アラマキが自動ドアを背にしたとき、
そこが雪国であるかのように錯覚するほど、
店内は冷房で冷えきっていた。
しかしなにより彼を寒くさせたのはその視線の先で、
互いに不自然な笑顔を振りまきながら作業をする、
バイト仲間のふたりであった。
「あ、アルマキャすん、ぅはおぅぐざいまぷ!」
「・・・凄まじいな」
着替えを済ますと、レジに列が出来ていた。
「ちょっと、鈴木さん。レジ」
と言うと鈴木コースケの肩がピクリと反応した。
それはまるで待っていましたと言わんばかりのようでもあった。
静かにレジに入った鈴木は若干目線を下に向けながら、
しかし口元は、何かを押さえ込むように、
ピクつかせながらレジをさばいていた。
アラマキはその姿を横目で見ながら、
同じように午後の客を機械的に流していた。
「今日、なんか、おかしくない?」
鈴木コースケが鼻歌交じりに、
着替えもせずに外へと出ていったのをきっかけに、
アラマキが神妙な顔つきでいるヌカミゾくんに話しかけた。
「やっぱり、そう思いますか?
今日は何だかいつもより、かんじゃうんですよ・・・」
午前の失敗を思い出して、ヌカミゾくんはひとり赤面した。
「いや、違う違う。ほら、鈴木さん。
今日、なんか変に機嫌よくない?
おれ、三年やってるけど、鈴木さんが笑ってるの、初めて見たよ」
「・・・メガネ、変えたんですよ、鈴木さん。
だけど、僕が・・・あぁ」
「いや、なんかよく分からないんだけど・・・。
メガネ変えただけでそんなに機嫌って良くなる?」
「彼女に選んでもらったメガネなんじゃないすか?」
「ぅえ、いんの?あの人に!」
「いや、直接見た訳じゃないですけど、
この前、ボソボソっと、
今日は可愛がってやらなきゃ・・・って呟いてたんで、
そうなのかなぁと」
「・・・けど、その割には仕事してるときの鈴木さんって目死んでるよな。
ふつう彼女がいたら生き生き仕事したくなんない?」
「あ~、そう言われてみるとそうですね」
「え、もしかしてヌカミゾ君も彼女いんの?」
「い、いまちぇんぷぬょ!」
「おぉ、そのかみ方は怪しいなぁ~」
「てゆうか、話ずれてますよ。
なんで鈴木さんの機嫌がいいか、でしょ?」
「そうだよ。もし鈴木さんが彼女に選んでもらったメガネが原因なら、
つい昨日までのあの独身男独特の哀愁の説明がつかないだろ」
「けど、じゃあ、僕が聞いたあのキワドイつぶやきは何なんですか」
「・・・あ、いますんごいヤなこと想像しちゃったよ・・・」
「なんですか」
「着せかえ人形と戯れる鈴木さん・・・」
「・・・うわっ、妙に似合う・・・」
「けど、あの人確か38って聞いたし、さすがにそれはないよな」
「・・・あ、もしかすると、あれかもしれないですよ」
「なに」
「ほら、最近、よくニュースとかで見るじゃないですか、監禁事件みたいな」
「おいおい、中学生に話しかけられただけでビビりまくる鈴木さんだぜ?
ありえないよ」
「いや、むしろそこが盲点ですよ、アラマキさん。
常日頃ビビりまくってる対象を拉致し極限まで痛めつける・・・。
そんな彼のバイオレンスな一面を、
僕たちは見逃しているのかもしれないんですよ。
それに、まさかあの人が、なんて言葉はしょっちゅう聞くじゃないですか。
はっ!そういえば以前は毎日朝パンを買いに来ていた女の子が最近来ていない・・・。
あの子はかなり可愛かったぞ・・・。
これはいよいよ事件かもしれませんよ!」
「お~い、ヌカミゾくん」
「こうしちゃおれませんよ、アラマキさん!
事件はコンビニで起こってるんじゃない!
現場で怒ってるんでぷにょ!」
「惜しいな、もうちょっとで言い切れたのに」
「とにかく一刻も早く真相を確かめなくては!
