英国的読書生活

イギリスつながりの本を紹介していきます

賭け事のために生きる紳士たち

2008-05-28 | イギリス

P・G・ウッドハウス「エッグ氏、ビーン氏、クランペット氏」

1940年に出された同名短篇集にマリナー氏もの数篇をボーナストラックとして加えた編集となっています。
筋書きは、今さらながら強烈な新鮮さはありませんが、短篇故の小気味良い展開で有閑紳士達のドタバタ劇をストレス無く楽しませてくれます。今回のお楽しみは、バーティーの悪友としてジーヴスものに登場していたビンゴ氏の活躍?でしょうか。他のウッドハウス作品では珍しい妻帯者としての男の悲哀があわせて描かれます。悠々自適な生活であれど、奥さんに財布を握られて万年金欠なビンゴ氏。3度のメシより好きな賭け事の軍資金を調達するため、日夜奮闘努力を継続中です。
巻末にある、英国ウッドハウス協会初代会長の寄稿文「本当のドローンズ・クラブ」も面白かったです。社交の中心としての「クラブ」の意外な使われ方が笑ってしまいます。ウッドハウスの描くジェントルマンたちは、あながち虚構の人物たちではなかったのですね。
クラブと言えば、ホイッグ党急進派の拠点となった「リフォーム・クラブ」(増改築クラブじゃないですよ・・・)なんかが有名です。ベルヌの空想科学小説(このくうそうかがくしょうせつっていう言い方が好きです)「80日間世界一周」のお話は、このリフォーム・クラブでの賭け事からスタートするのです。





久しぶりに映画

2008-05-26 | イギリス

「ナルニア国物語/第2章:カスピアン王子の角笛」

魔法の角笛が吹かれ、ペベンシー4兄弟が再びナルニア国に呼ばれます。今回の入り口は地下鉄ストランド駅のホーム。この駅、現在はチャリングクロス駅と改称されており、地上の鉄道駅とあわせ、ストランド街とトラファルガー広場の最寄の駅となっています。このストランド街はサボイホテルや高級ショップ(日本人にはトワイニングが有名)、劇場などがあるロンドンを代表する通りですが、意外と私は歩いた記憶がありません。すぐ北のコベント・ガーデンや西のトラファルガー広場、ホワイト・ホールなどにはよく足を運ぶのに不思議なものです。このストランド街を東にまっすぐ行くと、フリート街に出(「スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師」の舞台・・)、さらに進むとセント・ポール寺院にぶち当たります。
さて、もどったナルニア国では1300年も時が経っており、テルマール人によってナルニアの民は迫害を受け続けています。ちょっぴり大きくなった4人兄弟が引き起こす冒険ロマン活劇!途中、「ありえないだろう!」というシーンも多々ありますが、そもそもが「ありえない」お話ですから、気楽に楽しみましょう。

5歳の娘といっしょに観たのは、日曜13時半開始の吹替え版。客の入りは約半分ってとこ。娘にはちょっと話が難しかったかな。映画よりもポップコーンの方にばかり気を取られてました・・・。(ワーナーマイカルのレギュラーサイズは大きいよね)

芥川VSウッドハウス

2008-05-23 | イギリス

会社を終え、帰宅途中の電車の中。いつもの様に読書に耽っておりました。ふと目を上げると、いつの間に現れたのか、ガラの悪そうな若造が1人座っています。ズタズタに破れたデニムを腰履きして、腰にはチェーン、腕にはタトゥー、唇、鼻、瞼、耳にそれぞれ痛そうなピアス、ヘッドフォンからは耳障りなシャカシャカ音があたり構わず響き、ガムをくちゃくちゃという輩・・・。目は虚ろで、手は携帯を弄び、3人がけのシートを1人で独占しているという、絵に描いたような「迷惑な光景」です。けっこう混んだ車両でしたが、彼の前に立つ乗客は少なく、必然的に彼と私の間には妨げるものは無く、どうしても目が合ってしまいます。「あぶなそうなガキだなあー、ぜったいナイフ持ってんなあ」とか思っておりましたところ・・・。彼、携帯に飽きたのか、ポケットからやおら文庫本を出して読み始めます。「何読んでんだろう、似合わねえなあ」と見ておりますと、カバーなんか掛けてないその本の表紙が見えました。何と・・・、それは芥川龍之介「地獄変」・・・でした。何かの課題図書でしょうか(でも絶対学校に行ってる姿には見えないし・・)、けっこう真剣に読んでいます。その時私が読んでいたものは、P・G・ウッドハウスの「エッグ氏、ビーン氏、クランペット氏」という、何とも御気楽な小説で、「地獄変」に比べると格段に比重の軽い読書です。思わず「カバー掛けといてよかった・・・」と安堵してしまうとともに、ちょっと自分が恥ずかしくなりました。全身が「地獄変」のような姿の彼ですが、彼なりに人生の苦楽を学んでいるのかもしれません。

