橋本じゅんさんの復活をこの目で確かめるために、大阪はシアターBRAVA!まで行ってまいりやした。
劇団☆新感線「港町純情オセロ」
原作:ウィリアム・シェークスピア
脚色:青木豪
演出;いのうえひでのり
キャスト
藺牟田オセロ…橋本じゅん
モナ …石原さとみ
沖元 準 …大東俊介
三ノ宮 瓦 …粟根まこと
伊東絵美 …松本まりか
汐見秀樹 …伊礼彼方
伊東 郷(ミミナシ)…田中哲司
1930年。関西の港町・神部(かんべ)。
組同士の抗争が絶えないこの町で、藺牟田(いむた)組の組長を務める
日本とブラジルのハーフの男・藺牟田オセロ。
ある日、抗争で怪我を負った組員を助け起こそうとぎっくり腰になり
病院に担ぎ込まれたオセロは、その病院の院長の娘・モナと恋に墜ちる。
生まれや育ちの違いを超えて愛し合うオセロとモナ。
一方、オセロの部下“ミミナシ”こと伊東郷は、藺牟田組若頭の地位を
インテリやくざの優男・汐見秀樹に奪われたことをきっかけに、策謀を巡らせて
オセロとモナ、汐見を罠に陥れようとする。
「用心なさって下さい、親分。“嫉妬”ちゅうヤツにです」
伊東のささやきはじわじわとオセロの心を蝕んでいく。
そして瀬戸中海(せとなかかい)に浮かぶ小豆島(あずきじま)を舞台に、
物語は最悪の結末を迎えることに―
詳しくは劇団☆新感線「港町純情オセロ」公式サイトをご覧ください。
「オセロ」はシェークスピアの四大悲劇のひとつなので、いまさらネタバレも何もないと
思いますが、一応書きます。
※ここから先はネタバレあります。要注意!!
悲劇だしシェークスピアだし予備知識ないしで最初はしりごみしていたのですが、
「復活したじゅんさんを見たい!」という思いのみで買った今回のチケット。
チケット申し込みが遅れたため、席はシアターBRAVA!2階の最後列の右端で、正直あまり
良い席ではありませんでした。舞台から遠いので、ただでさえ長くて難しい言い回しの多い
シェークスピアのセリフが聞き取りづらくて、ますます余計にわかりにくかったりして。
でも、観に行ってよかったです。
だって、嫉妬に苦しみ、狂気に走るオセロの姿を見て、
今の自分をもんのすごく省みることができましたから!!
もうね、オセロがミミナシの囁く言葉を鵜呑みにして、どんどん妄想膨らまして
何もかも悪いほうへ悪いほうへと思い込んで、あげくの果てにはどっかーん!…なんて、
舞台を見る前日(4/15)の飲み会での私そのまんまじゃーん!って。
なので、オセロたちを陥れようと策略をめぐらすミミナシのセリフ、
「あいつらに地獄を見せてやる、いや、地獄は見るものじゃない。耳から入りこんで頭の中で燃えたぎるものだ!」
にはハッとしました。確かに私は自分が目にしたものよりも、耳から入ってきた
うわさ話や第3者の憶測を信じ込んで1人でじたばたしているなぁ、と。
いや、それでも私のモナは私を愛していないんだけどさ。それだけは真実なんだよなぁ。
お芝居はもとがシェークスピアなので、セリフてんこもりで展開が暗くて、
いつものオリジナル脚本の新感線よりテンポが遅くてもどかしく感じる場面が多々ありました。
でもそれは前に古田新太の「リチャード3世」を見た時にもちょっと思ったので、
セリフの聞き取れなさも含め、今回の「港町純情オセロ」だけの問題ではないのかも。
あと、内容が内容だけに舞台に派手な仕掛けがなくて、地味だな~とも思いました。
いつもみたいな、照明がビカーンで音楽がギュイイイイインでギャグがぶはははは、なんてのが
なかったです。でもそのへんは夏の「髑髏城の七人」に期待すればいいのかな…って、
そんなこと言ってもあのキャストじゃチケット獲れないよ!なんてことしてくれんだよ!
せっかく久しぶりに新感線で森山未來が見られると思ったのに!えーんえーん!!
…話が「港町純情オセロ」から外れてしまいましたが、それでもじゅんさんが舞台で活き活き(?)と
オセロを演じているのを見て目頭が熱くなったし、田中哲司が演じるこの芝居のもう一人の主役、
ミミナシには、人を陥れる様子に憤りを感じたり、嫉妬に溺れて人を信じられなくなっている様子に
哀れみを感じて感情移入したりもしました。そうなのよね、一度「裏切られた!」って思ったら、
なかなか切りかえられないのよね。でもって「今度は裏切られる前に裏切ってやる!」ってなっちゃう
のよね。あぁ怖い怖い。
あと、「観に行ってよかった」と感じたのは、物語の舞台になる島(原作でいうところのサイプラス島)が、
なんと小豆島(劇中ではあずきじま)だったこと。最初は名前だけ借りてるのかと思ったけど、
途中で出てきた瀬戸中海の地図に小豆島がそのまんま出てきたので思わず小声で「うわ!」と
つぶやいちゃいました。原作のヴェニスにあたる都市が神部(神戸)だから、地理的にも
サイプラス島=あずきじま=小豆島になるのも当然っちゃ当然ですが。でも、いのうえひでのりさんは
「八日目の蝉」の公式サイトにコメントを寄せてるから、もしかしたら映画を見た影響で…?
