レオニードさんにポドールイ近辺が載ってる地図を貰い、皆で洞窟に向かう事になった。
冒険とは名ばかりの、早く言えば時間潰しの為に勧めたんだろう。
「・・・あれ?」
「どうしたんだ、リオ」
ユリアンの手に持つ地図を、下から手を伸ばして引ったくり、上から下まで眺める。レオニード城とポドールイの町、それから洞窟の場所がある所しか印を付けられていない。
やっぱり地図には他の町の名前が載ってなかった。
船で訪れたり、情報を聞いて、イベントで通過しないと町やダンジョンには行けない仕組みになってる? 無駄な所まで忠実にしなくても良いのに・・・これは、本格的に冒険をしろと言うエリーちゃんの思し召しか。
「マッチョじゃないけど、色々と鍛えて棍棒の達人になってやる!!」
「マッチョ? リオちゃんのマッチョ、あんまり好きじゃないかも」
サラちゃんに抱き上げられて、皆で城を後にする。
鷹(ヘルダイバー)や翼手竜を何とか撃退して、狭くて滑りやすい坂から広い面積に落ち着く事が出来た。シノンの森でハリードに頼り、弱い面を見せていた皆は目覚ましい成長ぶりで、遂に町の外にある洞窟へと辿り着く。
――――ポドールイの洞窟――――
山の麓にある洞窟の中は暗かったが、所々に何故かランプが灯されて進みやすい。ただ、やっぱり狭くて湿り気のある空間には魔物が多かった。
「げっ、カエル! ユリアン、トーマス、後は任せたよ!」
元居た世界のアマガエルよりかは、勿論デカイ。肥えた体は虫以外の、それこそ人間まで食べてここまで育ったに違いない。
バーナード犬並みの大きさなんだ。生理的に受け付けないのは、何も彼女だけじゃない。サラちゃんやモニカちゃんも、カエルから距離を遠く取っている。女の子なら、躊躇する気持ちはよく分かる。
「ちょっ、エレン、お前ならキックでも斧でも一撃でいけるじゃないか!」
「いーやーだ!! 植物や昆虫は攻撃出来ても、カエルだけは素手でも武器でも触りたくないね!」
上から落ちてくるバラ系植物の魔物に斧で真っ二つ、兵士系の骸骨には跳び蹴りをかましたエレン姉さま。水気を含んだ壁や天井から、物影に隠れて飛び出す魔物など、初心者を楽しませようと多様に富んだ攻撃を仕掛けて来る魔物達。最強の彼女でも、カエルには弱いみたいだ。
アマガエルに似た特大の魔物をサラちゃんの弓で仕留め、次々と宝箱を開けて行く。
地面に置かれた宝箱、洞窟で朽ち果てた冒険者の亡骸からと様々な所に置かれてあった。生命の大もと、小盾、小手、精霊石や、ロマサガ3でのお金、三千オーラム以上見つける事も出来た。
生命の大もとは、熱帯地方にある“アケ”という村で“生命の素”に作り変えて貰える。
効果は一人のWP(技ポイント)・JP(術ポイント)と、LP(ライフポイント)の完全回復だったはず。非売品だし、これも超貴重品だがこのままじゃ使えないし、後に取って置くから今は全然使えない。
ライフポイントは、それぞれ各個人に設定されてあり、決まり事もあった。
キャラが持つHPを上回る攻撃を受けた場合、気絶した状態になる。気絶状態を放ったままにして、敵から攻撃を受けるとライフポイントが一つずつ削られていき、全部の数値が無くなった場合、本当の“死亡”となる。少なくなったライフポイントを回復するには、宿屋で回復するか、専用のアイテムで回復するしかなくて、いつまで経っても数値は変わらない。
シノンの森で気絶したエレン姉さまは、ライフポイントを一つ削られ、気絶した。あの状態のまま、もし後九回攻撃されたら、ロマサガ3の世界で存在を抹消されていただろう。
“末梢”の文字が頭にちらつき、私は激昂したんだ。
