賽ノ河原――親より先に死に、現世を旅立つと落とされると云われる地獄の名所の一つ。
太陽は見えず、常にどんよりとした世界で永遠とも呼ばれる時間をここで過ごす。石を高く積むまでは、決して許される事はない…
「ねっ、私も手伝うよ」
「え、うさぎさんが? ありがとう…」
河原の前で懸命に石を積み上げていた少女の名は雪江(ユキエ)という。白い着物を着たおかっぱの女の子だ。彼女の事を知りたかったので色んな事を聞いてみた。
「あの、どうして雪江ちゃんはここに居る事になったの?」
「んー、病気だよ。家ではお薬買う余裕なんてなかったし、ご飯が食べれなくて。気付いたらここにいたの」
「栄養失調か…今は大丈夫なの?」
「うん。お腹は減ってないかなぁ」
「そっか…」
少女の小さな手と、雪ウサギの丸い手が交互に石を積み上げて行く。頂点までもうちょっとだ。すると大きな足音が、耳に聴こえた。
「あ、あ…」
「にょーーっ!」
ごつくて太い足が目の視界いっぱいに映し出された時――大きな音だけが響いて石の山は崩された。
「うあ、うあーーーーーーーん!」
「ゆ、雪江ちゃん、こ、このぉー!!」
巨体の足めがけて勢いよく噛みついてやった。しかし振り落とされて、石だらけの地面にゴロゴロと転げ落ちる。地面にぶつけられた衝撃で体中が痛くてどうしようもなかったが、雪江ちゃんの悲しみと比べたら痛みなど無いに等しかった。
「うぅ~~…」
「そこまでよ、ラクト」
「ル、ルビリアニャちゃん!」
「この鬼はここの番人でもあるのよ。この賽ノ河原を託された鬼。この世界ではこいつに歯向かってはダメ」
「そんな…ルビリアニャちゃんでも?」
「私が介入しても良いのはラクトをここへ連れてくる事と、鬼の目をかいくぐりながら子供達と石の山を築きあげてくれと、閻魔さまからのお達しなの」
「…私?」
きょとんとして彼女を見上げた。すると、抱き上げて汚れた所を拭ってくれる。その間に、棍棒を持った巨体の鬼は大きな足音を響かせながら私達から離れて行った。
「地獄でのルールを変えたくないそうよ。番人でもある鬼達をないがしろにもしたくないって。でも年々成仏出来ない魂が増えて行くから、違った意味での助っ人が欲しかったみたい」
「ふ、ふーん?」
「私では無理なのよ。本当に怒ったら彼らを粉々にしちゃうから。閻魔さまに叱られちゃう☆」
うふふ、と花のように笑うルビリアナちゃん。
無理なのよー、と言いながら紫色の瞳を澱ませている。気に入らない相手には容赦がなくて身内には優しいのだ。敵にはなりたくないのである。
「うーん、でもどうやって鬼の目をかいくぐって作れば良い? さっきは後少しって時にあの鬼はやって来たよ」
「そうねぇ…ラクトは鬼の苦手な物って何か知らない?」
「え、苦手な物? そんなのあったかな…」
あ! と声を上げる。
そうだ、あったじゃないか、鬼が苦手だと言われてるモノ。
「まぁ、そんなので良いのかしら。でも時間稼ぎには良いかもしれないわね」
「良いかな、ルビリアニャちゃん?」
「任せて、作ってくるわ」
ルビリアナちゃんにある物を頼むと、黒い翼を広げて飛び立ってしまった。
大丈夫、今度はきっと上手くいく。そんな確信があった――
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