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ひょっこり猫が我が道を行く!

カオスなオリジナル小説が増殖中。
雪ウサギが活躍しつつある、ファンタジー色は濃い目。亀スピードで更新中です。

004 北方の町・ポドールイ

2012年07月22日 14時53分50秒 | 小説作業編集用カテゴリ
 複数の兵士の居る天幕の中で、ハリードの抱き枕にされてから一夜が明ける。
 
 地平線から朝日が昇り、霧が立ち込め、清々しい朝の空気がロアーヌ平原に広がる。
 
 マイナスイオンが五臓六腑にしみわたり、彼ら八人の今日も素敵な一日が始まった。
 
 ギュムゥッ! 

「痛ぇぇっ!!」 
「おはようっ、ハリードのおっさん! いつまで寝てんの。早く起きて起きてっ」
 腕っ節の強いエレン姉さまに遠慮無く頬を抓られ、跳び起きたハリード。その顔はまだ眠気まなこだ。

「お、おう、・・・ッチッ! 酒を飲み過ぎたか。・・・ん、何だこの白くて丸いの?」 

 私の顔を見てもまだ白い大福に見えるらしい。寝惚けながら、両手で体中をモギュモギュされる。
 乙女を抱き枕にし、噛み跡まで付けて、挙句の果てに体を餅の様に伸ばして引っ張るとはっ!! 昨日の事も覚えていないらしく、腹が立って必殺猫パンチをお見舞いしてやった。
 


「・・・」
「では、モニカをよろしく頼む」
「お任せ下さい、絶対モニカ様を危険な目には合わせません!」
「ミカエル様もご健勝であられますように」

 モニカ姫改め、モニカ様と敬称を変える事にしたユリアンとトーマス。
 やはり旅をするのに“姫”では、危険が付き纏うらしい。
 簡素な革の鎧、長剣、少量の傷薬を提供して貰い、私達ハリードを除いた六人は北方に位置するレオニードさんの居る場所まで行く事になった。

「俺が居なくてもやれるさ。皆、頑張って来い」

 顔に斜めの引っ掻き傷を付けたハリードが、皆を励まして送り出す。
 ミカエルさんはその顔を見て眉間に皺を寄せていたが、深く追求する事を止めたらしい。既に他の兵士に軍議について命令していた。

 この後、この平原でゴブリンの軍団を迎え撃つ。
“トルネード”の異名を持つハリードが居れば、この戦いに終止符が打てる。長期戦に持ち込むつもりは無いらしく、ゴブリン達を叩きのめした後ハリードを連れてロアーヌの宮殿に戻り、ゴドウィン男爵を討つと意気込んでいた。


 ****

 ミカエルさんが治めるロアーヌへと馬で戻り、港町ミュルスへと一同赴く。そこから各都市を結ぶ事でも有名な、世界最大の都市である“ピドナ”に向かう。そこから更に船に乗って色んな町を経由しつつ、やっとの事でレオニードさんの居るポドールイに辿り着いた。

「うぷッ、長い船旅だったね・・・」
 
 海自体は嫌いじゃ無い。
 人間だった頃は船酔いもしなかった。けど猫の状態だと三半規管が狂うのか、平衡感覚が鈍るのか。今度、女神(エリーちゃん)に逢ったら治してもらわないと!

「ホントお兄様ったら、遠く離れた北方の地方に私を預けるだなんて、離れ過ぎた所に決めなくても良かったのに・・・」
「しょうがないよ、モニカちゃん。レオニードさんなら、何か遭った時でも対処できるとミカエルさんも言ってたし・・・うぷっ」

 モニカちゃんと呼んだら喜んで抱き上げてくれた。
 エレン姉さまの妹サラも、呼んで欲しそうにしていたのでちゃん付けしたら狂喜乱舞していた。彼女達はこんな性格の子だったかな?
 吐き気を抑える私は、モニカちゃんの膝の上で丸くなって眠りに入る。

 *****

 レオニード伯爵が居る北方の町、ポドールイに着くと其処は一面の銀世界。
 シンシンと降る雪は、建物や木に止め処なく降り積もる。
 建物の窓から覗く温かい光は、人の所在を明らかにし、家族の元へと帰りたい気分を彷彿とさせる。

