コラム「ひびき」  ☆☆お堀端クリニック☆☆

小田原市お堀端通りにある神経内科クリニックです。
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ボイジャー

2013年09月14日 | コラム
1977年に打ち上げられたNASAの探査機「ボイジャー1号」が、35年かけて太陽系の圏外に到達したようです。太陽の重力圏を脱し、太陽風の届く範囲を超えた、太陽系外の恒星間に広がる「星間空間」に達したのです。そこでは、宇宙を飛び交う宇宙線に由来する電子などの密度が急上昇すると考えられています。送られてきたデータを解析して、2012年8月には、太陽風の届く領域を越えたことが確認されたようです。人工物で、この領域に達したのは人類史上初めての事です。太陽光の届かない領域を航行するボイジャーの電源は、搭載された放射性核種のプルトニウムの崩壊熱です。その寿命は、2020年頃と推定されています。ボイジャーが次の「最寄りの」恒星の近くを通過するのは、約4万年後だそうです。すでに電源を失い恒星間を自由航行するボイジャーが人類以外の生命体に補足され、搭載されたレコードに記録された人類の様々な言語、音楽が「誰か」に伝搬される日が来るのでしょうか。その時、人類が存続している可能性はどのくらいあるのでしょうか。
今日、午後2時に、内之浦宇宙空間観測所から惑星分光観測衛星を載せた、新型の固体ロケット「イプシロン(E)」の試験機が打ち上げられました。打ち上げは成功し、衛星は地球周回軌道に投入されました。この衛星「SPRINT-A」の目的は、ボイジャーがその圏外に脱した強い太陽風が、惑星の大気にどのように作用するかを調べることです。できたての太陽系では、金星と地球は双子惑星と呼ばれていました。これに火星を加えた太陽系に存在する3つの地球型惑星は太陽系初期には非常に近い環境を持っていたことが最近判ってきています。しかし太陽系が誕生した後、10億年以内の期間に、兄弟ともいえる3惑星は現在の状態に近い姿にそれぞれ成長・変貌しました。金星では水が宇宙空間に逃げ出した結果、二酸化炭素を中心としたとても乾いた大気になり、その強い温室化効果により地表面の温度が400℃にも達する灼熱の世界となっています。一方火星は温室化効果を生み出す大気中の炭素成分の多くが宇宙空間に逃げ出してしまい、現在では寒冷な世界になっています。惑星分光観測衛星では、これら地球型惑星の大気が宇宙空間に逃げ出すメカニズムを調べます。特に太陽系誕生直後には、太陽が現在よりも激しく活動していたため、非常に強い太陽風が惑星に到達していて、多量の大気が逃げ出していたと考えられています。このようなメカニズムを観測するためには、宇宙空間から特殊な望遠鏡で、太陽風を観測する必要があるのです。
4万年後、ボイジャーが太陽系外の恒星を通過する頃、地球も金星や火星と同じような運命を辿っている可能性があります。きわめて薄い大気の層に閉じ込められた地球の水分が爆発的に宇宙空間に飛散してしまう危惧は十分にあります。地球温暖化などという人間の時間スケールとは比べものにならない、長大な時間軸での物語ではありますが、昨今の地震、酷暑、豪雨、雷、竜巻などの猛威を考えると、そういう壮大な時間軸のきざはしに、人類は足をかけているのではないかという錯覚を抱きます。
ボイジャーのプロジェクトを立ち上げた人達は、確実に35歳、年をとりました。何人かはお亡くなりになっているでしょう。それでも、ボイジャーは自律した意志を持つかのように、時速約6万キロメートルで、太陽から約187億キロメートル離れた所を、地球から遠ざかる方向に、今も航行し続けています。
ボイジャー1号


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