FFで言えば、リミットブレイクしたという感じ。能力はあんまり上がってなかったと思うんだけど、それでも勇気だけはいつもの倍は湧いたと思う。
「おかしいな・・・ドコにあるんだろ? ねっ、皆・・・ってアレ??」
あの時のエレン姉さまの事を思い出しながら歩いていたら、どうやら一匹で奥まで来てしまったらしい。どうしようかと唸っていたら、前方に深い谷底があり、その先の向こう側に渡れる地面があった。
私でも走ってジャンプすれば行ける場所だ。助走をつけて跳び上がるとナイスに着地して、人間の屍に近づき落ちていた物を拾い上げる。回復機能を持つ“生命の杖”をゲットした。
「やった〜〜! “生命の杖”見っけ! さって、皆の所へ合流しないと・・・?!」
「ゲェェコ、ゲェェコ」
「カタカタカタ!」
「ゴブゴブッ」
喜びも束の間、後ろを振り向くと向こう側にある着地地点に、カエルと骸骨とゴブリンの魔物がわらわらと集まっていた。知能があるのか、谷底に落ちる事も無く、彼等は私がこちらに来るのを待っている。
「・・・どうしようっ、向こうに渡れない」
杖を固く握りしめ、その場で身動き出来なかった私は仰天する。
シュッ!
「はっ?! ちょっ、なんなの・・・! 猫は食べても美味しくないよっ」
カエルの長い舌が私に伸びてきて、体に巻き付いた。カメレオンも真っ青の舌の長さぶりに驚きつつ、必死になって足掻いても無駄だった。
「ニャオオオォォ!!」
悲鳴を上げて、必死に助けを呼んでも誰も助けに来てくれない。力を込めて踏ん張っても、凄い力で引っ張られる。
(もう駄目だ!!)
イタダキマスとカエルの大きい口に寄せられた時、今まで聴いた事のない、女の子二人のドスの効いた低い声が洞窟内に響いた。
「誰の許可を得てリオちゃんを食べるのですか? 冗談は顔だけになさい!! アクセルスナイパー!!」
「私のリオちゃんに何するのよ・・・混倒滅殺、イド・ブレイク!!」
モニカちゃんが持つ小剣での先制攻撃、その後畳み掛ける様にサラちゃんがカエルの腹目掛けて弓を撃ち放つ。カエルの動きを一旦止めて、的を絞り、弓で腹を貫通したカエルは見事に崩れ落ちた。
イド・ブレイクは混乱の効果もあるが、WP(技ポイント)も使うため普通の攻撃よりも強力だ。混乱に陥る暇も無く、天に召されたようだ。
「モニカちゃん、サラちゃん!!」
「リオちゃん、また一人で歩いて。心配したんですよ?」
「今助けるから、ちょっと待っててね!!」
舌が巻き付いたままの私は、モノ言わぬカエルの体の上に倒れ込んだ。
私の近くには複数の骸骨とゴブリンがいるから、倒せるまで近付いてもらえない。身動き出来ずに待っていると、彼女達の後ろから何かを引きづった音が聞こえて来た。
「エ、エレン姉さま! ・・・ユリアン、トーマス?」
「いやぁ、モニカ様とサラの走る速度に、早くて追いつけなかったんだよ。だから二人を引きづって来ちゃった」
「・・・かっこ悪い所見せちゃったな」
「同じく・・・」
エレン姉さまに襟首を掴まれ、引きずられて少し疲れ気味のユリアンとトーマス。バツの悪い顔で喋る二人に、モニカちゃんとサラちゃんの低い声が彼らに告げる。
「早くゴブリンと骸骨を倒してください・・・私達はリオちゃんを助け出しますから」
「お姉ちゃんも良いよね? カエルはもう居ないもんね・・・?」
有無を言わさぬ様に言い放つ彼女達に勿論異論は無く、エレン姉さま率いるユリアンとトーマスに魔物達を退治して貰う。モニカちゃんの小剣で舌を切って貰い、長いカエルの舌を両手でサラちゃんがわし掴みして、私はやっとの事で助け出された。その後、皆からお説教されながらポドールイの洞窟を出る。
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