田園城郭都市構想 Ⅸ

2017年01月28日 | 湖と城郭都市

  

1.ハワードの田園都市構想
2.田園都市論の現代的意義
日本型田園都市構想
4.和歌山市都市計画と学園城郭都市

  

 4-2-2 新しい景観 和歌山大学と
                ふじと台周辺

短時間だが「学園城郭都市」との言葉に着目し、彦根市
の都市計画のビジョン理念「田園城郭都市構想」を考え
和歌山市北部地域の「ふじと台学園城郭都市」を看てき
たが、中世ヨーロッパの街並みを彷彿させる森に囲まれ
た美しい文化都市を理念とした「ふじと台」ニュータウ
ンは、ギリシャ・ローマ時代の都市国家・スペイン文化
建築様式――フェニキア式の文化建築→ローマ様式の文
化建築様式→ビザンチン文化建築様式など7つのヨーロ
ッパ建築様式を下敷きにサンフランシスコの高級住宅地
サー・フランシズ・ウッド(『田園城郭都市構想 Ⅳ』
2017.01.21)とレジリエンス設計(これもポスト・モダニ
ズム文化建築様式?)を組み込まれたパートナーシップ
に基づく地域都市※の1つである。


※ 地方自治体が自らの責任のもとに、独自のビジョン
  と戦略を確立し、行動する時代――成熟型社会を迎
  え経済優先から生活の質を最優先する都市計画への
  移行期――の変化に対応する行政、市民、NPO等が
  自律的・機動的に連動し、個性あふれる地域主体の
  まちづくりをすすめる仕組み。 



和歌山城

ところが、具体的に「城郭都市」を表現するものは見あ
たらず、モダニズム文化建築様式の特徴である「普遍性」
が見あたらない。有り体に言えば、「尖った象徴的な建
造物」、この場合、和歌山城を歴史的景観を背景とした「
エシカル・コード」(倫理規定)あるいは「パブリック・
コード」(市民憲章・倫理規定)※の延展が乏しいこと
に気づく。例えば、国が定める建築基準法を地方で補完
する例外規定、道路幅員の変更や町並みを整える諸規定
であり、現在、再生可能エネルギー普及著しい太陽光パ
ネル設置条件を<都市の歴史文化的な景観に溶け込ませ
る>規定(制限)など、多様性と画一性の融和コード
いったものである。

※ エシカルとは、英語の名詞ethic(倫理/道徳)の形
  容詞ethical(倫理的な/道徳上の/(社会規範に照ら
  して)正しい)だが、源は欧州の都市文化建築様式
  として、現在では、きわめて多義的で、包容力のあ
  
る概念。価値観として流布され、この源流は、英国
  のブレア元首相が80年代末から90年代初めにか
  け外交上の政策過程で道義的、人道的な国際介入を
  「エシカルアプローチ」と表現している。

 佐藤健正

5.近代ニュータウンの系譜
        -理想都市像の変遷-

ここでは、理想都市像の変遷(脚注の佐藤健正著「近代
ニュータウン系譜3」)を参考に本論を揉み込み課題を
明確にしていく。

5-1 イギリス:ニュータウン政策の終焉と
    インナーシテ
ィ政策への転換

英国のニュータウン政策は、労働党政権により推進され、
保守党政権によって抑制されるという経過を辿ってきた
が、1977年、その労働党からニュータウン政策の終結宣
言が発せられる。この問題が深刻な政策課題として70年
代後半に浮上、この時代に生じた環境危機やエネルギー
危機により、自国製造業は急速に衰退、1971年から81年
の間だけでも200万人の製造業雇用が失われ、工業セン
ターとして発展してきた主要都市のインナー・エリアを
直撃し、地域の人口減少、空洞化とともに失業、貧困な
ど、深刻なインナーシティ問題をもたらす。

また、産業・人口の分散を進めてきたニュータウン政策
が深刻なインナーシティ危機の原因の一つだと指摘され
るが、大都市への産業・人口の集中抑止と大都市からの
分散促進という40年代以降一貫して追及されてきた政府
の都市政策転換が迫まられる。1977年、環境大臣ピータ
ー・ショーは、白書「インナーシティの政策」を発表、
国民の信を問い、翌1978年にインナーシティ再活性化法
を制定、インナーシティへの傾斜投資で、衰退防止に取
り組むことを決定。他方でニュータウン政策の大幅な縮
小を行うこととし、一定期間をおいてニュータウン開発
公社を閉鎖し、公社による都市建設を終結、目標人口も
縮小する。

1985年のニュータウン及び都市開発公社法では、イング
ランドでは1992年までに全てのニュータウン開発公社を
解散、公社の資産のうち、ニュータウン住宅、公共公益
施設は自治体に、未処分の土地は主としてニュータウン
委員会(CNT:Commission for the NewTowns)に移管する。
1992年のミルトン・キーンズを最後に、イングランドニ
ュータウン開発公社は全て解散し、資産の処分。ニュー
タウン委員会は、移管を受けた用地を主として民間事業
者に処分し、その収入で国の融資額を返済する。またニ
ュータウン住宅は、サッチャー政権による払い下げ(rig-
ht to buy, 1980~)政策により、住民に払い下げられ、残
余が自治体に移管される。

このようにして、英国のニュータウン政策は輝かしい歴
史に終止符を打ち、英国のニュータウンでは、イングラ
ンドだけで50万戸を超える住宅が建設され、200万人以
上の住民が居住し、100万人に近い雇用が形成。また、
多くのニュータウンがめざましいビジネス投資を生み、
各地域経済活性化の拠点を担うが、ニュータウン政策終
結後の対応のまずさなどから、後に住宅や施設の老朽化、
土地・建物の所有権の錯綜した状況による再生の困難さ
など、深刻な問題を抱えることになる。

