英国的読書生活

イギリスつながりの本を紹介していきます

無人島殺人事件

2007-02-27 | イギリス
マイクル・イネス「アララテのアプルビー」


南太平洋をのんびりと航海する客船。そのカフェテラスにお客が6人。元軍人、牧師、ハイミス、若い人妻、黒人、そして何故かスコットランドヤードの警部。かみ合わない会話の中で、船はUボートの攻撃を受けて沈没。6人は奇跡的にカフェテラスの屋根を救命ボートに仕立てて無人島に漂着することに。これは「ロビンソン・クルーソー」「スイスのロビンソン」「宝島」の再現なのか、はたまた「ノアの箱舟」なのか。
次に起こるのは殺人事件。無人島での殺人!!ということは、犯人は・・・・。
この作品、1941年発表ですが、不思議と古さを感じさせない不整脈的なテンポがあります。期待させると思ったら、とたんに肩すかしを食らわすし、眠くなったなと思ったら、いきなりパンチが飛んできます。全てのものを怠惰にさせる島の空気の中で犯人探しはうまくいくのでしょうか。捜査を買って出たアプルビイ警部はなかなかに博学です。オーストラリア人の美人人妻との関係が妙に気にもなったりもしますが・・・・・・・・。
作者イネスはスコットランドの出身。シェークスピアをはじめとする古典文学の研究でも知られており、その教養に裏打ちされたプロットが作品の知的レベルを高めているようです。この作品でも沢山の文学作品の引用や、翻訳では理解し辛い英語の言葉遊び、そして方言的な記述もあります。イネスの作品は難しい!との評価はこの辺から来ているのでしょうか。でもそれよりむしろバカバカしい楽しさのほうがイケてます。

アララテとはトルコにある山。ノアの箱舟伝説で知られています。

あなたは拍手しましたか?

2007-02-23 | イギリス
ピーターパンって言うとディズニーの印象が大きいのですが、もともとは1904年初演の戯曲です。このピーターパンという作品はどうやって生まれたのかというと・・・

「ネバーランド」(2004年)

この映画、スコットランド出身の作家J・M・バリが、ケンジントン・ガーデンで出会ったデイヴィス家の子供たちとの交わりを通して新作「ピーターパン」の物語を作っていくお話です。もっと言えば、デイヴィス夫人シルヴィアとの不倫物語でもあるのですが、そこはピーターパン側から見た世の中ですから、あくまでピュアな世界となっています。冒頭とラストの場面のロケ地はケンジントン・ガーデンです。奇麗ですね。ハイドパークに隣接するこの公園にはピーターパンの像があります。劇場の場面はリッチモンド・シアターが使われ、当時の劇場の雰囲気をよく出しています。
はたして出来上がった劇の初日はうまくいったのでしょうか。容赦なく作品を扱き下ろす批評家の反応は・・・。

ピーターパンのお話の中で有名なシーン。
毒を飲んで死にそうになったティンカーベルを助けようと、ピーターが叫びます。
「妖精を信じますか 信じるならみんな拍手をして! ティンクを見殺しにしないで!」
おっと、思わず涙が出そうに・・・・
このシーン・・・確か「ET」の中でも使ってましたよね。

初演の大成功により、以後ピーターパンの劇は伝統的に女性がピーター役を行うことになったとか。日本でのミュージカルもピーターは女性です。
このピーターパンの著作権は、バリの意向によりロンドンの小児病院に譲られ、そこから入る著作権料で小児医療に多大な貢献をしてきたとか。夢が夢のまま終わらないところも素敵です。



「働かないのは紳士のしるし」

2007-02-22 | イギリス
「いつか晴れた日に」

原題は「Sense and Sensibility(分別と多感)」。ジェーン・オースティンの同名小説を映画化したもので、主演のエマ・トンプソンが脚本を担当、監督はアン・リーでアカデミー脚色賞を受賞しています。ダッシュウッド家の当主が病で死去し、財産は先妻の子に譲られることになる。残された妻と3人の娘は、住みなれた屋敷を追われ、田舎のコテージで暮らすことに。何事にも控えめな長女エレノア(Sense)と、言いたい事ははっきりと口にする次女マリアンヌ(Sensibility)それぞれの恋の物語です。美しいイングランドの田園風景がいいですね。ロケ地はナショナル・トラストが管理する歴史的な館がそれぞれのシーンで使われています。J・オースティンお得意のアッパーミドルクラスのお婿さん選びのお話ですが、この時代の家督相続って大変ですね。男だと次男以降は最初から諦めて牧師や軍人や法曹界へと職業を求められますが、女性は運命に翻弄されるのです。
エマ・トンプソン演じるエレノアが、想い続けた相手(ヒュー・グラント)の言葉に感情を爆発させるシーンが印象的です。次女役のケート・ウィンスレットなど脇役人もいい演技をしています。
ありえないお話なのですが、何故かありそうに思える、というかあって欲しいお話に思える映画でした。

