靴下にはそっとオレンジを忍ばせて

南米出身の夫とアラスカで二男三女を育てる日々、書き留めておきたいこと。

他の誰かの名前

2011-02-09 01:23:58 | 私史
20代前半、アラスカ南西部の村々を旅した。偶然知り合った先住民の方々が家に泊めて下さった。

ベリー摘みやサーモン漁、結婚式や葬式などの儀礼、色々な体験をした。

1ヶ月程の滞在の後、滞在していた家のお父さんが、こちらへ来いとダイニングルームへ呼ぶ。ダイニングには成人して家を離れた子供達も集まっている。中央に座る。

私に名前をくれるという。

そのお父さんは呪文のようなものを唱えながら、私の周りを囲むように手を動かす。

普段冗談ばかり言い合っている息子さんや娘さんたちも真剣な顔。


一つ目の名前。養子に迎えた息子さんの母親の名前。他の兄弟には叔母にあたる。

二つ目の名前。お母さんの叔母の名前。


私の歩き方、お茶ばかり飲んでいるところ、どうみてもこの二人が私のなかに生きているのだという。


アラスカ南西部に住むユピックと呼ばれる人々はこうして亡くなった親族の名前を再び用いる。一人がいくつもの名前をもっているのである。その人のもつ雰囲気などから、周りの人々は故人を見出す。名前を受け継ぐことで亡くなった方々も内に共に生き続ける。

一つ目の名前をもらうとき、養子に迎えられた息子さんは泣いていた。


この日以来、私は彼らの家族の一人として、末っ子の娘として扱われている。
年末年始村に帰っていたアンカレッジに住む「姉」は先週電話で「父と母と兄姉達」の近況を伝えてくれた。


私の内に生きるお二人、脈々と続く日本の先祖、そして縁あって一緒になった夫の先祖、私は一人で生きているのではないんだなあ、と最近つくづく思う。

先祖をたどっていけば一つのDNAにいきつくともいわれている。


内に生きている流れに感謝を込めて。






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4 コメント

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Unknown (tintin)
2011-02-09 04:02:40
ある生命科学者のドキュメンタリーの中で聞いた言葉ですが、「『わたしたちは、生命の誕生以来36億年かけて進化し続けているDNAそのものである』と考えるに至った」と。
アプローチの仕方は違いますが、先住民の方々は経験的にそれを分かっていらっしゃるのだと思いました。
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Unknown (旅人パンダ)
2011-02-09 05:09:56
ユピック~初めて聞きました~!
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tintinさんへ、コメントありがとうございます! (マチカ)
2011-02-10 03:22:30
2011-02-10 03:20:48
一つのDNAからこうして人類が枝分かれして進化してきたと考えると面白いですね。「DNAそのもの」、なるほどです。

DNAを形成するほとんどの部分が「ジャンク」と呼ばれ、どんな機能を果たしているのかよくわかっていない、とも聞きます。

週末Carl Edward Saganのドキュメンタリーをみていたのですが、宇宙ができてから今日までを一年に見立てると、人類の「進化」は12月31日の最後の一秒にあたる、ということでした。

果てしない流れの中の一瞬を生きているんですね。果てしないつながりの中で。

先住民の方々の考え方に触れることで、何かを思い出すことはよくあります。

何だか思うことそのまま羅列になってしまったけれど、ありがとうtintinさん。
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旅人パンダさんへ、コメントありがとうございます! (マチカ)
2011-02-10 03:30:12
8000年ほど前からアラスカ南西部に暮らしているとされる人々なんですよ。
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