鍋焼きラーメン 高知・須崎

＜鍋焼きラーメン　高知・須崎＞　

（あれれれ・・・店選びを間違えたかなあ・・・）

　なんでも高知県の須崎というところの名物に鍋焼きラーメンというものがあると
いうことで、食べにいった。須崎にあるあちこちの店で食べられるが、なかでも
橋本食堂がイチ押しと聞いた。
　須崎の市街にはいって、さんざっぱら迷いながらも住宅街のなかにあるのをよう
やく見つけだしたのだった。



「こちらは、初めてですか」
　灰皿が置かれた横に並んだ粗末な椅子に座っていた先客が声をかけてくれた。
「はい」
「あのボードに名前を書いて、ボードのなかの待合室でお待ちになれば」
「ありがとうございます」
　ボードの後ろのゴチャゴチャした待合室には椅子が置かれ何組かの先客が待って
いた。煙草は吸えなそうだ。待合室は、もとはなんかの店だったようだ。



　ボードに名前を書き、灰皿のそばに戻って煙草に火をつけた。
　入り口の暖簾も相当年季がはいっており、外の椅子席の後ろのほうは壊れたよう
な冷蔵庫や醤油壜のケースや粗大ごみっぽいのが積み上げられている。看板も、
文化祭か学芸会のノリで、なにがしかチープなものである。



　この店でいいんだろうか。なんとなく不安になってくる。
　それでも、次から次へと客が来てボードに記入しているところをみると、きっと
旨い店なのだろう。
　客が出てきてしばらくすると、店のひとが出てきて、ボードの名前を読み上げ
ボードを消しこんでいく。出てくる客はいちように満足そうだ。味は期待できそう
である。
　間口をみていると、きっと、狭い店なんだろうな。

　十五分ほど待ち、呼ばれて店にはいっていって、けっこう奥行きがあり広いのに
驚く。



　はいってすぐが調理場と五、六人座れるカウンター席、椅子席の四人掛けテーブ
ルが七つほどと、小上がりの座敷にテーブルがふたつである。どのテーブルにも
鍋敷きがあらかじめ四つセットされていた。従業員は全員が女性だ。

　メニューは、鍋焼きラーメンとごはんとビールの三種類のみだ。



　まわりをみると、鍋焼きラーメンとごはんをセットで頼んでいるようなので、
わたしも普通とごはんの小を頼んだ。男性は特大か大を頼んでいるが、なにぶん
初めてなので味もわからないので、普通が無難だ。特大頼んで半分残し・・・なん
かしたら、土佐の一本釣りの土地柄であるから「旅人さん、須崎でそれはいかんぜ
よ！」と、土鍋の蓋で思い切り殴られるかもしれない。
　橋本自転車店と名前が入った灰皿がテーブルにのっていたので、やはり、もとは
自転車屋さんだったのだろう。



　運ばれてきた鍋焼きラーメンの土鍋の蓋をおしぼりで掴んでとると、なかはぐつ
ぐつ沸騰していて、食欲中枢を刺激する旨そうな香りが立ち昇り鼻を直撃した。
　のっている具は竹輪、一見ニラのような葱、生玉子と実にシンプルである。
　まずはスープをひとくち・・・う、旨い。醤油ベースの鶏がらスープだ。濃厚だ
が奥の深い味・・・なんてえ旨さだ、こいつは。比内地鶏のスープも旨かったが、
まったくひけをとらない。このスープ、残ったらなにかに詰めて持ち帰りたい。

　このスープがしみた麺はストレートでまた絶妙な味である。固めの細麺も食べて
いるうちにしんなりとしてちょうどいい軟らかさになっていく。縮れ麺だったら
いいと思うが、ストレート麺が完成形なのだろう。
　どんどんごはんが進む。ごはんそのものも美味しいのだ。レンゲで極上のスープ
を啜る。このへんで、生玉子をくずして掻き回す。ひと啜りする。ふうむ、また、
ひと味アップしたような気がする。

　そう、鍋焼きラーメンの主役はこのスープなのだ。あとの麺と具は脇役、そう
考えて間違いない。
　沢庵の古漬けとごはんが、口直しになって、鍋焼きラーメンがどんどんなくなっ
ていく。底のほうにいくと、味がすべて出きったような硬い鶏肉がたまに現れる
が、こいつは役目が終わったようで、わたしはひとつ確認してあとはすべて残し
た。

　一気に全部食べたので、汗が噴出してくる。団扇をとり、パタパタを扇ぐ。
　いやあ、来て食べてよかった。大満足である。しかも安くて、嬉しい。暑い日で
も旨いコイツを寒い日に食べたら、きっとたまらんだろう。

　橋本食堂・・・次回来たら、特大にごはんの中を頼もう。それと東京でもこの味
が食べれるか調べてみよう。そう頭にメモし、心に決めた。