嚥下機能回復へ 仲間を励みに訓練
がんで舌を切除するなどして、物を食べたりのみ込んだりする嚥下(えんげ)機能にダメージを受けた患者や家族、医療スタッフらが集まる「つばめの会」が、名古屋市千種区の愛知県がんセンター中央病院で活動している。中部地方では唯一の患者グループで、目指すは「食のバリアフリー」だ。患者の一人、岐阜県高山市の会社員荒井里奈さん(43)の闘病生活を中心に、会の存在が患者を支えている様子を紹介する。口腔内カメラ
ホタテのにぎりずしを、荒井さんは数回に分けて食べた。舌がないため、口内のネタやシャリをのどへ送り込めず、箸を口の中に入れて移動させる。そして、あごを上げ、お茶で流し込む。根管長測定器
食べ物の感触や温度などは分からないが「かむときに、歯茎でおいしいと感じるし、このホタテの甘さも香りも分かります」とうれしそうに笑った。発音はやや不明瞭だが、十分に聞き取れる。「また働けるように」と懸命にリハビリに励んだ成果だ。
3年前の夏、唾液を分泌する舌下腺にがんが見つかった。「腺様嚢胞(のうほう)がん」という珍しいがんだ。頭頸部(とうけいぶ)(口、のど、鼻)のがん治療で知られる同病院で、舌の大半とあごの一部などを切除。放射線治療も受け、半年あまり入院した。
つばめの会に初めて参加したのは、手術の翌月。そのころは鼻からチューブで栄養を補給し、気管切開し、食べることも話すこともできなかった。「でも、退院した患者さんたちは、料理のことを楽しそうにしゃべっている。いつかこうなれるんだと、力がわいてきました。元気になって、他の患者さんに希望を与えたいと思うようになりました」
リハビリは予想以上につらく、当初はわずかな水を飲むだけでむせてしまった。専用のチューブで、のどの奥に流動食を少しずつ流し込む練習も、10分ほどで疲れ切った。マウスピースを使って言葉を話す訓練は、最初は「音が出るだけ」。何度もくじけそうになったが、会の先輩たちの姿が励みになった。
少しずつ回復し、退院のめどが立つと、思い切って胃ろうをつくった。仕事に復帰し、口から十分に食べられるようにするために、手軽に栄養補給できる手段を持つ必要があると思ったからだ。
退院後は、食べやすいカレーを中心に、口から食べる割合を増やし、今はほぼ100%に。職場で多くの人たちと話をすることもリハビリとなって、のどやほおの筋力が戻り、機能が回復していった。