ちかさんの元気日記

辛いことを乗り越えて元気に生きている私“ちかさん”の
涙と怒りと笑いの介護記録。

聴いてなかったのかよっ!?

2019-10-27 22:36:00 | 日記
静かな静かな、夫婦の夜。

どうしても、おっさんに聴かせたい曲があった。

ね、この曲いいと思わない?と
私は心を踊らせながらYouTubeで再生する。

と、その瞬間、ソファから立ち上がり
トイレに向かったおっさん。

ちょ、ちょっと、聴いてよ、この曲。

トイレのドアは無情にも閉められてしまったが
なんとしても今、この曲を聴いて欲しい。

私はドアの前で中腰になり
iPadをトイレに向けた。

ボリューム、ややアップ。

トイレのドアの隙間から
この曲の素晴らしさははおっさに届くだろう。

そして約1分半。

ジャーッ!と水を流す音に続いておっさんが出てきた。

ね、よかったでしょ?

中腰の姿勢から立ち上がって、私は聞く。

すると「え、どうしたの?」とおっさん。
その耳にはイヤホン。
その手には彼のiPad。

あろうことか
おっさんはトイレでずっと、動画を見ていたのだ。

この1分半
私は何のために
トイレの前で中腰になっていたのか・・・

心優しき認知症

2019-10-23 02:16:00 | 日記
ついこの間までしっかりしていたトシ子が
春あたりからゴロゴロと認知症の坂を下りはじめた。

日中は常に建物内をウロウロと徘徊し
時間も、ご飯を食べたかどうかもわからない。
食事の席に座ったとしても
ぼんやりとご飯を見つめるばかりで
箸を取ろうともしない。
排泄も自分では処理できなくなっているから
部屋はすごいことになっている。

しかしこの人
思いやりと気遣いだけは忘れていない。
認知症が発症する以前から
穏やかで優しい人だったが
その気質を今も忘れずに持っているのだ。

たとえば
服薬援助で訪室すると
「足が冷たくなりますから
どうかスリッパをお履きください」と言う。
こっちは時間がないからスリッパなんぞどうでもいいのだが…

服薬を終えるとわざわざ玄関まで見送りにきて
「ありがとうございました。
気をつけてお帰りくださいね」と
深々、頭を下げる。

おそらく
小さい頃からきちんと仕付けをされてきた人なんだろう。
おかしな発言や排泄の後始末で苦労させられてはいるが
この人の生きてきた歴史に
正しさ、美しさを感じずにいられない。

しかし、きのうはそんなトシ子の気遣いが
仲のいい同僚・ナナミを怒らせた。

お腹を壊してしまったトシ子の
悲惨極まる排泄介助をしていたとき
トシ子は
小太りのナナミのお腹をさすって言ったそうだ。

「あなた、赤ちゃんがいるのね。
もう臨月なの? 大事にしなきゃダメよ」と。

いくら私が太っているからって
妊婦と間違えるなんてヒドイわよね⁉︎

ナナミは怒ってそう言ったが

妊婦と間違われるほどお腹が出ているアナタに問題がある。
心優しきトシ子に罪はない。

大笑いしながらナナミをたしなめた後で
私はトシ子の優しさに胸を熱くしたのであった。




61歳にして、咲く

2019-10-19 00:00:00 | 日記
61歳の誕生日を迎えようとしていた4月末
新しく採用された会社の評価制度によって
レベルアップと昇給を果たした。

ってことは前にも書いたのだが…

実は先月上司から呼びだされ
またしても新しく採用されたリーダー制度により
リーダーに任命、加えて再びの昇給。

そして今日
同じ上司にそそのかされてエントリーした研究発表で
まさかの予選通過。
来月は本選に進むこととなる。

なんてこった⁉︎
どうしちまったんだ、私⁉︎

還暦を超え
多くが引退をしようという時になって
まさかの鰻上り。

家も財産も失い
生きる糧と希望を求めて転がり込んだ介護業界で
どうしたことか、私は小さな出世コースを進んでいる。

なんだか忙しいが、もちろん嬉しい。

10年前に人生をあきらめなくてよかったよ。




お、おっさん!!!

