでしょうかね。
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にゃむばななさん (rose_chocolat)
2012-06-29 21:55:10
人の心の醜い部分が、聖地で出てしまうという矛盾ですよね。
清めているのにちっとも心は綺麗じゃない、という、巡礼のパラドックスです。
一瞬でも奇跡を味わったクリスティーヌ、この先どうするんでしょうね。。
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奇跡で、 (ボー)
2013-04-24 23:45:58
治ったと認定された例はあるみたいですが、個人的には信じられませんよね。

人間、わがままなものだなというのが見えてきちゃいます。

シルヴィーさんって若いのかどうか、よく分からない…
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ボーさん (rose_chocolat)
2013-04-25 00:42:32
人間は残酷ですよね。
思いやりって、結構簡単に捨てられるものだったりするし。
嫉妬心も漏れなく持ち合わせてる。

シルヴィ・テステューは、1971年生まれの42歳ですね。
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