昨年、民主党の前原誠治代表と麻生太郎外相が相次いで「中国の軍事力は我国にとり脅威である」という趣旨の発言をし、波紋を呼んだ。中国政府はこの前原発言に抗議の意を表明し、12月に訪中した前原代表との政府及び党首脳会談は拒否するという無礼な対応で報いた。その後、民主党内から前原発言への反発が相次ぎ、前原代表も発言の趣旨の言い訳に追われ、発言のトーンを弱めてしまった。麻生外相発言についても自民党内の圧倒的多数は冷ややかな反応であり、中国の脅威を正確に指摘する声は与野党に殆どなく、中国の言い分に屈した格好である。
中国政府は建国以来、我国を最大の『仮想敵国』と認定している。この姿勢は不変である。しかも経済発展、経済力の向上と共に、軍事力についても装備の精鋭化に懸命である。核兵器の小型化、新型ミサイルの開発、海軍の新型艦艇の増強、空軍力の増強を主目的とし、軍事力を飛躍的に増強している。しかもその照準の矛先は我国に向けられている。これを我が国の脅威と言わずして何を脅威と言うのか。
中国の軍事予算は『平成17年版防衛白書』によれば、2005年度は2,447億元(日本円換算で約3兆5千億円)となっている。しかしイギリス国際戦略研究所が編集している文献の『ミリタリー・バランス』(2004―2005)によれば、日本は42,835百万ドル(約4兆9千億円)に対し、中国は55,948百万ドル(約6兆4千億円)となっている。もともと中国の軍事費は政府公表の2~3倍ではないかと言われており、『ミリタリー・バランス』の額のほうが真実に近いのではないか。もしそうであれば中国の軍事費は既に日本の防衛費の1.3倍に達している。
しかし我が国の防衛費は約4兆9千億円と言っても、その内の約45%は人件・糧食費である。他国の軍隊と異なり我が国の自衛隊員は公務員であり、物価も高いため賃金は世界でも相当高い水準にある。その他にも基地周辺対策費や土地借料といった防衛施設庁の経費にも使用されており、国防を整えるための武器車両、航空機購入費、整備諸費、研究開発費などはそれらを差し引いての費用となる。つまり純粋な防衛費はその半分程度に留まるのである。
過去17年間中国は、常に前年比2桁増の伸びを記録し、2005年度は前年比16.5%増であった。増大する予算は殆ど兵器の近代化、精鋭化、最新鋭艦船と航空機の購入に当てられている。このような肥大化を続けている軍事力と、覇権主義的国策を継続させている中国について、ブッシュ政権は近い将来大きな脅威となることを政府の政策としてはっきりと認定し、これに対処するために具体的な作業を開始した。
2004年11月30日にブッシュ政権を支援するシンクタンク[AEI][ヘリテージ財団]とアメリカ陸軍大学付属[戦略研究所]の三者共催による『大躍進-中国軍の将来』というシンポジウムがワシントンで開催された。この会合で「中国の国家戦略、膨張を続ける軍事力はアジア地区の平和と安寧にとって大きな障害となりつつあり、これに即応する為の極東地区の米軍の強化と再編成が必要である」との意見集約が行われた。そしてこの討議結果は、米国の国防計画に取り入れられることになったのである。
以下、中国の軍事力の一端を紹介する。
1.総 兵 力 約280万人
2.核 兵 器 水素爆弾。原子爆弾。中性子爆弾
3.ミサイル 米国大陸に到達できる大陸間弾道ミサイル(ICBM)を30基。
2010年には60基を配備できる高性能のICBMを開発中であり、
2009年には実戦配備の見通しである。
短距離弾道ミサイルはすでに500基が配備を完了しており、
日本向けには核弾頭搭載(広島原爆の30倍)のものが24基
含まれている。
4.空 軍 力 老朽化した機種の改編に懸命でロシアから最新鋭のSU27、S
U30を大量に購入するとともにSU27の自国でのライセンス生
産を開始。
5.海 軍 力 米国の空母との対戦を想定し、潜水艦の整備を急いでおり、日本
近海での海中調査もこれを想定して行なっている。 ロシアから誘
導ミサイル搭載の駆逐艦ソブレンヌイ型4隻、ディーゼル潜水艦
キロ級8隻を購入し、配備を完了。
6.そ の 他 生物化学兵器、地雷の保有数は世界最多である。
中国の国家戦略はアジアの覇権を目指すことである。自衛隊を圧倒し、米国への牽制能力を備えるために、ここ十数年軍事力の拡大に狂奔している。言わば、台湾進攻や日本との有事を想定し、その為の整備を急いでいると言っても過言ではない。
嘗て中国の李鵬首相がオーストラリアの首相と会見した時、「2020年には日本という国はこの地上から姿を消している。日本のことは考えなくても良い」と放言したと言われている。この暴言を日本人は忘れてはならない。
敗戦後60年、米国の核の傘に守られ平和に安住し過ぎた私たち国民一人ひとりの目覚めが必要である。国家の独立と維持のためには、国民に国家防衛の強固な意思と努力が求められる。政府は国民の生命と財産を預かる立場である以上、中国に妥協しない強い姿勢を国民の前に明らかにしなければならない。中国の覇権主義的野望を挫くことができるかどうかは、私たち国民の決意にかかっている。 (春)