ブライトン

2007-02-17 | イギリス
ちょっと俗物的な保養地として有名なブライトンは、ロンドンから鉄道で約1時間ほどのイギリス南岸にあります。ロンドンでの発着駅はヴィクトリア駅。イギリス鉄道の良い点は、往復料金がとても安いということ。例えば片道10ポンドの料金が、もっとも安い「チープ・デイ・リターンチケット」だと10ポンド!なんてすごく得した気分になっちゃったりします。でもひょっとしたら、「行った人は必ず帰る・・・」わけですから、片道料金にそもそも含んでいるとの考え方でしょうか。それからラッシュ時を避ければ基本的に指定席を取らなくてもまず座れます。座席は車両によって指定席、自由席に分かれているのではなく、指定予約が入った場合のみ席毎に指定席を示すカードが置かれます。レストランの予約席のイメージです。ドアは内側に取っ手がなく、外からしか開けられない構造となっています。観覧車のドアといっしょです。降りる時は窓を押し下げて外の取っ手を回して開けます。終着駅だといいですけど、途中で降りる場合はけっこう焦ります。ドアが万が一開かなかったらと思うとドキドキしますね。
ロンドンを発った列車はしばらくは住宅地を走りますが、すぐに田園地帯へと出ます。そしてガトウィック(2番目に大きい空港がある)を通って長閑な丘陵地帯を抜けるとすぐにブライトンです。ブライトン駅に着く直前の景色は同じ形の住宅が丘の稜線に連なって、ちょと圧巻。ロンドンから1時間、ベットタウンとしても発展してします。
駅を降り、ちょっと南へ足を運べばすぐに海岸です。海岸線に沿って大きな通りがあり、ホテルやショップが軒を並べ、水族館や博物館もあります。そして何よりもブライトンの景観を決めているのが、海に向って長く突き出ている大きな桟橋(pier)。この桟橋の上には遊園地、ゲームセンター、レストラン、パブ、色々なショップが乗っかっており、やや前近代的ではありますが、子供から大人までが楽しめるテーマパークとなっています。桟橋上にあるトイレに入ると・・・・、用を足すところの下が直接海となっていたり・・・と、違う意味でスリルを味わうこともできます。すぐ横は海水浴場なのに・・・ね。
長く続く海岸は砂浜ではなく、玉砂利の様な丸い小石の浜です。
このブライトンの土産物屋で必ず売っているのが、「ブライトンロック」と呼ばれるスティック型のペロペロキャンディ。日本で言うところの金太郎飴です。これをタイトルとし、ブライトンを舞台に描いたのが、

グレアム・グリーン「ブライトン・ロック」

20世紀文学の巨匠、グリーンの代表作です。主人公は地元のチンピラを束ねている「少年」。冒頭から支配する「殺される恐怖」。事件の真相を知ることとなったウェイトレスの無垢な「少女」。事件の真相に疑問を抱いた「あけすけな年増女」の登場。観光客で賑わうブライトンの裏通りで繰り広げられる「乾いた人間関係」。硫酸の入ったビンを絶えず持ち歩く「少年」の希望とは。少年は自らが生み出す「恐怖」から逃れられるのか。
善と悪、正義と打算があたかも波の様に交互に打ち寄せるような哀しい物語となっています。
ラストのシーンを含めて映画「さらば青春の光」のイメージがダブります。この映画もブライトンが重要な舞台として描かれています。モッズチームのエース(あのスティングが好演)が実はホテルのベルボーイとして「イエス、サー」と客にかしずく姿を見てしまった時の哀しみ・・・とかね。
ブライトンが出てくる映画、他にも「モナリザ」なんて良かったですね。桟橋での追いかけっこのシーンなんて・・・。あとミスタービーンのTVシリーズの中でもブライトンを舞台にしたのがありましたね。ビーンの靴が車の上に乗って、街中駆け回るっていうやつです。
また、かつてブライトンで開かれた歌謡コンクールで「恋のウォータールー」を歌い優勝したのが、あの「アバ」ですね。保守党や労働党の大会が開かれたりもします。

私にとってのブライトンの想い出は、燦燦とした太陽ではなく、実は霧です。桟橋の突端で海を眺めていると、突然海風が吹いてきて沖から白い壁が押し寄せて来ます。わーすごいと思った瞬間、あたりは真っ白な世界へ。3m先も見えないような濃霧でした。あれだけ濃い霧だと幻想的というより恐いですね。

現在のブライトンは「ゲイ」のメッカとなっています。通りによってはイケメン男子はたいてい「ゲイ」だそうです。ご注意あれ。



(注)鉄道設備の記述は92年当時の旧国鉄ものです。

ワトソンくん、これじゃだめだよね

2007-02-05 | イギリス
名探偵シャーロック・ホームズのパスティーシュに、エスピオナージもので有名なフリーマントルが挑んだ作品。
なんとホームズには息子がいた!という設定です。モリアーティ教授との戦いで滝壺に落ちたホームズが、怪我の治療時に知り合った女性との間に子供を作っていたというもの。時が経ち、第一次世界大戦前夜、親子は再会を果たすのですが、ここにホームズの兄マイクロフトが持ち込んだのが、中立国アメリカ合衆国で暗躍するドイツ・ネットワークをあぶり出せ!という密命。はたして息子セバスチャンは策士チャーチルからの指示と父ホームズのアドバイスを受けてアメリカへと渡るのです。
うーん・・・どうもこのお話、最初から腰が重いというか、ページが進みません。アメリカからの電信文から情報を悟られないようにと、ある大学の出身者しか分からない特殊な用語法(notion)を用いたり、チャーチルが生々しく策をめぐらしたり、ホームズ、ワトソンのコンビが相変わらずだったりと枝葉の面白さはあるのですが、肝心の幹の部分がスカッとしません。どうも会話の主導権をどっちが取るの取らないの・・的な話が多すぎて・・・正直、下巻の最初で一旦ギブアップしてしまいましたよ。心を入れ替えて読了はしましたが・・・・・。やっぱホームズご本家には敵わないということでしょうか。ちなみにご本家ホームズくんは「最後の挨拶」で同時代にイギリス政府の命によりドイツ・スパイ逮捕に活躍しています。