 あまり広くない町の中を、六人で歩き続けると一つの酒場(パブ)を見つけた。
 酒場(パブ)はお酒も飲めるし、マスターが作る簡単な料理も出してくれる。
 その地方特有の情報を提供して、仲間との別れを斡旋してくれたりもする。ロマサガ3は仲間に出来るキャラが二十人以上はいるから、メンバーを決める上でとても欠かせないお得な場所だ。

「ちょっと中に入って、レオニードさんについて聞いてみようよっ」
「んん・・・そうだな、体を温めるのも良いし、情報がてら聞き込みでもするか」

 何故か六人のリーダーになったユリアンに、私は勧めてみた。
 温かい部屋で丸くなりたいし、窓から見える雪を堪能してみたいのもある。皆の意見を聴き了承を得た所で、サラちゃんに抱っこされつつ一同は酒場(パブ)に入った。

「いらっしゃい」
 エプロンを着けた中年のおじさんが、カウンターの前に立って席を促す。

「こんにちは、マスター。何かレオニード伯爵の情報は無い?」

 さほど広くも無い空間を見渡して、カウンターや空いてるテーブルの席に着く私達。
 ユリアンとトーマスがカウンターで、四人掛けのテーブルにエレン姉さま、サラちゃん、モニカちゃん、そして猫の私が座る。

「町の若くて美しい娘が、レオニード様の城にそろそろ呼ばれるらしいよ」
「? 呼ばれてどうするんだい」
 エレン姉様が温かいジンジャーエールを人数分頼む。しょうがのエキスで風味を付けたアルコール無しの飲料水で、皆の体を芯から温め体を解していた。

「吸血鬼でもあるレオニード様に呼ばれた者は、自らの血を飲んでもらい、永遠の美を約束されると言われてるよ。だから町の娘達は、こぞって美を追求したがるんだ」
「・・・吸われる本人も吸血鬼になるかもしれないんだろう? この町の娘達は凄いな」
 美を追求する町の娘達とレオニード伯爵の関わりを聞いて、トーマスはメガネを押し上げて感心していた。

「永遠の美なんて、どんな価値があるのかな・・・」
「サラちゃん・・・?」

 座っていた椅子から抱き上げられ、彼女の膝の上で丸くなる。
 窓から振りしきる雪を見つめ、ポツリと呟くサラちゃんの言葉は猫の私にしか聴き取れる事が出来なかった。

 ****

 酒場(パブ)でレオニードさんの情報をそこそこ聞いて、六人は居城へと向かう。
 体も温まった事だし、坂を登って町の北方面への出入り口に差し掛かる。そこから見える風景に、一同絶句した。

「「「「「「・・・」」」」」」
 
 雪の道の勾配が複数ある地形、つまり細く狭い坂と道が居城へと導くように作られてあった。一つや二つじゃ無い上に、命綱も無く、しかも魔物も彷徨っている。
 地を這う犬狼や爬虫類を上手く撒いても、空を飛ぶ妖精(ピクシー)や飛竜(ワイバーン)が寒空を旋回している。

 雪の積もった狭い坂で襲撃されたら、ひとたまりもないだろう。通常の人間ではおいそれと居城には近付けない設計に、自分達の意識が遠のいた。

「・・・お兄様の考えた事が少しわかりましたわ」 
「良かったですね、モニカ様」
「大丈夫ですよ! 坂の近くに居る魔物から倒していきましょう」
「これは前途多難だねぇ・・・」
「全くだ。皆、死ぬ気で此処を越えなきゃな」
「この坂道を登り切る頃にはみんな強くなってるよ。頑張ろうねっ!」

 サラちゃんとユリアン、そして私も最後に励ます。エレン姉さまは口を引き攣らせて、トーマスはメガネを白く曇らせた。 
 私が元居た現実世界でゲームしてた時は、よくポドールイで仲間を鍛えていたんだ。体力を回復させやすい宿屋が近いから、ここなら安心して皆と一緒に戦える。
 目指すはレオニードさんの居城。
 それぞれ武器を手に持ち、雪を踏みしめ歩みだした。

  


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