アカデミー賞に作品賞を始め6部門にノミネートされたが、無冠に終わってしまったスピルバーグ監督作「戦火
の馬」を見ました。全体的に素晴らしい作品でしたのになぜスピルバーグ監督が、アカデミー賞の監督賞にノミネ
ートされなかった理由がわかりません。彼の「カラー・パープル」の時もそうでした。この件について、これはお
かしいと取り上げているマスコミ関係者は、私の知る限りは皆無です。誰か発言して欲しかったですよ。
まあ、そんな嘆きはやめましょう。
「戦火の馬」は、先日のNHKで放送されたクローズアップ現代でスピルバーグが、語っていたとおり戦争映画
ではなくラブ・ストーリーでした。とても心温まる作品です。
イギリスのダートムアの田園風景から映画は、始まります。ウィリアムズが作曲した「遥かなる大地」のような
スコアが壮大に流れるなかこの田園風景を見るだけでも心が和みます。大地と大空が印象的です。
馬の競り市。帰宅。友情の絆。呼び声を教える(ラストの伏線となる)。荒地を耕す。カブの全滅・第一次大戦
開戦。ジョーイの新しい友達、トップゾーン。大砲を引く。トップゾーンの死。中立地帯。雪が降るしきる中のジョーイとアルバート
の再会
は、まるでフランク・キャプラ監督の映画を思わせる。少女エミリーは、ジョーイとトップゾーンの飼い主になる。エミリーには、祖父がいる。帰郷。家族(ジョン・フォー
ド監督の「捜索者」「風と共に去りぬ」)夕焼け空をバックにしての再会。有刺鉄線に絡まり動けなくなった軍馬ジョーイとイギリス軍とドイ
ツ軍。
絆が、「希望」を生む、動物の愛が、善を引き出す。少年アルバートと美しい愛馬ジョーイの物語。第一次世界大戦の軍馬として戦地に
送られたジョーイ。さまざまな出会いと別れを繰り返しながら生き延びるジョーイは、まるで『太陽の帝国』の主人公のようだ。これは、
編集のマイケル・カーンの手腕の賜物であろう。ジョーイの命を支えるのは、人々の真心とアルバートとの固い約束。
ジョーイには、ずば抜けた才能とスピルバーグ監督自身のように楽観的な性格、出会った人々の心を開き国の違い、敵見方の区別を
こえて人間と絆を結ぶ。おのおののジョーイとのエピソードは、時間にして短いが素晴らしい。ジョーイが、感情をもった人間のように
感じてくるのは「E.T」のようだ。人間も軍馬も戦場で生き抜かねばならない。ラストの感動は、さまざまなエピソードが、絡み合って生ま
れた。愛馬を探すために戦場に行くアルバートだが、志願兵となる過程が描かれていないのにすんなりそうだとわかる演出はすごい。
けっしてまわりくどくない。アルバートの戦場の顔のクローズアップで一瞬にしてわかる。小説は、ジョーイの視点で描かれていたとのこ
とだが、映画は、「E.T」がエリオット少年の視点で描かれていたようにアルバートを始めとする人々の視点で描かれていた。
エッセイを読んでいる感じで見終わった後には、さわやかな心地良さが残る映画だった。