靴下にはそっとオレンジを忍ばせて

南米出身の夫とアラスカで二男三女を育てる日々、書き留めておきたいこと。

アンビバレンスの旋律を超えて

2013-10-20 06:39:19 | ファミリーディナートピック
ァミリーディナートピック。
(毎週金曜日の夜は、家族で知恵やバリューについての話をしています。我が家は今のところ特定の宗教に属すということはないのですが、宗教的テキストからも大いに学ぶことがあると思っています。)


アンビバレンスを超えて(The Tragic Music of Ambivalence The Secret of the Shalsheles Note By Rabbi Y.Y. Jacobsonを参考に):

ユダヤの人々は、聖典「トラ」を独特のメロディーにそって読む。まるで「トラ」の言葉の一つ一つが楽譜であるかのように、それぞれの言葉は特定の旋律と繋がっている。傍で聞いていると壮大な物語を歌詞とした歌を聴いているよう。それは仏教のマントラやお経にも似ている。

「トラ」の中には四箇所だけに現れる「珍しいメロディー」がある。その箇所にさしかかると、傷がついたCDのように、上がり下がりと高低の旋律を繰り返す。表記としては、ジグザグを縦にしたような記号が文字の上に小さく記されている。

この「シャルシャレス(Shalsheles)」と言われる「珍しいメロディー」は、「アンビバレンス:同一の対象に対して矛盾する感情や評価を同時に抱いていること」を意味するとされる。ヘブライ語には、「アンビバレンス」を意味する「言葉」は無いけれど、「メロディー」がある。

その四箇所とは:

1.モーセが儀礼で生贄にした動物の血を、司祭アエロン(Aeron)の身体に塗りつける部分。[Levitikus ]

2.ロト(Lot)が家族と共に天使に連れられ、崩れ落ちるソドム(Sodom)の町を後にする部分。ロト慣れ親しみ自らを捧げた地ソドムが破壊されると天使に知らされ、それでも最後の最後まで去ることを拒む。そして結局天使に無理やり連れ出される。ロトの妻は、絶対に振り向いてはいけないとされながらも、振り向き、「塩」に変る。[Genesis]

3.アブラハムの召使エリザー(Elizer)がアブラハムの息子アイザックの配偶者を探しに行く場面。探すという命を受けつつ、エリザーの内面には自分の娘を嫁がせたいという思いがある。[Genesis]

4.ジョセフがマスターの妻に誘惑される場面。17歳で奴隷に売られ、異国の地でこのマスターに救われ地位を与えられ、ここにしか居場所がない。マスターの妻の毎晩の誘い、マスターを裏切るか、それでも妻の誘いを断れば奴隷の身でどんな立場に立たされるかも分からない、そして目の前の妻に対する欲望も入り交ざる。[Genesis]

「シャルシャレス」は、それぞれの人物が、枝分かれるする道を前に、決断を迫られる場面に現れる。どちらを選んでも、心の奥底から湧き上がるどちらかの誘惑や熱望を手放す必要がある。上へ下へのジグザグの旋律は、その人物が内面に引き裂かれんばかりの葛藤を抱き、激しく揺れ動いている状態を表している。



社会心理学的には、こうした互いに相矛盾する熱望を同時に抱いている状態を、「認知的不協和(cognitive dissonance)」と言う。そして人は、この不協和音に耐えられず、何とかこのアンビバレンス状態から抜け出ようとするとされる。

心理的な危機的状況アンビバレンスは、その人物を内面へと深く潜らせ、自分が誰なのか、つまり自分のよって立つバリューシステムがどういったものなのかに立ち返らせる機会でもある。そして、そこでどんな選択をするかが、その人の人となりの中核を明らかにする。

もし、その選択を前に、日々の蓄積がない場合は、こちらへ踏み出してもあちらを振り返りと、ジグザグのリズムに絡めとられ、挙句ロトの妻のようにその場に引き裂かれたままフリーズ状態に陥ることもある。また自分や周りに嘘をついたり、イソップの寓話「酸っぱい葡萄」のように言い訳をして決着をつける場合もある。

「日々の蓄積」とは、日々自らのバリューシステム、ミッションに立ち返ること。人は本当にすぐ忘れてしまうもの。よ~し!といったインスピレーションも時がたてば薄れ、元の日常に後戻り。日々生き生きと、自らが拠って立つバリュー、ミッションに立ち返る。

アブラハムは、故郷を離れ異国の地に暮らし、その地の行事や集まりに常に参加し人々と交わり、すっかりその地に馴染み安住しつつも、一生自らを「よそ者(stranger)」として暮らしたという。アブラハムがジグザグのリズム「シャルシャレス」に絡みとられることは、決してなかった。


ジグザグの旋律に何度も何度もはまり込んでしまう自分ですが、自らのミッションを書き出し、日々立ち返ること続けていきたいです。

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