企業も家庭も節約、節約の日々だ。本業や毎日のくらしと直結しないところからまず削れ、となる。でも、細かい節約も同じものをみんなで削ったら……。
竹下興喜(こうき)さんがショックを受けたのは1月半ばだった。90年からアメリカの外交専門誌「フォーリン・アフェアーズ」をわかりやすい日本語に翻訳し、日本人のために発行してきた。部数も順調に伸びている、と安心していたとき、収入ががくんと落ち込んだのだ。
購読者の6割を占める金融機関や輸出企業が、業績悪化を受けて一斉に、定期購読の更新を見送ったらしい。「まさに金融危機の直撃でした」。日本語版は2月号で休刊になった。
外交専門誌と紹介されるけれど、扱うテーマは金融、地球環境、貧困、軍事、文明論と広い。1922年の創刊以来、あのキッシンジャーさんや「文明の衝突」の故ハンチントン教授、そしてオバマ大統領、と時の言論を引っ張る人たちの論文を数多く載せ、世界で読まれてきた。
日本語版の休刊を伝える小さな記事が毎日新聞に載った。「今こそ必要な雑誌なのに」--。たくさんの「やめないで」が竹下さんに寄せられた。しばらくは出血覚悟で雑誌に代わる冊子の発送を続けるつもりだ。
「この国はますますタコつぼ化していく」。竹下さんは心配する。みんなが自分の関心分野しか構わなくなり、垣根を越えた英知の交流や論争がますます細るようでは危うい。社会をよくしようという議論の材料になるのがこの雑誌、と信じるから、再開の道を探し走り回る。
長い歴史の中では一瞬に過ぎない経済危機ごときに、壊されてはたまらないものがある。(経済部)
毎日新聞 2009年3月13日 東京朝刊
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