山王アニマルクリニック

日々の診療、いろんな本や音楽などについて思い巡らしながら、潤いと温もりのバランスを取ってゆこうと思います。

絶対症状でググるな!

2020-02-12 20:21:09 | 医療の波打ち際

 

この曲、前回書いた『マチネの終わりに』の作者平野啓一郎さんのTwitterで知ったのですが…いや~心ある医療関係者ほど大ウケでしょうねぇ!

(平野さんはわかってくれたが、医療関係者以外はわかってくれるのだろうか?)

歌っているヘンドリック・ヴィーディグリアンさんは、スウェーデンの耳鼻咽喉科医だそうです。

なんだかおかしい医療や科学の実態(他の曲もあり)、そしてネット情報の胡散臭さをこんなユーモラスに表現するとは!――アメリカ人もびっくりでしょう!!

友人の奥さんも、午前中に病院へ行ったのに「子どもの熱が下がらない…」と心配になって、いろいろとググってしまったようなのです。

すると「熱が下がらない場合は…白血病の疑いが…」みたいなことが書かれているではありませんか!

友人はそれまでの経過から「大丈夫だよ」と言ったそうなのですが、奥さんはググればググるほど心配になって…夕方違う病院へ行くことに……。

すると、小児科にはもっと重症そうでゲホゲホと咳をしている子が何人かおり、その近くには遊具コーナーが!

無症状だった弟くんは目を輝かせ、そのコーナーへ飛んで行き、汚染しているかもしれないオモチャをベタベタと触りまくる事態に!!(子育てあるあるですよね~)

311の原発事故で経験しましたが、見えないゆえに、ネガティブな想像力をかき立てられるものって、人によっては想像以上の爆発力を持ってますね。

その小児科の先生は、病の経過を聞き、母親の心配をしっかりと受け止めた後…「白血病の子はこんなにいい顔色してないから大丈夫よ!」と笑顔で言ってくれたそうです。

電子体温計はバグというかムラがある製品があったり、測り方によっても正確性は失われるので、何度か測ってみたり、数値だけでなく、顔色や活力(目に力がないなど)の症状(東洋医学的には脈診や舌診もあります)も考慮して判断した方がいいでしょう。

以前、軽症ケースであったにもかかわらず、後にネットを見て心配になった飼い主さんから、「なんで(ネットに書いてある通りの)検査してくれなかったんですか!」と電話で怒られたこともありましたね。

当院では生死にかかわる緊急性がなければ、必要に応じて段階的に検査をします――実は一部の医療関係者も気づいていない過剰医療による医原病もけっこうあるので、体に負担がかかって本末転倒となりうる検査ほど慎重に!

こういうことは今問題の新型コロナウィルスにも関係することなので、医師が書いた共通項の多い記事を貼っておきます。

OGPイメージ

新型コロナで「情報汚染」されたメディアが報じない「5つの真実」(現代ビジネス) - Yahoo!ニュース

毎日のように、新しい感染者が発表される新型コロナウイルス肺炎。国内流行に伴い、SNSに「お湯で予防できる」などのデマが飛び交っていることが報...

Yahoo!ニュース

 

印象的な所を一部抜粋&コメント:
①もともと新型コロナウイルス感染に対するPCR検査は感度(感染している人の中で陽性の結果が出る確率)が高くはなく、30~70%程度といわれている→100%正しくないのに、陰性、陽性と白黒はっきりついてしまう検査のせいで、素人もプロ?も混乱。

PCR検査の感度は、臨床系の方は70%くらいがリーズナブルで、基礎系の方は90%以上と言っている傾向があるように感じます。日本では五輪開催のため陽性者を減らしたい?そして検査代をケチりたい勢力と前者が、検査でもうけたい勢力?と後者がごちゃ混ぜになって、本来ならば協力し合える人たちまでが、ネット上で言い争っているようで悲しくなりました。