今この間にも、彼女は衰弱していってるかもしれないんですよ!」
「まぁ、とりあえず仕事は終わらそうね。午後もあるだろ?」
「あ、はい・・・」
そんなことがバイト仲間で話されているとは知らず、
その頃、鈴木コースケは最寄りの量販店で、
パーティグッズ(代理店長就任祝い用)を購入していた。
そこが雪国であるかのように錯覚するほど、
店内は冷房で冷えきっていた。
しかしなにより彼を寒くさせたのはその視線の先で、
互いに不自然な笑顔を振りまきながら作業をする、
バイト仲間のふたりであった。
「あ、アルマキャすん、ぅはおぅぐざいまぷ!」
「・・・凄まじいな」
着替えを済ますと、レジに列が出来ていた。
「ちょっと、鈴木さん。レジ」
と言うと鈴木コースケの肩がピクリと反応した。
それはまるで待っていましたと言わんばかりのようでもあった。
静かにレジに入った鈴木は若干目線を下に向けながら、
しかし口元は、何かを押さえ込むように、
ピクつかせながらレジをさばいていた。
アラマキはその姿を横目で見ながら、
同じように午後の客を機械的に流していた。
「今日、なんか、おかしくない?」
鈴木コースケが鼻歌交じりに、
着替えもせずに外へと出ていったのをきっかけに、
アラマキが神妙な顔つきでいるヌカミゾくんに話しかけた。
「やっぱり、そう思いますか?
今日は何だかいつもより、かんじゃうんですよ・・・」
午前の失敗を思い出して、ヌカミゾくんはひとり赤面した。
「いや、違う違う。ほら、鈴木さん。
今日、なんか変に機嫌よくない?
おれ、三年やってるけど、鈴木さんが笑ってるの、初めて見たよ」
「・・・メガネ、変えたんですよ、鈴木さん。
だけど、僕が・・・あぁ」
「いや、なんかよく分からないんだけど・・・。
メガネ変えただけでそんなに機嫌って良くなる?」
「彼女に選んでもらったメガネなんじゃないすか?」
「ぅえ、いんの?あの人に!」
「いや、直接見た訳じゃないですけど、
この前、ボソボソっと、
今日は可愛がってやらなきゃ・・・って呟いてたんで、
そうなのかなぁと」
「・・・けど、その割には仕事してるときの鈴木さんって目死んでるよな。
ふつう彼女がいたら生き生き仕事したくなんない?」
「あ~、そう言われてみるとそうですね」
「え、もしかしてヌカミゾ君も彼女いんの?」
「い、いまちぇんぷぬょ!」
「おぉ、そのかみ方は怪しいなぁ~」
「てゆうか、話ずれてますよ。
なんで鈴木さんの機嫌がいいか、でしょ?」
「そうだよ。もし鈴木さんが彼女に選んでもらったメガネが原因なら、
つい昨日までのあの独身男独特の哀愁の説明がつかないだろ」
「けど、じゃあ、僕が聞いたあのキワドイつぶやきは何なんですか」
「・・・あ、いますんごいヤなこと想像しちゃったよ・・・」
「なんですか」
「着せかえ人形と戯れる鈴木さん・・・」
「・・・うわっ、妙に似合う・・・」
「けど、あの人確か38って聞いたし、さすがにそれはないよな」
「・・・あ、もしかすると、あれかもしれないですよ」
「なに」
「ほら、最近、よくニュースとかで見るじゃないですか、監禁事件みたいな」
「おいおい、中学生に話しかけられただけでビビりまくる鈴木さんだぜ?
ありえないよ」
「いや、むしろそこが盲点ですよ、アラマキさん。
常日頃ビビりまくってる対象を拉致し極限まで痛めつける・・・。
そんな彼のバイオレンスな一面を、
僕たちは見逃しているのかもしれないんですよ。
それに、まさかあの人が、なんて言葉はしょっちゅう聞くじゃないですか。
はっ!そういえば以前は毎日朝パンを買いに来ていた女の子が最近来ていない・・・。
あの子はかなり可愛かったぞ・・・。
これはいよいよ事件かもしれませんよ!」
「お~い、ヌカミゾくん」
「こうしちゃおれませんよ、アラマキさん!
事件はコンビニで起こってるんじゃない!
現場で怒ってるんでぷにょ!」
「惜しいな、もうちょっとで言い切れたのに」
「とにかく一刻も早く真相を確かめなくては!
今この間にも、彼女は衰弱していってるかもしれないんですよ!」
「まぁ、とりあえず仕事は終わらそうね。午後もあるだろ?」
「あ、はい・・・」
そんなことがバイト仲間で話されているとは知らず、
その頃、鈴木コースケは最寄りの量販店で、
パーティグッズ(代理店長就任祝い用)を購入していた。