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駆け出しの弁護士が思いつきで書くブログです

弁護士業務について③

2016-09-09 00:58:23 | 弁護士業務
こんばんは。ブログを始めてはみたものの、仕事の合間を縫っての更新はやはりなかなか大変ですね(笑)。

緩いペースになるかもしれませんが、根気よく続けていきたいと思いますので、拙ブログをたまたまご覧になった方は末永いお付き合いの程よろしくお願いします。


さて、今回は「ファイナンス業務」についてお話しします。

大~中規模の企業法務系の事務所であれば、コーポレートに加えて多かれ少なかれ扱っている業種ですが、言葉だけが先行して実際にどのようなことをやっているのかイメージがつかない方も多いのではないでしょうか。各事務所のHPの「業務内容」の欄を見ても、シンジケート・ローン、デリバティブ、IPO・・・と横文字が並んで、ロー時代の私にとってはちんぷんかんぷんでした。
(一応、就職活動の際のエントリーシートで、興味ある分野の欄に「ファイナンス」と書いていましたが、実際何をしているのかよくわからなかったので、自分なりのイメージを話して何とか面接を乗り切っていました笑)


私も弁護士になってからファイナンスの仕事に何件か携わってはいますが、まだ全体像を把握しているわけではありません。
今回は私のわずかな実務経験をフルに活用しながら、完全に自己流の整理ですが、少しでも内容をイメージしてもらえるように説明していきたいと思います。


ファイナンス業務は大きく分けて「A.規制部門」と「B.取引部門」に分かれると理解しています。


A. 規制部門について


その名のとおり、金融機関の行為が特定の法律・行政規則等に抵触していないかをチェックし、助言を行う業務です。
証券会社や銀行などの金融機関は、その社会的影響力の大きさから、種々の規制を受けながら業務を行っています。
金融商品取引法の業法規制や銀行法などは、金融機関を名宛人とした規制法でとして代表的なものですが、金融機関の行為自体を規制する法律もあります(利息制限法や金商法のインサイダー規制など)。
また、法律だけでなく、金融庁が出している監督指針や、業界内での取り決めなどのソフト・ローによる規制も存在します。

金融機関はこのような規制の網にがんじがらめにされているので、何かしらの行動を起こす際には、常に違法・不当なものとならないか配慮しなければなりません。
あらゆる規制との関係でリスクを分析し、ゴーサインを出せるか判断するというのが規制分野におけるファイナンス業務のイメージです。

もちろん、特定の行為がどの法律との関係で問題になるかという知識が必要になることはさることながら、弁護士に相談に来るような案件はギリギリのところを攻めてくることがほとんどで、見たこともないような取引について適法性を検証することは、違法だった場合のダメージが大きいこともあって(行政処分や刑事罰の対象となります)、なかなか緊張感のある作業になります。
反対に、あれもできないこれもできないと保守的なアドバイスばかり行っていても、クライアントからすればビジネスになりません。クライアントからは「他の会社ではやっているのにどうしてうちだけダメなんですか?」と問い詰められることもあります。
業界内での相場感をある程度理解しつつ、「これをやったらアウトだけどここを改善すればできますよ」というように、クライアントの想定を実現するためには何が必要かといった観点からアドバイスを行うよう心がけています。


B. 取引部門について

こちらも文字通り、金融取引に関するアドバイスを行う分野です。
「ファイナンス」=金融とは広く言えばお金の調達のことであり、様々な資金調達手段についての契約書のレビューや作成が主な内容になります。
取引分野としては大まかに以下の通りに分かれるかと思います。


1.ローン分野

本質は民法で言うところの金銭消費貸借契約です。
もっとも、金額と期限と利息だけ決めればよい話ではなく、実務で用いられる契約書においては、貸付の条件や貸付中の約束事、期限の利益喪失事由等を詳細に記載します。
弁護士の仕事としては、法的な観点から、借入人に返済の能力・信用があるかという点と、きちんと担保がとれるか・実行できるかという点を重点的にチェックすることが中心になります。

とある事業者が自らの事業資金とするためにお金を借りたい、ということであれば、当該事業が機能するのか(事業用土地建物の賃貸借契約や、行政との関係で許認可がとれているか)や、担保の設定が適式に行われるか(不動産への抵当権のほかに、事業に用いる動産や事業遂行上生じる売掛債権への譲渡担保などが実行し得るものか)という観点から、関係する契約書を齟齬が出ないように作成します。

また、単純に貸付人・借入人の関係に留まらず、資金融通の便宜を図って、SPC(資金調達のためだけに作るペーパーカンパニーのイメージです。)や信託、匿名組合等様々な法主体を用いる案件(=ストラクチャードファイナンス)や、一人の借入人に対し複数人の貸付人が協調して貸付けを行うパターン(=シンジケートローン)など、法律関係そのものが複雑なであることがむしろ一般的です。

「ファイナンスロイヤー」というとクリエイティブな作業をイメージされる方が多いかと思いますが、私が携わった仕事は関連する契約書を細部までチェックしていく地道な作業がほとんどです。勝手な分析ですが、民法のほかにも行政関係法規などの正確な理解が要求されることから、法律家としての総合力が試される仕事と言っても過言ではありません。


2.キャピタルマーケッツ分野

会社の資金調達手段として、ローンのほかに、株式を発行して株主にお金を払い込んでもらう方法と、社債を発行する方法がメジャーかと思います。
これらの発行された株式や社債は、証券会社がいったん引き受け(購入し)たうえで、証券取引市場において投資家たちにばらまくことになります。

このような株式・社債の発行・流通をサポートするのがキャピタル・マーケッツの分野の仕事です。

株式・社債といっても、会社法上の手続だけで完結するわけではなく、「要項」という実務上用いられる書面に発行条件(配当・利払のタイミングや償還期限等)を記載します。
要項の内容は法律云々というよりは実務慣行に沿って決まるものなので、それこそOJTで知識を身につけるしかありません。
強いて言えば、発行に際して生じる租税関係についての記載部分があるので、毎年行われる税法の改正をチェックして反映させるという作業がありますが、これまた気が遠くなるほど細かい作業で最強にきついです(笑)。

また、発行を行うに際しては、株式・社債を引き受ける証券会社の他にも、社債管理者や乗除の事務手続きを行う代理人など、様々なプレーヤーが関与し、それぞれ発行会社と契約を結ぶので、それらの作成も必要になります。

キャピタルマーケッツは限られた時間の中での作業を求められることが多く、作業量も多いため、体力的・精神的にもかなり削られます。ただ、最後に無事発行手続きを終了したときの達成感は大きいです。


私がこれまで携わったファイナンス業務としては大体こんなところです。

完全に自己流の整理になるので、不正確な部分もある点ご容赦いただきたく思いますが、何となく業務内容をイメージしてもらえたら幸いです。

仕事の規模としては大きいものが多いですが、実際の作業は地味なもので、事務所の先輩曰くいかに細部にまで目を配れるかがポイントのようです。いずれにせよ、ある程度経験を積まないと、極めるには到底及ばない仕事であると感じます。

他にも、デリバティブ契約や投資信託など、細かい契約も見ていますが、話すと長くなるのでまた別の機会にしたいと思います。


ここ何回かは堅苦しい業務内容の話になってしまったので、次回はよりぶっちゃけた話をするつもりでいます。

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