お互い自分の専門のプロ・スイッチみたいなものが入ってしまうと融通がきかなくなってしまうのかもしれませんが、情報伝達の高速化と新型コロナの相乗効果によって、ここまで世界が混乱するとは思いませんでした。

信頼できると思っていた人が??なことをしてしまったり、ごちゃ混ぜ傾向は増え、より難しいかじ取りが必要な時代になってきているのでしょう。

PCRも抗原検査もメーカーによってクオリティが違うから、さらに議論がすれ違ってしまうんですよね。

まあ、芸能人などでも5回目でやっとPCR陽性…なんて話もありましたし、臨床をやっていると、高度な検査とやらにガッカリさせられた経験も多いのです。

外注しなければいけないので、PCRの臨床的手ごたえに関して私は経験不足であり、偉そうなことを言える立場にありません。しかし新型コロナにも使われている抗原検査が当てにならないのは臨床上強く実感しています。だから、このような新しい感染症の場合、PCR検査をしていくしないというのはもっともな意見です。)

②「検査を行っても治療法や対処法が変わらない場合、その検査は行う意味がない」と考えるのが医学の原則なのだ→権威に弱く、ただ上から言われたことだけやっている人に不足しがちな、問題を解決するための想像力ですね。

③ワイドショーに出てくる「検査を断られた」という例は、多くの人が二度、三度と病院を変わり、ドクターショッピングしている。複数の病院を受診すると、かえって適切な診断がなされないことがあることを覚えておいたほうがいいだろう→情報過多&時間に追われる現代人の悪循環なのですが、動物病院でもあるあるな話…明らかにおかしい病院もあれど、「後医は名医」とよく言われます。

④中国からの論文では、発症した全患者の中で院内感染が4割を超えるという報告もあり、中国では医療従事者への感染が問題になっている→新型コロナは、80%は軽症で済む中、症状が曖昧で病の経過が長く、それに伴ってウイルス感染リスクも長期化!…と、まさに効率化社会の苦手分野!

 

結局、動物病院に限らず、どこの業界でも検索してもいないのに出てくるような所ほど高額の広告費を払っているし、そういうことをしないと来ないようなヤバイ所ってことです。

ネットの世界は、恐怖を煽ったりしてサプリだの何だのを売りつけようとするような輩がみなさんが思っている以上に強いので、お気をつけ下さい(みなさん、けっこうダマされてますよ)!

アマゾンなどの口コミでもこんな実情があり(→Amazon.co.jpに蔓延る不正レビュー問題)、この記事で書かれている「不正をすることで得られる利益と、不正に対する罰のバランスが取れていないため、ズルをした方がお得......な状態なんですよね」というのは、考えてみればネット社会全般に言えることなのです。

ネット情報は話半分以下にして、リアルな知り合いの口コミなどで信頼できる病院などを探しましょう!!

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マチネの終わりに

2020-02-07 20:15:43 | 音を楽しむ

 

終わり良ければすべて良し……誰でも耳にしたことのある言葉だと思いますが、これはAll is well that ends wellというシェイクスピア作品からきているんですね。

でも世界中で加速化する、不正やウソがあってもデジタルでマジョれば?…という風潮に人類は飲み込まれ……よくよく振り返れば、時を経る度、過程の大切さも浮き彫りに……。

この小説は、そんな世の儚い移り変わりについて、タイミングの悪さはあれど、自らの行いによっても思い至る以上のものが――良くも悪くも――変わりゆくことについて、まず想像を拡げてくれると思います。

作者の平野啓一郎さんは、最近一番好きな作家で、私なんかより全然優秀な方なのですが、好きな音楽がけっこう共通しているのです。

方向転換しにくい年齢に達した男女のラブ・ストーリーが軸となっているのですが、物語の視野は広く、7000億ドル(約70兆円!)もの公的資金が投入されたリーマン・ショック関係(誰か責任取ったと言えるのか?アメリカは厳しいんじゃなかったの?)のことや、世界で最も複雑と言われるユーゴスラビアの民族紛争などが、続きが読みたくなるリズムに沿って絡められています。