なんてことも頭をよぎりました。いや、ただの私の考え過ぎなんでしょうけどね。
でも、ひょっとするともしかして…ってね。
そんなわけで、個人的には観に行ってよかったと思える、いい舞台でした。
あとはいつもの各出演者の感想で。
●橋本じゅんさん
じゅんさーん!おかえりなさーい!
冒頭でモナにほら話をするところから、モナかわいさのあまり庭に穴掘って「かわいー!」と叫ぶところ、
温泉の男湯でモナと汐見の浮気を妄想して一人芝居をするところ、すべての場面でじゅんさんが輝いて
見えて、目頭が熱くなりました。特に男湯での一人芝居のところは、あまりに今の自分とシンクロしすぎて
心が丸裸にされたみたいできつかったです。オセロの「嫉妬」、がっつり受け止めさせていただきました。
じゅんさんのオセロを胸に刻みつけて、精進していきたいと思います。「こうはなるまい」と。
●石原さとみさん
あの、すいません…セリフが半分近く聞き取れませんでした。
高い声で複雑な言い回しの長ゼリフを喋るのはかなりきつい、ってことですかね。
太い声でしゃべればまだ伝わりやすかったんでしょうけど、モナはそんなキャラじゃないし。
1階席で見ればまた印象がちがったんでしょうね。でも、石原さとみのモナには、オセロが嫉妬で
狂ってしまうほどの愛らしさと純粋さとKYさがあって、よかったと思います。
できれば1階席の顔がよく見える席で見たかったなぁ。
●大東俊介君
原作の「オセロー」にはないオリジナルのキャラなので、ちょっと物語から浮いてたかな?
でもクライマックス前の長セリフには泣かされました。そうだよね、ひとがひとを好きになるのは
悪いことじゃないよね!うん!でもキミは男を見る目ないよね!!
しかし大東君の役がまさかあんなオネエキャラだったなんて…朝ドラヒロインの相手役だったのに。
これからの活躍が楽しみです。
●粟根まことさん
相変わらず粟根さんは期待を裏切らない…今回の七変化ぶりには大いに笑わせてもらいました。
そのうえ絶命してからも遺されたメモで存在感をアッピールするという念の入りようで。
これから三ノ宮に行くたびに、この舞台の粟根さんを思い出すことでしょう。
●松本まりかさん
まあ、舞台に立つならこれくらいの滑舌、これくらいの声量で立ってもらわないとね、な感じの
立派な舞台女優ぶりに拍手。女性の登場人物が少ないので(準は入れるべきか…)、モナの気持ちに
寄り添う立場の人間として、もっと出番が欲しかったです。準は自己主張のほうが目立っちゃって
たので。
●伊礼彼方さん
舞台が遠くて顔がよくわからなかったので、オフィシャルブログを覗いてみたら…こりゃまたすごい
イケメンさんですなぁ。そりゃオセロがモナとの仲を疑いたくなるのもわかるわ。なんせオセロってば
「顔と体のバランスがあってない」って自分で言ってるくらいだから。お互い南米と日本のハーフの
はずなのに、ね(笑)
●田中哲司さん
原作での伊東の名前がイヤーゴー⇒イヤーがゴー⇒ミミナシ、になったと。でもこの「耳」が物語で
重要な意味を持っていたのだから、シャレだけでつけた名前ではないんでしょうね。ほんとうは。
セリフが多くて出番も多い、姦計をめぐらすずるがしこさと、嫉妬にさいなまれる弱さとオセロたちに
見せる卑屈さと、多面性のある複雑な役なのに、それらが全部ミミナシという1人の男の中に違和感なく
おさまっていました。しかしミミナシみたいな人が職場にいたら困るだろうなぁ。
あと、パンフレットについて少し。物語の舞台に小豆島が使われたこともあって、思いきって大枚はたいて
購入したのですが、なかなかよかったです。島の事なんも触れてないけど(笑)
今回の公演の収益の一部は、東日本大震災の義援金になるそうですし、そういう意味でも買ってよかったかな。
特に、翻訳家の松岡和子さんが寄稿された文章と、田中哲司さんのインタビュー。松岡さんの文章を読むことで
新感線版「オセロ」をより深く理解することができたし、田中哲司さんのインタビューには田中さんの
事務所の先輩だった故緒形拳さんが「オセロー」のイアーゴーを演じたがっていたと書かれていて、
なんだかちょっとしんみりしました。ちなみに、松岡さんが以前シェークスピアの故郷で見た「オセロー」の
公演では、イアーゴーはガンダルフもといイアン・マッケランが演じていたそうです。
マグニートーもといイアン・マッケランのイアーゴーってどんな感じなのでしょう。卑屈なイアーゴーを
あのサー・イアンがどう演じたのか。ちょっと見てみたいなぁ。
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