ロアーヌ山脈に朝陽が昇る。
私を入れた七人は、ロアーヌ奪還から宮殿で一夜を過ごし朝を向かえた。軽い朝ごはんを食堂で頂き、謁見の間でミカエルさんにこれからどうするかと談笑してたんだ。そこへ――
「カタリナッ! どうしたの、その髪・・・?」
一人の女性が瞳に決意を表し、ミカエルさんの居る玉座まで進みだした。
目を見開き絶句したモニカちゃんが驚いたのは、彼女の腰まであった紫色の髪が首元までばっさりと切り揃えられていたからだ。
和やかだった空気が一転、静寂が部屋を支配する。
「・・・ミカエル様、マスカレイドを盗まれました。本来なら自害するのですが、今一度、取り戻す機会をお与えください」
私を入れた七人は、玉座に近づく彼女の言葉を静かに聞く。ビロード調のドレスを脱ぎ捨て、今着ている服装は既に旅人が着る様な服だ。
彼女の好きな色なんだろうか、髪の色と揃えた薄紫色の上下服にマントと一本の大剣は、これからの旅立ちを意味するいでたちだ。床に片膝を付き、ミカエルさんの返答を待っている。
「その髪は決意の表しか・・・良いだろう、無事に取り戻してみせよ」
「ありがとうございます。では――」
「しかし、お前ほどの人物に取り入るとは・・・どうやって盗まれたか聞いてもいいか?」
「・・・それだけはっ」
「言いたくないのならそれでいい。取り戻して来るまではロアーヌに帰途する事は許さん」
「はっ、無事に取り戻して参ります」
「カタリナッ」
颯爽と謁見の間を出るカタリナさんに、モニカちゃん以外は誰も言葉を発する事が出来なかった。
「ニャ・・・」
心にポッカリと穴が空いた気持ちになるのは何でだろう?あんなにロマサガ3が好きで、イベントを見るのも楽しみにしてたのに。実際間近で見ると、自分の力無さに虚しさが込み上げてきた。
「リオちゃん、元気出して。カタリナさんには、きっと何か事情があったんだよ」
「元気出せよ、お前が元気無かったらこっちまでヘコんじまうんだぞ」
「サラちゃん、ユリアン・・・」
テーブルにユリアンとトーマス、エレン姉さまとサラちゃん、そしてサラちゃんの膝の上に座った私と、カウンターに座っているハリード。
モニカちゃんと別れた六人はロアーヌにある港町、ミュルスで船の出港を待つ為に少し時間が余ったので、パブでこれからの話をしていた。
「俺さ、ロアーヌの騎士になってモニカ様を守るんだ! 皆元気で暮らせよっ、じゃあな!」
「!」
「ユッ、ユリアンッ!」
ユリアンのお馬鹿めっ!
エレン姉さまが好きだった筈なのに、モニカちゃんを追いかけやがった!! 案の定、斜め向かいに座ってる姉さまは額に青筋付けてるっ!
「エレン姉さま・・・」
「お前達はこれからどうするんだ?」
後ろから声を掛けて来たハリード。
空気読もうよ。今エレン姉さまに近づくとやばいって事に。
「リオ、お前はどうするんだ?」
「へっ、私・・・?」
おおっ、皆の話が先に進むのを待ってたんだけど、コッチに飛んできたか。
昨日の夜からずっと考えてたんだ。ロアーヌを奪還する事に成功した後は、きっと皆バラバラになるって。一匹で旅するなんて無謀な事は出来ないし、大好きなエレン姉さまについて行こうと考えてた。
「お前さえ良かったら、一緒に俺と旅をしてみないか」
「私、エレン姉さまについてこうと思っ「リオちゃん!!」・・・げふっ」
私の言葉を遮って、サラちゃんが力強く抱きしめて来た。頬にすり寄せてくる行為は、この世界には居ない守護獣ガウラを思い出す。
「リオちゃんも、私とトーマスと一緒にピドナへ行こうよぉ」
「サラ、リオの意見を聞かないと駄目だろう? リオ、君はどうしたいんだ。勿論俺もサラと同意見で、一緒に来てもらえると日々が楽しくなりそうだ」
「・・・リオ、私も大歓迎だよ。あんたとの旅、面白そうだもんね」
「み、みんなぁ」
おおお、四人に誘われとる・・・!
金の瞳からじわりと涙が出そうになり、もじもじして、サラちゃんを見上げる。すると彼女は笑ってくれた。
「猫だけど、改めて宜しくお願いします!」
「宜しくね、リオちゃん。一緒に楽しもうね♪」
「うーん、リオが行くなら私もピドナへ行こうかな」
「俺はパスな。お前達と別れるのは名残惜しいが、しょうがないか」
「ハリードは来ないのか?」
「俺はランスにでも行くよ。聖王廟にでも寄ってるから、近くまで来たら声でも掛けろよ。じゃあな」
サラちゃんの歓迎に、エレン姉さまも共に来る事になった。
トーマスの問いに、ハリードは別行動をすると皆に告げる。膝の上に抱き込まれてる私の頭を撫でて、彼はパブから出て行った。
さよならなんか言わない。
だって、また会えるもん。
私がこの世界に居る限り――
イレギュラーな存在の私がここに居るだけで、既に物語は変わっているのだ。別行動をするエレン姉さまだって、本当はハリードと一緒に聖王の子孫が居るランスへ行く筈だったんだ。でも彼女は私達と一緒に行動してくれるみたいだし。
「マスカレイド・・・聖王遺物」
「リオ、マスカレイドってカタリナさんが言ってた物か?」
「うん。確か小剣で“ウェイクアップ”って言う技を出したら大剣になる、世界に二つと無い優れ物だったと思うよ」
博識のトーマスが、私の呟きにいち早く反応した。
聖王遺物を得る為に、何者かに強引に奪われたり罠を仕掛けられたに決まってる。カタリナさんも、それに引っ掛かってしまっただけなんだ。
ゲーム画面では絶対に会う事は無い、カタリナさんとだって運が良ければまた逢える。私の行動次第では、普通は仲間になれない人がメンバーに加わってくれるかもしれない。それを考えただけで、胸がわくわくと躍りそうだ。つまり、もう私の冒険は始まったも同然。
「さっ、もう時間だよね。港に行ってみようか」
「うんっ!」
「リオ、あんたは船酔いするからねぇ・・・船酔いの薬も買わなきゃね」
「道具屋に寄って、それからピドナへ行くか」
ガウラの世界にはまだ帰れそうもないみたいだ。これが夢落ちじゃなきゃ、ガウラにお土産持ってくのになあ・・・私、猫の姿でロマサガ3を充分堪能するからねっ! ちょっと寄り道するから女神(エリーちゃん)、フォロー頼むよ!
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