ポドールイの洞窟を攻略した後、一同はまっすぐポドールイの町に戻る事になった。
魔物との戦闘で傷ついた体を宿屋で回復させて、雪の降り積もる居城に難なく行ける様になった私達は、早速城内の通路を皆で通る。突きあたりの大きな窓がある場所まで来ると、レオニードさんが椅子に座って待っていた。
「朗報があるよ。ミカエル侯は無事に反乱を鎮圧する事に成功したみたいだ。早速ロアーヌに戻ると良い」
「お兄様が・・・そうですか。レオニード様、ありがとうございました。これからロアーヌへ向かいます」
モニカちゃんが貴族らしくお辞儀して、私達を促す。
皆が先に出口を繋ぐ扉へ歩き出している時、私は振り返って彼に近づき、この城にまた来て良いかと窺ってみた。
「レオニードさん、またこの城に遊びに来ても良いですか?」
嫌と言われてもまた来るけどねと、心の中でほくそ笑む。許可云々より、要は声をかけとけば怒られないだろうと企んだ。この城の地下の攻略もいつかしたいし、仲良くなればベッドやトイレ、お風呂も借りれる。したたかに生き抜く為だ。お釈迦様も許してくれる・・・あっ、この世界の亡霊で確か仏像もどきの魔物もいたっけな・・・。祈ってもムダだった!
「ニャオォォ・・・神も仏もない、罰当たりな世界だったのか」
「フフ・・・面白い事を言う。いいよ、またと言わずにいつでも来ると良い。君なら大歓迎だ」
立ち上がり、頭を抱えて悩んでいる私の傍まで来ると優しく抱き上げられる。吸血鬼特有の美貌を持つ、美しい顔の位置まで高く上げられると、こう告げられた。
「神聖な色を纏う純白の猫リオ、君が放つ微々たる闇に何処まで気付いているのか・・・」
「えっ・・・?」
「またおいで」
薔薇のほのかな香りが、私の鼻に微かに広がる。
額に口付けされて、いつの間にか雪が降り続くお城の外に居た。鼻先に当たる冷たい雪が、惚けた意識を現実に引き戻させた。
「さっ、さぶいっ、ブファックシュ!!」
その後ユリアン達が来て、一同は興奮と驚きに包まれる。
「外に出たらリオちゃんが居ないから、中へ一旦戻ったんだよ! レオニードさんに聞いたらもう外に居るって言うし・・・驚いちゃった」
「私も驚きました。外と中を繋ぐ通路は一本しか無いのに、私達に姿を見せる事無く外へ出たんですもの。不思議です」
「リオはホントに凄い猫だな。喋れるし、戦えるし、二足歩行できるし!! 大したもんだよ」
「城の扉が勝手に開く所から、考えるのを止めたんだ。今更どうにも言わないけどな・・・」
「リオッ、あんたはいつも急に居なくなるから、心配ばっかりさせて! でも見つかって良かったよ・・・」
サラちゃん、モニカちゃん、ユリアン、トーマスの順で心配された。
エレン姉さまにも強く抱き込まれ、しばし反省。移動した本人が一番よく分かってないんだから、皆に分かるわけない。彼らの優しさに触れて、皆でロアーヌへ戻る事になった。
―― ロアーヌ ――
ロアーヌ地方にある港町ミュルスから、ミカエルさんが治める城下町にやって来た。
町はミカエルさんの武勇伝で賑わっていたから、外で喋っていたおばさん達に事の成り行きを聞いてみた。ロアーヌ侯家の血縁でもあるゴドウィン男爵が、ミカエルさんのお父さん、フランツさんを暗殺した時から遡るらしい。
自分が玉座を持つ地位を狙いたいが為に、今回はモンスターとも協力してロアーヌを占拠した。それも、当主のミカエルさんが魔物の討伐で遠征して居ない時を狙ってだ。このタイミングの良さに、頭が切れるミカエルさんは疑問を持ち、ゴドウィン男爵が実行に移すまで動向を泳がしていたみたいだ。
予想が的面とはいえ、内部にいる部下からの裏切りに苦い思いを与えられたらしいが、最終的に反旗を翻してゴブリン軍団を奇襲したため、ロアーヌ軍にも戻れたと言うドラマをおばさんは片っぱしから喋る。熱が冷めるまで、暫くこの話題がロアーヌで持ちきりになるだろう。
モニカちゃん決死の逃亡が、功を成したのもある。
反乱の旨を聞いたミカエルさんが迅速に対応し、町に居る魔物も倒したんだ。見事にゴブリン軍団と、ゴドウィン率いる兵士達を退けた後、ミカエルさんとハリードは首謀者のゴドウィン男爵を退ける事に成功した。
「モニカ姫がご無事で良かった。あたしゃ、それが心配でねぇ」
「わしもじゃ。もうあの美人兄妹が見れなくなると思うと、心残りで死んでも死にきれんわい!」
「おばさん、おじいさん。心配してくれてどうもありがとう・・・」
「モニカ様・・・」
おばさんとおじいさんと別れ、ユリアンがモニカちゃんの背中を押して宮殿へと一同歩く。城下町よりも高い位置に建てられているから、見張り台から町やミュルスを一望できる造りとなっている。石造りの宮殿の中に入らせて貰い、少し進むと見知った顔を見つけた。
「ハリード!」
「よう」
玉座へと続く扉の近く、腕を組んで壁に寄り掛かっていた。アジアン風味の服を着て、曲刀を腰に引っさげるその姿は以前見た時と変わらない。思わず駆け寄って背中に跳び乗った。
「どうしたんだい、こんな所で?」
「おっさんの事だから、きっとミカエル様にがめつく交渉してると思ったよ」