いろんな読み方ができる小説だと思いますが、私が強く印象に残ったのは、バッハに関する記述です。

バッハ一族のルーツや三十年戦争(カトリックとプロテスタントの対立を契機とする最後で最大の宗教戦争と言われる)など、いろいろと調べたくなりますね。

トランス・レイシャルなドイツ詩人――リルケの詩の引用(平野さんが翻訳)も、バッハとのつながりを感じます。

このジャズ作品も、バッハによって頂点が築かれた対位法という作曲技法のもとに作られているそうです(『のだめカンタービレ』や手塚治虫の未完作『ルードウィヒ・B』にも対位法について出てきます)。

ネット上には――私欲か匿名の無責任さの中ではやけに勇ましい――分断を煽る言葉が世界中にあふれていますが、そんな中、Harmony Of Differenceというタイトルだけでも、胸に迫るものがあるではありませんか!

宇多田ヒカルさんは「最近行ったコンサートで誰が印象に残っていますか?」という質問にカマシ・ワシントンをあげています(→http://www.utadahikaru.jp/paisen2/)。

宇多田さんが観たライブでカマシが語った「いろんな人種、信仰、考え方(少し省略)…そういう違いは、互いにtolerate(耐える、寛大に受け入れる)対象ではなく、celebrate(祝う、讃える)べきものだ」という言葉が、まさにこの作品でも表現されているのでしょう。

『マチネの終わりに』に出てくる曲を、クラシック・ギタリストの福田進一さん他が演奏したCDも2種類出ているのですが…福山雅治さんと『逃げ恥』の百合ちゃん役を好演した石田ゆり子さん主演で映画化されたのには驚きました!(→https://matinee-movie.jp/

「バッハ無伴奏チェロ組曲」、このCDのために作曲された「幸福の硬貨」などいいですね~!

こっちはまだ買ってないですけど、ギター版ブラームス聴いてみたいですね(購入してみましたが、有名なドビュッシー作『月の光』なども入っていてオススメです)!

それと、秋のTBSドラマ『G線上のあなたと私』に出ていた女優さんが映画版マチネにも出ていたのでびっくり!――考えてみればこれもバッハつながりですね。

基本的には原作を先に読んだ方がいいのでしょうが、映画版マチネは、どちらが先でも楽しめる配慮をして作られているように感じました。

先ほどのCDでもギター・バージョンがあるようにバッハと言えば「無伴奏チェロ組曲」も有名ですね。

私、クラシックは少ししか聴かないし、テクニカルなことはわかりませんが、以前、銀座の山野楽器(クラシック充実!→https://www.yamano-music.co.jp/online/soft/)のCDコーナーで試聴できる「無伴奏チェロ組曲」をいろいろ聴いてみて、気に入ったのがこの作品です。

1、3、5番だけの廉価版なので、初心者向きなのでしょう。

 

バッハの音楽は、時代を超え、音楽のジャンルを超えて、小説や漫画にも影響を与え続けているんですね。

楽観は全くできませんが、これからも分断するための両論併記ではないもの(つながり合うための陰陽併記というか陰陽五行!?)は、無力なアートの中に脈々と受け継がれてゆくのでしょう。

ネット上でも、分断を煽る言葉には加担せず、切り離され、裏切られ、憎しみを駆り立てられても――混乱した時は『マチネの終わりに』を読んだり、バッハから連なる音楽を聴いたりして――最終的には、ゆるやかに響き合う言葉を、匿名の時こそ発信できたらいいですね!

匿名だからバレないと勘違いして悪口を書いたり、裏工作したりしている方々…カフェなどで友達と会って納得いかないことを悪口を含め語り合うのと違って、機械は残酷なまでに証を残します――今バズっているこのツイートをご覧ください→みちかげ on Twitter

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