温泉クンの旅日記

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熱海温泉 静岡・熱海

2006-07-08 | 温泉エッセイ
  < 三択 >

 横浜に住んでいるから、熱海は近場の温泉である。
 自宅のある駅から東海道線の普通電車で、1時間ちょっとで手軽に行ける。温泉
へ行くとなればふつうは朝早い出発だが、熱海なら思い立ったら昼ごろからでも
行けるのだ。

 熱海駅構内をでて右手の名店街アーケードを抜け、道なりに坂をだらだらおりて
いく。
 ラーメンの石川家をすぎ、おりきったところにある信号を右に曲がる。ニュー
フジヤの前を突き当りまでヘェヘェいいながらのぼっていくと「日航亭」がある。
おりきらずに坂の途中で、ピザ屋の角を右に曲がる近道もある。いずれにしても
駅から歩いて十分ほどである。朝八時からはいれるのが便利だ。泊まったホテル
の、循環濾過された薄い温泉の口直しができる。



 日帰り料金は千円とちょっと高い。リピーターを増やそうとか先のことをまった
く考えない、いわゆる「熱海値段」であり、五百円くらいが適正な料金だ。熱海
は、栄華の昔のことを未練たらしくズルズル引きずらずに、きれいさっぱり忘れる
べきである。日航亭は泊まることもできるが、一泊朝食つきで一万円と宿泊設備を
考えるとこれまた高すぎだ。

 しかし日帰り千円でも、ここの温泉なら二度以上はいればある意味モトはとれ
る。お湯がいい。ぴちぴちした、生まれたての勢いのある熱めの温泉である。タオ
ルは買取りが二百円のほかにレンタルが五十円で、レンタルなら空手で帰れる。
千円で銚子2本はいった湯桶を頼み、露天に浮かせて酒を呑むこともできる。

 手前の温泉棟と奥の棟がある。どちらかといえば奥のほうの露天風呂がよろし
い。日替わりで男女が入れ替わるのだが、運良く今日の男湯は奥の棟だった。



(うう~、気持ちいい)
 枕木に頭をのせて、ひんやりとした冷気を顔に感じながら、下肢をのびのび伸ば
して新鮮な熱めの湯を満喫する。縦長の屋根つき露天風呂で、十人ぐらいはいって
もまったくだいじょうぶである。ただ、露天につきものの絶景などは微塵も期待し
てはいけない。ここでは、あくまでも熱海の温泉を、五感で純粋に楽しむことが肝
心である。

 真裏に同じ大きさの浴槽があり、それには壁と屋根がついている。壁と浴槽の間
が歩けないので、すいてる奥にいくにはひとの前をジャブジャブとゴジラか戦艦の
ように進まなければならない。混みあってくると、奥から帰還するのは難儀であ
る。
 今日の女風呂、つまり手前の温泉棟には大小の浴室があり、いずれもタイル浴槽
で大きいほうが十人ほど、小さいほうが五人ほどはいれる。小さいほうは露天風呂
と書いてあるが、浴室の壁をひとつだけぶち抜いたもので、露天の文字はふさわし
くない。温泉そのものは奥の棟と変わらないので満足できる。

 熱めの温泉でぐったりしたら、ゴロリと横になれる大広間がある。四、五十人入
れる畳敷きで、六百円くらいから簡単なものも食べられる。飲み物はビールや清涼
飲料の自販機が廊下と玄関部分に何台か設置されている。

 熱海にはけっこう気に入った店がある。
 そっちのほうも温泉のつぎに楽しみなのだ。ゴロリと広間に寝転がって、さてな
にを食べるか迷う。昼は天ぷらうどんであった。
 ホームラン寿司の取れたて地魚の得得セット、改装して値段あげたがたしか二千
円ほどだったな。握り九カン、巻物一本、吸い物つきである。ラーメン、ワンタン
メンなら、高倉健さんも食べた石川屋か、狭いけどわんたん屋でもいい。ステーキ
かビーフシチュウなら老舗のスコット。金目とか地魚の干物がやたら旨い釜鶴。

 ラーメン系かステーキなら無難であるが、寿司と干物はヤバい。ラーメンやステ
ーキだと酒の肴にならないから生ビール一杯ぐらいですむ。
 寿司や干物となれば、どうしても酒や焼酎などのアルコールをセットで頼むのが
自然の理、必然の掟である。酒呑みだから、腰を落ち着けると長くなる。呑みだす
と、ある一瞬から時計の進むのが早くなる。あらいやだ、もうこんな時間。帰るの
がえらく七面倒になる。呑むほどに判断力がゆるゆるになり、相反して決断力が冴
えわたってくる。えーい安宿に泊まっちまえオヤジもう一本熱いのくれー、となり
かねない。日帰りのつもりできたのだ、あぶない、あぶない。

 迷いすぎて身体が冷えたので思考を中断し、タオルを持って露天にいそいそ向か
う。
 決断力がまったく冴えわたってないので、自力をあきらめ、他力本願の決定方式
に切り替える。いま露天風呂にわたしひとりだが、つぎに入ってくる客で決定する
ことにする。若者なら寿司か干物、爺さまならラーメン餃子、わたしと同い年くら
いならステーキかシチュウ。

(まったくもって、陽が落ちるのが早くなったなあ・・・。あー腹へった。お、誰かはいってくるぞ・・・)
 ガラガラ引き戸があいて、寿司が干物を連れて、にぎやかにはいってきたのであ
った。嘘じゃない、ほんとーのマコトだ。中トロあぶら顔の若者と鯵の開きタイプ
のあばら青年、の二人連れだったんだから。

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