鬼の嫌いな物をルビリアナちゃんに作って貰ってるうちに、二回目に作った石の山は半分くらいまで積み上がった。
彼女が戻ってくるまでまだ時間が掛かるかもしれないので、休憩して雪江ちゃんと喋っていた。
「ね、雪江ちゃん、ここには長くいるのかな?」
「分からないよ、考えた事もなかったかな」
「そ、そう。ケーキとか食べた事ある? 三角形の形をして甘くて美味しいの」
「? さつまいもなら、ほんの少し食べさせてもらえたかなぁ」
地獄には時間の概念が無いのか、その事に触れられても分からないらしい。現実世界で換算するともしかすれば五十年、百年は経っていてもおかしくないのだ。
気の遠くなるような悠久の中、この子は石を積み続けていた。そう思うと胸の奥から虚しさ・切なさが込み上げて来て、この子の前で涙だけは流すまいと必死に笑顔を繕った。
「…、あー、雪江ちゃんに猫島にあるヤシの実のジュースとか、特製のジャンボケーキとか食べさせたいなぁ」
「じゅーす? けえき? うさぎさんのいる所って面白そうね。良いなぁ、あたしもそんな所に行ってみたかった…」
「ひょっこり猫島は、雪江ちゃんみたいな可愛い子を歓迎するにょ!」
「えへへ、ありがとううさぎさん」
「私の名前はラクトっていうにょ。出来れば名前、覚えてね」
「うん、分かった。ラクトうさぎさん」
胸に抱き込まれ、しばし互いの抱擁にひと時のあたたかさを感じる。
この子の本当の幸せは、ここにはなくて別の世界にある。早くここから連れ出さねば!
***
「あとちょっとだね…」
「でもこれ以上積み上げるとさっきの鬼が来ちゃうにょ…あっ!」
ズシン…ズシン…
地面とお腹に深く響くような地響きを感じた。
さっきよりもまだ完成に近づいてないのに石の山を崩されたら、また一からやり直さなければならない。
この河原にある石は丸い形に近いモノが多くて、土台を作るにも一苦労する。崩されたら同じ石を探すのは至難の技な上に、幾らなんでも時間が掛かり過ぎてしまう。だから成仏出来ない魂が増えて行くんだ。
「き、来たにょ…」
「うさぎさん、怖いよぉー」
「雪江ちゃんは石を積み上げてて! こっちは私が何とかするにょ!」
巨鬼(キョキ)ではなかろうか。正直、顔も怖すぎて直視出来ない。それでも棍棒を振り回されて、石の山を崩されるのを指をくわえて見ていろとでも言うのか…否、それだけは阻止しないと!
「お、鬼さん、あんたの相手はこっちにょ!」
すると棍棒がこちら目掛けて振り下ろされた。
当てるつもりはないのか、今のは完全に大きくはずされたようだ。もしかして威嚇された?
「あんたの時代は終わったにょ。もう多くの魂を解放して! 閻魔さんの依頼なんだから――!」
ゴッ!
今度は地面を叩き割るような攻撃を仕掛けてきた。小さな石が粉々に粉砕されている。
危なかった――もう少し横へずれてなかったら、私は潰れたカエルの様になっていただろう。
「ラクトカエルなんて嫌にょ…あっ!」
「あ、あ…」
私から対象を変えた鬼は、雪江ちゃんが積み上げている石の山。また非情な行いは繰り返されるのか。後少しで石の山は完成するのに!
「止めて――!!」
「ラクトッ!」
頭突きでも繰り出そうと体を前に出した時、頭上から女の子の声がした。バイトだと言って私を賽ノ河原に連れて来た張本人、上級魔族のルビリアナお嬢様だった。
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