5月31日

2006-05-31 11:10:00 | Weblog
幾たびも来ては飛び去る夏の蝶     平田 弘

夏になると、蝶さえも活発な動きを見せるようになる。今しがた蝶が来たかと思うと、また来ている。初夏の日差しのなかにきらめく蝶の動きが印象に残る。

5月30日

2006-05-30 11:08:58 | Weblog
麦刈りを終えて遠のく瀬戸の海     瀧口文夫

麦を刈りの終えた畑の広がりの向こうに、瀬戸内海の穏やかな海が見える。熟れた麦がある間は、熟れ麦と海の色とが対され、海は力強く見えたが、麦が刈り取られると、海は煙ったような色になり、遠のく感じだ。麦刈りを終えたあと、安堵して向かえる初夏の気分の在り様がいい。

5月29日

2006-05-29 11:07:50 | Weblog
晴れ晴れと空の広さに麦熟れる     今村七栄

「晴れ晴れと」は、直接は、「麦熟れる」に掛かるが、空が晴れている様子と、麦が明るく熟れ散る様子を表現していて、麦秋をうまく捉えている。

5月28日

2006-05-28 11:05:28 | Weblog
桐の花空を残して散りにけり      大給圭泉

 空の色に溶け込むように咲いていた薄紫の桐の花が、散るときには、空はそのままにして、薄紫の花だけが、空に別れて散り落ちた。散り、別れるものの姿勢にしみじみとした情感が湧く。

5月27日

2006-05-27 11:04:16 | Weblog
若竹伐り空もろともに落ちてくる     宮地ゆうこ

空にゆったりと葉を茂らせた若竹を伐ると、その空間にぽっかり穴があいたようになり、空を引きずり、空もろともに竹が倒れる。さわさわとした竹の葉の量が実感できる。

5月26日

2006-05-26 11:02:59 | Weblog
葉桜の円き木漏れ日踏み行けり      山中啓輔

ちらちらと揺れる葉桜の木漏れ日が、「円い」。「円い」という捉え方に、気負いのない軽さがあって、木漏れ日を踏んでゆく薄暑のころの心身の軽さがある。自然体がいい。

5月25日

2006-05-25 17:25:26 | Weblog
竹散るや水透きとおる山に入り      宮地ゆうこ

竹の葉が散る水。その水は透き通って、竹の葉をきれいに浮かせている。そんな山へ入ってこれから山仕事である。

5月24日

2006-05-24 17:24:25 | Weblog
竹の秋さらさらそよぐ誕生日     能作靖雄

「誕生日」が効いている。誕生日だからこそ感じ取れる「さらさらそよぐ」に静かな心地よさがある。

5月23日

2006-05-23 17:23:20 | Weblog
故郷はいま夕暮れに麦の秋      やまなかみゆき

牧歌的な故郷の麦の秋。「いま夕暮れに」に、だれもが好きな麦秋の夕暮れを、自然に湧き起こる感情で素直に詠んでいる。

5月22日

2006-05-22 17:22:12 | Weblog
乳母車バラの香りの中を押す     祝 恵子

風に揺れるバラの花の咲く道を、乳母車を押してゆくと、馥郁としたバラの香り。天国の花園にいるような品のある句である。

5月21日

2006-05-21 17:21:07 | Weblog
代掻きの足を真水で洗いけり      今井伊佐夫

代掻きをしたあと、田の泥を洗い流す。この句の真水は、川の水ではなく、井戸水などのきれいな水をさしているのだろう。真水で足の泥を洗い流したあとは、働いたあとのすがすがしさが残る。そんな真水である。

5月20日

2006-05-20 17:19:48 | Weblog
うのはなくたし
卯の花腐し君出棺の刻と思ふ      石田波郷

「卯の花腐し」は、卯の花の咲く時期、陰暦の四月の別名を「卯の花月」といい、そのころに降る霖雨のことである。しとしとと降り続く雨が白い卯の花を朽ち果てさせるような雨という意味であろう。毎日振り続く雨に、病院で闘病生活をともにした友人の葬儀がある。しかし、自分は入院中で、君の葬儀にも出ることもできない。今頃、君の出棺の時刻でろう。葬儀に出ないまでも葬儀の進む順序を追って、君との別れを思い悲しんでいる。「卯の花腐し」がやりきれぬ悲しみを深めた。

5月19日

2006-05-19 17:18:43 | Weblog
癒えて立つ初夏の雲なき空の下     かわなますみ

病気が癒えて立っている初夏の雲のない空の下。さわやかな初夏の外気に触れて、癒えた喜びを静かに感じている。

5月18日

2006-05-18 17:17:38 | Weblog
田水張られ畦くっきりと縦横に     池田多津子

田に水が張られ、縦横に走る畦が浮いてきれいな田園風景を作っている。田の準備がされてくると、見ているものにもうれしい気持ちが湧くのだ。

5月17日

2006-05-17 17:16:37 | Weblog
薫風や電池換えたる車いす       矢野文彦

電動車椅子の電池を取り替え、外出の準備も万端。風薫る中へ車椅子を颯爽と進ます漲る力が、頼もしい。