■評価されたアジアの野球
ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で3月18日、日本は韓国を6―0で破り、決戦進出を決めた。台湾国籍の王監督に率いられた日本選手団が韓国と決勝進出をめぐって闘うなど私たちの親の世代から見れば、かつての「大日本帝国」の同胞同士の戦いであり、それが彼の地でアメリカチームを破った上での試合となると血沸き肉躍る。米国が2次リーグで疑惑の判定で日本に辛勝し、韓国に敗れたとき、ヤンキースのロドリゲス選手は、「アジアの野球はNBAで言う欧州チームのような存在」と言った。アジアの野球の存在を見せつけた大会でもあった。
■勝ちたいチームが勝つ
前置きはこのくらいにしてわが国チームの勝因について語ってみたい。
一言でいって、それは何が何でも「韓国に勝つ」という執念だったと思う。スポーツの世界では言わずもがな、他の世界でも力のある人が成功するわけではない。技術の立派な会社が一番になるわけではない。成功したり、一番になったりするのは、成功したい人、一番になりたい会社がそうなるだけである。要はその度合の激突が競争なのだ。そして歴史は冷静に審判を下している。今回のWBCでの準決勝でいえば、わが国選手団の方がその度合が相手チームの韓国戦手団よりはるかに強かった(6対0の完勝)というわけだ。
■向こう30年間は日本に手を出させない
チームリーダーのイチローは1次リーグの試合前「むこう30年間、日本には手を出せないと思わせたい」と言ってのけたが、その韓国に2連敗。「3連敗したら日本球界に汚点を残す」と、悲壮な決意で臨んだ準決勝の大一番を制した。イチローは言う。「勝つべきチームが勝たなければならない。それはぼくら(日本)だと思っている」。
■私が国を背負い、私が国民を納得させるのだ
以上のような発言には成熟した日本人、国際舞台で国家と民族の栄誉を担うにふさわしい偉大な選手の姿はあっても、トリノオリンピックで多くの惨敗選手が見せた「試合を楽しみたい」式のスポーツチルドレンの面影は微塵もない。主観主義的に「自分が納得すればいい」式の個人倫理を排し、私が「我国を背負い、国民を納得させるのだ」という国民倫理を見るのは私だけであろうか。
■勝者はすべからく賛辞(罵声)を浴びるべし
イチローの刺激的な発言もあってか「30年間、韓国に手を出せないのは日本の方だ(竹島、李ライン)」「イチローは30年間って言ったけど、日本を破るのは1週間で十分だ」「イチロー、お前は何て言ったっけ?」などと書かれたプラカードで韓国スタンドはあふれ、打席に立ったときや飛球を捕ったときは勿論、ハイビジョンに姿が映るだけでそこからは大ブーイングが巻き起こったという。
それに対してイチローは「ブーイングは大好き、もっと強いほうがよかった」という。それどころか、さらに「韓国に負けてしゃくにさわったが、今は本当に気持ちがいい。野球はけんかじゃないけど、そういう気持ちで戦った。2度負けたが、本当は勝って当然。」と言ってのけた。
■全ての外交官よ、イチローたれ!
私はこのイチローの姿に、これからの国際舞台においてわが国が示すべきお手本を見せつけられた思いがした。
イ. 自分たちは国家と国民の代表なのだという自覚と認識
ロ. その国家と国民の声援には勝利というお土産でご恩返しをしなければいけないという義理堅さ
ハ. 相手チームを試合中は明確に「敵」と意識できる強靭な思想性
ニ. 相手チームの応援団から受けるバッシングの嵐にも何食わぬ顔で平常心を持って対応する舞台度胸(胆力)
ホ. 勝利を求める執念はリーダーが一番でなければならないという責任感
ヘ. 私は日本人であり、私たちは日本人の選手団であり、日本の選手団は勝ってあたりまえなのだという自国の伝統に対する比類なき信頼と帰依。そしてその伝統を継承し発展させなければならないという民族的使命感
ト. 以上の全てを説得力あるものとして現実化させていくにふさわしい世界最高級の技術とそれを下支えする水面下の猛訓練、そしてそれを継続する初心と克己心
■ジャパンの帽子
イチローは言う。「初めてジャパンの帽子をかぶった時、本当にうれしかった。子供のころ、初めて買ってもらった野球帽みたいに・・・。皆より早く、帽子だけアメリカへ送ってもらったんです」。鏡の前で、脱いではかぶり、何度もまわってはほほえんだという。このユニホームを着て世界の頂点へ上り詰めたい。イチローの「日本」には“野球少年の思い”が詰まっている。
■敵はその敵にとって最も強い敵にしか賛辞を送らない
わが国・日本チームの勝利が濃厚になった7回裏、スタンドを埋め尽くした韓国のファンが、次々と席を立つ。日韓戦に異常な闘志を燃やす韓国の国民感情をなえさすのは最終的にわが国・日本の圧倒的(辛勝でない)な強さだ。イチローはそのことを実証して見せた。
韓国の金寅雄監督は「日本はまだ韓国より優れている。今大会で最も組織されているのは日本だし本当に強い」と賛辞を惜しまなかった。
わが国では春分の日にあたる平成18年・紀元2666年(西暦2006年)3月21日、王監督率いる日本選手団は決勝戦でキューバを10対6で下しWBC初の栄冠に輝いた。 (亥)