かたむく暗箱

空想の暗室

本屋に入るやいなや

2005-09-01 21:34:26 | 写真と虚言

本屋に入るやいなや

「ご注文は?」と
ウエイター姿の男が注文票を手にし
鉛筆を小刻みに動かせている。

「速くしてくださいよ、速く」
うんざり顔が 小さな部屋に 
大きく一つある。

ぼくは
「あのー」と 言ったきり
言葉が続かない。

「ヤキソバ定食 それにしときますよ
決めてから入ってもらいたいよ」

小さな部屋を出て、廊下を歩き
長い長い時間歩き続けるのだが
廊下は果てしない。

ひき返したくないけれど
出口はどこなのか あの男に
尋ねるしかないとあきらめて
振り返る。

「食ってないのだから食い逃げって呼べないけれど
勝手に部屋から出て行ってもらっちゃ困るよ。
あのね、あんたの好きなエロ雑誌は
ヤキソバの下に 恥ずかしそうに隠れているよ」

小さな部屋には
じぶん一人しかいないのに
なんだか恥ずかしそうに
ヤキソバを食べた。

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