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国内人権機構:人権の促進と擁護のための国内機構の設立と強化に関するハンドブック 5(まとめ)

2005-05-24 00:00:00 | 人権擁護法案
※「国内人権機構:人権の促進と擁護のための国内機構の設立と強化に関するハンドブック」について《外務省HP》

※「諸外国の国内人権機構等一覧」《外務省HP》

※「各国の国内人権機関の設置状況一覧」《人権フォーラム21HP》

※人権擁護法案《法務省HP》

※「ハンドブック」を読み、「一覧」を見ながら、各国の「国内人権機構」につき気付いたことを箇条書きにしてみます。

1.「国内人権機構」が私人間の個別的な人権侵害事案を扱うかどうか
個別的な人権侵害事案に対して「国内人権機構」が関与することにつき、英米法の諸国は比較的積極的だが、欧州大陸諸国は消極的です。例えば、フランスの「国家人権諮問委員会」は個別の人権侵害事案をそもそも扱いません。また、ドイツには「国内人権機構」自体が未設置のようです。

2.「国内人権機構」が私人間の個別的な人権侵害事案を扱う場合、その対象は何か
「国内人権機構」が個別の人権侵害事案を扱う権限を与えられている場合、一定の強制権限や司法手続きへ参加する権限が付与されるのが一般です。ただし、それらの権限が付与されている事案は、雇用や住宅、商取引等の「経済的自由権」に関する事案などに限られ、表現の自由を中核とする「精神的自由権」に直接関わらないように配慮されています。また、アメリカの「司法省コミュニティー・リレーションズ・サービス」のように「人種差別等に基づく社会的紛争」といったある程度広い事項を扱う権限が与えられている場合は、強制調査権限や司法参加権限自体を付与しないようです。

3.強制権限は認められる場合、その行使方法
「国内人権機構」が強制権限を行使する場合、裁判所の令状を必要とすることが原則となります。それは「法の支配」=「法律からの人権保障」の観点からは当然のことです。ただし、私人間の力関係が非対等の場合は、「国内人権機構」自身に一定の強制権限が与えられる場合はあります。これは「社会権」=「実質的平等」を迅速に実現するため「国内人権機構」に認められる権能ですから、私人間の力関係が非対等であることが強制権限の根拠になります。したがって、私人間の力関係が対等の場合は、法治国家の原則に戻って、裁判所を通じて強制することになります。

※要するに、私人間の人権侵害に対する「国内人権機構」による強制権限についての国際標準をまとめると以下のようになります。鍵になるのは、「表現の自由にかかわるか」、及び、「私人間の力関係が対等か非対等か」です。

ア.表現の自由を中核とする精神的自由権→調査対象にすること自体が原則不可。強制は裁判所を通じても不可。

イ.経済的自由権や教育を受ける権利等の社会権→調査対象になるし、強制権限行使もできる。ただし、強制権限の行使には原則として裁判所の令状を必要とする。例外的に、私人間の力関係が非対等の場合は、令状なしでも強制可。

※以上のことから、「人権擁護法案」の問題点を、簡単に列挙します。

(a)「人権擁護法案」は私人間の個別的な人権侵害事案を扱う権限を「人権委員会」に与えています。これは主に英米法系の諸国に見られることで、問題はありません。しかし、その対象が「表現の自由」に関する事項に及んでおり、これは外務省の一覧を見る限り、他国にほとんど例を見ないものです。

(b)しかも、「人権擁護法案」によれば、「人権委員会」は「表現の自由」に関する事項についてまで、強制調査権限や司法手続きへの参加権限などが与えられており、これまた他国にはほとんど例を見ないものです。

(c)さらに、強制権限を行使する場合、「経済的自由権」についてすら裁判所の令状を必要とすることが多くの国で原則とされているにも関わらず、「人権擁護法案」によれば、「表現の自由」についてすら裁判所の令状を不要としており、当然他国にはほとんど例を見ません。

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