今日の教訓
人を外見で判断してはいけない。特にその人が「地獄変」を読んでいるときは。

海外の長篇小説ベスト100って

2008-05-19 | イギリス
先月出た雑誌「考える人」に「海外の長篇小説ベスト100」という特集が組まれていました。上位20作品を見てみると・・・
①ガルシア=マルケス「百年の孤独」
②プルースト「失われた時を求めて」
③ドストエフスキー「カラマーゾフの兄弟」
④セルバンテス「ドン・キホーテ」
⑤カフカ「城」
⑥ドストエフスキー「罪と罰」
⑦メルヴィル「白鯨」
⑧トルストイ「アンナ・カレーニナ」
⑨カフカ「審判」
⑩ドストエフスキー「悪霊」
⑪エミリ・ブロンテ「嵐が丘」
⑫トルストイ「戦争と平和」
⑬ナボコフ「ロリータ」
⑭ジョイス「ユリシーズ」
⑮スタンダール「赤と黒」
⑯トーマス・マン「魔の山」
⑰カミュ「異邦人」
⑱ドストエフスキー「白痴」
⑲ユゴー「レ・ミゼラブル」
⑳マーク・トウェイン「ハックルベリイ・フィンの冒険」
どだい好みの分かれる古今東西の名作に順位付けしようという、ある意味無謀な企画です。でも、こうやって20位までを見ていると、確かに学校の先生お薦めには違いないですが、中には「本当に面白いの?」と素朴に感じてしまうランキングも・・・。(少なくとも私が出会った人なのかで、「失われた時を求めて」を完読した!という人に出会ったことがないので何とも言えないのですが・・・) ベスト10にはドストエフスキーが3作も送り込んでいるし、カフカも2作品で頑張っている。この辺は最近の再評価の流れも影響しているのでしょうかね。ディケンズなんかは作品で票が割れてしまい順位が意外と伸びないし、バルザックなんかも、あれっというあたりに位置してます。
ランク付けに協力し、アンケートでベスト10をあげたた方々の中で、児玉清氏が「ホーンブロワ・シリーズ」を、恩田陸さんが「指輪物語」を入れていたのを見て、ちょっとほっとしました。

この「考える人」という雑誌、広告がユニクロだけ(新潮社の分は除く)、それも巻頭、巻末だけという、オシャレなのか、気持悪いのか、ちょっとよく分からない雑誌です。

カンチェンジュンガが見守る物語

2008-05-13 | イギリス

キラン・デサイ「喪失の響き」

この小説の舞台となっているのは、インド西ベンガル州のカリンポン。ちょっと地図で探してみましょう・・・・・・なんと・・。西に50キロ行けばネパールとの国境。東に50キロ行けばブータンとの国境。南に100キロ進めばバングラディシュとの国境。北に向えば150キロで中国チベット自治区と・・・、まさに民族や文化が複雑に絡み合う十字路です。ヒマラヤ連峰が間近に見られる丘陵地帯で、すぐ隣には紅茶の産地として有名なダージリンがあります。
このカリンポンで、かつてのイギリス植民地時代の名残りである古い館に住む老人ジェムバイ。彼はかつてイギリス、ケンブリッジで大学教育を受けたエリートで、この地域で初めてインド行政府で判事を務めていた人物です。彼の許には姪のサラが居候しています。サラの父親は軍人で、インド人初の宇宙飛行士としてソビエトで訓練を受けていましたが、母親と共に交通事故で他界。それでサラはジェムバイの家に引き取られることに。判事の世話をするのは料理人。彼には一人息子ビジュがいますが、ビジュはアメリカに渡りインド料理屋で不法就労中・・・。サラの勉強は老姉妹ノニとローラが見てくれています。姉妹の家にはジェーン・オースティンの全集があり、P・G・ウッドハウスやアガサ・クリスティのようなイギリスのことを書くイギリス人作家がお好みです。ローラの娘はイギリスでBBCのキャスターを勤めており、姉妹はよくイギリスを訪れクノールスープやマークス&スペンサーの下着を買ってきます。近所にはポティおじさんが住んでおり、昼から酒を飲んでいます。お隣に住む飲み友達のブーティ神父はスイス人。そしてサラには数学を教えてくれる家庭教師ギヤンがいます。サラは彼に夢中ですが、食事中彼はナイフとフォークを使わず手で食べます。
妙にイギリスナイズされたアッパーミドルのインド人の生活と、マンハッタンの底辺で忍耐強く生息するインド人の生活、それぞれの家族の思い出が、そして多民族国家インドの不安な現実が、86年のネパール系インド人の独立運動(ゴルカ民族解放戦線)を背景にコミカルに描かれていきます。民族の違い、宗教の違い、カーストの違い、教育の違い、それぞれが渾然となった大国インド。人がどれだけ争い血を流そうと、雨が止むと無数の蝶が乱舞し、霧が発生すると音も無く室内をも白く包み込むこの丘陵地域の美しい自然の中で、世界第3位の高さを誇るカンチェンジュンガの峰だけが、変わらず輝き、人々の暮らしを眺め続けます。
アジア的な、どこかとぼけた可笑しさと哀しさが漂う小説です。
2006年のブッカー賞受賞作品。

