観察 Observation

研究室メンバーによる自然についてのエッセー

この一年で体験したこと – 鳥を飼い、教える職場で -

2015-03-01 21:44:32 | 15
平成25年度卒業 小森康之

 昨年3月に卒業して、私はかねてからの希望通り動物と関わる仕事に就いている。就職活動でかなり苦戦した末に入社した職場で、鳥を中心に飼育管理しながら客に動物の紹介や記念撮影をおこなう仕事である。現在私が働く環境は、観光スポットとしてこれから改装する途中でまだまだ動物の数が少なく、花のシーズン以外では来客も殆ど来ないが、それでも前向きに作業をこなす毎日を送っている。
 幼い頃よりどんな生き物でも好きなことは、社会人になった今も同じだが、鳥との関わりを通して新しく得た知見もあった。そこで今回の執筆を機に、この10ヶ月あまりで生き物に対する気持ちの変化を振り返ってみることにした。
 まず何より変わったことといえば、鳥に対する興味が以前よりずっと増したことだ。就職前の私にとって、鳥はさほど関心のない動物だった。爬虫類と両生類、昆虫への興味が格別に強く、鳥に関する理解は決して深いとはいえなかった。そこでまず職場にいる鳥がどんな種類か、何を食べて、どういう性質なのかから知る必要に迫られた。それだけではない。鳥の感情や表情を読み取ることは、経験上両生類などのそれを読むより難しいことだった。フクロウを例に挙げてみても、睨みを利かせているのは警戒しているのか怒っているのか、あるいはそう見えて実は怯えているかもしれない。比較的人に近い顔立ちのフクロウでそれだから、ニワトリやオウム等はいつ攻撃を仕掛けてくるか初見で判断することはかなり困難なことであった。
そのへんは経験で付き合い方を会得していくと良いとして、また次の問題が立ちはだかる。それは体調の良し悪しをはかることである。鳥はよく動くうえに羽毛で覆われているので、やはり私にとって爬虫類や両生類よりも判断が難しく、稀に視察に来る上司の指示によって初めて分かることが多かった。紆余曲折あり半年以上一人きりで管理を任されることになった私は、とにかく経験不足と物資の不足に常々悩まされている。
 そう大変な思いをしつつ鳥を扱ううちに、生活の場周辺の野鳥に興味を持ち始めた。職場にはアオサギからカワセミまで大小様々な水鳥が飛来し、オオコノハズクがかなり近くで暮らしていることも分かった。夜中に活動するシギがいたことには驚いた。ツバメは育雛から旅立ちまでのドラマを毎日のように目にした。1度シルエットを見た猛禽はほぼ覚えたが、イヌワシかトビかはっきりしない鳥を目撃したので、いつか確認できる日が来ることを期待して待ちたい。
 この一年間で地元の見た鳥は一通り覚えたと思うが、まだ見てない鳥の方が圧倒的に多いから今後のバードウオッチングが楽しみである。
 もともと爬虫類両生類が好きなのだが、その興味は一層大きくなったように思う。現在暮らしている地域には、首都圏や卒業研究で通ったアファンの森では見なかった生き物を多数生息している。東海地方を境にして、東西で生息する動植物が変わることは知られているが、正しくその通りであったと実感した。トノサマガエルやヌマガエルは野生状態のものをみたことはなかったが、ここにはいくらでもいていたく感激した。それから、ヘビの個体数も多い。シロマダラ以外の本州に生息する全種のヘビを見つけ、夏の盛りには見かけない日がなかったと言ってもいいほどヘビが多かった。アオダイショウの成体は捕まえるとまさに「青くさい」においを発することを実感して、もう不用意に素手で掴むのはやめようと決心した。
 また、動物について人に説明して教えることの楽しさも経験した。仕事柄、フクロウについて人から質問を受けることがしばしばある。何を食べるのか、日中目は見えているのか、首は何度回るのか等々、老若男女問わず私に聞く。また飼育する鳥以外に、池で見たあの鳥はなにかとか、温室にいたヘビはなにかなど、仕事とは直接関係がない動物についても私に質問が飛んでくる。受ける質問は、研究者や動物好きにとってごく初歩的なものがほとんどだが、動物をまるで知らない人々からすれば大きな疑問なのだろう。それに対して的確かつ分かりやすく説明することは、私のような仕事に就く者にとっては腕の見せ所のひとつといえる。相手の理解レベルに合わせて答え方を変えることは、研究室にいたときに培った経験として今活かされている。そうして相手に理解してもらえた時、達成感を感じることができる。その意味でよい職場で働ける喜びを感じる。
 これからももっと多くの生き物のことを知り、そのすばらしさを人に伝える努力をしたい。

 

アメリカワシミミズク

 
筆者と仲良くなったクロワシミミズク

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