Piano Music Japan

シューベルトピアノ曲がメインのブログ(のはず)。ピアニスト=佐伯周子 演奏会の紹介や、数々のシューベルト他の演奏会紹介等

続 ピアノ演奏は面白くなったのか? ショパン「12の大練習曲」作品10を例に (No.1336)

2006-08-09 22:54:29 | ピアノ音楽全般
 ここ30年間で、「演奏自体に素晴らしい成果」がはっきり誰でもが聴き取れる分野

1.ブルックナー交響曲
2.モーツァルト交響曲

について「何がきっかけで成果が挙がったのか?」を簡単に検証してみよう。

ブルックナー交響曲



 これはもう「楽譜」そのものであろう。次々と刊行される 旧・西ドイツ(後に、統一ドイツ)から出版される新ブルックナー全集の「異稿版楽譜」。 異稿が演奏され「以前の楽譜の稿の方が良い!」「以前の楽譜の方が良い!」などと、論争が起き「演奏で勝負!」と言う方向に高まって行った。

モーツァルト交響曲



 これは「マトモな学者(ザスロー)と腕利きの指揮者(ホグウッド)」の 大プロジェクトの成果であることに誰もが異存無いだろう。 ベーレンライター新モーツァルト全集「交響曲の巻」は、既にベーム指揮ベルリンフィルの演奏&録音で使われるほど前に刊行されていたのだが、「ブライトコプフ旧全集の残像」を引き摺っていた。 「ザスロー + ホグウッド」の演奏の「副作用」として「古楽器奏法」を「普通のモダンオーケストラ」にまで、まき散らしたことは、私高本個人の意見としては「遺憾」であるが。
--------
 「ピアノ音楽」の分野でも、というか「ピアノ音楽」の分野こそ、楽譜出版社は「数」が見込めるので、力を入れて「新校訂原典版楽譜」を出版している。昨日号で挙げた

・バッハ
・ベートーヴェン
・ショパン
・ドビュッシー

の全ての代表作に於いて「新校訂原典版楽譜」がここ30年で出版されている。だが「演奏上で、誰もがはっきり感じ取れる成果」は無い。 なぜか?
--------

暗譜演奏は、何も進化を産まないかも知れない



 「ピアノ演奏の特異性」と言うのは、昔は何も感じなかった。 だが、こうして「交響曲」と比較した時には、「ピアノ音楽の特異性」は顕著だと思う。 バロック時代~印象派時代 の4人の作曲家が「全部が全部、特に30年間偉大な演奏を産まない」なんてあり得るのか?

 これは、「ピアノ音楽システムに問題がある」と思うのがマトモな神経。何が問題なのか?

暗譜で弾くシステムが、ピアノ音楽を破壊して行く



が実態だと思う。


  1. 「暗譜で弾く」限り、「最初に覚えた残像」に引き摺られる
  2. ピアノ音楽の「オンガクヒョウロンカ」も、正確に楽譜の違いを掌握していないので、何も言わない
  3. 新しい「原典版楽譜」が出ても、何も評判を呼ばない

の「3点セット」にて、『古き良き時代』ばかりが回顧される。 う~ん、「ポリーニのショパン」も録音当時としては、最新の成果であったのだが。
--------
 「聴き手」からすれば(雑音さえ無ければ)

どんな楽譜で演奏してもいい! 名演を聴かせろ!



が実感だと思う。「ショパン 練習曲 作品10 演奏」を例に取れば

・パデレフスキ版
・ヘンレ版
・ナショナル・エディション

どれでも(聴く側からは)「価値は同じ」だろう。 その際「暗譜演奏が前提」だと、「ピアニストが昔に習った楽譜」の影響は避けられない。 「1回頭の奥深くにブチ込んだ楽譜」ですから。
--------
 これは「ピアノコンクールの害毒」が(他のクラシック音楽演奏家に比べて)顕著な結果だと断定したい。「暗譜しなくてもOKのピアノコンクール」は、お子様の日本国内コンクールを含め皆無。もちろん「世界的大コンクール」にもあり得ない。
 ・・・で、「指揮者コンクール」では、

特には必要とされない訓練 = 暗譜


なのである。暗譜しようが、しまいが、「いい演奏さえすれば良い」が「ピアノ以外の世界標準」なのである。声楽家でさえも「オペラ」では「プロンプター」が(音程は教えてくれないが)言葉を口伝えしてくれる。

音楽表現こそが全て!



 これが「実行できない」ことに「ピアノ音楽は進歩が無い」かと思われる原因がある。
 ポリーニは、おそらく ショパン「練習曲集」録音の際に、パデレフスキ版楽譜を使用したと思われる。素晴らしい演奏である。録音当時30才前後。ショパンコンクール優勝時 = 18才 の時から、まだ日時は経過していなかった。「斬新な演奏」は、

・瑞々しい感性 +
・瑞々しい楽譜

で生まれると思う。 「暗譜」で演奏する限り、ピアノ音楽に「明日は無い」かも知れない。 「コンクール用の仕込んだ時期の楽譜」に一生縛られたら、ショパン に限らず、どの作曲家のどの作品も「スカ」な演奏にしかならないだろう。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする