腐れゲー道

プレーしたゲームの感想文を、ダラダラと粘着質に綴ります。

この世の果てで恋を唄う少女YU-NO(PS4版) 前編

2017年05月24日 00時30分03秒 | PS4ゲーム感想文
【ハード】PS4
【メーカー】5pb
【発売日】2017/3/16
【定価】11880円(限定版 税込)
【購入価格】9,820円(限定版 税込)
【プレー時間】73時間


まずは「出してくれて、ありがとう」と。何よりも先にこれを言っておきたい。

……まぁ、奇妙な言葉である。メーカーは別に慈善事業でやっているわけじゃない。キッチリ商売として見込みを立て、動いている。
こちら側も商品を金で買い、遊ぶ。内容が悪ければ不満を言うし、メーカーへの感情を変化させる。「情」はない、ドライな関係だ。
しかし。それでも。今回メーカーは、5pbは、責任者(志倉千代丸氏?)は、そんな枠組みを越えて頑張ってくれたと思うのだ。
これも俺の思い込みなのかもしれない。いやきっとそうだ。ならそれでいい。理由はともかく「不可能を可能に」してくれたから。
「この世の果てで恋を唄う少女YU-NO」。俺の記憶の中で今も燦然と輝くこの至高の作品を、現行機で、リメイク販売してくれた。
こんなことは全く想像していなかった。だから発表時は物凄く驚いたし、その後の度重なる延期には「やっぱり……」と思った。
こりゃ発売中止だ。どだい、無理なのだ。YU-NOは20世紀末が見せた奇跡の一つであり、今この時代に存在できるものではない。
動いてくれたことには敬意を表するが、実現には至らなかったんだ。でもありがとう、お疲れ様5pb。……そう思ったよ、ホント。
だが! 俺は現実にこのリメイク版を手にし、プレーし、今こうして感想を書いている。これは紛れもない現実。思い出ではない。
本当に、よくぞやってくれた。YU-NOを出してくれて、ありがとう。何よりも先に、何度でも、これを言っておく。心より。はい。

ここで、YU-NOを知らない人は「ただのリメイク復活の何がそんなに凄いの?」と思うだろう。もちろん理由はある(想像を含む)。
一つ目は、オリジナルがPC18禁ゲーム、平たく言うとエロゲであることだ。家庭用機にそのまま移植することなど絶対不可能。
YU-NOは元作の翌年にサターンに移植された。この時は18「推」という枠で、非常に頑張っていたが、やはり表現はそれなりだった。
男女の営みの詳細な描写はもちろん、乳首さえも禁止。そこが誤魔化せない魅力だから、移植の際には非常に大きなネックとなる。
今は下着描写は割とフリーだが、乳首絶対禁止は変わっておらず、全体的にその辺の「ライン」は当時より厳しくなっていると思う。
オリジナルは以ての外、サターン版レベルの再現すら厳しい……この現状でのYU-NOリメイクは非常にやり難いと想像できる。
二つ目は、版権元であった「エルフ」による冷遇だ。これは勝手な想像だが、どうも同社にとって今作は「黒歴史」のようなのだ。
YU-NOは元版もサターン版も結構なヒットを飛ばしており、商売的に移植・リメイクを渋る理由は一切ない。……繰り返すが、想像だ。
しかしエルフは頑なにそれをせず、唯一あったWindows版の移植販売も、異様に限定的&多数の伏字処理を施すという改悪仕様だった。
YU-NOの製作者は発売後すぐエルフを退社している。もしかしたら、経営陣と折り合いが悪かったのかもしれない。……想像な、想像。
だがエルフ社が、普通に考えて商業的にもっと利用すべきYU-NOを全く活かさなかったのは事実。あれでは冷遇としか捉えられない。
そんなわけで今作は黒歴史化していたわけだが、近年エルフの経営状況が悪化し(先日倒産した)、各作品の版権を整理したようだ。
経営危機でまで封印していても仕方ないということで、今作の版権を5pbに売ったのだろう。想像だが、大間違いでもないと思う。
そして三つ目は、ゲーム内容だ。後で述べるが、YU-NOの設定・シナリオはエロゲとしても際どいものなのだ。ホントに。
上に書いたWin版での伏字処理も、一応理に適ったものなのである。正直、現代の基準なら電脳戦士ぽりごん並にヤバい。知らんけど。
YU-NOファンの多くが復活を望みつつも諦めていた一番の理由がこれである。表現規制は「神」だ。誰も逆らえないのである。
かと言って、もちろん伏字や設定変更込みでリメイクしてほしいわけじゃない。やるなら、エロ規制以外は、再現してほしい。
……発表から2年、今作は出た。製作者はやってくれた。ほんまありがとう。機会があればメシ驕らせて下さい。2千円内で。はぁ。


さて。感謝の意は示した。これは何があろうと変わらないし、何度でも言える。だが無論、ゲームの感想は別だ。
YU-NOは死ぬほど面白いゲームだが、一方で色々と荒っぽい部分もあった。ひとことで言えば、完成度に難のあるゲームであった。
今作はリメイクと言っても外装だけで、ゲーム性やシナリオには(規制関係は別として)恐らく手を加えていない。
ファンとして色々やって欲しい気持ちはあるが、ファンとしてこの偉大な作品に変なことをして欲しくないとも思う。嗚呼、矛盾。
となれば製作陣の取る選択肢は「あまり弄らない」しかない。……となると、俺は既プレーだから、全容が概ね想像出来てしまう。
俺が今プレーして、かつてと並ぶ面白さを得られるとは思えん。それはプレー前に承知していた。まぁ、仕方あるまい。

もう一つ、プレー前の懸念材料として「絵」があった。20年前の作品のリメイクだから、キャラデザ変更はされて当たり前である。
それはもちろん分かるのだが、変更されたデザインが……ええぇぇえ……。発表の時点で、正直「ないわ」としか感じなかった。
各女性キャラの変化だけでなく、主人公に「目」が描かれたのが実に残念だった。せめてここはオリジナルに忠実でいてほしかった。
90年代のエロゲ・ギャルゲの主人公は「髪で目が隠れている」者が多い。これは「感情移入しやすいように」という意図と思われる。
ゲーム内容的に「喋らない主人公」は不可能、寧ろキッチリとキャラを作る必要がある。でもプレーヤーの想像の余地も残したい。
隠れ目はその折衷案として良いアイデアだったと思う。エロギャルゲの主人公は「ヒーロー」、謎めいたところがないとね。
……それが今回のリメイクで、主人公たくやにバッチリ目が描かれた。もうなんか、一気に「普通の少年」になった。はぁ。
この点は未だに納得できない。リメイクにおいて我を出すのが悪いとは言わんが、何故ここなんだ。分からない。
正直、キャラデザ発表時に俺のリメイクYU-NOへの熱意はガクンと落ちた。だからこそ度重なる延期も平気だったとも言えるが……。

ゲーム開始。取り敢えず、タイトルデモのムービーは最高。上手く言えんが非常に「綺麗」だ。鳥肌立てて叫んじまったい。
その後は、オリジナルに準じたメニュー画面。夕焼けの下に広がる「あの世界」。……ああ、YU-NOだ。ありがとう、5pb。
音楽は「アレンジ」「オリジナル」を選択出来るが、俺がやるのはあくまでリメイク版だから、アレンジで通した。
そこはやっぱ、この移植に際して仕事した人の成果でやらないとね。俺は今回、PS4版のYU-NOをプレーするのだ。

プロローグ。ガッコ屋上で寝ているたくやの前に校医の武田絵里子が現れる。当然、スカートの中は丸見えだ。
……そして、萎える。立ち絵には発表時に萎えたが、1枚絵もイマイチだった。何かあっさりし過ぎで、艶かしさを感じない。
ちなみに今回のリメイク絵では、何故か巨乳キャラの乳を縮小・貧乳キャラは増量させて、全体的に乳が平均化されている。マジで。
ここで最初に登場する女性「武田絵里子」は所謂爆乳キャラだったのだが、えらく大人しくなってしまった。うーむ。
別に大きけりゃ良いってわけじゃないが、絵里子先生というキャラに爆乳設定は「必要」であろう。ガサツな雰囲気も減ったし。
あと「常に咥え煙草」なはずなのに、描かれていない立ち絵があることには憤慨した。テキストと矛盾してるだろふざけんな。
キャラデザインに関しては、残念ながらプレーしても印象は変わらなかった。好みの問題と言えばそれまでだけどね……。

ゲーム内容は、予想通り手を加えられていなかった。まずはプロローグ、ここはコマンド総当りの超古典的AVGである。
ここで登場キャラや舞台である「境町」の状況を色々知ることが出来る。チュートリアルだから、退屈でもまぁいいと思う。
やがて主人公が「リフレクターデバイス」という謎の機械を手にし、「謎の裸金髪女性」と邂逅することで、プロローグは終わる。
そして始まる「現代編」、ここからが今作の本編だ。20年近く前に俺が夢中になった超面白い部分が、幕を開けるのである。

そもそも今作は何故こうもユーザー評価が高いのか? キャラやシナリオが良い? 音楽? エロゲとして秀逸だった?
もちろんそれもあるが、それだけじゃ20年語り継がれる名作にはなれない。理由はズバリ「斬新かつ面白いシステム」だ。
今作は、ジャンル的にはアドベンチャーである。カーソルで画面の様々な箇所を選択することで、それへの反応が返ってくる。
こういうのは「同級生」システムとでも呼ぶのかな? 元祖が何かは知らん。かつてのエルフゲーでよくあった手法である。
ちなみにオリジナルでは画面全てが選択範囲だったが、今回のリメイクでは反応のある箇所が絞られ、表示されるようになった。
これで随分プレーし易くなった……が、カーソルの挙動が不自然になり、プレーしていて終始操作感が気持ち悪かった。
上手く説明出来ないが、虫眼鏡アイコンのピックアップは不要だったと思う。アイコン表示だけでよかったのに……。
まぁそれはいい。そうやって画面の各箇所を調べて反応(主にキャラとの会話)を引き出し、ゲームを進めていく。
この時の選択肢やアイテムの有無、また移動場所により物語は分岐していく。今作はマルチストーリー・EDのゲームである。
それだけなら、何も珍しくはない。どこにでもあるAVGだ。今作の凄いところは、その分岐をマップとして表現したことだ。
その名を「A・D・M・S(Auto Diverge Mapping System)」という。偉そうな名前に全く負けていない、画期的システムである。

今作のシナリオはヒロイン毎に「〇〇ルート」として分岐し、その中でも細かい分岐が無数にある。
それをマップ化・可視化する。攻略本に載っている進行チャートをゲーム内に再現したという感じか。コロンブスの卵なアイデアだ。
まぁそれだけなら「分かり易い」だけだが、今作の真骨頂はここからだ。ADMSマップ上に打つ楔「宝玉セーブ」である。
ADMSマップには多数の分岐がある。そこに差し掛かれば一つのルートへ進むことになるが、当然「もう一方のルート」も気になる。
そんな時に「宝玉」を使って「宝玉セーブ」をしておけば、マップ上に楔を打ち、後でいつでもそこに戻ってこられるのだ。
例えば、キャラがあるアイテムを欲している場面に遭遇したが、その時プレーヤーは該当アイテムを所持していなかったとする。
この場合は必然的に「アイテムを渡さなかったルート」に進むことになるが、「渡したルート」も気になる。そっちが正解だろうし。
そこで、宝玉セーブ。今はなくても、他のルートのどこかで該当アイテムが手に入る。その時に宝玉ロードで戻ってくればいいのだ。
宝玉は最初4個だが、最終的には10個まで増える。ロードで戻ってくれば回収可能で、再利用は何度でも可能。
この宝玉システムにより分岐マップの探索効率が劇的に上がり、また非常に面白くなる。ゲーム性が数倍に跳ね上がる。
今作の基本は単純なAVGであり、目新しさは何もない。だがそこに「マップの可視化」「宝玉」の要素が入ることで質が激変している。
衝撃的に斬新で面白いAVGがここに誕生した。これには恐らく当時、エロゲの枠を越えてゲーム業界全体が驚いたのではなかろうか。
YU-NOはエロゲだが、エロゲでなくても「純粋にゲームとして最高に面白い」のだ。故に、20年語り継がれる伝説となったのである。
……「純粋にゲームとして面白い」という文句は当時流行ったが、やはり「何言ってだ所詮エロギャルゲだろw」の壁は厚かったな。
YU-NOはまだマシで、シナリオ重視作品の場合は大変だったようだ。聞く耳持って貰えないから。……いや俺はそゆことしてないけど。
まぁ、エロギャルゲに「ただそれだけ」のものが多かったのも事実だから、一概に偏見とも言えんけどね。世の中複雑だね。はぁ。

「マップ可視化AVG」というと、今作の他に「街」が思い出される。ちなみに発売は今作の方が1年早い。パク云々じゃなくてね。
街は主人公8人が別々のシナリオを進むものの、要所で互いに影響し合うのがゲーム性だった。今作同様、マップが可視化されていた。
だがその視点は「プレーヤー=神」のものであり、登場人物は何も知らない。神の視座でキャラを動かすのが、街というゲームだった。
一方、YU-NO。今作は「ゲームシステムがシナリオ・世界設定とバッチリ噛み合っている」点も非常に優れていると思う。
可視化分岐マップと宝玉セーブというシステムがシナリオ上でちゃんと消化されている。頭でっかちなゲームシステムではない。
だからゲームにより深く入り込める。主人公たくやを依代に、幾つもの世界を巡る不思議な体験を存分に楽しめるのだ。

取り敢えず、最初はテキトーに進める。今作は宝玉で効率よくプレーするのが面白さだが、最初は好きなようにプレーすればいい。
やがて、何らかのEDに辿り着く。そうすればADMSマップがある程度形になり、数多の分岐が表示される。そこからが本番だ。
現代編のシナリオはゲーム内の二日間で、一日目の半分で概ねヒロイン分岐が完了する。従って分岐はそこが一番複雑だ。
と言っても分岐条件は分かり易く、分岐箇所はADMSにて一目瞭然なので、困ることはそうそうないだろう。進行はスムーズだ。
今作は難度が低いゲームである。分岐を可視化したことで必然的にそうなり、アイテム入手等も詰まりそうな箇所はほぼない。
ヒロインには「効率の良い攻略順」が存在するが、あまり気にする必要はない。順番を間違ったら、それこそ宝玉セーブの出番だ。
今作の限定版には特製攻略本が付属しているが、ハッキリ言って無粋な真似すんなやと思った。ゲームの面白さを殺してどうする。
俺は既プレーとは言え、攻略順なんかはほぼ忘れてしまっていた。だから今回もゼロからのプレーになったが……いやぁ、面白い。
複雑に絡む分岐マップを、宝玉セーブとロードで少しずつ埋めていくのが実に楽しい。「次元を旅する」優越感を味わえる。
たくやは複数のルートを体験していくことになるが、一つを終えて開始時点に戻る際、記憶はリセットされている模様。
となると結局今作もたくやの立場じゃなく、プレーヤーは神として動くことになるのかな。まぁあまり深くは考えまい。
幾ら神ゲーとは言え、「既プレー」「20年前」「中身は弄ってないリメイク」という内容には不安があったが、心配御無用だった。
今も、YU-NOは非常に面白い。久しぶりに、たっぷりと、数十時間、「あの面白さ」を味わったのであった。ありがとう……。

……ただ、今やってみると、気になる所も結構あった。元々俺は今作を、斬新ではあれど「完成度が高い」とは思ってなかったしな。
例えば、分岐につまらないものが多いこと。アイテムの有無で起こるような、重要な、そして面白い分岐が意外と少ないのだ。
ADMSに展開される分岐の多くが実際には大したものではなく、どっちに行っても大勢に影響がない。取って付けたような感じだ。
大勢に影響がなくても、ゲーム目的の一つに「マップを100%埋める」があるので、無視するわけにもいかない。
まぁ意味は薄くても分岐を埋めていくのは楽しいからそれはいいんだが、ネタとしてはもう少し凝ったものを用意してほしかった。
それと「場面の重複が多い」のも気になった。別ルートで、場面的には別なはずなのに、会話はコピペなシーンが結構ある。
並列世界をテーマにしている作品なんだから、CGの流用はともかく、会話内容は全て変えてほしかった。……贅沢かのう。
シナリオの整合性、時系列関係がおかしい箇所も散見される。美月が非常勤講師辞めたのにやってたり、亜由美の解任が前後したり。
神奈に生徒手帳返す場面で「昨夜、三角山に行った?」て会話をしているのに、同日の喫茶店シーンで同じ話を繰り返していたり。
今作は、大枠では文句なく大作であり名作だが、「隙」が多い。システムの素晴らしさに他がついて行けていない部分がある。
製作期間は8ヶ月と聞いたことがあるが、これが本当だとすると、あまりにも短すぎる。逆にそれでよくここまで作れたなと感心する。
……ま、今更言ってもしゃーない。時間は不可逆。少なくとも俺の生きるこの世界では。はぁ。

今作の物語・世界設定において最も重要な要素が「並列世界」の概念である。この世界と同じ時間・別次元に、違う世界が存在する。
今作において、まず「時間は可逆」である。だから主人公は宝玉を操り何度も時間を戻る。が、「歴史は不可逆」なのだ。
時間は可逆、歴史は不可逆……一見矛盾してるようだが、要は「歴史は時間をも取り纏めた結果」ということだ。……多分。
時間を戻っても、同じ世界が繰り返されるわけではない。違うことをすれば、違う世界が展開される。元の世界と「並列」に。
無論並列世界は幾つも存在する。世界は幾つもに分岐していく。その全てを纏めたものこそが「歴史」なのだ。今作では。
並列世界の概念は今の2次元業界じゃ当たり前と言っていいほどだが、20年前は新鮮だった。ゲームシステムも含めればより一層に。
ちなみに並列世界やリフレクターについての詳細は、作中で非常にややこしい論文読むことが出来る。一般人はまず理解不能だろう。
まぁ「読まなくてもいい」オマケだから別にいいんだけどね。俺も読んでない。いつか理解できれば、とは思うが……。

物語のキーパーソンである主人公の父親は異端の歴史学者で、「歴史とは何か?」を求め続け、やがて並列世界の概念に辿り着く。
そして「真の歴史」、この世界にいるだけでは知る由もない他の並列世界を含めた全ての事象を知りたいと考え、実行に移す。
物語は「父親が調査中の事故で死んで2ヵ月後」の設定から始まるが、父は生きていた。ただしこの世界にはいない。並列世界にも。
どうも既に人間を止め、「歴史」を観察するもの……次元存在? になっているようだ。この辺は詳細不明。説明ないから分からん。
物語の主人公はたくやだが、たくやは終始父の後を追っているだけで、「主」は父である。ゲーム全編で、その影響力は絶大だ。
……20年に渡って傑作としておきながら、俺は正直未だに今作の物語が分かっていない。話の流れではない。「テーマ」が。
そもそも主人公たくやは、非常に受動的なのだ。リフレクターは与えられたものだし、それを使うのも結局は「父に会う為」だ。
並列世界を旅して様々な経験を重ねた目的は「あの野郎に会って、一発ぶん殴る」こと。作中何度も繰り返される「決意」だ。
実際父親はたくやにリフレクターを渡し、「ワシを追って来い」と手紙に書いている。ゲームの最終目的は「父に会うこと」だ。
……何故? そこが分からん。歴史学者の父が、その天才と探究心により世界の構造に気付き、真理を追って旅立ったのは分かる。
だが何故、息子にそれを追わせる? そこが分からん。クリアーしても分からん。20年経っても。父はたくやに何を望んだ?
たくやは言われた通り父を追うが、結局再会は果たせなかった。その意味では実にスッキリしない終わり方だった。分からない。
「父がたくやを何故旅立たせたのか」は、推理しようにも時間移動の概念もある今作じゃハッキリ言って頭がついていかん。
このモヤモヤは今後も晴れそうにない。父としては、息子には寧ろ「お前はお前で普通に生きろ」と思うもんじゃないのか?
たくやが元々歴史好きで父の背を目指していたならともかく、そうではない。これまで父の話を真面目に聞いてこなかった劣等性だ。
……うーん。たくやの父、有馬広大。YU-NOという作品は彼に始まり、彼に関する謎を引き摺り、これからも終わらない。はぁ。

根本的な目的は「父に会うこと」だが、個々のシナリオでは基本的にヒロインとの仲を深め、問題を解決するために動いていく。
この辺は普通のギャルゲと変わらない。ちなみにヒロインと言っても全員とは結ばれず、6人いてメイン3人サブ3人という扱いだ。
各シナリオの方向性は当然バラバラだが、中身は並列世界やリフレクターの秘密を追っていくもので、少しずつ謎が明かされていく。
複数の視点によって、世界を立体的にする……菅野ひろゆき氏の十八番「マルチサイトシステム」は、今作でも形を変えて健在だ。
先述のように隙が多く、詰めの甘さは感じるが、並列世界を旅しながら謎を解き明かしていく過程は面白いとしか言い様がない。
ヒロイン達とはもちろんスイーツ生殖行為シーンがある。これはサブ含め6人全員にある。……が、予想通り、期待ハズレだった。
完全に「朝チュン」で済ませていて、描写は殆ど無し。オリジナルはもちろんサターン版からも大幅に削られていた。文も、絵もだ。
絵里子や澪となんて、今作の表現じゃ実際にやったか分からんよ。そんなに規制厳しいの? その腰抜けっぷりが実に情けない。
サターンの時は「規制の中でどれだけ頑張るか」が垣間見られたんだけどね。何か現代の「つまらなさ」を感じさせられた。はぁ。
しかし、リメイクは関係ないが、YU-NOは行為の場所におかしいものが多すぎる。雨降りの深夜の公園だの、岩だらけの洞窟内だの。
「ロッカーの中」とか、無理だろそんなの! どんな大きさよ! 挙句の果てには「砂漠」。砂入るよ! 何考えてんの菅野さん!?
もう少し浸れる場面で甘くなってほしかったナリ。あれらの方が燃えられるんなら、菅野さんは相当な変態だったのかも……むぅ。

今作は難度が低いと書いたが、澪シナリオで一つ、鬼っ子と呼ぶべき難解な謎解きが登場する。難解というか、非常に唐突なのが。
ずばり「ピクロス」だ。……このパズルに他の一般名称があるのかは知らん。ちなみに20年前の攻略本にも「ピク◯ス」とある。
ピクロスを知っている、つまりルールを知っていれば、別に難しくはない。しかし知らない人がいきなり出題されれば、どうか。
一応解き方の説明はあるが、「練習問題」がない。ルールを掴めば簡単だが、その機会が用意されていないのだ。うーむ。
何故脈絡なくこんなのを入れたのか、未だに疑問である。例えば先に結城とピクロスで遊ぶシーンを入れるとか出来なかったのか。
あと、問題自体は簡単だが、ゲーム内では「×」を置けなくて、非常に解き難かった。それくらい許してくれよ!
(※追記 ハンディPCの練習モードでなら置ける模様)
×なしピクロスの解き難さはやってみれば分かる。俺は結局紙に問題を書き写して解き、その答えを入力するという手を取った。
やっぱこれはダメだと思うよ菅野さん。今回のリメイクでは、オプションで解答を表示することも可能になった。それでいいと思う。
こんな所で詰まらせるのは製作者の本意ではないだろうに、ここでのみ詰まる人が続出しただろうからなぁ。明らかにズレている。
リメイクにおいて、ここはもっと明快なパズルにすべきだったとも思う。別にピクロスである必然性はないんだし。うーむ。
あ、もう一つ。最後の宝玉を手に入れる為の時計操作、あれもヒントが曖昧過ぎるだろう。
元版ではタイトルで広大が時計に近づき操作するムービーが流れた。あれでも気付き難いくらいだが、ちゃんとヒント提示はあった。
今作だと謎に文字盤が光るだけである。初見の人があれで分かるか? 妙な所で改悪を感じた。新タイトルデモは最高なのに……。

そんなこんなで、現代編のシナリオを全てクリアーし、宝玉を10個集めた。ちなみにこの時点でマップは達成率99%まで来ていた。
分岐を全部埋めるのはなかなか大変だったが、後でやるともっと面倒に感じるだろうからと、先に頑張っておいた。うむ。
これで心置きなく次へ進める。そう、並列世界の謎が明かされ、「彼女」と出会うことになる「異世界編」の扉が開かれるのだ。
現代編は、フィクションながら「俺らの現実」と同じ世界だった。つっても通信技術等が20年前基準なので、今だと違和感あるが。
連絡は専ら家電話で、インターネットもほぼ登場しない。違和感はあるが、この辺を弄ると世界設定が激変するからまぁ仕方ない。
宝玉10個を集めて再び「はじまりの地」へ赴いたたくやは、そこで突然ワープする。そう言ってもおかしくない次元移動をする。
気絶から目覚めると、そこは科学文明がなく、それどころか人の気配もない謎の大地。大地には行き止まりがあり、先には何もない。
後に出会う人間女性は耳が長く、所謂エルフのような姿。武器は剣。魔法はないが魔物は登場。まさにファンタジーワールド。
現代編とは180度違う世界に、初めての人は間違いなく面食らうだろう。だがこれもYU-NOの世界。もちろん全ては繋がっている。
知人は誰一人としておらず、持ち物はリフレクターを含めて全て消失した。元の世界に戻る方法なんて皆目分からない。
そんな絶望的状況から異世界編は始まる。しかしたくやは、ここで最愛の存在と出会うことにもなるのだった……。

……うーん。さっき「YU-NOは面白いが完成度に難がある」と書いたが……その一番の理由が、この異世界編である。
プレーすれば、突然異世界に飛ばされたたくやと同じくらい愕然とするだろう。システムが、プロローグのそれに戻っているのだ。
つまり、コマンド総当り式の超古典的AVG。ゲーム性はほぼ皆無で、失敗も考える余地もなく、誰であろうとクリアー可能だ。
ゲームの歴史に残る斬新で面白いシステムの現代編を終えて、「真相編」とでも呼ぶべき部分に入ると、作りが大昔に逆戻り。
いやぁ……これはなぁ。実際、菅野氏は異世界編もADMSで作るつもりはあったらしい。止めた理由は、偏に、開発時間の不足。
そうして不本意な出来となった今作を氏は駄作と判断していたが、発売後にユーザーに絶賛され、自信を取り戻した。らしい。
まぁ初回プレーなら、話を進めるだけでも「謎が解かれる」快感があるから、少なくともそこは楽しめる。20年前の俺もそうだった。
しかし今は、ほぼそれを知っている。知っている状態で40年前(適当)レベルのAVGをやるのは……正直、退屈極まりなかった。
異世界編に入ってからはプレー意欲がかなり削がれ、進行ペースがガクッと落ちた。やれば進むから止まることはなかったけど。
「叩く→自分の頭」といった馬鹿選択肢なんかもあるけど、基本終始真面目な雰囲気だからそういうノリにも浸れない。
この点はリメイク版をプレーするにおいて一番心配していたんだが、残念ながら懸念通りの事態になっちまった。はぁ。

それと、異世界編は……「重い」。正確に言えば「嫌な」描写が多い。それがたくやの大事な人達にガンガン降りかかる。
菅野氏はその辺かなりやる人で、他作品も含め、ヒロインのレープ描写程度は平気で入れる。……NTRの先駆者でもあったのかな。
既プレーの俺は無論それを知っている。家庭用版だからここにももちろん規制は入ってるが、「事実」を知っている。
そんなもん好き好んで見たいわけがなかろう。細部は忘れてもあれは忘れられない。それをもう一回見ろと言うのか。嗚呼。
分かってはいたことだが、改めて見る嫌な描写は、改めて嫌だった。絵師さんが代わっても描くことは同じ。ロクでもない。
特にクンクンでは、今回唯一ちょっと泣いた。なんであんなシーン入れるの菅野さん。つーか疲労で事切れるなんてあるのか?
異世界編に入ってからはたくやに腹が立つことが増え、それもプレー意欲を削いだ。……これはまた後でじっくり書く。
そして、世界の真相は概ね分かったものの、旅の目的は結局あやふやなままだった。EDは「流れに任せてたらそうなった」感じだ。
うーん。YU-NOが最高なのは、現代編。これは20年前もそうだったが、今やるとより差がくっきり浮かび上がってしまった。
上手く行かないものである。俺はただ、セーレスとユーノとアマンダとサラとクンクンとクンクン母を連れて元の世界に戻り、
そこに亜由美さんと美月さんと香織さんと絵里子先生と神奈と澪と女守衛を交えてみんな一緒に仲良く暮らしたかっただけなのに。
それがそんなに贅沢な望みなのだろうか。リフレクターと宝玉があっても、結局「現実」には勝てなかったのである。はぁ。


長くなったけど、もうちょっとだけ続きそうなのでここで分ける。このゲームについては、あっさりとは終われない……。




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10 コメント

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Unknown (S・R)
2017-05-24 20:53:01
私はYUNOやりたいやりたいと思いつつ昔のエロゲやるのめんどくさすぎるので諦めてたので、今回のはありがたかったです。
笑っちゃうほど古いタイプの主人公でしたが、出会う女を躊躇なくヤりにいく姿勢はなかなかよかったです。まあおよそあらゆる戦いで勝てないクソ雑魚なのはシナリオの犠牲になってるなあという感じでしたが。
シナリオも複雑に絡み合ってて分岐甲斐はあるのですが、見てない分岐のためにたびたび最初からやるので、やっぱりだるいなという印象は否めません。まあ宝玉セーブはそこそこ使えるんですけど……
異世界編の一本道は、まあ初見なので楽しめました。たくやくんの雑魚で迂闊な面が目立ちすぎていた気もしますが、サクサク進んでいくのでそこまで気にならず。

親父の目的ですが、やはり妻の故郷の問題を何とかしてくれという事ではないでしょうか。あとは行ったら戻ってこれなさそうなこの世の果てを先にたくやに見てきて欲しい、みたいな。親子そろっていい加減なのでよくわかりませんが。
異世界終わって現代に帰ってきて神奈エンド見たらモチベが尽きて終えてしまいました……なので音楽室には到達せず。一番嫌いなのは亜由美さん……ですが異世界編のラストの扱いには泣いた……

ちなみに、ピクロスはちゃんと×置けますよ。

返信する
Unknown (ota)
2017-05-25 18:37:28
>私はYUNOやりたいやりたいと思いつつ昔のエロゲやるのめんどくさすぎるので諦めてたので、今回のはありがたかったです。
このリメイクは既知向けだと思いますが、今作は名声が轟いている(多分)ので、未プレーヤーの注目度も結構あったんでしょうね。
たくやは……ね。後でグダグダ語りますわ。昔はこんな奴じゃなかったのに。嘘ですが。

>シナリオも複雑に絡み合ってて分岐甲斐はあるのですが、見てない分岐のためにたびたび最初からやるので、やっぱりだるいなという印象は否めません
今の感覚だと洗練はされていませんね。「ループもの」ももう寧ろ陳腐なネタになってしまいましたし。この辺は仕方ないですね。
菅野氏は「3部作」をあまりに性急に作りすぎたように思います。もう少し機を伺ってから才能を爆発させてほしかった。
部外者のクソ勝手な言い草であることは百も承知で、「EVE」と今作はもっと作り込んでほしかったと思わずにいられません。名作ゆえに……。

>親父の目的ですが、やはり妻の故郷の問題を何とかしてくれという事ではないでしょうか。
んー……「木」に触れてる今なら色々分かるでしょうが、手紙を書いた時点=旅立つ前 にそれを感知出来たでしょうか?
まぁでも「時間移動が可能」というだけで、大抵の考察が成り立ってしまいますよねw 考えても無意味かなぁと思います。
分岐埋めは、もうすぐDLCが配信されるので、その時に頑張ってみてはどうでしょう。100%にすると気持ち良いですよ。

>ちなみに、ピクロスはちゃんと×置けますよ。
ンゴッ。自分で書いてて「……やっぱおかしいよな」と思ってました。すみません。後で確認・訂正しておきます。
返信する
5pbは異常 (いや、あの)
2017-08-21 23:47:16
5pbの作るものは全てが、パクリなので
アイツラ如きに礼なんかいらない。
シュタゲももうストーリーどころかキャラデザ、背景まで全てパクリなんだとさ
返信する
Unknown (ota)
2017-08-22 01:38:36
ぬぅ、5pbに厳しいですな。
まぁYU-NOに関して「今まで誰もやってくれなかったことをやってくれた」のは確かなので、そこだけは個人的に感謝します。
追加シナリオのアレっぷりで大分目減りしましたけどね……。
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Unknown (mizz)
2019-04-20 19:02:07
いつかはやろうやろうと思ってたんですが
とうとう買ってきました…!

まだクリアはしてないんですが、
アイテム取ったり時間戻ったりいろいろしてる最中です。

2点ほど気になってる箇所があって
まず1点が、シーンが進むフラグが見つけづらくて
総当たりをしてたら、その中のどれかが分岐のトリガーになってて
えっえっ、いつの間に??と何度か思いました。

もう1点は、たくやが時間戻った後
セリフや思考が、戻る前の記憶が無いように読めるんですが…。
でも、戻る前に取得したアイテムは持ってたり
ちょっとモヤっとしてます。

これって、進めてったら何かしら納得いくことがわかるんでしょうか?
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Unknown (ota)
2019-04-21 17:15:40
おおmizzさん、YU-NOをプレーですか。いちファンとして嬉しいです。

>総当たりをしてたら、その中のどれかが分岐のトリガーになってて
分岐は分かり難いですね。このゲームは宝玉セーブによるやり直し前提なので、その辺はあまり気を配ってないと思われます。
宝玉がある程度揃うまではテキトーにプレーする方がいいかと思います。攻略する気が削がれるかもしれませんが……。

>もう1点は、たくやが時間戻った後
>セリフや思考が、戻る前の記憶が無いように読めるんですが…。
これはまぁ、「気にしたら負け」事案でしょうw YU-NOは名作ですが、決して細部までよく出来たゲームではないです。
先に進んでも納得することはないと思います。寧ろより引っかかる部分が増える可能性が高いかと。
時間移動の概念がある物語は、考察しようにもすぐワヤクチャになっちまいますしね。俺は今作に関しては諦めてます。
気になる部分は多いでしょうが、あくまで23年前のゲームの移植作ということで、大らかに接して頂けるとありがたいです。
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Unknown (mizz)
2019-04-21 22:06:14
おお、確かに。
自分にとっては新作ですが
そもそも23年前のゲームのリメイクですもんね。

これの1個前にやった5pbのゲームがシュタゲだったので
同じく過去に戻る系のゲームとして
より違和感感じやすかったかもしれないです。

otaさん、ありがとうございます。
おっしゃる通り、細かいとこはスルーして楽しみたいと思います。


あ、そうだ、全然関係無いんですが
otaさんの記事読んでやりたくなって
Switchとゼルダを自宅に迎えました。

Yu-No終わったらそっちもやってみたいと思います。
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Unknown (ota)
2019-04-22 22:42:15
今作の復活は俺にとって非常に喜ばしい出来事でしたが、新規プレーヤーがガッカリする事態も避けられないとは想像してました。
自分でも改めてプレーして、粗い部分を多々感じましたしね。あの時代に破格の作品だったことは間違いないんですけど。
生みの親である菅野ひろゆき氏が存命であれば、ガチのリメイクも期待できたんでしょうけどね……うう。

>otaさんの記事読んでやりたくなって
>Switchとゼルダを自宅に迎えました。
んごほ、ありがとうございますw こちらは現代最先端ゲームとして十分期待に応えてくれる面白さだと思いますよ。
でも一つだけ。プレー前の人に言う意味は薄いですが、「二周目はやらないように」して下さい。絶対に。
細かい説明は省きますが、既存のデータを誤って消す可能性が非常に高いです。俺はそれで120時間飛ばしました。死。
データが健在なら、時々やり残しを埋めたいのに……ああああ!! ある意味物凄く悔いの残る一本です……。
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Unknown (Unknown)
2021-02-08 22:43:12
いいですね、自分の感想とほぼ完全に同じです。
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Unknown (ota)
2021-02-10 01:44:40
ありがとうございます。
少しでも楽しんでもらえたなら嬉しいです。
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