2019-10-14 02:06:00 | 日記
台風19号。

我が家でもきのうは一日中緊張が続いていた。

なにせ、家の裏が川。
きのうのハザードマップで赤く表示されていたほどの川。
いつ氾濫するかと気が気ではなく
おっさんと二人
ひたすら避難所行きの計画を練っていた。

リュックに懐中電灯や下着やタオルなんかを詰め込み
停電する前にとご飯を炊いておにぎりを作り
非常食と水を用意し…

あれ、でもちょこちょこと働いているのは私だけ?
気づいたら、おっさんはずっと
ソファに腰を下ろしてスマホをいじっている。

なにサボってんのかと思ったら
おっさん、スマホで災害に関する情報を集めまくっているのだ。

住居周辺の危険性と避難場所
裏の川の氾濫予測と現在の水位など
どんどん新しい情報を仕入れては
妻にわかりやすく解説する。

え、おっさん?
アナタいつからスマホを駆使するようになったの?

社長時代は、情報収集は若いもんに任せればいいと
パソコンをいじろうともしなかったのに…。

へっぽこオジサンになってしまったと思っていたが
お、おっさん、アナタ成長したねえ(感動)
人間、意欲があればなんでもできるのねえ(超感動)

台風上陸の前日
明石家さんまの番組で
世界最高齢のプログラマーとして
84歳の日本人女性が紹介された。

その名も若宮正子さん。御年84歳である。

彼女がパソコンに興味を持ったのが58歳のとき。
そしてプログラマーになったのが
なんと81歳のときだったという。

TIME誌で「尊敬される日本人100人」の中に選ばれ
AppleのCEOとハグする写真も紹介されていたから
私が知らないだけで
知っている人は多いのかもしれないが。

すげえな、この女性。
脳味噌はちっとも萎縮していないんだろうな。

年齢に負けるな、おまえ!と
今宵も私は、己に発破をかけるのであった。






巡り巡るミチコの世界

2019-10-11 00:59:00 | 日記
きのうの夜勤、丑三つ時の話。

エレベーターで1階に降り、ひょいと廊下を曲がる。

ギ、ギエーーーー!!!

小さなバアさんと遭遇。

よく見ればミチコだ。
ちゃんとかぶっているつもりだろうが
斜めになったヅラの脇から白髪がはみ出し
入れ歯を装着していないため人相も違って見える。
服はパジャマ。
肩からお出かけ用のバッグを掛けている。
まるで、水木しげるの漫画に登場する
へっぽこな老女妖怪みたいだ。

ど、どうしたの、ミチコさん⁉︎

「眠れないんで、歩いているんです」

そ、そうなの。
じゃ、転ばないように気をつけてね。

「あ、あなたはこんな夜更けに
どちらにおでかけだったんですか?」

そう聞かれ、私は答えた。
私は職員ですから、仕事中なんですよ、と。

それからオムツ交換のために
別の利用者の部屋に入ろうとしたら
ミチコがまた、聞く。

「ああ、あなたはそのお部屋に住んでいらっしゃるんですね?」

いえ、だから、私はここの職員ですので
ただいま勤務中で
決してここに住んでいるわけではなく…。

するとミチコはとりあえず納得したかに見えたが
数歩あるいて振り返り、またしても聞く。
「あの、こんな夜更けに
どちらにお出かけだったんですか?」

だからね、私はここの職員で
現在勤務中で、ここに住んでいるわけではなく…

このやりとりをどれだけ繰り返しただろうか。

認知症による記憶障害が著しいミチコ。
だから、仕方ない。

でも、ミチコよ頼む。
部屋から出るときはカツラをかぶるというオシャレ心が残っているなら
もう少しちゃんとかぶってくれ。
そして、入れ歯を装着してくれ。

でないと、恐ろしくて夜勤を勤められたもんじゃない。