紳士トーマスと、エレン姉さまが笑いながら喋りかける。皆の顔も晴々してるし、この一件がちゃんと落着したという事が伝わって来た。
「皆を待ってたのさ。さあ、中に入るぞ」
しがみ付いた私を背に乗せたまま、ミカエルさんが待つ玉座へと歩いた。
***
「この難局を乗り切る事が出来たのも多くの者達のおかげである。特にハリード、トーマス、ユリアン、エレン、サラ、リオ。お前達は私の家臣でもないのに良く働いてくれた。ロアーヌを代表して礼を言う」
玉座の前に佇んでいたミカエルさんが、私達に感謝の意を込めて答えてくれた。
猫である私はハリードにおぶさり、他の皆は横に並んで連ねられる言葉を聞いて行く。
上の人を敬う様な立ち振る舞いは皆も分からないので、本当に並んで立っているだけだ。モニカちゃんは、いつもの旅装束姿ではなく正装した姿で、もう一人手前で佇む髪の長い女の人と一緒に、ミカエルさんの一挙一動を見ていた。
「まぁ、当然だ「イイってことよ!」・・・ふぐっ」
「リオちゃん・・・」
ハリードの肩から顔を覗き出して、猫の手で口を塞ぐ。いつものがめつい発言を遮ってやった。
懐が広いミカエルさんは、それでも恩賞を取らせてくれるみたいだ。正装したドレス姿のモニカちゃんが皆にお礼を伝え、最後は談笑に浸る。
*****
ゴドウィン男爵から無事にロアーヌを取り戻したお礼も兼ねて、ミカエルさんが私達をロアーヌの宮殿で泊まらせてくれる事になった。勿論夕ご飯もご馳走になって、祝杯を挙げる兵士の人達と笑い合う。
「イッキ、イッキ!!」
「プハァァ〜〜! 」
「いよっ、猫のお嬢ちゃん、威勢がイイネッ」
「猫舐めんなよ! 何でも飲めるよっ」
毛むくじゃらの左手を腰に当て、ジョッキの手で持つ部分に右手を突っ込んでオレンジジュースを一気飲み。ポッコリと出た白いお腹を撫でて、座っていた椅子から降りて床にごろ寝する。
食堂の一室を借りての祝杯は、宴たけなわだ。料理人さんが忙しそうに食べ物を作り、侍女さんも兵士の人達にお酒を注いでいる。無礼講のお祭り騒ぎに、ハリードやミカエルさんも楽しくお酒を飲んで、ユリアンとトーマスはお肉料理にかぶり付き、モニカちゃん、エレン姉さま、サラちゃんがデザートを食していた。
お腹を上にしてそのまま寝そうになった時、近くに誰かが寄って来た。
「白い猫? 私はカタリナと申します。この度はモニカ様の助力に貢献してくれた事、真にありがとうございます」
「えっ、あっ! 私はリオって言います。私の方こそモニカちゃんに助けて貰う事もあったし、そんなに大した事はしてないんですが・・・」
しゃがみ込み、視線を合わせて感謝の言葉を告げられる。
紫色の長い髪を纏め上げ、しっとりしたビロード調のドレスが彼女の美しさを引き立たせる。彼女に近付いてみたくて、白い手を伸ばしたら横から抱き上げられた。
「リオちゃん、彼女は私の侍女のカタリナで、剣の腕前も一流なの」
「よろしく、リオ様」
「猫ですが、よろしくお願いしまっす!」
モニカちゃんに抱き上げられた私は、大人しく彼女たちの話を聞く。カタリナさんは、モニカちゃんが居なくなった後に裏切った大臣さんに牢屋へ閉じ込められていた。けれど、隠し持ってた牢屋の鍵で外へ出たらしい。
ゴブリン軍団を退けたハリードとミカエルさんの二人と合流して、玉座に居るモンスターを引き連れた親玉を無事に退治したと教えてくれた。その代わり、取り逃がしたゴドウィン男爵の行方が知れないとも言っていた。
「ゴドウィン男爵は捕まらなかったんだね」
「そうです。奴をこの王宮から遠ざける事に成功はしたのですが」
私の言葉に、モニカちゃんとカタリナさんは浮かない顔だ。
そりゃそうだ。悪の根源を正すか絶たないと、いずれまた何処かでチャンスを伺ってるかもしれない。私はこの後何が起こるか分かってるから、ここで彼女に忠告した方が良いのか迷ってる。
「ニャオォォ・・・」
「リオ様、今日はごゆるりとお休みください。では、これにて失礼します」
「カタリナも、ゆっくり休んでちょうだい」
「ありがとうございます、モニカ様も疲れた体を癒して下さい」
迷ってる間に、カタリナさんが食堂を後にした。
モニカちゃんに連れられて、エレン姉さまとサラちゃんの場所へ戻る。そろそろ寝る頃だと言うと、女の子四人、同じ部屋で寝ようかと言う話になった。
「リオちゃんはこっちです!」
「こっちで寝るの!! モニカ様はドでかいベッドで寝るんだから良いでしょ?」
「だったらサラさんが私のベッドで寝れば良いんです! さあ、どうぞ」
「モニカちゃんはお姫さまなのに、床で寝かせるわけには行かないよ・・・」
モニカちゃんの部屋で寝るには良いが、肝心のベッドが無い。
ベッドが無いから絨毯の上で毛布を敷いて、そこで私達三人は固まって寝ようかと話し合っていたんだ。
彼女達の睨みあいの最中、エレン姉さまはもう毛布の上で寝かけている。静かに動いて、彼女の傍で丸くなって眠る事にした。そこで見た夢は、私が元気にロマサガ3を冒険している姿だった。
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