原題: TYRANNOSAUR
監督: パディ・コンシダイン
出演: ピーター・ミュラン 、オリヴィア・コールマン 、エディ・マーサン
試写会場: 京橋テアトル試写室
2011年サンダンス映画祭外国映画部門監督賞受賞
映画『思秋期』公式サイトはこちら。 (2012年10月20日公開)
第24回東京国際映画祭『ティラノサウルス』ページはこちら。
webDICEさんのご招待で行って来ました。 いつもありがとうございます。
本作、昨年のTIFFでは『ティラノサウルス』というタイトルでWORLD CINEMA部門に出ていたのは知っていましたが、スケジュールが合わずチョイス出来なかったのでした。こうして配給が付いて公開されて何よりです。
主演の3人は、たぶんどこかで作品を観ているのだとは思いますが、こうしてクローズアップされてそれぞれの演技をじっくりと見るのは初めて。3人ともとてもよかった。

あらすじ: 失業中のジョセフ(ピーター・ミュラン)は、酒浸りの上に感情の抑制が利かない中年男。酒に酔っては周囲の人々とトラブルを起こすという、怒りと暴力ばかりの毎日に精神を疲弊させていた。そんなある日、ひょんなことから彼はチャリティー・ショップの女性店員ハンナ(オリヴィア・コールマン)と知り合う。朗らかで機知に富んだ彼女と接することで、今まで感じることのなかった平穏な気持ちを持てるようになるジョセフ。次第に交流を重ねて固い絆を育むようになる二人だったが、ハンナが抱えるある秘密をめぐる事件が起きてしまう。(シネマトゥデイより)
一体何についてそんなに怒りを向けているのか?
そう思いたくなるくらい、街を歩いただけで様々なものに対して違和感を持って暴力をふるうジョセフ。彼は身の周りで起こる無秩序や無礼、非常識については見過ごすことができない。
昔の価値観が失われて、自我と横暴が幅を利かせる日常にはうんざりしているジョセフ。一見破天荒にも見えるけど、内面はナイーブで傷つきやすく、お人よしで面倒見がよく、義理人情に厚い男であることがわかってくる。
それでも彼の暴れっぷりには首をかしげたくなるくらい無茶ぶりが多いが、その理由がはっきりとわかるのは、彼が悔いてきたいろいろなこと、とりわけ前妻への愛を素直に表現できなかった件を語り出す所から。
素直になればいいのに、いつもなれなくて、それをそのままに過ごしてしまったことへの後悔。ジョセフはそのことを暴力の中に隠しながら生きてきた。そんな彼が妻の死後、初めて自分をさらけ出したのがハンナだった。
そのハンナもまた人に言えない秘密を抱える中年女性だった。
人にはいつも明るい自分を見せたい、でも人知れずどうしようもない苦悩を抱えて泣き崩れる日々。逃げ出したいけどそれも叶わない「翼のない鳥」のような日々。
そのハンナが心を許せたのは、粗野だけどどこか温かみを感じたジョセフだった。
人生を半分終えて、どうしようもなく心に溜まった澱のような苦労や疲労や悲しみや後悔。それをそのまま人に伝えられるというのは、その相手に対して余程の信頼がないと無理な話。その相手としてジョセフとハンナはお互いを選んだ。
深く深く傷ついた心を癒すには、同じくらいの痛みを知る人でないといけない。本能的にそれを見抜いて、そして人生の終盤に差し掛かった2人は、じっくりと機が熟すのを待つことを選択した。もう十分待ったけど、まだ待たないといけないならそのくらいどうってことはない。晴れて堂々と共に歩めるその日まで、信じて待つ。
若い頃には絶対に考えられなかった選択ができるようになったのも、それまでの人生の経験が教えてくれたからなのだろう。会うたびに美しく、落ち着いた雰囲気になっていく2人の姿はすがすがしいものがある。
★★★★★ 5/5点
これ、分かりやすい物語ではないし、最後解決にもなってないんですよね。
なかなか噛みごたえがある上に後味が爽やかでもないので、公開はされないかと思ってましたー。
人入るんでしょうか、ちょっと心配。
>分かりやすい物語ではないし、最後解決にもなってない
うん、確かに。
でもラストがすごく表情がよかったし、私は希望を見ました。
ハンナが美しいじゃないですか。信頼できる人を得るとあんなにも美しくなれるんですよね。
>噛みごたえがある上に後味が爽やかでもないので、公開はされないかと
そうですね。俳優さんたちも地味ですし。
だからこそ改めて配給して下さったことに感謝したいです。こんなすばらしい作品を見せてくれてありがとうですよね。
曇り空から差し込む太陽の様に、あそこから新しい人生の物語が始まってゆくのでしょう。
シネスコ画面の落ち着いた画作りも好みで、とても初監督とは思えない老練さを感じる作品でした。
パディ・コンシダイン、監督としても注目ですね。
最後の二人は美しかったですね。魂がどんどん浄化されていくかのように。
人は希望が見えるだけで見違えるようになれるんですよね。
>パディ・コンシダイン
初監督なんですね。素晴らしいです。これだけのものを作れるなんて。チェックしたいと思います。
ビックリの連続でした。
渋く「人生の秋」を見つめた映画かと思いきや、
あの、犬にはじまり、
途中での
全く予想もつかなかった展開。
生真面目に売るよりも
違う売り方ができなかったのかなあ?
まあ、俳優が俳優ですから難しいかも。
確かに文芸調っぽいですもんね。
でもこれっていろんな面があるから、こうと絞り切れないんじゃないでしょうか。
恋愛あり、社会問題もあり・・・。
盛りだくさんなんだけどそれを感じさせず、最後しっかりとまとめていたのがよかったです。
だから自分のことを理解してくれていた亡き妻への後悔がより彼をツンデレにしてしまう。
彼の亡き妻への思いを語るシーンを見ていると、ふとそんな気がしましたね。
いや~本当にいい映画でした。
そんなの言わなくてもわかるだろう、って言われても、わからないものはわからない。そうして伝わらなかった時に後悔していくんだと思います。
1度失敗して、そのわだかまりをいろんな所にぶつけてぶつけて、でもやっぱり最後は落ち付くべきところを探していた。私はこういう正直な人間が好きです。
渇きと孤独にあえぐジョセフという男も、
その後のふたりの関わりも、かなり日本人好みの映画だと思ったのですが。
武蔵野館の午後の回、結構入っていて、
終盤は女性の方の啜り泣きが絶えませんでしたよ・・・。
>深く傷ついた心を癒すには、同じくらいの痛みを知る人でないといけない
仰るとおり、
だからこそ引き合い、待つことも出来るのでしょうね。
単館公開ですけど頑張ってほしいなあ。
私ももう1度行きたいくらいです。