ホセ・クーラのオペラ新スケジュール、母国アルゼンチンのテアトロコロンのアンドレア・シェニエへの出演が正式に発表されました。
2017年12月、ダブルキャストによる全6公演のうち、クーラ出演は5、10、13、16日の予定です。
実は当初は、同じテノールのマルセロ・アルバレスが出演する予定でしたが、契約関係の変更が理由となって、アルバレスがキャンセル。クーラに出演依頼が回ってきたようです。
アルバレスとクーラは、同郷で、生まれ年も同じ友人同士です。2人については以前の投稿でも紹介しています。
クーラがテアトロコロンに出演するのは、2015年のクーラ演出・舞台デザインによるカヴァレリア・ルスティカーナと道化師の公演(クーラは道化師のカニオのみ出演)以来。それ以前は、2013年のクーラ演出・舞台デザイン・主演のオテロ、2007年のサムソンとデリラ(コンサート形式)、そして初出演が1999年のオテロでした。
クーラは20代の頃に、奨学金を得てテアトロコロンの付属芸術学校に所属、さらにその後も合唱団で歌っていたことがあるそうです。指揮者と作曲家をめざしていたクーラにとって、夢の実現はなかなか困難で、また歌でも評価されることがなく、チャンスを求めて1991年にイタリアに渡りました。その後、テノールとして認められ国際的キャリアを広げ、テアトロコロンの舞台に主演として初めて出演したのが1999年のオテロだったのです。それ以来、18年間の出演は前述の4回のみで、今回が5回目の出演となります。
→ クーラ演出のカヴァレリア・ルスティカーナと道化師の公演についてはこちら。
→ クーラの音楽家、アーティストへの歩みについてはこちらをお読みください。
→ また、クーラの祖国アルゼンチンへの愛と複雑な思いについてはこちらで紹介しています。
テアトロコロンのアンドレアシェニエのページ(クリックで劇場サイトに)
5,10,13,16 / 12 /2017 Teatro Colón
GUEST MUSIC DIRECTOR Christian Badea
MUSICAL DIRECTOR Mario Perusso *
STAGE DIRECTOR Lucrecia Martel
SCENOGRAPHY DESIGN Enrique Bordolini
COSTUME DESIGN Julio Suárez
ILLUMINATION DESIGN Enrique Bordolini
ANDREA CHÉNIER José Cura / Gustavo López Manzitti *
CARLO GERARD Fabián Veloz / Leonardo Estévez *
MADDALENA Maria Pía Piscitelli / Daniela Tabernig *
BERSI Gaudalupe Barrientos / María Luján Mirabelli *
MATHIEU Hernán Iturralde / Gustavo Gibert *
* Extraordinary Functions
演出家はルクレシア・マルテル、1966年アルゼンチン生まれの女性で、映画監督、脚本家だそうです。クーラより若い方のようですね。
クーラが出演することの告知ページ(同上)
キャンセルしたアルバレスとクーラは、同い年で同じテノールとはいえ、声質も個性も、歌唱スタイル、演技スタイルも全く違っています。
アンドレア・シェニエの同じプロダクションで2人が歌っている動画がありましたので、聴き比べを。
このプロダクションは、ジャンカルロ・デル・モナコ演出のボローニャの舞台でクーラが来日公演(2006年)、DVDにもなっているものです。
2つの舞台は、衣装などが若干違っていますが、同じ演出のものだと思います。
●まずはアルバレス。とてもリリックでやさしい声、丁寧で柔らかなメロディラインです。
Andrea Chénier - Marcelo Alvarez
●こちらはクーラの2006年の舞台。強い声、迫力ある歌唱です。
Umberto Giordano Andrea Chenier 'Un di all'azzurro spazio' Jose Cura
このように大きく違う2人の個性。聴衆の好みも分かれるところだと思います。このキャストチェンジ、テアトロコロンの聴衆は、どう受け止めてくれるのでしょうか。
クーラの歌唱には、クーラとしてのシェニエの人間像と時代背景などを踏まえた作品解釈、キャラクター解釈があります。
以前の投稿で、クーラのシェニエ論、解釈を紹介していますので、お読みいただければうれしいです。
→ 「アンドレア・シェニエの解釈――信じるものを守るために」
また上で紹介したシェニエのアリアについて、クーラの述べた部分を再掲します。
――ホセ・クーラ アンドレア・シェニエについて 2014年ストックホルムでのインタビューより
≪彼らは変革の萌芽≫
彼らは人々の魂に向けて語る。画家、作曲家、演奏者、哲学者、詩人など、いわゆる知識人であり、彼らは常に変革の萌芽である。
そのために彼らの多くは、身体的または社会的な死をも含む高い代償を払ってきた。アンドレア・シェニエはそうした人々の1人。彼は両方の代償を払った。最初は社会的な信用を奪われ、そしてギロチンに。
私自身が一種のドン・キホーテなので、シェニエであることにくつろぎを感じている。
シェニエの性格と精神を明らかにしている"Improvviso"(独白)は、真のプロテスト・ソング(抵抗の歌)だ。
(テアトロコロン 外観)
クーラがシェニエに出演するのは、2014年のストックホルム王立歌劇場のプロダクション(トップの写真)以来です。その前は2013年のウィーンでした。
ストックホルムの録音は見当りませんでした。なので2013年のウィーンでの「5月の晴れた日のように」が入っている録音をYouTube(音声のみ)から。
1999年、2001年、2004年、2013年のクーラのこの曲だけが続けて入っています。
José Cura Andrea Chénier "Come un bel dì di maggio" 1999~2013
********************************************************************************************************************************************
クーラの2年ぶりの母国でのオペラ出演が大きく成功することを願っています。またテアトロコロンは、ライブ放映やラジオ中継に熱心なので、クーラのシェニエもぜひ、放送をお願いしたいです。
またシェニエは、クーラが、人間的に共感できるオペラの登場人物としてトスカのカヴァラドッシとともにあげているキャラクターです。このシェニエでも、クーラの演出・舞台デザイン、そして主演の舞台が、いずれかの劇場で近いうちに実現することを期待しています。
(テアトロコロン 内部)