ゴルカ(グルカ)と言えば、イギリス軍に所属するグルカ傭兵部隊が有名ですね。ネパールのグルカ族は心肺能力とともに戦闘技能に優れ、特に白兵戦での能力は随一と言われています。近代以降イギリスが参戦した前線には必ず彼らの部隊の活躍が見られます。

コロッケ・・・

2008-05-11 | 日常
5月11日は母の日・・・・
数日前から妻と娘が内緒話をしています。
で、決まったことというのが・・・・
「日曜日の夜はパパが料理を作る!コロッケを作る!」
とほほ・・よりによって何でコロッケなの?作ったことないよ!
「だって食べたいんだもん!」と娘。
手巻き寿司とか、カレーじゃだめなの?
「だめー!ぜったいにだめー!」
ということで当日はコロッケを作ることに・・・・。

午前中に娘と2人で買出しです。
肝心のジャガイモは・・・、あらら新ジャガしか置いてません。
コロッケには水分の少ない古芋が良いとレシピには書いてあったはずですが・・。
まあいいでしょう。ひき肉、たまねぎ、パン粉も調達して買い物完了!
食卓に飾るお花も買いました。
(娘は花を夕食まで隠しておくと言って、玄関外のメーターボックスに仕舞います。)
夕方5時になり・・・
重い腰を上げて支度に取り掛かります。
まずは皮むき・・・。小さい新ジャガですから、思ったより時間がかかります。それといくつ剥いたらいいのか加減が分かりません。
気付くと隣の部屋で娘と妻がもめています。どうも作っているところを妻に見せたくないため、部屋に閉じ込めているようです。「お花も見ちゃダメだからね!」なんてバレバレなことも叫んでいます。
皮が剥けたら、ひと口大に切って鍋に入れ、水をひたひたに入れて火にかけます。
軟らかくなったら、お湯を捨て、再び鍋で水分を飛ばすと・・・、粉吹芋のようになったらOKかな?そのまま熱いうちにお玉で潰していきます。あんまり潰しすぎない、ちょっと塊が残るぐらいが家庭的で好きなのですが・・・。
続いて、玉ねぎと合びき肉を炒めて・・塩胡椒して、さっきのジャガイモに合わせます。これでタネが完成!味見するととりあえずコロッケの中身の味がします。(ひとまず安心・・、でもかなり量が多いぞ!)
さあ、丸めよう!手伝って!  で、娘は・・、というと・・・、ちびまる子ちゃんを観ています・・・。(オイオイ)
じゃあ、この間にサラダとお味噌汁でも作りましょうかね。味噌汁の具は・・・冷蔵庫に残っていた油揚げとキャベツにします。おっと!炊飯器のスイッチを入れてませんでした。
サザエさんが終わり、ようやく娘が顔を出します。
「出来た?」
「まだじゃ、丸めてよ!」
何か巨大な塊がいくつも出来ました。
これを・・
小麦粉にまぶし、
溶き卵につけて、(ここだけは娘の担当)
パン粉を押し付けて、
(みるみるうちにキッチンは粉だらけに・・・・・)

いよいよ最後の油で揚げる工程です。
さあ、ここからは更なる未知なる世界です。
いったい、どういう状態が最適な油の温度か分かりません。
適当に「エイヤー!」で投入します。
恐れていたパンクもなく、コロッケくんたちは徐々に狐色になっていきます。

最後になってようやくスイッチの入った娘が、テーブルを無理やりセッティングしています。邪魔な物を下に落とし、ソファーの陰に隠し・・ランチョンマットを引っ張り出し・・・ メーターボックスからお花を出して・・
午後8時、ようやく「できたー!”」(なんと3時間のクッキング)

ようやく監禁状態が解かれた妻が席に着き、
「実食!」です。
お味は・・・
妻「美味しい!」
娘「おいしいね。」
私「意外に上手く出来たね。衣がサクサクだ。」
「ママよりパパが上手!」
妻「・・・・・・」
私「(ワチャ・・・)」

正直、上手く出来すぎました。形は悪いけど揚げるタイミングは完璧・・
でも、作りすぎです!
明日も、あさっても我家はコロッケです。