1979年政権に就いたサッチャー政府によってイギリスの
都市再生政策は急展開。環境大臣マイケル・ヘーゼルタ
インにより立案された新政権の戦略は、それまで地方自
治体の権限に属す再開発を中央政府のイニシアティブの
もとにすすめる方式に転換し、同時に規制緩和・民営化
を柱とする事業手法を導入。政府は「1980年地方自治体・
計画・土地法」により都市再開発を単一の目的とする準
政府機関、「都市開発公社(UDCs)」の設置を定め、翌
1981年にロンドン・ドックランズ開発公社(London 
Docklands Development Corporation:LDDC
)を設立する。

LDDC の設立から解散までの17年間に、ドックランズで
は、24,000 戸を超える住宅が建設され、2,700社の企業
が立地、58,000人の雇用が生まる。印刷、出版、報道、
旅行、金融等の産業が集積し、特にエンタプライズ・ゾ
ーンの中心を占めるカナリー・ウォーフは、シティに次
ぐロンドン第二の金融センターと呼ばれたが、一方で、
LDDC の開発は大企業と高所得層にのみターゲットをあ
てたもので、以前からの住民は何の恩恵も受けず、開発
は地価の高騰と物価高をもたらしただけという不満も地
元には根強い。

数々の問題を含みながらも、ロンドン・ドックランズは、
その後世界各地で展開された「大規模土地利用転換型ニ
ュータウン」の先駆例となった。英国ではLDDC に続き
9か所の衰退地域で都市開発公社が設立され、また全国
に25のエンタプライズ、ゾーンが指定され、同様の都市
再生プロジェクトが展開されている。サッチャー政権に
より、1980年代に展開された規制緩和、民営化の政策は、
戦後英国の都市計画史におけるターニングポイントをマ
ークするものである。



                  この項つづく 

【エピソード】

 
 

 

【脚注及びリンク】
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  1. 田園都市 Wikipedia
  2. 日本エシカル推進協議会Japan Ethical Initiative-
    エシカル日本
  3. 明治期廃絶城郭の公園化について ―史跡の保存
    活用の前史として― 佐々木孝文
     2015.06.26
  4. 都市とは何か 都市計画なぜ必要か - 東北大学
    奥村誠  2015.10.15
  5. 和歌山市都市計画マスタープラン 和歌山市
    2017.01.12
  6. 和歌山市立地適正化計画 2016.12.22
  7. 日本型田園都市構想―イギリス田園都市と比較し
    京田辺市を見直す―2001.12.11 西村利也
  8. 田園都市とエソテリシズム 吉村正和 2004.03.05
  9. 田園都市論の現代的意義 中井検裕 家とまちなみ
    45、2003.7.8
  10. 住宅地計画論 1.ハワードの田園都市構想園都市
  11. 都市思想の二人の巨人、ジェイコブズとハワード:
    宮﨑洋司市
  12. 近代ニュータウンの系譜―理想都市像の変遷-、
    佐藤健正、2016.06 28
  13. 近代ニュータウンの系譜―理想都市像の変遷-、
    佐藤健正、2016.07 26
  14. 近代ニュータウンの系譜―理想都市像の変遷-、
    佐藤健正、2016.07 26
  15. 近代ニュータウンの系譜―理想都市像の変遷-、
    佐藤健正、2016.07 03
  16. 平成 28年度 主要事業 彦根市
  17. 都市づくりの基本方針(全体構想) 彦根市
    橋梁長寿命化修繕計画による対策橋梁について
    滋賀県
  18. 彦根市都市計画道路網見直し検討調査
  19. 「まちづくりはひとづくり」をめざし 市民主
    のまち創る-近世城下町彦根市本町地区の2
    例の
    場合-(これからの都市づくりと都市計画
    制度全
    国市長会) 中島一 2005.05.09
  20. 中国城郭都市社会史研究 川勝守 著 汲古書院
  21. 都市計画の世界史、日端康雄 講談社現代新書
  22. ドイツ流 街づくり読本  水島信
  23. 続・ドイツ流 街づくり読本 水島信
  24. 完・ドイツ流 街づくり読本 水島信
  25. 都市計画1 日本の都市計画制度の概要 大谷英一
  26. 都市計画2 都市の歴史と都市計画 大谷英一
  27. 都市計画の理論 系譜と課題 高見沢実編集
  28. 道路をどうするのか 五十嵐敬喜・小川明雄 岩
    波新書
  29. 日本の道路史 武部健一 中公新書
  30. 道のユニバーサルデザイン 鈴木敏 技報堂
  31. 道路が一番わかる 窪田陽一 技術評論社
  32. 「道路」についての国際比較 藤井聡 2010.3.14
  33. 彦根市都市計画道路網見直し指針 
  34. 地域別のまちづくり方針(地域別構想)-彦根市
  35. 彦根市新市民体育センタ整備基本計画 2016.10.31 
  36. 彦根市立図書館|簡易検索
  37. 中心市街地の活性化に関する法律 Wikipedia
  38. 富山市におけるコンパクトなまちづくりの進捗と
    展望 2014.11.26
  39. アウガ Wikipedia
  40. 富山市 人と環境に優しいまち 公式HP
  41. 青森市 都市計画マスタープラン 公式HP
  42. コンパクトシティはなぜ失敗 するのか 富山、
    青森から見る居住の自由 2016.11.08, Yahoo!ニュー
  43. <アウガ>2副市長辞任 青森市政混迷増す 河
    北新聞 2016.01.28
      
     

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