観察 Observation

研究室メンバーによる自然についてのエッセー

「唱歌『ふるさと』の生態学」の感想

2015-03-01 12:56:41 | 15
伊藤文代

 「唱歌『ふるさと』の生態学」を正月の三が日に読み終えました。
いつかもお話したかメールに書いたかもしれませんが、大抵の本を速く読む癖のある私ですが、高槻さんのご本は自然とゆっくりと読むのです。そうさせる何かがあるのでしょう。
「ふるさと」の作詞者が長野県出身、作曲者が鳥取県出身なんて、高槻さん!奇遇ですね。
 私は昭和28年生まれの長野県育ちですから、兄や姉と山へ登って隠れ家を作ったり、沢蟹の動きをじっと見つめたり、夕焼けをずっと眺めていたり、近所の人たちにかわいがられたり、と本当に良き豊かな子ども時代を過ごしたと思います。60歳を過ぎて、なおのことそのことが宝物のように思えてきました。
 そんな子ども時代を思い出しながら、一方でこの数年で行ったヨーロッパの風景を思い浮かべ、また、30年間通い続けている長野県長和町の別荘周辺の変化をたどりながら、「そうだ、そうなのよ」と頭の中で叫び、呟きながら読み進めました。
 「これをオレが書かないで誰が書くんだ」と考えられたとのことですが、まさにご専門の学問とお人柄からして、高槻さんしか書けないものだと思いました。
 私の若い知り合いは「うさぎおいし」を「うさぎ老いし」と思っていたといいますが、結構そういう人は多いかもしれません。しかし、高槻さんのうったえたかったことは、歌の言葉が正しく理解されることのもっと先にある大事なものだと思います。それこそ、薄っぺらな扇情的なナショナリスムなどではない、本当に自分たちの場所と自分たちの来し方、行く末を見つめた、この国への愛だと言えると思います。

 また、この本を読んで「目から鱗」だったことがあります。それは、日本の自然がいかに豊かで多様性に富んでいるかということです。
 「赤ずきん」のくだりはなるほどと思いました。というのは、以前ストーリーテリングを図書館などでしていたころ、「赤ずきん」は私の持ち話のひとつでよく語りましたが、いつも日本の子どもたちって「森」ってどう想像するのだろうか、それに日本の「森」の中なんてこんな風に歩けないよ、と実は頭の片隅で思いながら語っていたものです。でも、森の中を歩いておばあさんの家に行く、森の中にはきれいな花がいっぱい咲いてる、それらを素敵だなあとも正直思ったものです。
 昨年の6月にイギリスを旅行したときも、あおあおとした牧草地や農地にはあまり雑草もなさそうで、ハイキングした山でも邪魔になるような、たくましい低木や草花もなく、そのことをまた素敵だなあと思いました。そして、日本の野山にはいろんな草木があってときにかっこ悪いとさえいう思いが恥ずかしながら自分の中にあったと思います。
 でも、ご著書で意識が変わりました。北ヨーロッパの自然がむしろ弱く多様性に欠け、日本の自然はいかにたくましく多様性があるかと。
 そして自分自身の思いから、やはり次に教育のことを考えました。日本の子どもたちに本当にこの国の自然のことが伝わっているだろうか、気づきを促しているだろうかと。移動教室などの場でも、この国の自然に対する見方も教えられたらいいのではと、思いました。

 短絡的な部分もあるかもしれませんが、感謝を込めて以上のような感想を送らせていただきます。

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